10.最弱ウサギさん、魔導書なるものを手に入れる
転生とは何か。
転生者に聞く所によると、転生とは一度死んだ者が別の生命として復活する事だという。
だが、異世界でもこの世界でも、死んだらそれで終わりだ。
蘇生するギフトや、転生するギフトも存在しない。
そもそも転生者は、厳密には転生している訳ではなかった。
転生者を語るにはまず、魔王と英雄について語らなければならないだろう。
そう。
例えば、目の前にいる女。
現代に名を轟かせる英雄ライナ・クロムウェルなどは丁度良いかもしれない。
「貴女は一体何者なの?」
但し、問い詰められるような状況で無ければ、だが。
*
ドラゴンが鎮座していた先、奥の小部屋にて。
「モンスターから自分たちを守るために、転生者を異世界からコピーしてくるなんて、壮大な話よね」
「異世界を観測できる人間がいて、転生者を創り出す技術を確立させたなんて、誰も信じないだろうね」
「僕にはよく解らないっす」
「おバカは黙ってなさい」
大仰な箱の中に、果たして目当てのものは存在した。
遺跡でドラゴンが守っていたのは、確かに書物だった。
しかし、それは決してギフトを授かる書では無い。
「英雄創成魔術、ねぇ…」
オルトグランの魔導書。
ミスリル銀の装丁をされた分厚い本は、そのように銘打たれていた。また、複写された複典の一つである、とも。
魔術という聞き慣れない言葉に、荒唐無稽にも思える内容。
この本によれば、転生者と呼ばれる者たちは人間を模した人工物なのだそうだ。
「この身体が作り物だなんて、信じられないけど」
転生者レイジはそう言うが、転生者が現れる原理としては筋が通る内容である。信じがたい内容ではあるが。
「私だって信じられないけど、現に転生者は現れ続けてる」
転生者は唐突に現れる。
この本によれば、転生者は定期的に造られている。
世界各地に点在する遺跡は、そのための自律起動装置らしい。
神殿は常に異世界を観測し、ギフトに適した異世界人を見つけ、死んだ際にその情報をコピーし、複製する。
転生者の身体は魔術なる未知の技術で形づくられた人形で、コピーした情報とギフトを埋め込んで世界に放出されている。
それが転生者の正体の秘密。
故に転生者がギフトを使えるのは当たり前で、場合によっては複数扱えるのも、そのように造られたからだ。
「人工物とはいえ、機能も中身も人間そのものなら、気付きようがない」
レイジは肩を竦める。
これが人工物だというのか。
やはり、にわかには信じられない。
カルシャがそんな事を考えていると、レイジはニヤリとした。
「これで気兼ねなく転生者を狩れるよ」
まるで、転生者を狩るのに気後れしていたかの様な言い方だ。
「へぇ?本当に人間なら良心が傷んだわけ?」
「まぁ、心は人間だからね。全く思う所が無い訳ではないよ」
本当かどうかは甚だ謎だ。
レイジはすぐに思案顔に戻った。
「しかし、この本のお陰で色々と推測できる」
「色々?」
カルシャには興味が無い事かも知れないけれど、とレイジは前置きした。
「僕には今まで疑問に思う事が多くあった」
「例えば?」
「碁盤の目に整った街道、開発の進まない自然、整い過ぎた街」
この世界では当たり前だし、疑問など無い。
「当たり前じゃないの?」
当然だ。
私はこの世界で生まれた者なのだから。
だが、この異世界人にとっては、そうではないようだ。
「少なくとも、僕は違和感を感じる」
レイジ曰く。
何故まっすぐ碁盤の目に街道を引く?
地理的におかしな町は多く、そこに街がある必然性が見えない。
モンスターに襲われるのに、街道が小ぎれいすぎる。
人工が少ない場所はさておき、大きな街の近くですら森が深い。
言われてみれば、少々作り物めいている。
街は水源の近くや防衛に適した場所にあるべきだし、街道はいつでも綺麗なまま。人材豊富な街でさえ、人間の驚異となるモンスターの生息する森を伐採しない。
「ギフトがあるにしても、疑問は尽きなかった。けれど、この世界自体が作り物なら」
そこから導かれる結論は。
「この本を書いた奴が、この世界を作った?」
言われてみれば、神の恩恵であるギフトが体系化されているのも変だ。
「あくまで推測に過ぎないけどね」
だが、それが何だと言うのか。
「ま、どうでも良い事ね」
カルシャ・グリムは、今まで此処に存在している。
「今ここに生きていて、その事実で何か変わる?」
知る事は、とても面白い。
だが、それは何にも影響しない。
最後に知る事実が少し変わった所で、世界が変わる訳ではないし、変えるつもりもない。
知識欲が原動力であるカルシャにとって、知った事実の価値は二の次だ。
「魔王や英雄じゃあるまいし、知ったところで何かしたりしない。それだけよ」
私は果てを知りたがる小さなウサギ。
それだけよ。
世界になんて、興味はないの。
それが、魔王に関わる等とは、この時カルシャは考えもしなかった。
後書きウサギ小話
世界の真理 編
「少なくとも、僕は違和感を感じる」
「ギフトがあるにしても、疑問は尽きなかった。けれど、この世界自体が作り物なら」
「待つっす!僕にも違和感があったっす!」
「・・・何よ?」
「何故、僕の胸がこんなに平らなのか?絶対に意図して造られたに違いないっす!」
「エリス。それは私が教えてあげるわ」
「それは世界の真理なのよ」
ようじょのしゅくめい!
完!




