4−15.最弱ウサギさん、戦火を灯す
ジラムの作った武具が揃うまで、さほど時間はかからなかった。
改造をうけたそれぞれが新しい身体に慣れる頃には武具が出来上がり、それらを用いた戦闘に慣れるまで同じくらいの時間を要した。
その間、偵察としてレイジが空を駆けたが、一神教に目立った動きはない。
特別司祭を倒されたというのに何も動きがないのは、少々不気味ではあったが、今攻め込まれても具合が悪いため、ある意味では都合が良かった。
その間にカルシャと勇者アーロの対談が行われ、アーロは共闘こそしないものの、聖都侵入へはついていく運びとなった。
聖女ライナは一神教への復讐心で共闘を続けることを選び、臣下たちは死した身内の無念を抱いて魔王に付き従った。
戦力は整いつつある。
そんな状況下で開かれた御前会議は、魔王アーデカルシャとその軍勢の行く末を決めるものとなる。
†
「さて、皆集まったわね」
カルシャの目の前には、幹部の面々。
状況は整い、あとは首長たるカルシャの命を待つのみ。
「もうわかってるとは思うけど、揃えうる戦力は揃ったわ」
総数57、そのうち戦闘員30。
そのほとんどが魔王の改造を受け入れ、一神教の動く石像を凌駕する力を手に入れた。
カルシャが用意できる最大の戦力は、そこにジラムの作成した武器防具を加えたものだ。
それら全て、御旗には至らぬものの、それぞれが凄まじい性能を秘める。
都市を一晩で滅ぼすことすらできる魔王軍は、魔術師の力を得たことによって、聖都に手が届く寸前だ。
カルシャはそれを実行する。
「一神教を叩き潰すわよ」
シンプルかつ凶悪に、カルシャは嘲った。
†
聖都アラスラクト、中央都市。
その日も聖都は平和であった。
この魔物が闊歩する世界では、もっとも安全とされる聖都、その中央都市では、魔物など一切いないのだから、それは当たり前の日常である。
そこに暮らすものは、特権階級とそれを支える労働者だが、いずれにしても、この世界全体から見れば、ある意味では全員が特権階級であり、魔物による生命の危機とは無縁であった。
街角では司祭たちの集会が開かれ、行き交う人々はおよそ飢えなど無縁、街は清浄を保たれており、ある種の理想郷とも言える。
しかし、それはあくまでも表面のおはなし。
水面下では一神教の不正が蔓延り、さらにその地下では何者かが蠢いている。
都市をむさぼる悪徳司祭、それらを牛耳る一神教。
それが理想郷の正体であり、世界から隠された事実だった。
それは長い間秘匿され続けてきた。
まるで不変の事実のように。
だが、実際には違った。
平和は幻。
それを証明するのは、ほんの一瞬。
教えをとく司祭に群がる信徒。
行き交う人々と行商人。
祈りを捧げる集団。
それらが、中央都市の中枢を見上げる。
まばゆいばかりの黒く輝く闇が、天を突き、地を揺るがしたのだ。
突然の事態に呆然とする群衆だったが、それが不可解と恐慌に変わるころには、闇はすでに拡散していた。
そして人々は、何もなかったかのように再び動き出す。
それは日常の延長であるかのように見えた。
しかし、明確に変化があった。
ー“聖皇イヴレイン・レガリア”ー
一神教の神として、新たな名前が上書きされたのだ。
人々の口からは、さも当たり前であるかのようにその名が囁かれ、聞いたことの無い言語を唐突に話し出す者すらいた。
そして、それを気に留めるものは居ない。
その場のすべての人間が、動物が、聖皇の存在を元からそうであったかのように受け入れている。
聖都アラスラクト。
一神教の聖地にして、神に一番近い場所。
そのような聖地であった都市は、一瞬にしてその意味を失った。
しかし、それを観測する者はいない。
誰にも気付かれないまま、世界の運命が回りだす。
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