18.最弱ウサギさん、妖精さんに出逢う
人間の歴史には、かつて存在した種族について書かれている事がある。
例えば巨人。
数は少なかったが、天地創造の膂力を以て覇権を争った。
そして敗北し、絶滅した。
例えばカーバンクル。
希少な宝玉を胎内に生成するモンスターだ。
乱獲されて、絶滅した。
人間は強欲だ。
モンスターが間引いていなければ、きっと世界は食い尽くされる。
そんな人間によって居なくなった存在。
それが妖精だ。
ギフトを運ぶ羽。
魅入られた奇跡。
そんな風に呼ばれる彼等を見たものは、今や殆どいない。
過去に見たことがあった、と言われるくらいだ。
それでも血眼になって探し続ける人間が絶えない。
何故か。
それは偏にその異能による。
ギフトを授ける使者。
妖精はその姿を見つけた者にギフトを与える。
ギフトを他人に与えまいとする強欲さに、妖精は刈り取られた。
妖精は身を隠し、その存在は消滅したのだ。
そして、私はその幻に出逢おうとしていた。
「…ギフトの秘密、教えてもらおうじゃない」
*
エリスの案内で、カルシャたちはとある湖に来ていた。
センテの街から山を越え、谷を下った先の盆地にある。
普段から気候穏やかで気温も安定しているここらの地域だが、この盆地は少し涼しく、険しい山に囲まれているため、あまり人の立ち入る場所ではない。
「ベルグ湖か。確かに妖精の噂がある土地ではあるね」
辺鄙な場所にも関わらず、有名な湖である。
妖精の水浴び場と呼ばれる湧水湖には、かつて多くの妖精が住んでいたらしい。
「この湖、大きい魚がいっぱいいたんすよ」
「でも取れなかったんでしょ?」
話を聞く限り、木の枝を槍代わりに魚を取ろうとしていたらしい。
「残念ながら僕に槍は向いてないみたいっすね」
ただの坊主だった。
「で、妖精にバカにされた訳だ」
「アイツら一生懸命な僕を茂みから見て悪口言ってたんすよ」
「アンタ鈍臭いからしょうがないわよね」
「しどい!」
しかし、この湖にいる魚と言えば。
「っていうか、その魚モンスターだからあまり食用には向いてないわよ。不味いし」
前に釣り人雑誌で特集していた気がする。
「いったい僕の苦労はなんだったの!」
「ただの無駄」
「容赦ない!」
エリスはやはりいじめ甲斐がある。
湖面を見やれば、時折ヒレが浮かんでは沈む。
「それにしても、本当に大きな魚だね」
「ベルグ大ナマズって言って、筋肉の塊よ。味は泥臭いらしいわ」
釣り人雑誌の受け売りだ。
周囲にモンスターは少なく、大物狙いの釣り人傭兵には人気なのだとか。
だが、大半がキャッチアンドリリースで、食べる奴は稀だとも。
「せっかく半日もかけたのに、ムダ…」
狩れない狩りに半日とはご苦労な事だ。
「ちなみに、人間も食べるから飛び込まなかった事自体は正解ね」
ベルグ大ナマズは獰猛ではないが大食漢で、共食いもする。この湖では生態系の頂点だそうだ。
動くものにはすぐに反応して寄ってくる。
水に飛び込めば確実に殺られるだろう。
それを聞いていたエリスはしょんぼりしていた。
「さて、そろそろ本題に移ろう」
レイジが切り替える。
「エリスが妖精を見たのはどの辺?」
「ちょうどあの辺りの草むらっすね」
エリスの指差すあたりは、草木が深い。
人型ではさぞ進みづらいことだろう。
カルシャは少し考えて、ギフトを開けた。
「《空蝉の変容》、解除」
美少女ルシャの姿から、カルシャ本来の角持つウサギの姿に戻る。
「じゃ、ちょっと待ってなさいよ。すぐに戻るわ」
ガサゴソ。
中はゴミばっかり!
釣り人め、ちゃんと片せよ!
迷惑極まりないな。
一部の品のない釣り人に内心悪態をつきながら進むと、木々が妙に拓けた場所にでた。
直感的に、カルシャは此処だな、と思った。
「《秘匿暴きの魔眼》」
虚空を見つめる瞳のギフト。
その妖しい目は、隠された秘密を、物事を、真実を暴き出す。
特に、ギフトで隠された姿をあぶり出すにはもってこいだった。
「あ、あっさり見つかったわ、ヴィヴィアン!」
「逃げるわよ、モルガナ!」
黒と白の妖精だ。
彼女らの隠れ家であろう木造の小屋もみえる。
見られた事に狼狽えて、妖精たちは逃亡しようとしていた。
「逃がす訳が無いでしょ?」
だが、せっかく見つけたレア生物。
みすみす逃がす訳にはいかない。
全力で追いかけ、枝を蹴り、地上から空中から追い詰める。
「ただのウサギさんじゃないわ、ヴィヴィアン」
「変異種だわ、モルガナ」
予想外のウサギハイマニューバにビビる妖精たち。
「大人しく捕まってくれない?食べたりしないわ」
カルシャが説得を試みるも、妖精たちは聞く耳を持たない。
「嘘よ!聞いてはいけないわ、ヴィヴィアン!」
「戦うわよ、モルガナ!」
それどころか、カルシャは敵モンス認定されてしまったようだ。
妖精たちが声を合わせ、ギフトを開く。
「「《神秘の天糸》」」
白と黒の妖精、その手と手を結ぶように輝く光の束がうねる。
そのまま2体揃って飛び掛かってくる。
まるで縄跳びのようだが、それで拘束でもするつもりか?
「縄?そんなもので…っ!」
いや、違う!
瞬時に回避する。
直感を信じて避けてみれば、カルシャのいた付近の枝葉がスッパリと切られていた。
「ふふふ、よく切れるわ、ヴィヴィアン」
「ふふふ、真っ二つね、モルガナ」
熱線か。
熱を封じて縄として扱う。
触れれば終わりだ。
か弱いウサギに向かってなにしやがる。
「危ないわねぇ。やっぱり一度叩きのめすか」
カルシャは考える。
殺さず確実に拘束するには、どうしたらいい?
「何かしら、ブツブツ言ってるわ、ヴィヴィアン」
「きっと辞世の句を詠んでるのよ、モルガナ」
妖精たちは失礼な事を囁きながら、再び突進をかける。
カルシャはそれを見切って大きく跳躍した。
「馬鹿ね、そんな訳ないでしょ!《風鎖の牢》!」
風が戒めの鎖と化す。
幾重もの不可視の鎖が絡みつき、妖精たちは光を取り落とす。
そのまま雁字搦めになって地に落下、無様に藻掻くがもう遅い。
「くっ、解きなさいよ!」
「逃さないと酷いわよ!」
見下げるウサギに暴言を吐くが。
「煩いわねぇ」
ウサギの前脚に転がされて終わりだった。
「エリス!」
下僕を呼びつける。
「はいはーい」
茂みを抜けてエリスが現れると、妖精たちがパッと顔を輝かせた。
「あ!こないだの鈍臭オオカミ!」
「ギフトのお礼に助けに来たのね!」
失礼な奴等だな。
「違うし!僕はこのカルシャ姉の味方っすから」
エリスも苦笑する。
それを聞いた妖精たちは再びピーピー騒ぎ出す。
「なんですって!まずいわ、ヴィヴィアン」
「最大のピンチだわ、モルガナ」
だが、今度はエリスがフォローを入れてくれた。
「安心して良いっすよ、カルシャ姉はそんな酷い事はしないから」
口は悪いけど。
なんか内心で悪口を言われた気がするが、気のせいだと言うことにしておいてやるか。
「そうなの?信じていいのかしら、ヴィヴィアン?」
「どうかしら。でも、今はそう願うしか無いわ、モルガナ」
ようやく諦めたか。
「さて、話は纏まったみたいね、妖精さんたち」
私の願う事は一つ。
「アンタたちへの要件は一つよ」
ギフトの秘密に魔王の力が必要なのならば。
「コイツに与えた《災厄種》と同種のギフトを寄越しなさい」
ギフト一覧を解放するためのギフトを。
カルシャはただただ、魔王のためのギフトをねだったのだった。
後書きウサギ小話
ウケツケジョー?編
「ベルグ大ナマズって言って、筋肉の塊よ。味は泥臭いらしいわ」
釣り人雑誌の受け売りだ。
周囲にモンスターは少なく、大物狙いの釣り人傭兵には人気なのだとか。
だが、大半がキャッチアンドリリースで、食べる奴は稀だとも。
「じゃ、捕まえて食べるけど、どうやって料理する?刺し身?焼き魚?」
迷ったら食ってみろ!
完!




