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11.大型モンスさん、街を襲う

センテの街、馴染みの宿に向かう途中。


門を抜けてしばらく歩いていたが、何やら街の中の様子が騒がしい。


「さて、街に戻ってきたは良いけど…なんか騒がしいわね?」


「ケンカっすかね?!それとも火事っすか!」


ようじょはこうふんしている!


野次馬かよ。


「なんで嬉しそうなのよ」


こんなのが下僕だと思うとため息がでる。


その点、考えは読めないがコッチはそれなりに優秀である。


「どうやら少し厄介事みたいだね」


通りがかった人に事情を聞いてきたらしい。


「厄介事?」


面倒なのは御免こうむりたいのだが。


「懸賞金の掛かった大型モンスターが街に接近中だそうだよ」


「面倒な…」


命に関わるようなのは、本当にやめてほしい。


「え、カルシャ姉なら余裕じゃないんすか?」


「お馬鹿も大概にしてよね。あと呼び方気をつけなさいよ」


ギフトは多くても、カルシャは戦いのスペシャリストではない。


仮に戦えるとしても、必要ない危機に飛び込むのはただの愚者だ。


「そのモンスターの強さはさておいても、人の注目を集める状況でルシャのギフトを使うべきじゃない」


「余計に面倒事が増えるなんて御免だわ。冗談じゃない」


レイジの言うとおり、戦わない選択肢をとる。


「どうする?」


「そんなの決まってる。逃げるわよ」


敵前逃亡上等だ。


逃げ出して、何か悪い?


私は単に死にたくないのよ。





荷馬車の中から周囲の様子を窺う。


「意外と逃げる人間、少ないっすねぇ」


モンスターが接近している方角とは逆の門。


多くの荷馬車と、護衛の傭兵たち。


その表情は不安の色が多い。


「街中の方が安全だと思ってるってだけよ。それに、住処を捨てたくは無いでしょ」


人間も獣も一緒だ。


「実際、ただの人なら逃げるより安全だろうね」


レイジの言うとおり、街の門を突破するような怪物でない限りは、恐らく街中の方が安全だろう。


だから、周囲の荷馬車は基本的に行商人だらけだった。


「商人たちは身軽ね。閉じ込められて商機を失わないように素早く対応してるわ」


脱兎の如く逃げるとはこの事だろう。


「そのお陰で荷馬車にお邪魔できた訳だしね」


レイジの交渉により、荷馬車の隅にのせてもらって街を脱出する運びだ。

ただ。


「窮屈だけどね」


3人横並び、ぎゅうぎゅうである。


「僕はカルシャ姉と密着できて嬉しいっすよ?」


「暑苦しい」


「相変わらずしどい!体温高いのはしょうがないでしょ!」


「煩い、下げろ」


「僕には生きる権利もないんすか?!」


「仲良いね」


「「どこがよ(っすか)!」」


ガタガタかしましい荷馬車であった。


その間に門を抜けて街道を行く荷馬車だったが、またしても何やら騒がしい。


「…?」


「何か騒がしいね」


レイジが呟き、エリスが幌をめくって外を窺う。


その時だった。


「悲鳴っすよ!」


エリスの叫びにカルシャとレイジも幌から顔を出すと、前方を走っていた数台の荷馬車が煙で見えなくなっていた。


「何が起きたの?!」


「裏手にもモンスターがいたらしい…この距離じゃ逃げられんよ」


御者台の商人は、荷馬車が襲われるのを見てしまったらしく、酷く怯えている。


大きく素早いモンスターは、一瞬で荷馬車を蹴散らして乗り手を食らった。


襲撃はそれで終わらない。


煙でから飛び出したのは、ライオンと山羊の怪物。


キマイラと呼ばれる種族のモンスターだ。


「ルシャ!来るよ!」


レイジの注意喚起に、カルシャは街道から離れて剣を抜く。


単独行動になったカルシャに狙いを定めたキマイラを見て、カルシャは覚悟を決めた。


「逃げられないか…!仕方無い、応戦するわよ!」


キマイラの背後に向けて叫ぶ。


「さぁ行くっすよぉ!《夜の魔獣(ノクトビースト)》!」


エリスが変身する。


昼間なので強化は中途半端だが、それでも無いよりマシだ。


力とスピードが上がったエリスがキマイラに掴みかかる。


蛇の尾を引っ張り、爪を立てると、キマイラは苛立たしげに唸りを上げ、翼をばたつかせて振り払う。


「僕はそんなんじゃ剥がせないっすよ!」


「そのまま引きつけてなさい!」


エリスに指示を出してから、カルシャは考える。


商人たちが見ている以上、ギフトは一種類だけで決めたい。


余計な情報を流さず、一撃で決めるには、どのギフトが良い?


カルシャが選んだのは。


「《尖焔の射手(ブレイズアーチ)》!」


炎の矢が放たれる。


今扱えるギフトの中では高位に位置する遠距離攻撃。


獣は火に弱いはず。


そう考えて放った炎の矢は、しかしキマイラの表面を焦がしただけだった。


抑えていたエリスがはね飛ばされる。


「ルシャ姉、効いてないよ?!」


「あぁもう!もう一回行くわよ!」


効かないけれど、もう一度試す。


もう一回ダメなら逃げてやる。


「《剣の処刑台(セイバークラフト)》」


レイジがギフトによって創り出した剣を渡してくる。


持っている剣より鋭く、重い。


「ルシャ、これを使って」


荒ぶるキマイラは、エリスがもう一度抑え込んでいる。


レイジの瞳は、もう一種、あるギフトを使えと訴えていた。


「っ、仕方無いか…!」


エリスも長くは保ちそうにない。


カルシャはキマイラに向かって走り出す。


大きく跳躍すると、2種目のギフトを開けた。



「《竜殺しの偽魔剣(バルムンク・レプリカ)》!」



最高位の近接攻撃。


袈裟斬りに振り抜かれた一閃。


ライオンと山羊を同時に切り裂いて、刃が地面を抉る。


頭部を破壊されたモンスターの身体が地面に倒れ伏し、商人たちが口々に、安堵のため息を漏らした。


「た、助かった…」


「おーい!そこの人たち、大丈夫ー?」


加えて街の傭兵たちも現れたため、マルチギフトを見せてしまった証拠の隠滅は難しそうだ。


そんな事を考えていると、荷馬車にのせてくれた商人がこんな事を言い出した。


「命を助けてもらった分、是非お礼をさせてくれないだろうか?」




後書きウサギ小話

敵前逃亡編



「どうする?」


「そんなの決まってる。逃げるわよ」


敵前逃亡上等だ。


逃げ出して、何か悪い?


私は単に死にたくないのよ。


「で、どうしてこうなった」


「何よ?隠れて悪い?」


「カルシャ姉、それはズルいっすよ・・・」


この後の展開を見越して、躊躇いなく路地裏の樽にスニークしたカルシャであった。


単なる臆病者!


完!


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