138. ニセ勇者と女神様、電話する
惑星ウェロペ、ノーブレス王国。
僕達は海岸線にいた。出発前にモモ様が「海を見ておきたいです」と言い出したのだ。
モモ様とスピカは楽しそうに砂浜で遊んでいる。僕とリトッチは土手に座って彼女達が満足するまで待っていた。
「惑星サピエーンは火山型惑星だ。海は無いからマタタビの水着装備は無駄になりそうだな」
「一応スロットには入れてる。意外と使える気がするからね」
「……しかしスピカのやつ、本当にいいのかよ?」
「……」
二人ではしゃぐスピカを見つめる。僕は数日前の出来事を思い返した。
彼女が「冒険者になりたい」と言い出した日の事を。
◆◇◆◇◆◇
回想の回想。
「スピカも冒険、してみたい。お母さんみたいに」
母と同じ冒険の旅に出る。それが冒険者になる動機だった。しかし彼女は人間で言えばまだ5歳だ。何百年、いや千年以上も生きる竜族からすれば1歳にも満たないはずである。
スピカは「アストロノーツ」への正式加入を強く望んだ。しかし僕達の次の冒険は人族以外を虐げる危険な惑星サピエーンだ。特に世界で唯一の竜人族が何をされるかわかったものではない。当然ながら僕達は反対した。
「もちろん構いません竜の子よ。私が許可します」
「いや~頼もしいな。スピカがいれば討伐クエストは楽ちんだぜ」
訂正。反対したのは僕だけだ。モモ様とリトッチはのん気にOKしやがって。
僕の反対にスピカは大きなショックを受けた。目に涙を溜めて上目遣いで尋ねるのはちょっと反則だと思う。
「マタタビ……スピカ、嫌いなの?」
「スピカは大好きだよ。でもスピカは子供なんだから、まずはお父さんに相談しないと。モモ様、蒼火竜バザルと《念話》できますか?」
「おいおい。惑星アトランテにいるバザルに届くわけねーだろ」
「ちっちっち、この女神モモを甘く見てはいけませんよ。《念話》の圏外問題を解決すべく私は考えました」
「へー」
「マタタビ君が《大神実》で植えた桃の大樹は特別です。なんとポイントカードで成長させて新機能を付与することができるのです。私は桃の大樹に《念話》の中継器にする機能を持たせました」
「へー?」
「そして私が編み出した新魔法《桃電波》を発動することで……桃の大樹を中心とした広範囲に《念話》が届くようになったのです!」
びしっと天を指さすモモ様。スピカは意味が分かっておらずポカンと口を開けたままだった。対してリトッチが目の色を変える。
「へー……ってマジか? それ凄くね?」
「もっと褒めてください」
「距離はどのくらいだ?」
「惑星アトランテの桃の大樹にはしこたまポイントを費やしてます。既にイワト王国全土が圏内です」
「おいおい。その発明はやべーだろ。S級の二ツ星、いや三ツ星は間違いないぜ」
「モモ様しか使えない魔法ですけどね。あと考えたのは僕です」
「……そうですね、ある意味この魔法は私だけの考えではありません。夢の中のマタタビ君からアイデアをもらいました。でも夢というのは私の脳が生み出した幻影……」
「いや起きてた! 二人とも起きてたよ!」
モモ様が首を傾げて僕を見た。何を言ってるんですかという顔だ。こ、こいつ……。まあいいや。
僕が出したアイデアは「桃の大樹を東京タワーよろしく電波塔にする」というものだった。しかもモモ様の《念話》は双方向なのでさながら携帯電話のように会話が出来る。欠点としてはモモ様しか使えない事、受信者が桃の大樹の圏内にいる必要があることだ。
モモ様がポイントカードを耳に当てて電話の真似事を始める。
「早速《桃電波》を試しましょう。もしもし私です」
『もしもしバザルだ』
バザルもノリがいいな。
「あっお父さんの声だ!」
『スピカか。息災のようだな。よくぞ魔王アルバストールを退けた。我ら竜族の誇りだ』
「えへへ。ありがとう」
『お前の母も喜んでいるぞ』
「うん。……ねえお父さん。あのね、スピカね。冒険者になりたいの」
少しの沈黙。そして蒼火竜バザルは返事をする。
『駄目だ』
その声色は冷たかった。




