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18.最弱ウサギさん、妖精さんに出逢う

人間の歴史には、かつて存在した種族について書かれている事がある。


例えば巨人。


数は少なかったが、天地創造の膂力を以て覇権を争った。


そして敗北し、絶滅した。


例えばカーバンクル。


希少な宝玉を胎内に生成するモンスターだ。


乱獲されて、絶滅した。


人間は強欲だ。


モンスターが間引いていなければ、きっと世界は食い尽くされる。


そんな人間によって居なくなった存在。


それが妖精だ。


ギフトを運ぶ羽。


魅入られた奇跡。


そんな風に呼ばれる彼等を見たものは、今や殆どいない。


過去に見たことがあった、と言われるくらいだ。


それでも血眼になって探し続ける人間が絶えない。


何故か。


それは偏にその異能による。


ギフトを授ける使者。


妖精はその姿を見つけた者にギフトを与える。


ギフトを他人に与えまいとする強欲さに、妖精は刈り取られた。


妖精は身を隠し、その存在は消滅したのだ。


そして、私はその幻に出逢おうとしていた。


「…ギフトの秘密、教えてもらおうじゃない」





エリスの案内で、カルシャたちはとある湖に来ていた。


センテの街から山を越え、谷を下った先の盆地にある。


普段から気候穏やかで気温も安定しているここらの地域だが、この盆地は少し涼しく、険しい山に囲まれているため、あまり人の立ち入る場所ではない。


「ベルグ湖か。確かに妖精の噂がある土地ではあるね」


辺鄙な場所にも関わらず、有名な湖である。


妖精の水浴び場と呼ばれる湧水湖には、かつて多くの妖精が住んでいたらしい。


「この湖、大きい魚がいっぱいいたんすよ」


「でも取れなかったんでしょ?」


話を聞く限り、木の枝を槍代わりに魚を取ろうとしていたらしい。


「残念ながら僕に槍は向いてないみたいっすね」


ただの坊主だった。


「で、妖精にバカにされた訳だ」


「アイツら一生懸命な僕を茂みから見て悪口言ってたんすよ」


「アンタ鈍臭いからしょうがないわよね」


「しどい!」


しかし、この湖にいる魚と言えば。


「っていうか、その魚モンスターだからあまり食用には向いてないわよ。不味いし」


前に釣り人雑誌で特集していた気がする。


「いったい僕の苦労はなんだったの!」


「ただの無駄」


「容赦ない!」


エリスはやはりいじめ甲斐がある。


湖面を見やれば、時折ヒレが浮かんでは沈む。


「それにしても、本当に大きな魚だね」


「ベルグ大ナマズって言って、筋肉の塊よ。味は泥臭いらしいわ」


釣り人雑誌の受け売りだ。


周囲にモンスターは少なく、大物狙いの釣り人傭兵には人気なのだとか。


だが、大半がキャッチアンドリリースで、食べる奴は稀だとも。


「せっかく半日もかけたのに、ムダ…」


狩れない狩りに半日とはご苦労な事だ。


「ちなみに、人間も食べるから飛び込まなかった事自体は正解ね」


ベルグ大ナマズは獰猛ではないが大食漢で、共食いもする。この湖では生態系の頂点だそうだ。


動くものにはすぐに反応して寄ってくる。


水に飛び込めば確実に殺られるだろう。


それを聞いていたエリスはしょんぼりしていた。


「さて、そろそろ本題に移ろう」


レイジが切り替える。


「エリスが妖精を見たのはどの辺?」


「ちょうどあの辺りの草むらっすね」


エリスの指差すあたりは、草木が深い。


人型ではさぞ進みづらいことだろう。


カルシャは少し考えて、ギフトを開けた。


「《空蝉の変容(ヘンシン)》、解除」


美少女ルシャの姿から、カルシャ本来の角持つウサギの姿に戻る。


「じゃ、ちょっと待ってなさいよ。すぐに戻るわ」


ガサゴソ。


中はゴミばっかり!


釣り人め、ちゃんと片せよ!


迷惑極まりないな。


一部の品のない釣り人に内心悪態をつきながら進むと、木々が妙に拓けた場所にでた。


直感的に、カルシャは此処だな、と思った。


「《秘匿暴きの魔眼(ヴォイドゲイザー)》」


虚空を見つめる瞳のギフト。


その妖しい目は、隠された秘密を、物事を、真実を暴き出す。


特に、ギフトで隠された姿をあぶり出すにはもってこいだった。


「あ、あっさり見つかったわ、ヴィヴィアン!」

「逃げるわよ、モルガナ!」


黒と白の妖精だ。


彼女らの隠れ家であろう木造の小屋もみえる。


見られた事に狼狽えて、妖精たちは逃亡しようとしていた。


「逃がす訳が無いでしょ?」


だが、せっかく見つけたレア生物。


みすみす逃がす訳にはいかない。


全力で追いかけ、枝を蹴り、地上から空中から追い詰める。


「ただのウサギさんじゃないわ、ヴィヴィアン」

「変異種だわ、モルガナ」


予想外のウサギハイマニューバにビビる妖精たち。


「大人しく捕まってくれない?食べたりしないわ」


カルシャが説得を試みるも、妖精たちは聞く耳を持たない。


「嘘よ!聞いてはいけないわ、ヴィヴィアン!」

「戦うわよ、モルガナ!」


それどころか、カルシャは敵モンス認定されてしまったようだ。


妖精たちが声を合わせ、ギフトを開く。



「「《神秘の天糸(クロト・ライナー)》」」



白と黒の妖精、その手と手を結ぶように輝く光の束がうねる。


そのまま2体揃って飛び掛かってくる。


まるで縄跳びのようだが、それで拘束でもするつもりか?


「縄?そんなもので…っ!」


いや、違う!


瞬時に回避する。


直感を信じて避けてみれば、カルシャのいた付近の枝葉がスッパリと切られていた。


「ふふふ、よく切れるわ、ヴィヴィアン」

「ふふふ、真っ二つね、モルガナ」


熱線か。


熱を封じて縄として扱う。


触れれば終わりだ。


か弱いウサギに向かってなにしやがる。


「危ないわねぇ。やっぱり一度叩きのめすか」


カルシャは考える。


殺さず確実に拘束するには、どうしたらいい?


「何かしら、ブツブツ言ってるわ、ヴィヴィアン」

「きっと辞世の句を詠んでるのよ、モルガナ」


妖精たちは失礼な事を囁きながら、再び突進をかける。


カルシャはそれを見切って大きく跳躍した。



「馬鹿ね、そんな訳ないでしょ!《風鎖の牢(アレスト・エア)》!」



風が戒めの鎖と化す。


幾重もの不可視の鎖が絡みつき、妖精たちは光を取り落とす。


そのまま雁字搦めになって地に落下、無様に藻掻くがもう遅い。


「くっ、解きなさいよ!」


「逃さないと酷いわよ!」


見下げるウサギに暴言を吐くが。


「煩いわねぇ」


ウサギの前脚に転がされて終わりだった。


「エリス!」


下僕を呼びつける。


「はいはーい」


茂みを抜けてエリスが現れると、妖精たちがパッと顔を輝かせた。


「あ!こないだの鈍臭オオカミ!」

「ギフトのお礼に助けに来たのね!」


失礼な奴等だな。


「違うし!僕はこのカルシャ姉の味方っすから」


エリスも苦笑する。


それを聞いた妖精たちは再びピーピー騒ぎ出す。


「なんですって!まずいわ、ヴィヴィアン」

「最大のピンチだわ、モルガナ」


だが、今度はエリスがフォローを入れてくれた。


「安心して良いっすよ、カルシャ姉はそんな酷い事はしないから」


口は悪いけど。


なんか内心で悪口を言われた気がするが、気のせいだと言うことにしておいてやるか。


「そうなの?信じていいのかしら、ヴィヴィアン?」

「どうかしら。でも、今はそう願うしか無いわ、モルガナ」


ようやく諦めたか。


「さて、話は纏まったみたいね、妖精さんたち」


私の願う事は一つ。


「アンタたちへの要件は一つよ」


ギフトの秘密に魔王の力が必要なのならば。



「コイツに与えた《災厄種(カラミティ)》と同種のギフトを寄越しなさい」



ギフト一覧を解放するためのギフトを。


カルシャはただただ、魔王のためのギフトをねだったのだった。


後書きウサギ小話

ウケツケジョー?編



「ベルグ大ナマズって言って、筋肉の塊よ。味は泥臭いらしいわ」


釣り人雑誌の受け売りだ。


周囲にモンスターは少なく、大物狙いの釣り人傭兵には人気なのだとか。


だが、大半がキャッチアンドリリースで、食べる奴は稀だとも。


「じゃ、捕まえて食べるけど、どうやって料理する?刺し身?焼き魚?」


迷ったら食ってみろ!


完!

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