4−16.悪夢の魔王様、攻め入る
闇夜に紛れ、聖都の暗がりが蠢く。
カルシャの転移魔術によって、魔王の軍勢がまたたく間に集結する。
ここは聖都の地下。
かつてライナが神を名乗る者に出会った場所であり、聖都の中でも焚書を免れた数々の記録や書物が納められた禁域。
巨大なアーチが立ち並ぶ地下空間は、かびの匂いと湿気で満ちている。
総勢たった29の軍勢のうち、さらに分割されてこの暗がりに配置されたのは22。
魔王カルシャを戦闘に、ツワブキ、エリス、エイリ、妖精姉妹に、テラーキマイラが13体、ケイオスブリンガーが3体。リョウとジラムだけは都市防衛役として居残り、非戦闘員組と一緒だ。
食客である元・聖女ライナ、勇者アーロも地下に配置されており、今は行動開始の合図を待っている。
残りの7人。
テラードラグーン・レイジとジャガーノート・グレイン、そしてケイオスアーマー3体とタイラントアーマー2体は地上だ。
陸戦、市街地での戦闘となれば、小型の都市を壊滅させうる暴力を持つ。
ましてや内部に直接現れての破壊ともなれば、聖都とはいえ防衛など望めないだろう。
レイジたちは、カルシャの転移によって送り届けられたのち、地上で破壊の限りを尽くし、一神教の注意を引く。
これは地下の侵攻のための陽動作戦である。
カルシャが戻れば行動開始。
そして、その瞬間はすぐに訪れる。
「待たせたわね。行動開始よ」
†
聖都、地上。
夜も更けた大通り、それらが交差する広場に、巨大な影が7つ。
音もなく現れたその影に気付くものはない。
影たちはそのまま構え、ギフトを開放すべく手を掲げる。
それは戦の口火を切る閃光。
ひとり宙に舞ったレイジが、ギフトではない竜種特有の火炎ブレスを吐きつける。
たっぷりと魔力を消費したブレスは、聖都の一角を扇状に焼き尽くし、前方2ブロックほどの建築諸共を消し炭に変えた。
それが合図となり、グレイン以下5体の巨像たちもギフトを解き放つ。
炎に雷、吹雪、濁流、隆起する岩、防風。
様々なギフトで彩られた暴力が、襲撃者を中心とした破壊を振りまき、魔王による聖都襲撃が始まった。
初撃により、周囲1ブロック程度が倒壊、さらに1ブロック程度が半壊。
これは中央聖都の1%にも満たない面積ではあるが、魔物などいない聖都の中心においては、相当な騒ぎである。
半壊した建物からは悲鳴や呻きが溢れ、損害を免れた区画からは、状況確認のために家を飛び出す者もいた。
ここから、状況は加速していく。
第一波の中心で、宙に舞うドラグーン。
それを囲う魔物の群れ。
瓦礫が破壊の跡を物語り、それらを目にした民衆たちが叫ぶ。
「神敵には粛清を!」
その瞳には、信仰心。
突然の魔物の襲来に怯えども、その芯には狂信があり、人々は武器となるものを手に、魔物たちの襲来に立ち向かわんとする。
破壊に怯まず、敵に向かう民衆。
だが、レイジたちも止まらない。
元より陽動を命じられた身。
いたずらに死することなど毛頭考えてなどいないが、最初から全力で破壊を振りまいていく。
周囲をギフトで破壊し、その凶器で薙ぎ払い、その強靭な脚で踏み荒らす。
散開した7体の悪夢は、紅い花を散らしながら、聖都を廃墟に変えていく。
悲鳴、怨嗟、狂気。
立ち向かうすべてをなぎ倒す。
そのうち僧兵が集まるが、これも民衆となんら変わりはしない。
いくらかは伝令として走っていく。
その他はすべて突撃してくるが、手練の転生者が連携して倒せるレベルの魔物相手に、たかだか僧兵程度が叶うはずもない。
レイジたちが止まるとすれば、勇者や石像が現れてからだ。
十把一絡げに殲滅するが、後続はまだまだ絶えない。
必要以上に殺す必要はない。
歯向かう者を殺せ。
一神教には全力であたれ。
そんなカルシャの言葉に挑みかかるように、一神教は民衆すべてを巻き込んできた。
そろそろひと区画丸々が壊滅する。
一神教が動き出すのも近いだろう。
そう考えていた矢先、ソレらは粉塵の舞う闇から染み出してきた。
「来たぞ。全員気合を入れろ」
「レイジ殿、想定より数が多いようだ」
「問題ない、その分多く壊すだけだ」
レイジとグレインの言葉が途切れる。
粉塵が晴れる頃には、四方のブロックから、聖者の石像が大挙しているのが目に入った。
だが、配下を含めて動揺はない。
「さて、ノルマは何体になるのやら」
わらわらと現れる石像、挑みかかってくるソレらにギフトを浴びせ、斬りかかる。
最初に襲撃された時はあれほど苦戦した石像も、改造を施されたレイジたちには物足りない。
たやすく砕き、ただの瓦礫に変わるのは一瞬。
ただし数が多い。
それに、レイジとグレインには、さらなる戦力が出てくる予感もあった。
「このまま好き放題、とはいかないんだろうね」
「無駄口よりも排除だ、レイジ殿」
後書きウサギ小話
平常運転、編
カルシャ「送り届けたから、進軍あるのみ!」
エリス「カルシャ姉ー、お腹減ったっす!」
エイリ「お姉さまに迷惑かけるな、この駄犬!」
ツワブキ「元気な娘たちでござるなぁ、はっはっは」
ライナ・アーロ「(相変わらず姦しい上に緊張感無い奴等だな)」
いつでも自然体!
完!