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134. 女神様の信者:5,033,617人

 後日談。


 僕とココペリはアルバストールの撤退を確認した後に皆の下へ戻った。


「馬鹿! マタタビ君の馬鹿っ!」


 帰還して早々、モモ様にポカポカ殴られた。僕は謝罪の意味を込めて大泣きする少女の頭を撫でた。


「心配かけやがって、この野郎」


「お帰りマタタビ!」


 リトッチとスピカも泣き腫らした顔で出迎えてくれた。


「……うん。ただいま」


 皆で抱き合って生還を噛み締める。僕らは生き残ったのだ。


 連合艦隊は壊滅的な被害を受けつつも戦争の勝利に沸き立っていた。


「くすっ。お疲れ様です」


 勇者アニヤは相変わらず冷静な様子だったが、心なしか柔らかい声色だった。本当は彼女も嬉しいのだ。


 気が付けばココペリは姿を消していた。お礼を言いそびれてしまい後悔が残る。彼女の助力が無ければアルバストールを撤退させることは不可能だったのだ。この借りはいつか返そうと心に誓った。


 ――それから二か月もの間、惑星ウェロペはお祭り騒ぎが続いた。僕らは英雄として担ぎ上げられ、南方ウェロペ共栄圏から「ウェロペ勲章」「アトランテ勲章」「聖光勲章」「流水勲章」と立て続けに褒章を授かった。


 モモ様の調子はまさしく有頂天といったところで、行く先々で僕を持ち上げつつ女神モモ教を布教していた。僕も布教を手伝えてまんざらじゃなかった。


 マタタビランドは大陸一のテーマパークとなり、記念に《大神実オオカムヅミ》の大樹をパークの中央に植えた。手入れは孤児院の子供達がやってくれる。パークの管理はアシュリア王女に丸投げした。


 冒険者ギルドにも功績を称えられ、S級認定と「四つ星」の称号をもらった。リトッチとスピカは「二つ星」だ。モモ様は冒険者モモアとしては活躍しなかったのでD級のままだが、今更気にするようなことじゃないな。とにかく『アストロノーツ』もトップチームの仲間入りというわけだ。


 結局アルバストールの夢の中で何が起こったのか思い出す事はできなかった。毎日が忙しかったのもある。各国を巡り市民に祝福される「仕事」に追われたのだ。悩みは誰かに打ち明ける前に記憶の片隅に追いやられた。


 そして祭りが終わりようやく一息ついた時、僕らはテーブルを囲んで顔を突き合わせた。いよいよモモ様の信者数を確認しようというのだ。


 モモ様はこれまでにないほど緊張している。それがはっきりと伝わり自然と唾を飲み込んだ。リトッチはニヤついてモモ様のリアクションを待っている。スピカは(恐らくよくわからないまま)ワクワクしていた。


「……み、見ます!」


 少女が目をつぶってポイントカードを裏返し、恐る恐る片目を開けて数字を確認した。


「……」


 固唾をのんで見守る。大丈夫、あれだけ活躍したのだから信者はたくさん増えているはず……。


 しかしモモ様の顔はみるみる内に暗くなった。そして絞り出すような声で呟く。


「……50万人です」


 誰かがため息をこぼした。それは僕だったかもしれない。


 女神アストライアをぎゃふんと言わせるために目標を100万人にしたのだ。この二ヶ月間の努力は報われなかったのか。


 モモ様は泣かなかった。泣くことを忘れるほどショックだったのかもしれない。放心状態の少女をリトッチとスピカが抱き締める。


「お前は頑張ったよ。馬鹿にする奴はアタシが許さねえ」

「モモ、悲しい? いたいたいのとんでけする?」


 二人の慰めでモモ様はようやく笑みを見せた。ぎゅっと二人を抱き返す。僕もモモ様を慰めたかったので代わってもらう。


「……正直に言えば100万人を達成したと思ってました。モモ様はそれだけの偉業を成し遂げたはずです」


「成し遂げたのはマタタビ君ですよ」


「では二人の偉業です。ここまで来れたんですから100万まであっという間ですよ。だって……旅はまだ続くんですから」


 そうだ。僕の旅、モモ様の旅は続く。これで終わりじゃない。少女の手に力がこもり、慈しみを持った声色で応える。


「――ええ。それがマタタビ君の望みなら」




「なあ。せっかく50万人まで増えたんだ。どうせならお祝いで魔力をパーッとつかっちまおうぜ」


「スピカさんせーい! お肉食べたい!」


「これは信者から頂いた大事な魔力ですよ。もっとこう意義のある使い方をしましょう。……ギャンブルで資産を増やすとか」


「信者が減るからやめてマジで」


 しかし50万人の祈りなら二ヶ月で3000万ポイントはくだらないはず。ちらりとポイントカードの裏を見て確認する。


 信仰ポイントは3憶だった。


「……んん?」


 思わず目を擦って確認する。確かに数字に間違いはない。でもありえない、50万人でここまで貯まるはずが……。


 信者の数を見ると5,033,617と刻まれている。


「…………」


「どうかしましたか?」


 さっきのしんみりした感情を返して欲しい。


 いやまさかあのタイミングで数え間違えるか普通!?


 僕は正しい信者の数をみんなに伝えた。


 その後のモモ様のはしゃぎっぷりは、余りにも女神の礼節を欠いていたので省略しよう。


 兎にも角にも、モモ様は女神八姉妹の末席として相応の信者を獲得したのだ。


 ――現在の女神モモ教信者は、503万3617人。

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