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あなたの前世、なんですか?  作者: 遊佐慎二
勇者、目覚めました
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人気者の秘訣

 校門に入ってすぐ、俺と緋奈子はほとんど同時のタイミングでわずかに人だかりができているのを発見した。


 近づいてみると、皆一様に一点を見つめている。その視線の先にあるのは、大きな掲示板だ。


「ここに新入生のクラスが張り出されてたのか」


「えっと、勇早緋奈子……勇早緋奈子ーっと」


 それがなんなのか察するや否や、緋奈子は早速自分の名前を探し始める。かく言う俺も、もちろんそうするのだが。


「あった、B組! 賢人も一緒だよ!」


「おまっ、なんで先に言っちゃうかなー!? こういうのは自分で見つけるのが楽しいのに!」


「あ、ごめん。そこまで気が回らなかったよ。意外とこだわりあるタイプなんだね」


 自分で見つけるより先に、緋奈子にネタバラシをされてしまった。梱包材のプチプチをあらかじめ全部潰されていた、みたいな気分だ。


 まあ結局はその程度でしかないので、きっとすぐに忘れてどうでもよくなるだろう。また次の機会があるさ。進級時のクラス替えとか。


「ほらほら、早く教室行こうよ、賢人! まだ見ぬ友達が私たちを待ってるよ!」


 緋奈子は高校生になっても、当たり前のようにクラス全員と友達になる気でいる。逸る気持ちが抑えきれないのか、俺をぐいぐい引っ張って校舎の中へ。


 正直言って、俺はそんなに積極的な方法じゃない。だからこうして引っ張ってくれる緋奈子の存在は、俺にとってとても大きなものだ。きっと、緋奈子自身が思っているよりも。


 私立の高校だけあって、校舎はかなり広い。それでも道に迷わなかったのは、昇降口をはじめとして随所に見取り図が張り出されていたからだ。おそらく新入生に向けた配慮だろう。


「1年B組はここだね。さあ、賢人も私と一緒に大きな声で挨拶しよう!」


 そうこうしているうちに、一年生の教室のある四階にたどり着いた。階段が少し面倒なくはいで、昇降口からの直線距離はそこまででもなかったな。


 そして緋奈子は、相変わらず疲れを感じさせない。俺の返事を待つ前に、1年B組の扉を開け放ったのだった。


「みなさんはじめまして! おはよーござます!!」


 宣言通り、よく響き渡るバカでかい声。一瞬にして、教室中の視線を集めたのだった。


 もちろん、緋奈子と一緒にいる俺にもその視線のいくらかは向けられているわけで。


 うん、遅刻はしなかったけど、これ確実に浮いたよね。せっかく眞由が忠告してくれたというのに。朝早いおかげか、クラスの半分もここにいないことは幸いか。


「おーっ、なんだ緋奈子じゃーん! おひさー!」


「わー、合格発表の時以来だね! 元気してた?」


「あ、お前あの時の……! 俺の財布届けてくれてありがとな!」


「この前はうちの弟見つけてくれてありがと〜! 迷子になった時は、ほんとどうしようかと……」


 ……あれ? 浮いてるっていうか、いつのまにか緋奈子がクラスの中心になってるぞ?


 これ、新学期初日だよね。高校生活、今日からだよね? なんで既にクラス掌握済みなんだよ。


「アヤカにミホ、おひさー! 私は元気だったよー! 吉田くん、もう財布落とさないようにね! ナツミ、あれから弟くんは元気ぃ?」


「緋奈子は緋奈子で全員の名前を覚えてるときたもんだ」


 そう、これが緋奈子がみんなから好かれる所以。これをナチュラルにやってのけるから、緋奈子はすごいんだ。


 さっきまでは、同中の友達同士でバラバラに固まって駄弁っていたクラス連中が、緋奈子を中心として一点に集まってくる。この人を惹きつける力は、そこら辺の政治家なんかより遥かに上回っていると思う。


 ……が、一方で俺の方には、誰も見向きもしていない。緋奈子の隣にいるから、俺のことも目には映っているはずなのに。この状況が一番つらい。早く席に座りたいのに、人だかりのせいで逃げられもしないし。


「で、みんなにも紹介するね。こちら、私の幼馴染の遊真賢人! すごく優しい人だから、みんなも仲良くしてあげてね」


 と思ったら、緋奈子の一声で全視線が俺に向いた。流石は緋奈子、俺へのフォローも完璧かよ。


 クラスメイトたちも、口々に「よろしく」だの「仲良くしようね」などと自己紹介がてらに話しかけてくれる。彼らも気さくないい人物に違いないのだろう。あるいは、緋奈子の人柄がそうさせたのか。


「ああ、うん。よろしく頼むよ」


 そんなクラスメイトたちに、俺もぎこちない笑顔で応えた。緋奈子を見習って、一人一人丁寧に。


 普段、特に大勢に囲まれるようなこともないから、これが結構疲れる。春休みも特に誰かと何かをしたわけでもないし。


 結局、俺と緋奈子が人だかりから解放されたのは、クラス全員が集まって、担任の先生が教室に入ってきてからだった。

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