4−12.最弱ウサギさん、湖月を掴まんとす
次にカルシャはジラムを呼び出した。
「アンタの作ったこの剣、なかなかの出来栄えじゃない」
理由はギフトによって作られたこの剣。
これは先の戦闘の最中に、建物の瓦礫から作られたという。
「これをアンタはロングソードだと言ったけど、これはどちらかと言うと刀よね」
カルシャが手にするのは、魔術の加護も無いような、ただの刀。
しかし、ギフトによって作られたソレは、ただ屑鉄をこねくり回したような駄作ではなく、むしろ名刀と呼ばれる部類だろう。
「私のギフトは、私の作りたいものを作れない。いつもこんなふうに違うものが出来上がる」
だが、ジラムはその事実を聞いてさえ、偶然成功しただけだとこぼした。
「“湖月複製”、だったわね?」
「…生産系のクズギフトですよ」
水属性第4位の特殊ギフト。
生産系のため、カルシャも詳しい効果はわからない。
しかし、第4位でクズギフトということはあり得ない。
「そうかしら?私はそうは思わないわ」
絶対に何か使い方があるはずだ。
今まで失敗作ばかりだったのは、適切な使い方でなかった。
その使い方が解明できれば、ジラムの利用価値は跳ね上がる。
「試しに、これで“ロングソード”を作ってみなさいよ」
それにはまず、ギフトの性質を直にみるべきだろう。
カルシャは予め用意していた鉄塊を差し出す。
「……カルシャ様が言うのならやりますが、どうせ失敗作しかできませんよ」
端から諦めているジラムに代わって、カルシャは試行方法を考えていく。
「構わないわ。それから、作るときは目隠ししなさい?」
今回の刀が出来上がった経緯は聞いている。
普段と違う状況下でのギフト行使が、ジラムのギフトに何かしらの影響を与えたのは明白だ。
生命の危機、視覚異常、閉所、血の匂い。
どの条件が誘発したのかを調べていけば、いずれギフトの使い方もわかるだろう。
簡単な条件から調べていけば良い。
「目隠し、ですか」
ジラムは布で目隠しをして、鉄を掴む。
「ーーーー《湖月複製》」
ギフトは即座に効果を発揮し、鉄は見事に変質をとげた。
「やっぱりアンタのギフトには使い道がありそうね」
ジラムの手には鉄塊から武器へと変化したひとふり。
「ソレはロングソード…一般的な両刃剣ではなく、レイピアよね」
ロングソードとは似ても似つかないが、剣であり、武器である。
カルシャは目隠しをとって、武器を見てから溜息をついたジラムに問いかける。
「複製ってつくからには、アンタには思い浮かべた形があるわよね?」
「ええ。私には到底手が届かない代物ですが、街の商店でみた名工のミスリル剣をイメージしていました」
結果はこの通りですがね。
「じゃあ次。今度はコレを複製してみてちょうだい」
それを見た瞬間、ジラムの顔が驚きと恐れに変わる。
「それは…、そんな大層なモノ、私には無理ですよ……!」
それもそのはず。
カルシャが差し出したのは、カルシャ自身の武器であり象徴、“凍炎の夢魔王御旗”だったからだ。
「いいからやってみて。材料はコレよ」
カルシャは有無を言わさず、ミスリルの残骸を渡す。
特別司祭ジノスとの戦いで壊れたカルシャの鎧だ。
どうせ直せないほどに壊れたもののため、実験にはちょうどいい。
ジラムはしぶしぶながらミスリルを拾い上げて、手近な場所に置いた。
それから片手を御旗、片手をミスリルに置き、瞑想するようにまぶたを下ろすと、今一度ギフトを開ける。
「ーーーー《湖月複製》」
ミスリルが渦を巻き、徐々にカタチを変える。
鉄と違って魔力をよく通すミスリルの変化は、見ていて面白いほどに表情豊かだった。
方向性は長柄のようだ。
しかし、それは槍とは違うカタチに収まっていく。
ギフトによる変化は、鉄のロングソードとは違って少し時間がかかったが、ほどなくして終わった。
「ーーーー、ーー」
ジラムが恐る恐る目を開ける。
その瞳に映ったのは、ミスリル製の大鎌であった。
「どう?アンタが今まで作った中で一番の出来なんじゃない?」
カルシャには魔力の流れが視える。
そのミスリル鎌の魔力はきれいに整っており、武器の性能も一級品に違いないだろう。
「確かに、私の作ったモノとは思えない……」
外見は御旗と同じような意匠であり、吹雪と鉱石結晶体で出来ているかのよう。
このような代物を街で見かけるとすれば、それはごく限られた特権階級の転生者御用達の商店などだろう。
材料がミスリルであったことを差し引いても、今までのジラムの複製履歴からすれば、あり得ないほどの成功例だった。
「アンタのギフトは名前の通りコピーなのよ」
カルシャはギフトの効果を推測し、それが正解に近いものだと確信していた。
「コピーだから、コピー元の出来が良いほど良いモノが出来る」
湖月、複製。
名前から類推することはできる。
複製なのだから、参照するものが必要であり、出来上がりはそれに比例するのだろう。
「アンタは多分、ただのロングソードさえまともに作れないギフト、とでも勘違いしていたんでしょ?」
となれば、今までのジラムの失敗の原因は、湖月、の方にある。
「これは私の推測だけど、湖に映るモノをコピーする、そこにない偽りの姿を実体化できるのが、“湖月複製”っていうギフトなんじゃないかしら?」
湖に映るものは、決してそれそのものではない。
姿形こそ似てはいても、それは虚像でしかない。
だが、それを取り上げることが出来たのなら、それが真に迫る形質を維持できたのなら、きっとそれは虚像よりも意味深いものとなる。
つまるところ、劣化複製、または変質複製。
そのようなギフトなのだろう。
「アンタは今後、そのギフトを使った職人をやってもらうわ」
そうであれば、ジラムは戦力強化に使える。
「鍛冶師、ということですか」
本人は釈然としない様子だが、カルシャはそう決めた。
「その前段階として、アンタのギフトをもっと良く知る必要があるわ」
“湖月複製”をきっちり理解してもらい、みんなの装備を作らせる。
「だから、今日からしばらく、ここでギフトの研究をしなさい?」
これ以上、犠牲を増やさないために、ね。
後書きウサギ小話
邪念、編
「試しに、これで“ロングソード”を作ってみなさいよ」
「アッ、ハイ」
「あと、目隠ししなさい?」
「ウィッス」
「特別に私自ら目隠ししてあげるわ!」
「アッ(カルシャ様の吐息と匂いが・・・///)」
「さ、やりなさい?」
「“邪念複製”」
「ん?なんかギフトちがくない?ーーーって何よこれ!?」
٩(๑´3`๑)۶←出来上がったカルシャ様像
「アッ、スンマセンッス、邪念混じっちゃいました(*ノω・*)テヘ」
ネガティブマイナスなジラムさん!
完!