12.最弱ウサギさん、宴会にいざなわれる
「いやぁ、ルシャさんには命を助けて頂き、こうして美味しくお酒を飲めるのも、全て貴女のお陰ですよ!」
その夜、カルシャたちはセンテ最高級の宿に招待されていた。
助けた商人は命あっての物種と、カルシャに最大の感謝を示すべく、宿での宴会を催してくれた訳だ。
だが、可能であれば逃げ出していたでかろうカルシャからすれば、そんなものは礼を言われる筋合いではない。
「私は自分の身を守っただけよ。そんな大層な事はしてないわ」
ミルクをちびちびやるカルシャは、内心猛省である。
仕方なく戦い、しかもマルチギフトである事を、そこいらの人間に見られてしまった。
だが、商人にとっては助けられた事に変わりない。
恩を売れただけでも上々だとでも思っておくほかないだろう。
そんな風に考えているカルシャに対して、エリスは能天気だった。
「ぅまぁい!高級ミルク飲んでいいなんて、なんて奇跡っすか!」
「…お酒は飲むんじゃないわよ」
頭が痛くなる。
酒を飲んだ訳でもないのに、だ。
最も、本当に酒を飲んだ事など無いので、頭が痛くなるというのは聞きかじった知識でしかないが。
「ルシャ姉もたくさん飲んどいた方が得っすよ!」
「あのねぇ、タダ飯でがっつくの辞めなさいよ。私が普段ケチってるみたいでしょうが」
そう言うと、エリスは真顔で疑問符を浮かべた。
「え?」
「ケチってない。節約だから」
決してケチではない。
必要な金は使うし、必要な対価や時間は費やす主義だ。
「…鎧はちゃんと買う癖に」
エリスはミスリル鎧の方が贅沢品だと言いたいらしい。
確かに金額自体はここの飲食費よりも遥かに高いだろう。
エリスの言いたい事もわからなくは無い。
しかし。
しかしだ。
「当たり前でしょ?死んだら終わりなんだから」
死んで意味のある事などない。
死んだら全ては終わりだ。
「そうですぞ、エリスさん。命が無ければ美味しい食事も酒も、溜め込んだお金すら使えんのですから」
そういった意味では、カルシャは商人のようだと言えるかもしれない。
「そいえばあのキマイラも懸賞金首だったそうですな」
「え?そうなの?」
「そうみたいだよ。僕が討伐完了申請しておいた」
なんて有能異世界人。
しかしながら、これは追加の問題だ。
懸賞金がかかるモンスターは強い。
それを倒したとなると。
「早く言いなさいよ、そういう事は」
「これでルシャ姉も有名人っすね」
「…そうね」
マルチギフトに懸賞金狩り。
エリスの言うとおり、顔と名前が売れてしまう。
今後の活動にルシャの姿は使えなくなるかもしれない。
カルシャがそんな事を考えていると、商人がこんな事を言い出した。
「それより、勇者様のお話はお聞きになりましたか?」
「勇者?」
聞き捨てならない単語だ。
「門の逆に元々現れた懸賞金首がいましたでしょ?」
「なんて奴だっけ?」
グラスを傾けるレイジに尋ねると、すぐに答えが返ってくる。
「イフリートでしたね。通り名は確か“紅蓮の嵐”イグノ」
普段飲めない高級ミルクを、人の金でたらふく飲もうとしているエリスとはえらい違いだ。
少しは見習え、この下僕め。
「そうそう、そのイグノですがね」
「被害が出てないって事は、勇者が現れて倒したっての?」
「そうなんですよ」
普通はそうそう勇者など現れるものではない。
元々そのイグノなるイフリートを追ってきていたのかもしれない。
「勇者、ねぇ」
「勇者なんて言えば大層なモンですが、今の勇者様はルシャさんと同じくらいの女の子なんですよ、これが」
勇者なんてものには興味は無いが、そのギフトには興味がある。話の中でそんな情報が聞ければ丸儲けだ。
「詳しく聞かせなさいよ」
「ええ。今の世で勇者と言えば数人。その中でも彼女はとびきり有名です」
そんな語り始めで商人は勇者の名前を上げた。
「ライナ・クロムウェル。通り名を“加護多き聖女”」
商人の口から語られたとある異世界の少女の名前。
カルシャにとって、それはやがて忘れられない名前となる。
後書きウサギ小話
宴会といえば・・・編
「「「「ルネッサーンス!」」」」
「で、ルネッサンスて何よ?」
完!




