4−18.悪夢の魔王様、黒幕と相対する
暗黒のその先。
階段を降りきったそこは大広間。
焚かれた松明たちの中心に、視線が吸い寄せられる。
一人の男が、カルシャたちを出迎えた。
その男は、暗闇にあってさえ、なお眩い。
「ようこそ、魔王アーデカルシャとその臣下様方」
出迎えがさも当然かのように振る舞うその男は、カルシャたちの進路を塞ぐ。
「そして、出来損ないの聖女、その身に神なる血を宿しながらも反旗を翻した勇者どのも、よくぞおいでくださった」
にこやかに歓待を示す、その法衣姿。
その脇に特別支勇司祭エスト、それから背後には無数の軟体動物がにじみ出る。
「……教皇、ハンナデルカ」
この時点で、一神教は完全にイヴレインの手先だと理解できた。
「いかにも。私が現教皇、ハンナデルカ・ルミニクス」
にこやかな笑みの奥に、底知れない邪悪が潜む。
魔術による炎が顕現し、カタチをなして錫杖となり、その白き御手が握る。
カツン、と石畳を突く音すら、不穏さを孕んで響く、その存在感。
「そして、我が神イヴレイン・レガリア様の忠実なるしもべ」
言葉とともに変質し、化けの皮が剥がれ落ちる。
その正体は、魔王イヴレインの眷族であり、イヴレインの魔術師である。
炎を纏う、触手の化け物。
同時にエストの皮も剥がれ落ち、同じような化け物になり変わる。
「最早擬態は不要。貴女がたの抵抗も不要」
最早人型すら失ってうごめくソレが、まるでまだ人であるかのように喋る。
「魔王イヴレインが復活したから何?そんなんだから侵略に失敗するのよ」
対するカルシャは愛槍を構え、配下達もそれに習った。
「なんと不敬な物言いか。我が神は魔王に非ず。聖王にして唯一無二の神なる御方ぞ」
事ここにいたり、問答など意味をなさない。
「トンチンカンな事言ってんじゃないわよ、下郎が」
話してやる義理もない。
先制打、お見舞いに撃つギフトの炎。
たやすく防がせるその篝火が、開戦の合図となった。
「……貴女がたには言葉すら不要なようだ」
掲げた錫杖をカルシャに向けると、眷族たちが一斉にうごきだす。
「好き勝手やったツケ、払わせてやるわ」
カルシャたちも即座に散開、それぞれの敵を見定める。
「アイツは私がやる。有象無象は任せるわよ」
カルシャはハンナデルカへ。
「了解ですお姉様!」
「全員ぶっ飛ばすっす!」
エリスとエイリは眷族を蹴散らし、最初から全力で。
「微力ながら露払いいたしますぞ」
ツワブキも遅れながら眷族の波に飛び込んでいく。
「魔王のお手並み拝見と行くか」
アーロは眷族数体を千切り斬って進む。
「じゃ、クソ司祭は血祭りにあげておくわね」
ライナだけはエストにロックオンして突撃。
魔術師と魔術師の戦い、その戦端がここに開かれた。
†
薙ぎ払う。
槍の穂先が触手を千切りとる。
着実なダメージを与えている。
しかし、ハンナデルカの身体は次々と再生し、新たなる触手は途切れる事を知らない。
「《業火の射手》」
魔王の炎で焼き払ってみるも、本体までは届かない。
なんせ物量が多い上に、味方である軟体たちが肉の盾になるのだ。
「まどろっこしいわね……!」
性格も見た目も、シンプルにうざったい。
「届きませんな。やはり、貴女がたには我が神に謁見する資格すらない」
触手は濁流のように押し寄せる。
「《白獣脚、如紫電》」
身体に稲妻を纏って回避を繰り返し、ついでとばかりに雑魚を斬り伏せるが、焼け石に水。
奥から奥から次々と増援があらわれる。
苛烈な攻めも止まらない。
「《崩滅と生誕の魔剣》、からの、《煌氷牙》!」
魔剣化する槍の穂先、それを横薙ぎに1回転。
灰燼化、感電、凍結を引き起こす氷の槍が無数に射出される。
周囲の触手と軟体たちを薙ぎ払い、ついでに灰燼と化した軟体の魔力を奪い取る。
「まだまだ行くわ!《煌氷牙》!」
全方位に氷をばら撒き、魔力を奪取、そしてまた氷を撒く。
その繰り返しと触手の再生・猛攻はいたちごっこだったが、周囲の軟体たちは確実に減っている。
総数が減ったというよりは、補充が追いつかない、といったところだ。
魔力量に問題はない。
このままギフトを使い続けても、カルシャには十分な魔力があり、ジリ貧になることは無い。
しかし決定打もなく、ハンナデルカの周囲の触手も軟体も削れていない。
このままでは相当な長期戦となりうるし、何よりハンナデルカが何も仕掛けてこない訳がない。
であれば、どうするのか。
「単調。じつに動物的だ」
安い挑発にのるように、カルシャは触手の肉壁に飛びかかる。
「悪いけど、私は端から魔物なのよ!」
同時に暴食触腕を突き出した。
肉体改造で手に入れた異形の第三腕。
爪を備えた醜い巨腕が触手を挽き、千切り、伸びる。
その速度はカルシャ本体よりもやや遅いが、それでも軟体や触手よりは速かった。
「《暴虐の嵐》!」
瞬速、発火、金剛砕破の風滅杭。
近接戦闘用のギフトを、腕を伸ばして至近距離にて発動した奇襲攻撃は、その目論見通りハンナデルカに届いた。
凄まじい暴風が切り刻み、蹂躙する。
根本から千切れた触手。
巻き込まれる近衛。
効果は一瞬で、カルシャが引き戻した異形の腕は血塗れ。
それだけで戦果が計れるというもの。
「ーーーーーー」
それが通常のいきものであるならば。
「いやはや、流石創世の魔術師、素晴らしい魔術だ」
ぐちゃぐちゃになった肉塊がしゃべる。
どうやって?
そんなことは知らないし、わかりたくもない。
今1番重要なのは、ハンナデルカが死んでいないということ。
カルシャの内心に、わずかに焦りが生まれる。
「さて、準備運動もそこそこに、本番と参りましょうか」
後書きウサギ小話
合体技?編
ハンナ「いでよ下僕たち!」
下僕Aが現れた!
下僕Bが現れた!
下僕Cが現れた!
下僕Dが現れた!
下僕Eが現れた!
下僕Fが現れた!
下僕Gが現れた!
下僕Hが現れた!
な なんと 下僕たちが…!
下僕たちが どんどん がったいしていく!
なんと 巨大下僕に なってしまった!
カルシャ「スライム!?」
合体しても賢くはならないやつ!
完!