22.最弱ウサギさん、あやしい奴に絡まれる
買い物は無事に終わり、カルシャたちは宿に向かって歩いていた。
すると、広場の方で人だかりができていた。
「なんすかね?」
「さぁ?大道芸でもやってるんじゃない?」
近付いて見ると、どうやら布教活動のようだった。
「神はギフトを与え給うた。神は同時に個々に役割を授けたのです」
人だかりの中心から声が聞こえてくる。
一神教だ。
「信者も随分多いのにご苦労な事ね」
一神教はこの世界の大部分が信仰する宗教である。
布教活動をしょっちゅうやっているので、だいたいの教えはカルシャでも知っていた。
神は世界を作り出した。
その次に人間と獣、妖精を生み出した。
神は生を与え、死を与え、ギフトを与えた。
ギフトという恩恵が与えられ、世界は繁栄した。
ある時一部の人間と獣が神に疑問を抱いた。
神によって死が与えられるのはおかしい。
富に溺れ、愛に溺れ、または死の恐怖から、神に反逆し、死から逃れるための一団が生まれた。
神の使徒であり、正しい者にギフトを与える役目の妖精は堕落した。
ギフトは神の意志に反して与えられ、魔王が産まれ落ちた。
一団は魔物の群れに変わり果てた。
それ以降、受難の時代が続いたが、ある時勇者が現れると、次々と魔王は打倒され、人が繁栄する時代が到来した。
だが、神はまだ人を試している。
魔物が消えないのは試練であり、魔物を排斥しきった時に初めて真の平和が訪れるのだ。
故に、神の教えを伝える教義に従い、清廉に生きよ。
確かそんな教義だったはずだ。
そんな時、お立ち台に立つ司祭の顔が垣間見える。
「ルシャ姉、あいつ!」
エリスが声を上げる。
司祭の顔を、カルシャも知っていた。
「げ。勇者のお目付け役じゃない」
エスト・フラメとかいう奴だ。
今日も相変わらず胡散臭い。
「って事は…」
「あらあら?ルシャーリアさんじゃないですか」
案の定、見知った顔が他にもいた。
「確か…リクスだっけ?」
リクス・オランジュ。
僕っ娘の護衛騎士だ。
「覚えていて貰えて光栄です」
今日も一神教の紋章が入ったフルプレートに身を包んでいる。
他にも数人護衛騎士がいるみたいだ。
「今日は司祭の護衛かしら?あの聖女は?」
「ライナさんは街長のところですよ。レメル女史もね」
勇者御一行勢揃いか。
この街もそろそろ潮時かもしれない。
「勇者も暇なのね、こんな街に来てるなんて」
「まぁ此方にも色々事情がありましてね」
探りを入ても、答えてはくれないか。
「私達には関係の無いことね。行くわよ、エリス」
カルシャは演説に背を向けた。
*
同刻。
センテ街役場の応接室にて。
「転生者が見つからない?どういう事?」
勇者にして聖女ライナはセンテ街長と会談していた。
「言葉通りですよ、勇者どの。ここ最近、新しい転生者をさっぱり見かけないのです」
転生者は定期的に現れる。
そうなっている事をライナは知っているし、街長にしても体感的に知っている。
それを見かけないとは。
「モンスターに襲われて死ぬ者もおりますが、最近は死体すら見つかりません。今のところ影響はないですが、何か良くない事が起きている気がするのです」
勘が良いな。
よく危険を察知できる管理者だ。
間違いなく何か起きているだろう。
遺跡のシステム異常か、それとも知恵あるモンスターか。
調べる必要が有りそうだ。
この街長ら司祭たちへの献金も欠かしていないのだろう。
連絡と司令が早かった。
そのおかげで素早く調査を始められる。
「それで司祭を通じて私に連絡が来たのね。良いわ、少し調べてみましょうか」
「以前はよく遺跡付近で転生者が見つかっておりました。保護する目的で偵察部隊も巡回させるのですが、最近は痕跡もありませんね」
痕跡も無いとなれば、まずは遺跡のシステムを確認すべきだろう。
「解った。遺跡を中心に調べてみるわ」
ライナが動き出す。
その会話を盗み聞きする影があった。
影は聞き終えると、すぐさまその場をあとにする。
その事に、ライナも同席したレメルも気付く事はなかった。
*
「まさか勇者どもが街に来てるとはね…」
もっと各地を回ってきて、帰ってこなくていいのに。
隣ではカルシャと同じくエリスも渋い顔になっていた。
「あの騎士、僕嫌いっす」
聖女もそうだが、エリスの方は騎士が気に食わないようだ。
「気障ったらしいもんね。さっさと帰るに限るわ」
「レイジ捕まえてさっさと帰るっすよ」
そのあたり、カルシャとエリスの感覚はよく似ている。
曲がり角を曲がる。
路地の脇、そこに漆黒の男が佇んでいた。
「そこの狩人殿。小生の話を聞くでござる」
明らかにカルシャに向けて言っているのだが、カルシャには見覚えがない。
それに、カルシャを狩人と称する時点でかなり怪しい。
「アンタ誰よ?」
場合によっては剣を抜かねばならない。
だが、男の答えはさらにカルシャを混乱させる。
「小生はツワブキ・ヤサカと申す忍の者。世にいう魔王崇拝者なる者にござる」
黒装束のツワブキは、魔王崇拝者らしい。
種を手に入れた直後だ。
タイミングが良すぎる。
もしかしてギフトを試したのを見られていたのか?
「魔王崇拝者、ねぇ…なにかの冗談?」
カルシャの思考が纏まる前に、ツワブキはさらに告げる。
「いや、事実でござる。小生は御身の正体を知っている故に此処に参った次第」
ここで、面倒な空気に耐えかねたエリスが構えるが、カルシャが制止する。
「エリス、ハウス」
「えぇー?でもすごく面倒臭そうっすよぅ?」
魔王の種を持った事でエリスはかなり強くなった。
人間を殴ったら軽く殺してしまう。
そうなっては面倒だと思っての制止だったが、ツワブキは笑った。
「ハッハ。エリス殿では小生には勝てませぬよ」
バカではなく、本心からのようだ。
「何か確信があるみたいな言い方ね」
カルシャの問いかけに、ツワブキはこともなげに秘密を明かす。
「小生も革命の種を持つ故」
?!
こいつも魔王の種持ちか!
道理でエリス相手に余裕ぶる訳だ。
剣を抜きかけると、ツワブキは言う。
「そう身構えなさるな。小生はあくまでも種を持つだけ。小生の目的は御身の手助けにござる」
手助けか。
話だけでも聞く価値はあるかもしれない。
「…話を聞かせなさいよ。信用するかはそれからだわ」
カルシャはツワブキの話を聞く事にした。
後書きウサギ小話
布教用の薄い本 編
広場の方で人だかりができていた。
「なんすかね?」
「さぁ?大道芸でもやってるんじゃない?」
近付いて見ると、どうやら布教活動のようだった。
「神はギフトを与え給うた。見てください、この構図!エロス全開ではないですか?クオリティ半端ないでしょう?」
布教用の三冊目!
完!




