11.大型モンスさん、街を襲う
センテの街、馴染みの宿に向かう途中。
門を抜けてしばらく歩いていたが、何やら街の中の様子が騒がしい。
「さて、街に戻ってきたは良いけど…なんか騒がしいわね?」
「ケンカっすかね?!それとも火事っすか!」
ようじょはこうふんしている!
野次馬かよ。
「なんで嬉しそうなのよ」
こんなのが下僕だと思うとため息がでる。
その点、考えは読めないがコッチはそれなりに優秀である。
「どうやら少し厄介事みたいだね」
通りがかった人に事情を聞いてきたらしい。
「厄介事?」
面倒なのは御免こうむりたいのだが。
「懸賞金の掛かった大型モンスターが街に接近中だそうだよ」
「面倒な…」
命に関わるようなのは、本当にやめてほしい。
「え、カルシャ姉なら余裕じゃないんすか?」
「お馬鹿も大概にしてよね。あと呼び方気をつけなさいよ」
ギフトは多くても、カルシャは戦いのスペシャリストではない。
仮に戦えるとしても、必要ない危機に飛び込むのはただの愚者だ。
「そのモンスターの強さはさておいても、人の注目を集める状況でルシャのギフトを使うべきじゃない」
「余計に面倒事が増えるなんて御免だわ。冗談じゃない」
レイジの言うとおり、戦わない選択肢をとる。
「どうする?」
「そんなの決まってる。逃げるわよ」
敵前逃亡上等だ。
逃げ出して、何か悪い?
私は単に死にたくないのよ。
*
荷馬車の中から周囲の様子を窺う。
「意外と逃げる人間、少ないっすねぇ」
モンスターが接近している方角とは逆の門。
多くの荷馬車と、護衛の傭兵たち。
その表情は不安の色が多い。
「街中の方が安全だと思ってるってだけよ。それに、住処を捨てたくは無いでしょ」
人間も獣も一緒だ。
「実際、ただの人なら逃げるより安全だろうね」
レイジの言うとおり、街の門を突破するような怪物でない限りは、恐らく街中の方が安全だろう。
だから、周囲の荷馬車は基本的に行商人だらけだった。
「商人たちは身軽ね。閉じ込められて商機を失わないように素早く対応してるわ」
脱兎の如く逃げるとはこの事だろう。
「そのお陰で荷馬車にお邪魔できた訳だしね」
レイジの交渉により、荷馬車の隅にのせてもらって街を脱出する運びだ。
ただ。
「窮屈だけどね」
3人横並び、ぎゅうぎゅうである。
「僕はカルシャ姉と密着できて嬉しいっすよ?」
「暑苦しい」
「相変わらずしどい!体温高いのはしょうがないでしょ!」
「煩い、下げろ」
「僕には生きる権利もないんすか?!」
「仲良いね」
「「どこがよ(っすか)!」」
ガタガタかしましい荷馬車であった。
その間に門を抜けて街道を行く荷馬車だったが、またしても何やら騒がしい。
「…?」
「何か騒がしいね」
レイジが呟き、エリスが幌をめくって外を窺う。
その時だった。
「悲鳴っすよ!」
エリスの叫びにカルシャとレイジも幌から顔を出すと、前方を走っていた数台の荷馬車が煙で見えなくなっていた。
「何が起きたの?!」
「裏手にもモンスターがいたらしい…この距離じゃ逃げられんよ」
御者台の商人は、荷馬車が襲われるのを見てしまったらしく、酷く怯えている。
大きく素早いモンスターは、一瞬で荷馬車を蹴散らして乗り手を食らった。
襲撃はそれで終わらない。
煙でから飛び出したのは、ライオンと山羊の怪物。
キマイラと呼ばれる種族のモンスターだ。
「ルシャ!来るよ!」
レイジの注意喚起に、カルシャは街道から離れて剣を抜く。
単独行動になったカルシャに狙いを定めたキマイラを見て、カルシャは覚悟を決めた。
「逃げられないか…!仕方無い、応戦するわよ!」
キマイラの背後に向けて叫ぶ。
「さぁ行くっすよぉ!《夜の魔獣》!」
エリスが変身する。
昼間なので強化は中途半端だが、それでも無いよりマシだ。
力とスピードが上がったエリスがキマイラに掴みかかる。
蛇の尾を引っ張り、爪を立てると、キマイラは苛立たしげに唸りを上げ、翼をばたつかせて振り払う。
「僕はそんなんじゃ剥がせないっすよ!」
「そのまま引きつけてなさい!」
エリスに指示を出してから、カルシャは考える。
商人たちが見ている以上、ギフトは一種類だけで決めたい。
余計な情報を流さず、一撃で決めるには、どのギフトが良い?
カルシャが選んだのは。
「《尖焔の射手》!」
炎の矢が放たれる。
今扱えるギフトの中では高位に位置する遠距離攻撃。
獣は火に弱いはず。
そう考えて放った炎の矢は、しかしキマイラの表面を焦がしただけだった。
抑えていたエリスがはね飛ばされる。
「ルシャ姉、効いてないよ?!」
「あぁもう!もう一回行くわよ!」
効かないけれど、もう一度試す。
もう一回ダメなら逃げてやる。
「《剣の処刑台》」
レイジがギフトによって創り出した剣を渡してくる。
持っている剣より鋭く、重い。
「ルシャ、これを使って」
荒ぶるキマイラは、エリスがもう一度抑え込んでいる。
レイジの瞳は、もう一種、あるギフトを使えと訴えていた。
「っ、仕方無いか…!」
エリスも長くは保ちそうにない。
カルシャはキマイラに向かって走り出す。
大きく跳躍すると、2種目のギフトを開けた。
「《竜殺しの偽魔剣》!」
最高位の近接攻撃。
袈裟斬りに振り抜かれた一閃。
ライオンと山羊を同時に切り裂いて、刃が地面を抉る。
頭部を破壊されたモンスターの身体が地面に倒れ伏し、商人たちが口々に、安堵のため息を漏らした。
「た、助かった…」
「おーい!そこの人たち、大丈夫ー?」
加えて街の傭兵たちも現れたため、マルチギフトを見せてしまった証拠の隠滅は難しそうだ。
そんな事を考えていると、荷馬車にのせてくれた商人がこんな事を言い出した。
「命を助けてもらった分、是非お礼をさせてくれないだろうか?」
後書きウサギ小話
敵前逃亡編
「どうする?」
「そんなの決まってる。逃げるわよ」
敵前逃亡上等だ。
逃げ出して、何か悪い?
私は単に死にたくないのよ。
「で、どうしてこうなった」
「何よ?隠れて悪い?」
「カルシャ姉、それはズルいっすよ・・・」
この後の展開を見越して、躊躇いなく路地裏の樽にスニークしたカルシャであった。
単なる臆病者!
完!




