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143. ニセ勇者、途方に暮れる

 僕は砂漠の大地で仰向けに倒れていた。淀んだ空だ。


 《転移テレポート》の輝きが衝撃を緩和してくれたけど、大地に激突した衝撃でしばらくは動けそうにない。痛む全身に《治癒ヒール》をかけながら先ほどの出来事を思い出す。


 ――何かに激突したのだ。


「よそ見運転の交通事故とは最悪のスタートですよ、モモ様」


 その呟きに応える女神はいない。どれだけモモ様に祈っても《念話テレパス》の返事はない。


 皆と散り散りになった事実が段々と心にのしかかる。


「探さなきゃ」


 そうだ、今すぐにでも駆け出せ。血眼になって仲間の名前を叫びながら探せ。


「いや、そんな事をしてどうするんだ」


 モモ様と仲間を心配するたびに鼓動が激しくなる。全身から汗が噴き出し、冷静に考える思考力を奪っていく。


「落ち着け。まずは出来ることをしよう」


 何をするべきかは決めていた。体を起こして聖剣を地面に突き刺す。


「《大神実オオカムヅミ》!」


 惑星サピエーンの大地に桃の樹を植える。その幹は細く、桃は一目で見て不味いと分かるほど淀んだ色をしていた。土地が枯れているのか、あるいは僕の混乱した感情が反映されたのか。


 今はどっちでも良い。桃の幹に手をあてる。


「モモ様、聞こえますかモモ様!」


 どれだけ距離が離れていても交信できる《桃電波モモラジオ》ならば応えると思った。モモ様が無事ならば。


「モモ様!」


 返事はない。


「モモ様、もしもし僕です!」


 しつこく何度も語り掛ける。きっと無事だと信じて。


『もしもし女神です』


 ――応えた。


「……ん?」


 一瞬安堵しかけるが、しかし。


『もしもしどなたですか』


「いやそっちがどなた!?」


 電話口に出たのは知らない女神だった。




◆◇◆◇◆◇




「くくく、我が勇者アニヤの提案を蹴った報いであろうな。大人しく提案にのっておればよかったものを」


「その点については少し後悔してる」


「で、あろうな。して何故に事故を起こしたのだ?」


「それが結局わからなかったんだよね。まあ原因を知ってもどうにもならない状況だったし」


「恐らく、いや間違いなく我が女神アストライアの加護であろうな。不浄の桃の神の来襲を知って迎撃したのだ」


「それは……やりかねないね」


 と答えつつも僕は女神アストライアの仕業でない事は知っていた。だけど話を合わせて皇帝の機嫌をとっておこう。理由はもちろんドーナツだ。


「別に話を渋るつもりは無いから食べていいよね」


「ふふ、良かろう。我が施しを受けるがよい」


 皇帝が置いた皿に手を伸ばしてドーナツの欠片をぱくり。ようやく空っぽの胃に食事を放り込めた。


「この嗜好品は我が王宮でちょっとした流行となった。もちろん配下に隅から隅まで調べさせ、毒ではない保証を得ておる。どうだ美味かろう」


「うーん……確かに地球のドーナツと似ていますが、ちょっとパサパサ感があるなあ。もう少しモチっと感があれば……」


 その時、僕に電流走る。


「……」


 この味を僕は知っていた。《転移テレポート》中に起こった激突事故の後、いつの間にか口の中に入っていた得体のしれないブツの味。


「ほう、どうかしたか?」


「あれドーナツかよっ!」


 意味の無い行為だが、このしょうもない感情を吐き出したくて叫んだ。


 事故の相手はドーナツだった。




◆◇◆◇◆◇




「えっと、初めましてマタタビと申します。そちらにモモ様はいますか?」


 あまりの混乱に電話応答のような受け答えをしてしまった。すると相手のトーンが警戒するように変わる。


『マタタビ……ああ、モモの勇者ですね』


 モモ様を知っている。そして彼女は女神と名乗った。つまり電話口の女性はモモ様の姉妹の誰か?


「あの、そちらはどなたでしょうか」


 謎の女神様は一瞬沈黙した後に答える。


『あ、あら~ん。私は女神フレイヤよ~』


「なんで嘘つくの!?」


 バレバレすぎる演技だった。女性は咳ばらいをして『冗談です』と言い、改めて名乗った。


『――私は女神イザナミです』


 女神イザナミ。


 モモ様を虐める姉妹の一人。


 一気に高まる緊張感。今度は僕が沈黙する羽目になった。相手もそれがわかっていたようで、抑揚を感じさせない声で答える。


『先に言っておきますが、女神が地上へ干渉することはほぼありません』


「……そうですか。モモ様はいますか?」


『貴方達が離散した事故とは無関係です。たとえそれが私達に利するとしても』


「モモ様はいますか?」


 しつこく尋ねると、女神イザナミがようやくモモ様の話題に移る。


 だけどそれは、ただの1ミリも信じられない言葉だった。



『――モモはもう地上に干渉しません。貴方とはお別れです』

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