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15.最弱ウサギさん、逃げ出す

「残念だわ、彼女がモンスターだという確証がなくて」


カルシャたちが立ち去った応接室で、勇者ライナは残念そうな素振りなく笑った。


「仕方ありませんよ。最近使ったものからランダムですし」


騎士リクスもまた残念さを滲ませる事なく言う。


聖女の響鳴(ユニゾンシフト)》は、聖女の証だ。


特別な転生者に与えられるソレは、他人に与えられたギフトの中で最近使われたモノをランダムに選び出し、複写する。


発動条件は、自分から一定範囲内に相手がいる事。


意識が途絶していてはいけない。


一人から一つしか複写できない。


「キマイラからギフトを奪っていたかも知れないでしょ?」


カルシャがキマイラからギフトを奪っていたら、三分の一の確率でギフト泥棒をコピーできたのに。


勇者ライナはその点のみにおいて、心底残念な気持ちだった。


それをおくびにも出さず、書記官に問いかける。


「レメル、貴女はどう感じた?」


書記官の分析はいつも的確だ。


ライナたちは常に彼女の意見を参考にする。


「…モンスターかどうかは判らない、でも」


「でも?」


「遠距離と近接を同時に獲得していた者は今まで記録が無い。マルチでも同属、近似系で揃うのが普通」


レメルは膨大な転生者たちのギフト情報を逐一覚えている。


記憶の魔導書(ペイジレスブック)》のギフトが埋め込まれているためだ。


本の記載はあくまでも予備で、彼女以外が閲覧するため。


本物の情報庫はレメルの頭の中にある。


「…もっとも、前例が無いだけで、ギフトの組み合わせがレアだった可能性も否定は出来ない」


「まぁ、そうよね」


今回は確証を得るための接触では無かったし、問題はない。


転生者だけを襲うのなら、放っておいても害はないのだ。


どうせ湧いて出る道具でしかないのだから。


そしてそれはこの身も同じ。


「エスト」


司祭の名を呼ぶ。


「我が主は魔王が生まれる事を危惧して居られます」


司祭の思考はよく読めない。


感情が無い。


解っているのは私が選ばれた転生者だと言う事と、この司祭が私の監視役だという事だ。


この世界の住人であり、恵まれた才とギフトによって護衛に選ばれたリクス、記録者として代々聖女に仕えるグレイズルの一族レメルにしても、聖女の味方ではあるがライナの味方ではない。


絶対に抜け出してやる。


傀儡になどなるものか。


「解っているわ」


だが、今はまだ雌伏の時だ。


カルシャ・グリムには悪いが、私の踏み台になってもらう。


「種になるモンスターは、私が全て刈り取る」


今はまだ、神の名に祈ろう。


主よ、我らを導き給え(ミルラ・アトロポス)





一方、カルシャたちは既に街を離れ、街道を歩いていた。


「いやー、重圧感ぱなかったっす」


「勘弁してほしいわ、ああいうの」


「勇者相手に嘘を並べた口がそれを言う?」


勇者ライナのプレッシャーから解放されて、だらだら全開モードなのも仕方ない事だろう。


レイジですら気を緩めていた。


「良いわよね、アンタは標的じゃなかったから気楽で」


「僕だって勇者の重圧にはかなりビビってたさ」


「アンタが言うと嘘くさいわ」


「確かにそうっすね」


拓けている街道、麗らかな日差し、風の音。


平和そのものだ。


バカ話をしていても襲われないし、プレッシャーをかけられる事もない。


勇者というのは、その場にいるだけで勇者であり、モンスターには問答無用の威圧装置なのだ。


だからこそ、レイジは疑問を抱いていた。


「それにしても、よくあんな賭けに出られたね。何か秘策でもあったのかい?」


「いざとなったら何としてでも逃げてやるつもりだったわ」


「まさかの無策!」


無策だった。


そしてエリスが大事な事に気付く。


「その口ぶりだと、僕たち置いてでも逃げる気だったっすね!?」


「ハハッ」


どこかで聞いたことがあるような、声高で乾いた笑いだった。


そう、多分どこかの異世界の、具体的にいうと千の葉っぱがある県の等身大ネズ…おっと誰か来たようだ。


エリスは震え上がった。


「ゾットするから薄ら笑いやめて下さいっす」


カルシャは顔芸をやめた。


「カルシャさんもブレないねぇ」


「アンタも結構な能天気っすね…」


「ははは、達観してると言ってくれ」


レイジも大概ネジがぶっ飛んだ奴だと、エリスは思った。


レイジは何事も無かったかのように真面目な顔に戻ると、カルシャに問いかける。


「それで、これからどうする?」


「決まってるわよ」


つられてカルシャもいつもどおりのしかめっ面に戻る。


「ひたすらギフトを集めるわ。あの女を追い抜くくらい集めなきゃ」


それからエリスに向かって言う。


「エリス、アンタ強くなりなさい」


「え?僕っすか?」


「そう、アンタよアンタ」


すっとぼけるなよ。


エリスがお前以外に何処にいる。


「…僕、そんな弱いっすか?」


「今のアンタじゃ勇者に瞬殺よ、瞬殺」


ネコに与えられたボールばりにコロコロのコロだ。


それはもう一瞬で終わるだろう。


本気を出せばカルシャですら瞬殺できる。


「そうかも知れないっすね…」


ちょっと悲しそうな顔をするが、それだけなら要らない。


「私の下僕をこれからも名乗りたいなら、私が背中を預けられるくらい強くなってよ」


必要とされたいなら、それに相応しいようになりなさいよ。


これでも期待してるんだからね。


「解ったっす。僕、強くなるっすよ!」


エリスが目を輝かせると、レイジはこう言った。


「じゃあ僕はそのお手伝い、かな」


それもあるが、お前の仕事はそれだけじゃない。


最も重要な事は。


「アンタにはギフトの効率的な集め方を考えて貰うわよ」


遺跡で仲間にするための条件にした方だ。


「了解」


返事は軽いが、提案さえしっかりしてくれるなら問題はない。


それにしても。


「はぁ、嫌になるわね」


「何がっすか?」


溜息が出る。


「こんな風に命が狙われてるかも知れない状況が、よ」


死にたくないだけなのに、どうしてこう厄介事がやってくるのか。


「でも、ギフト集めるんすよね?」


「当たり前じゃない」


それが一番大事。


生きがいなのだから、やめる訳がないでしょう?


「…カルシャ姉はやっぱりカルシャ姉っすね」


「はぁ?当たり前でしょ?」


何言ってんだか。


私はウサギ。


「何度も言わせないでよ。私はただのウサギよ」


ちょっと特殊なギフトを持つだけ。


長生きしたくて、知りたがり。


面倒も危険も嫌いな一匹のモンスター。


「ギフトの秘密を知りたいだけの、か弱いウサギなの」


後書きウサギ小話



一方、カルシャたちは既に街を離れ、街道を歩いていた。


「いやー、重圧感ぱなかったっす」


「勘弁してほしいわ、ああいうの」


「勇者相手に嘘を並べた口がそれを言う?」


勇者ライナのプレッシャーから解放されて、だらだら全開モードなのも仕方ない事だろう。


レイジですら気を緩めていた。


「じゃあ解放されたところでぇ!ここらでBBQしちゃう?しちゃうぅ?」


「イイネ!ちゃんと人参も用意しなさいよ?」


「僕はたらふく肉たべたいっす!」


パリピ!


完!


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