おまけ. 猫の日だにゃん
2月22日は猫の日です。
ただの猫回です。本編に一切の影響はありません。
夜中。
猫の鳴き声が聞こえた気がした。目を覚ますと、見知った天井が見える。
ここは屋根裏だ。僕の部屋だけど、猫なんて飼ってないぞ。暗い部屋の中を見回すと、視界の端に黒い影が映る。
「……誰かいるんですか?」
恐る恐る周囲に声を掛ける。僕はなにを言ってるんだ。相手は猫に決まってるじゃないか。いや、猫人族の可能性もあるか?
僕の真上から再び猫の鳴き声。はっと見上げると、天井の梁に少女が座っていた。
「にゃーお」
黒い半袖と短パンの寝間着を着たリトッチだった。なんで猫なで声? いやそもそもだ。その猫耳カチューシャと猫の尻尾はなに?
えっ? まさかコスプレして夜這い?
「あ、あのリトッチさん?」
思わず敬語で話すと、彼女はぴょーんと跳ねて床へ着地した。猫のような四つん這いの姿勢で、尻尾を振りながら近寄ってくる。
「アタシはいま、猫なんだよ」
「はあっ!?」
「よく見ろ。この猫耳はカチューシャじゃない」
確かにコスプレなんかじゃなくて本物の猫耳だった。まるでリトッチが猫人族の亜人になったみたいだ。
彼女は床に爪を立てて、大きく前傾姿勢をとった。
「今日のアタシは機嫌が悪いぜ。猫だからな!」
「マジでなに言ってるの!?」
彼女が飛び掛かって僕を切り裂こうとする! 思わずのけぞって猫の爪を躱すが、そのままマウントを取られてしまう。
「なあマタタビ、発情期って知ってるか?」
「目を覚ましてくださいリトッチ! 後で恥ずかしさで死にますよ!」
「うっ我慢できねえ。マーキングするぜ」
「マーキング!?」
彼女が僕に体を押し付けてすりすりしてくる。やばいやばい、何か知らんがやばすぎる!
僕は思わず、彼女の顎の下を撫でた。
「あっ……あっあっ」
リトッチが恍惚の表情を浮かべて動きを止める。僕はそのまま首周り、耳の後ろ、背中からお尻にかけて一心不乱にこちょこちょ撫でた。
心を無にするんだ。とにかく今はこの場を乗り切ろう。
「もっと……もっとだマタタビ! お前才能あるぞ!」
彼女が仰向けになった。寝間着がはだけてへそが見える。
無ー! 無ー! 無―!
閑話休題。
リトッチが僕の膝に上半身を預けてすうすう眠っている。ぎりぎりセーフ。いや既にアウトか?
「こんばんは、マタタビ君」
背後で女神モモの声が聞こえたので、びくっと震えてしまう。この状況をどう説明すればいいんだ。
「モ、モモ様。実はリトッチが」
振り返るとそこには、無数の猫に囲まれた女神モモがいた。
「私は今から猫を司る神様になります」
「えぇ?」
「今日から猫神様と呼んで下さい」
「ちょっと、何を言ってるんですか?」
「そのままの意味ですにゃ」
「ですにゃ!?」
「人類は女神でも邪神でもなく、猫を崇拝するべきだと思うのです」
「その気持ちは分からなくもないですが……」
「その神様になれば信仰ポイントがガッポリと手に入ります。リッチになりますよ」
「欲にまみれすぎぃ!」
「手に入れた信仰ポイントを使って、マタタビランドを建設するのです!」
「僕のテーマパーク!?」
「さあ、猫の子も祈るのです! そして私と一緒に猫の世界へ行きましょう!」
「遂に猫の子に!?」
その時、リトッチが目を覚まして飛び起き、僕と女神モモの間に割って入った。四つん這いの姿勢でフゥーっと威嚇する。
「マタタビをどうする気だ? こいつも道連れにするつもりか?」
「いかにも人の子らしい手前勝手な考えですね。マタタビ君は猫の一族の息子です」
「息子じゃないですよ!?」
「マタタビを解き放て! こいつは人間だぞ!」
「黙れ小娘! お前に猫の子の不幸が癒せるのか?」
「もののけひめぇ!」
いや、おかしいぞ。ふたりはジ〇リ映画なんて観たことがないはずだ。僕だけが知っている情報が飛び出したということは……
「これ夢かよぉ!」
◆◇◆◇◆◇
目を覚ますと、見知った天井が見える。
ここは屋根裏だ。猫の鳴き声は聞こえない。やっぱり夢だったようだ。
「いやー、もしかして大分溜まっているのかなあ」
リトッチのエッチな仕草や女神モモの狂乱を見るなんて。久しぶりにウンディーネのお世話になろうかな。
ふと右手を見ると、爪にいっぱい猫の抜け毛がついていた。
「…………ひいぃぃ!」
その日は全く眠れなかった。
閑話休題。
後日、女神モモに相談したら「誰かが呪いを飛ばしたようです」と言われた。僕に呪いを掛けるような人物と言えば……思い当たる奴がひとり。
序列8位の魔王、欲王ココペリだ。
女神モモ曰く、依代を作って呪いを飛ばす呪術があるらしい。僕は半神族で呪術耐性が高いから、この程度なら大丈夫とのこと。
……ふうん。
もう一回、飛ばしてこないかな。
欲王ココペリは呪術が中途半端に終わり、大層悔しがったそうな。
 




