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141. ニセ勇者と皇帝の雑談①

 僕の話は惑星サピエーンに《転移テレポート》したところで一旦切った。椅子のひじ掛けをとんとんと叩く音が響き渡る。話を聞いていた皇帝グリアの口が開いた。


「ふむ。勇者アニヤの報告通り、愉快なパーティーだったようだな」


「退屈はしなかった」


「しかし残念だ」


 皇帝は嘲笑した表情で告げる。


「其方の仲間は誰一人として助けに来なんだ。存外薄情であるな」


「……」


「いや順序が逆であったか。なぜ一人で我が王宮に乗り込んできたのだ?」


「家族を助けるため」


「ふん」


 彼は理解できないという風に鼻で笑った。


「さて、余を楽しませる度に褒美をやろう。まずは枷だ」


 皇帝に冒険の話を語る間、僕は鎖に縛り付けられたままだった。それを侍女が丁寧に外す。ようやくベッドから解放されたわけだ。上体を起こして体をほぐす。きつく縛られていたので正直しんどかったが、これで体も気持ちも少しは楽になった。


「逃げようとは思わぬことだ。我が王宮は十二星将により守護されている。蟻の子一匹外へ出る事は叶わぬ」


「そのつもりは無いよ」


「ふふ、肝の座り方は勇者のそれであるな。では話の続きを――」


 急かす皇帝に手を挙げて「待った」をかける。


「僕にも聞かせて欲しい」


「なに?」


「Dr.ドリムの話」


 その名前を出した途端、余裕の笑みを浮かべていた皇帝の顔が苦しそうに歪む。


「彼の名を聞いただけで胃がねじれる気分であるぞ。我に屈辱の歴史を語れと?」


「僕と同じ時期だよね、Dr.ドリムがこの惑星に渡ってきたのは。そこからでいいよ。話してくれたら僕も続きを話すからさ」


「むっ……」


 皇帝は複雑な表情を見せた。怒りと戸惑い、そして自虐のような笑みが混じっている。


「なるほど。これが友人というものか」


 そんなつもりは一切無いけど、皇帝は一人で納得したように頷いている。


「良かろう。ではサピエーンとスコーピオが接触した時の話だ――」




◆◇◆◇◆◇




 回想。王宮エデン。


 玉座というものは冷たい。石で出来ているからではなく我が身を引き締めるためだ。歴代の皇帝はこの椅子に座り、広大な玉間にて跪く何百人もの臣下に威厳を示した。その勅命は力強く絶対である。


 誰もが命を賭して皇帝の望みを叶えてきたのだ。今までは。


「それで、おめおめと帰ってきたわけか」


「……はっ。この【蠍座将軍セルケト】、どのような罰も受け入れる覚悟デス」


 跪きこうべを垂れるこの臣下は蠍人族アラクランのセルケト。蠍人族は全身黒光りの甲殻に身を包む亜人だ。通常の蠍人族は毒針の尾を持つが、セルケトは後頭部に尾を生やす希少種である。


「我は命じたはずだ。惑星スコーピオから星渡りを試みるDr.ドリムを捕らえろとな」


「一言一句、忘れた事はございませんデス」


「して、手ぶらで我が面前に現れたとな」


「手ぶらではありませんデスが……」


 セルケトは背後に並ぶ荷馬車の列に目を移した。我も同じように()()()()()()()()()()を見る。


「まさかソレがDr.ドリムとでも言うつもりか?」


「滅相もございませんデス。しかしぜひとも見て頂きたく……」


 我は何度か瞬きをして荷物を確認する。確認するが、とても信じられぬもの故に次の言葉が思いつかぬ。傍に控えさせた勇者アニヤが助け船を出した。


「将軍セルケト。私にはそれが()()()()に見えますが、間違いはありませんか」


「間違いありませんデス……」


 そう、ドーナツだ。しかも只のドーナツではない。


「しかしドーナツといえば手のひらサイズでしょう? なぜそれは……大きいのですか」


 将軍セルケトが持ち込んだのは、竜のサイズを軽々と超えるほどの()()()()()()()であった。


「恐らくDr.ドリムの発明品と思われますデス」


「どこで手に入れたのだ」


「その……降って来たのデス」


「なに?」


 セルケトは身を狭くして答えた。


「惑星スコーピオから大量に降って来たのデス。ドーナツ流星群と言いましょうか、とにかく巨大デスので、我が艦隊は甚大な被害をこうむりましたデス。しかも……」


「しかも?」


「このドーナツ、美味でございますデス」


 将軍の下らない報告に、しかし玉座の間に控える臣下達は誰も物申さなかった。むしろ興味深そうにドーナツを見つめている。一部の臣下は涎まで垂らす始末であった。


 そして我も臣下を咎める気力を持ち合わせてはいない。なにせDr.ドリム絡みの報告はいつもこうなのだ。臣下をどんなに叱咤しようと弄ばれて帰還する羽目になる。首をいくつ飛ばしても足りぬほどに失敗が積み重なっている。


 勇者アニヤが咳ばらいをして結論を出す。


「恐らくDr.ドリムはドーナツの一つに紛れて星を渡ったのでしょう。つまり彼の博士は今、この惑星にいます」


 臣下の誰もが頭を抱える中、いよいよ我は最後の手を打つことに決めた。


「勇者アニヤよ」


「はい」


 それは禁断の提案であると同時に、恥も外聞も捨てた決死の一手だ。


「魔王スペクターに大使を送れ」

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