137. ニセ勇者と女神様、着せ替えする
やると決めた時のモモ様を止めるのは至難の業だ。せめて少しでも無駄なポイント消費を抑えなければ。
「まずは舞台の設置からですね、はいドーン!」
四人と六匹で手狭になっていた居間が、まるでセットのように舞台へと組み替えられていく。気づけば体育館のような場所で僕達は椅子に座っていた。モモ様が指を鳴らすと同時に照明が落とされて真っ暗になる。
「心配したそばから……貴重なポイントが……」
「やっぱ魔法って便利だな~」
「ほえー。モモ凄い」
「革命の序章って感じでやす」
こうしてモモ様主催のファッションショー(?)が始まった。不安しかない。
「まずはスピカから……お姫様スタイルです!」
舞台に立つモモ様が星ステッキを振り回すと、スピカが席から舞台に瞬間移動。そして青いプリンセスドレスに入れ替わった。ドレスにはたくさんの星柄が描かれている。満天の星空をイメージしたようだ。
8点、5点、5点!
「綺麗だよスピカ」
「衣装の好みはアタシの守備範囲外だが、案外似合ってるぜ」
「我らが打ち倒すべき圧制者の臭い……!」
スピカはにへへと笑いながらくるくるとその場を回った。本人も気に入ったようだ。
「次はリトッチ!」
次に着替えさせられたのはリトッチだ。ぶかぶかの黒い半袖に短パン姿とボーイッシュな衣装で、しかもギターを背負っている。
9点、10点、6点!
「なんかわかる」
「すっごい動きやすそう!」
「反抗的なオーラが見え隠れしてやす……!」
リトッチがノリノリでギターの弦を弾いた。まんざらでもなさそうで一安心。もしスピカと同じお姫様の服だったら拒絶してたはずだ。上流階級に対しての忌避感は本物だし、モモ様もそこは配慮してくれたのかもしれない。
「そしてゴブリンず!」
六匹のゴブリンが舞台に上がる。彼らは森の妖精を意識した衣装にチェンジした。この世界の妖精で服を着た個体は見たことが無いので、地球の本を読んだモモ様のイメージだろう。全員色が違っていて何故かクンミだけ羽がついている。
6点、4点、10点!
「なんか子供の出し物みたいで可愛いですね」
「実用性なくないか?」
「マカロンみたい! 美味しそう!」
ゴブリン達はモモ様に服を与えられてワイワイと盛り上がっていた。ほっこり。
「最後にマタタビ君ですね」
「はいちょっとタンマ」
「往生際が悪いです勇者の子よ」
「その馬鹿っぽい笑顔と言い回し、やっぱり女装させようとしてるな!」
「だって皆が喜びますから」
「僕は喜ばねーよ! もしやったらお尻ぺんぺんですからね!」
モモ様は頬を膨らませて抗議するが、僕も負けじと両手で頬をつまむ仕草で脅しをかけた。怖気づいたのかモモ様は「仕方ありません」と呟いて弱々しくステッキを振る。
「では間を取って着ぐるみで」
「間どこ!?」
気づけば僕は舞台の上で四つん這いになっていた。思わず手足を見る。どうやら茶色い着ぐるみを着てるみたいだ。あと鼻と頭に異物感。
9点、10点、4点!
「ぷぷ、なんだその赤鼻」
「スピカ知ってる。角も美味しいよ!」
「お、おいたわしやご主人様……圧制者に服従を強いられておりやす」
これはもしかしてトナカイか。ということはまさか。
「ほーほーほ。お気づきになりましたねマタタビ君」
視線の先にいるモモ様はサンタクロースの衣装を来ていた。彼女は自慢げに白髭を撫で、おっきな袋を持ったまま跳躍。視界から消えると同時に背中にずしんとした圧迫感。
「このテーマは私とマタタビ君の合体によって完成します」
「なんでだよ! しかも僕に乗るんじゃない、ソリに乗れソリに!」
トナカイの使い方間違ってる。つかこれファッションショーじゃなくて学芸会だ。
「ほーほーほ。モモサンタが皆さんにクリスマスプレゼントですよ」
「プレゼント?」
「これから敵地に踏み込むのですから、モモサンタが皆をパワーアップさせるために新装備を作ったのです」
「おっマジか! いやー流石はモモだな。いよっ女神様!」
「それって食べられる装備?」
「女神様がお作りになられたのであれば、よほどの革新的新装備に違いありやせん……!」
はしゃぐ仲間を尻目に僕も少しはモモ様を見直した。ちゃんと今回の旅路が困難だと認識していたのだ。信仰ポイントの(まともな)使い道も考えていてくれてほっと一息。
「ん? それってつまり」
「お礼なら結構ですよマタタビ君。モモサンタに祈りを捧げるだけで十分……」
「今までの下り、まるっといらねーじゃん!」
僕は立ち上がってモモサンタをぶん投げた。
こうしてなんやかんやあって、僕達は装備も改めつつ惑星サピエーンへと渡る。




