4−11.最弱ウサギさん、悪魔の提案を投げかける
『アンタたち、友や家族の死をその身に受け入れる覚悟はある?』
そう問いかけて、否定するものは居なかった。
肯定するものも居なかったが、カルシャは沈黙を是として決断を下した。
「さて、下準備ね」
カルシャはまず自己改造を施す事にした。
材料は地下世界、アデルカの墓で奇襲してきた奴。
ステルス性、軟体動物、腐食毒液のナニカ。
直感的にだが、こういう奴は異形の種と相性が良い気がする。
そう思って改造のまな板に上げたが、案の定思惑通りの結果を得られそうだった。
それから、擬態能力をもつミミックの死体。
すなわち、アデルカの魔導書。
内容は全て記憶したから、死体である魔導書はもはや不要。
「まずはコイツらを使って私を改造する」
欲しいのは、器用な腕だ。
ぶにぶにとした死体、乾燥した魔導書が、私と融合する。
不純物が混じり、ぞくりとする。
変質する。
身体の中に蠢く異形は、私の意志に従って背中側へ。
分解され、吟味され、再構築され、ソレラはやがて背中から再び顔をだす。
ブツリ。
ブツリ、ブツリ。
出来物が膨れ、やぶれ、また出来ては壊れた。
その惨状の中に、最後に現れるのは異形の腕。
羽毛を毟られた鳥の翼のような、軟体の触腕である。
“暴食触腕”
これは第三の隻腕。
変身していてさえ自在に扱えるこの腕は、今回の提案に役立つ能力を持っている。
食物完全分解。
取り込んだものをエネルギー変換する際、分解し、構築し直すことで、最も効率的にエネルギーを獲得する。
それだけでなく、普通は消化できないものさえエネルギーに変えることができる。
ミミックの擬態と捕食、軟体動物の身体を受け継いだこの腕で、カルシャは改造の素材にすらならない僧兵たちの死体を完食した。
それだけで、エネルギーは十分に溜まった。
これで下準備は終わり。
改造プランはこうだ。
13人のウェアウルフの戦士には、ケイオスビースト、地虫の死体を混ぜ合わす。
5人の転生者には、地虫の死体と聖者の石像を混ぜ合わす。
3人のケイオスビーストには、陵墓で戦った牛の素材を混ぜ合わす。
その他、レイジには処刑配達人の駆っていたドラゴンを。
グレインには石像と地虫の両方を。
エリスとエイリは既に強化済みだから除外、ツワブキは辞退した。
以上の改造を、数日かけて行う。
その改造が成功すれば、襲撃前よりも数段戦力は上がるだろう。
さて。
準備は整った。
けど、改造を始める前に、他にも仕込んでおかなくちゃね。
†
「アンタに試してみてほしいことがあるの」
御所に呼びつけたグレインに向けて、カルシャはそう言った。
「仰せのままに。何を試すのですか?」
グレインは当然のように断らない。
今回は改造ではない。
もっとわかりやすい強化になる。
「これよ」
カルシャが差し出したのは、一冊の本。
カルシャが一神教徒を一掃する前に、一旦はツワブキに託したものである。
差し出されたそれをうやうやしく受け取ると、グレインはそれを観察する。
「これは……本、?まさか魔導書、ですか?」
金の丁装の本は怪しく光るが、タイトルはない。
カルシャは当然中身を知っているが、あえて何も言わず、ページをめくるように指をさした。
「……では、失礼して」
グレインは恐る恐る本を開く。
その瞬間、本は爆ぜるように飛び跳ねた。
「!?」
それは幻想だ。
現実には何も起きてはいない。
しかし、本を開いたグレインにとっては、小さな魔王の火が飛び出したように見えたことだろう。
そして、その火が己が胸に飛び込んだようにも。
「カルシャ様、いったいコレは……?」
グレインの疑問に答えるには、外に出るのが良いだろう。
「グレイン、空に向かってギフトを開けなさい」
外にでて、カルシャは告げる。
「ギフトの名前は《炎の射手》よ」
訝しむグレインだったが、すぐに掌を掲げてギフトを開けた。
「《炎の射手》!」
その瞬間は呆気ない。
カルシャがかつて放った炎。
それと寸分違わぬギフトの火が空を焦がす。
しかし、グレインにはそんなギフトは無かったはずなのに。
「!!?」
今日のグレインは驚かされてばかりだ。
見に覚えのないギフトが、自身の意志によって発動したなど、目の当たりにしてすら信じがたい。
しかし、それは紛れもない現実。
奉ずる魔王の御技に違いなく、グレインはカルシャに詰め寄る。
「こ、これは!ギフトの贈与、なのですか?!」
「その通りよ」
対するカルシャは、想定どおりの結果にも涼しげだった。
「アンタに渡したのは、私のギフトを複写した魔導書。資格があれば読むことができて、その恩恵を受け取る事ができるの」
いわゆる恩寵の書と呼ばれる魔導書、その模造品。
カルシャはそのオリジナルを陵墓で見つけており、すでにその作り方を識っていた。
カルシャは異形化による血肉の変質で、理解したものには変化できるため、魔導書を量産することが可能だった。
代償は、魔導書化したギフトの喪失、それから魔導書分の血肉。
上位ギフトは渡せないが、カルシャが使わないであろうギフトは多い。いくつも持っているギフトは、全てを魔導書化しない限り喪失しないため、これで配下たちの戦力は大きく飛躍するだろう。
「他にも色々と用意してあるから、皆の改造が終わったら読ませてちょうだい」
後書きウサギ小話
主大好き忠犬、編
「ところで、これはカルシャ様の一部なのですか?」
「そうよ?」
「カルシャ様の一部・・・(๑•̀ㅁ•́๑)ゴクリ」
「・・・アンタ、変な事考えてるんじゃないでしょうね?」
「いや?そんな事は?無いですよ?クンカクンカ」
「匂いを嗅ぐな!」
本能に身を任せ!
完!