21.最弱ウサギさん、市場にでかける
さて。
唐突だが、この世界の話をしよう。
この世界は、異世界を知っている。
異質な技術はそれなりに輸入されているし、ある程度はギフトによる再現で取り込まれている。
らしい。
モンスターである私には全てが伝聞情報なので、真偽は知らない。
少なくとも、川や地下水を組み上げる雷動式ポンプ、それに付随する水道はあるし、建築物もコンクリート造だし、土木工事は専門知識とギフトを持つ職人がいるし、ガス燃料もギフトによって生成され、各家庭で利用されている。
少々値は張るが、雷動馬車なるものも開発されたとか。
私にとって当たり前の人間の有り様だが、レイジにとっては少々“歪”らしい。
レイジ曰く、“近代化の恩恵を都合よく取り入れた、ギフトによるご都合主義的な田舎”で、殆ど現代と変わらない、だそうだ。
ふーん、あっそ。
異世界?
知らないわ、そんな場所。
興味ないし。
とにかく、異世界でも何でも、私は“人”の作り出した恩恵を受けている。
それはインフラ的な話だけではない。
何が言いたいかと言うと、つまり食料の備蓄が尽きかけている。
面倒だが、そろそろ街に出なければならない。
ちょっと憂鬱だった。
「…勇者が居たらやだなー」
だが、愚痴った所で空腹に鳴く腹の虫を鎮められる訳もない。
カルシャは仕方なく、ルシャーリアの姿に変身するのだった。
*
馴染みの宿で部屋を取り、すぐさま市場へ。
今回は保存食を中心に買い込みたい。
ちなみに連れはエリスだけだ。
報告と精算のため、レイジは互助会に顔を出している。
ついでに懸賞金モンスターの調査もお願いしておいた。
今頃色々調べている頃だろう。
そんな事を考えているカルシャの隣では、奴隷の首輪[フェイク]を装備したエリスが楽しみそうにそわそわしていた。
「アンタ、今日は荷物持ちだからね?」
「了解っすよ!」
買い物がそんなに楽しみなのか?
私なんか勇者がいるかも知れないだけで憂鬱なんだけど。
内心を顔に出さない努力をしながら市場に向かう。
「じゃ、まずはここからね」
農家協会による作物市だ。
狙いは主食になるもの、それと長持ちする野菜類だ。
「買うのは雑穀っすか?それとも芋?」
「両方よ」
ウサギであるカルシャだけなら穀物だけでもいいが、人間にはバリエーションが必要だ。
「僕は芋の方が好きっすね」
「誰もアンタの好みなんで聞いてないし」
ちなみにエリスの好みは、丸ごと焼いた芋に塩と脂いうシンプルなモノ。
毎日どのような食事でも幸せになれる羨ましい奴である。
まぁ、羨ましくないが。
「せっかくなら美味しい料理の方が良くないっすか?」
「お肉至上主義者に言われたくないわね」
「そりゃ僕はお肉最優先っすけど、決して野菜嫌いな訳じゃないっすよ?」
エリスはよく食べる。
人間よりも消費が激しく、エネルギーが必要なのかもしれない。
そして、そのせいで。
「その割には育ってないみたいだけど?」
ペラッペラのペラに胸が無い。
栄養を全て日常活動に使用してしまっているに違いない。
「しどい!ちょっと気にしてるのに!」
ようじょはショックを受けた。
よく食べる幼女。
育ち盛り。
「健康的ようじょ。いい響きじゃない」
いつまでも絶壁。
背が伸びたのに、そっちはさっぱりだった。
「くっ!僕の胸はポテンシャルだらけっすよ!」
「絶望的確率の希望的観測はポテンシャルとは言わないと思うわ」
可能性も否定され、にべもなし。
ようじょはなきだした!
「うわーん!鬼ー!悪魔ー!」
「何とでも言いなさい。奴隷に人権はないのよ」
嘲笑うと、幼女は涙目だった。
「うぅ、帰ったら自棄ミルクしてやるぅ!」
「お子ちゃまかよ」
閑話休題。
「さて、肉屋に付いたわ」
「目当ては干し肉っすか?」
「それと幾らかは生肉もね」
暫くは新鮮なモノも食べたいものである。
遺跡の居住区には冷気も蓄えられており、腐らせずに保存出来るため、全てを保存食にする必要はないのだ。
そんなカルシャに、エリスがひそひそと話しかける。
「…カルシャ姉ってウサギなのに肉食べるんすね?」
「人間の姿の時ならね」
本来の姿なら草むらでも食べるが、人間姿の方が断然満足度は高い。
だって美味しいんだもの。
エリスはちょっと感動していた。
「変身ってすごいっすね。生き物としての性質も変えちゃうって事っすよね?」
「まぁ確かにそうだけど、ギフトなんて全部そうじゃない」
《夜の獣》だって、人間に近い生物を魔獣に変えるではないか。
汎用性はともかく、変質させているという点では同じだろうに。
エリスの疑問は尽きない。
「もしかして、性別すら超える?」
「試した事はないけど、例えばレイジに変身したら恐らく男になるわね」
ま、変身する意味がないけど。
カルシャはそう思ったが、エリスはそうでは無かった。
「…と言う事は、僕でもカルシャ姉と夜伽できちゃう?」
何を言い出すのか、このくされようじょは。
期待感マシマシに言うんじゃない。
「え?アンタ私に抱かれたい訳?」
困惑。そして若干ひく。
「当たり前じゃないっすか」
堂々とない胸張るなよ。
「メス同士かつ食物連鎖上下関係なのに何言ってんのよ、バカなの?」
前にも言った通り、生物的恐怖が拭えない時がある以上ない。
しかも、生産性もへったくれもない話である。
だが、エリスは止まらない。
「カルシャ姉こそ解ってないっすねぇ。ウェアウルフは恩を忘れないんすよ?2度も命を助けられたらもう魂差し出すくらい付き従うモノなんす」
は?
今度は何を言い出したのか。
「…なんなのその暑苦しい在り方」
「で、僕らは夜に獣化するっすけど、夜の方もだいたい獣なんすよ」
オヤジみたいな事を照れながら言うんじゃない。
「…つまり、先ずは身体を捧げるって訳?」
「そういう事っす」
そういう事っすかー。
「…要らないわー、その捧げ物」
心の底から遠慮したいだけの人生だった。
人じゃないが。
「しどい!渾身の捧げ物なのに!」
捧げる以前に頭を働かせろよ、このおバカ。
「いや、そもそもちゃんと私の望むモノを捧げなさいよ」
誰の為の捧げ物だよ。
「ぴちぴちのようじょっすよ?食べたくないっすか?」
「本音は?」
「ウサギさん食べたい」
「やっぱ狙ってんじゃないのよ!これだから狼は!」
エリスの勢いは止まらない。
「ぐふふ」
「ようじょがして良い笑いじゃない!?」
「いいじゃないっすか、本能全開酒池肉林」
「何処でそんな言葉を覚えてくるのか小一時間問い詰めたいんだけど!」
元々変な知識持ってるなーとは思ってたんだよなー畜生!
助けた私が悪いのか?!
「まぁ、忠誠は本当っすから。そこは信じて下さいっす」
…それは知ってるわ。
ま、絶対言葉にはしてやらないけどね。
後書きウサギ小話
オヤジラビット編
「で、僕らは夜に獣化するっすけど、夜の方もだいたい獣なんすよ」
オヤジみたいな事を照れながら言うんじゃない。
「…つまり、先ずは身体を捧げるって訳?」
「そういう事っす」
そういう事っすかー。
「よぉし!じゃあオヂサン、オオカミさんを食べちゃおっかなー!」
「えっ?マジっすか?!」
「マジに受け取られてヒビってんじゃないわよ」
「鼻で笑われた!?」
一枚上手!
完!




