13.最弱ウサギさん、最強勇者さんと出逢う
“加護多き聖女”
大層な通り名だ。
数多く存在するギフト。
多くの人は、そのうち1つ。
転生者や、運の良い者で2つか3つ。
豪運な奴、ドラゴンとか強い種族でようやく5つか6つ。
世に勇者と呼ばれる者ですら、多くても2桁行かないというその異能の加護を、その聖女は無数に授かっている。
それだけで破格の強さだ。
有り得ざる奇跡を体現する者と言える。
それだけの力があれば堕落もしそうなものだが、その勇者はそうではないらしい。
その言動は人々を救う聖者そのもので、一度戦場に出れば苛烈に敵を打ち据え、味方の心を鼓舞する。
3人の従者を連れて、各地で人を脅かすモンスターを狩る旅をしているそうだ。
今回の来訪もその途中。
カルシャには何の関係もなく、勇者もカルシャの事など知らないだろう。
だが。
この勇者とやらは、端的に言ってカルシャの天敵だ。
ギフトの数で優位を保っているカルシャにとって、そこで負ければ他に勝てる要素はない。
一瞬でウサギのミートパイ。
もしくはシチューか干し肉。
そんなのはまっぴらごめんだ。
月明かり、エリスのいびき、ギフトの幻光。
ベッドに鎮座したカルシャは、ギフト一覧を眺めながら推測した。
勇者の本来のギフトは、ギフトを得るギフトだろう。
初めから無数のギフトを得ていたはずが無い。
可能性で言えば無くはないのだろうが、考えづらい。
であれば、カルシャのようなギフトを奪うギフトを持つか、ギフトを複写や共有、もしくは新規に獲得できるギフトを持っていると考える方が、まだ合理的だ。
ギフトを奪うカルシャにとって、端からギフトを奪われる可能性に思考が行き、警戒できる相手ほどやりにくいものは無い。カルシャが多くのギフトを持つとバレれば、それはギフトの力を露見させるのに等しい。
決して正体がバレるような事があってはならない。
天敵も天敵。
決して真正面から敵対してはいけない。
明日になったら、すぐにでも街を離れる方が良い。
深夜になるまで部屋で考えて、カルシャはそう結論付けた。
そして夜が明ける。
翌朝に起きた出来事は、カルシャの生きてきた中でもトップクラスの悪い出来事だった。
*
「おはよう。何か騒がしいわね?」
部屋から降りると、何やら表が騒がしい。
先に目覚めていたらしいレイジは、コーヒーを飲みながら答えた。
「実はこの宿に勇者一行が宿泊してたらしくて、朝からひと目見ようと外に人だかりが出来てるみたいだよ」
「は?なんですって?」
信じられない偶然である。
なんてこった。
「こんなんじゃ落ち着いてご飯も食べられないっすよぅ」
「そんな事言ってる場合じゃないわ。さっさと街をでたかったのに…」
勇者と同じ建物にいるなどという危険から、はやく逃げたい気持ちでいっぱいだった。
どうするんだ、もし今勇者が襲いかかってきたら!
ついでに軽くパニックだった。
「ルシャさん。むしろ今は動かず、大人しくする方が得策だと思う」
なので、冷静なレイジがいてくれて助かった。
無理やり外に出て人目を引くよりは、部屋で嵐が過ぎるのを待った方が賢い。
「…そうね。下手打つよりは引きこもる方がいいか」
そう思った瞬間、とにかく明るい商人が現れた。
「あ!おはようございます、ルシャさん!」
後ろにいらんものを引き連れて。
「…最悪だわ」
4人組。
明らかに3人の従者。
金髪碧眼、幼女と少女の間くらい。
バッチリ特徴が一致する。
「水場で偶然勇者様と鉢合わせして、昨日の事を話したら、是非貴女にお会いしたいとの事でお連れしましたよ!」
お連れして欲しくなど無かった。
カルシャと目が合うと、その聖女はニコリとした。
「ライナ・クロムウェルよ。以後よろしくね」
「…ルシャーリア・ルークスよ」
仕方なく名乗ると、ライナはさっそく本題を切り出した。
「貴女、マルチギフトなのでしょう?少し、話さない?」
地獄のような時間が、始まる。
後書きウサギ小話
朝からすごいのね・・・編
「こんなんじゃ落ち着いてご飯も食べられないっすよぅ」
「そんな事言ってる場合じゃないわ。さっさと街をでたかったのに…って何食べてるのよ」
「え?パンとたまごとスープとサラダと干し肉とーーーー」
「朝からどんだけ食べるのよ!」
朝食はしっかり食べる派!
完!




