表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/143

4−12.最弱ウサギさん、湖月を掴まんとす

次にカルシャはジラムを呼び出した。


「アンタの作ったこの剣、なかなかの出来栄えじゃない」


理由はギフトによって作られたこの剣。


これは先の戦闘の最中に、建物の瓦礫から作られたという。


「これをアンタはロングソードだと言ったけど、これはどちらかと言うと刀よね」


カルシャが手にするのは、魔術の加護も無いような、ただの刀。


しかし、ギフトによって作られたソレは、ただ屑鉄をこねくり回したような駄作ではなく、むしろ名刀と呼ばれる部類だろう。


「私のギフトは、私の作りたいものを作れない。いつもこんなふうに違うものが出来上がる」


だが、ジラムはその事実を聞いてさえ、偶然成功しただけだとこぼした。


「“湖月複製(イマジマリコピー)”、だったわね?」


「…生産系のクズギフトですよ」


水属性第4位の特殊ギフト。


生産系のため、カルシャも詳しい効果はわからない。


しかし、第4位でクズギフトということはあり得ない。


「そうかしら?私はそうは思わないわ」


絶対に何か使い方があるはずだ。


今まで失敗作ばかりだったのは、適切な使い方でなかった。


その使い方が解明できれば、ジラムの利用価値は跳ね上がる。


「試しに、これで“ロングソード”を作ってみなさいよ」


それにはまず、ギフトの性質を直にみるべきだろう。


カルシャは予め用意していた鉄塊を差し出す。


「……カルシャ様が言うのならやりますが、どうせ失敗作しかできませんよ」


端から諦めているジラムに代わって、カルシャは試行方法を考えていく。


「構わないわ。それから、作るときは目隠ししなさい?」


今回の刀が出来上がった経緯は聞いている。


普段と違う状況下でのギフト行使が、ジラムのギフトに何かしらの影響を与えたのは明白だ。


生命の危機、視覚異常、閉所、血の匂い。


どの条件が誘発したのかを調べていけば、いずれギフトの使い方もわかるだろう。


簡単な条件から調べていけば良い。


「目隠し、ですか」


ジラムは布で目隠しをして、鉄を掴む。


「ーーーー《湖月複製(イマジナリコピー)》」


ギフトは即座に効果を発揮し、鉄は見事に変質をとげた。


「やっぱりアンタのギフトには使い道がありそうね」


ジラムの手には鉄塊から武器へと変化したひとふり。


「ソレはロングソード…一般的な両刃剣ではなく、レイピアよね」


ロングソードとは似ても似つかないが、剣であり、武器である。


カルシャは目隠しをとって、武器を見てから溜息をついたジラムに問いかける。


「複製ってつくからには、アンタには思い浮かべた形があるわよね?」


「ええ。私には到底手が届かない代物ですが、街の商店でみた名工のミスリル剣をイメージしていました」


結果はこの通りですがね。


「じゃあ次。今度はコレを複製してみてちょうだい」


それを見た瞬間、ジラムの顔が驚きと恐れに変わる。


「それは…、そんな大層なモノ、私には無理ですよ……!」


それもそのはず。


カルシャが差し出したのは、カルシャ自身の武器であり象徴、“凍炎の夢(ガーレ・ヴォル)魔王御旗(ツ=スピアリス)”だったからだ。


「いいからやってみて。材料はコレよ」


カルシャは有無を言わさず、ミスリルの残骸を渡す。


特別司祭ジノスとの戦いで壊れたカルシャの鎧だ。


どうせ直せないほどに壊れたもののため、実験にはちょうどいい。


ジラムはしぶしぶながらミスリルを拾い上げて、手近な場所に置いた。


それから片手を御旗、片手をミスリルに置き、瞑想するようにまぶたを下ろすと、今一度ギフトを開ける。


「ーーーー《湖月複製(イマジナリコピー)》」


ミスリルが渦を巻き、徐々にカタチを変える。


鉄と違って魔力をよく通すミスリルの変化は、見ていて面白いほどに表情豊かだった。


方向性は長柄のようだ。


しかし、それは槍とは違うカタチに収まっていく。


ギフトによる変化は、鉄のロングソードとは違って少し時間がかかったが、ほどなくして終わった。


「ーーーー、ーー」


ジラムが恐る恐る目を開ける。


その瞳に映ったのは、ミスリル製の大鎌であった。


「どう?アンタが今まで作った中で一番の出来なんじゃない?」


カルシャには魔力の流れが視える。


そのミスリル鎌の魔力はきれいに整っており、武器の性能も一級品に違いないだろう。


「確かに、私の作ったモノとは思えない……」


外見は御旗と同じような意匠であり、吹雪と鉱石結晶体で出来ているかのよう。


このような代物を街で見かけるとすれば、それはごく限られた特権階級の転生者御用達の商店などだろう。


材料がミスリルであったことを差し引いても、今までのジラムの複製履歴からすれば、あり得ないほどの成功例だった。


「アンタのギフトは名前の通りコピーなのよ」


カルシャはギフトの効果を推測し、それが正解に近いものだと確信していた。


「コピーだから、コピー元の出来が良いほど良いモノが出来る」


湖月、複製。


名前から類推することはできる。


複製なのだから、参照するものが必要であり、出来上がりはそれに比例するのだろう。


「アンタは多分、ただのロングソードさえまともに作れないギフト、とでも勘違いしていたんでしょ?」


となれば、今までのジラムの失敗の原因は、湖月、の方にある。


「これは私の推測だけど、湖に映るモノをコピーする、そこにない偽りの姿を実体化できるのが、“湖月複製(イマジナリコピー)”っていうギフトなんじゃないかしら?」


湖に映るものは、決してそれそのものではない。


姿形こそ似てはいても、それは虚像でしかない。


だが、それを取り上げることが出来たのなら、それが真に迫る形質を維持できたのなら、きっとそれは虚像よりも意味深いものとなる。


つまるところ、劣化複製、または変質複製。


そのようなギフトなのだろう。


「アンタは今後、そのギフトを使った職人をやってもらうわ」


そうであれば、ジラムは戦力強化に使える。


「鍛冶師、ということですか」


本人は釈然としない様子だが、カルシャはそう決めた。


「その前段階として、アンタのギフトをもっと良く知る必要があるわ」


湖月複製(イマジナリコピー)”をきっちり理解してもらい、みんなの装備を作らせる。


「だから、今日からしばらく、ここでギフトの研究をしなさい?」


これ以上、犠牲を増やさないために、ね。



後書きウサギ小話

邪念、編



「試しに、これで“ロングソード”を作ってみなさいよ」


「アッ、ハイ」


「あと、目隠ししなさい?」


「ウィッス」


「特別に私自ら目隠ししてあげるわ!」


「アッ(カルシャ様の吐息と匂いが・・・///)」


「さ、やりなさい?」


「“邪念複製(イマジナリコピー)”」


「ん?なんかギフトちがくない?ーーーって何よこれ!?」


٩(๑´3`๑)۶←出来上がったカルシャ様像


「アッ、スンマセンッス、邪念混じっちゃいました(*ノω・*)テヘ」


ネガティブマイナスなジラムさん!


完!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ