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132. VS偽王アルバストール①

 僕は宇宙空間を漂っていた。水の感触は無いけれど海底に沈んでいく感覚。本物の宇宙空間もこんな感じなのだろうか。


 眼下に広がる謎の惑星を観察する。いくつかの大陸に広大な青い海、そして白い雲。大陸は砂漠が多いように見えるが、その姿は地球によく似ていた。


「あれが惑星マル。原初三惑星のひとつさ」


 隣にいたココペリが呟く。


「確か偽王アルバストールに飲み込まれたんだよね」


「まあね。今は表面が全部海になっているはずだ。いや、正確には海じゃなくてアルバストールそのものかな」


「……ここはアルバストールの夢だよね。つまりこれは過去の記憶?」


「どうかな。まずは降りてみようか」


 僕とココペリは惑星マルに降り始めた。



◆◇◆◇◆◇



 空を飛びながら大地を眺める。そこかしこに国があって、人々やモンスターがいた。人族ヒューマンを含めて様々な種族が区別なく暮らしている。生活水準は惑星ウェロペよりも少しばかり発展しているようだ。


「これはアルバストールに飲み込まれる前の光景?」


「いいや全然違うよ。確かアルバストールがマルに出現したのはT.E.821年。その一年前、この惑星で『第二次邪神討伐戦』があったんだ。勇者一行と魔人国家の全面戦争の影響で、他の陸上国家はほぼ壊滅したはずだよ。つまりこれは過去の記憶じゃない」


「過去じゃないなら……いま?」


「惑星マルが復興した話は聞いてないね。この景色はアルバストールの純粋な夢である可能性が高い」


 再び街を見下ろして市民を観察する。彼らは一人残らず笑顔で、とても幸せそうに暮らしている。


「いたよ。あいつがアルバストールだ」


 ココペリが指さした先、広場の人だかりのど真ん中。そこに小型犬程度の大きさのスライムがいた。人々はスライムを代わる代わる抱いている。


 僕らが広場に降り立つと、市民達が一斉にこちらへ顔を向けた。全員の張り付いたような笑顔が怖い。


「わあ、新しいお友達だ」

「良かったねアル。お友達が増えたね」

「皆で歓迎しよう」


 人々は口々に祝辞を述べる。少女に抱えられたスライムが《念話テレパス》を発した。


『トモ ダチ?』


「え?」


『トモ ダチ?』


 何と答えれば良いのだろうか。ココペリも戸惑っているし。


『トモ ダチ?』


 ええいままよ、よくわからないけど答えちゃお。


「う、うん。僕も君と友達になりたいな」


「ちょまっ! 勝手に答えたら……」


 返答を聞いたスライムがぴょんと飛び跳ねて迫る。慌ててキャッチして抱えると、スライムは腕の中で気持ちよさそうにぷるぷる震えた。


『トモダチ! トモダチ!』


「えっと……どうしようココ君」


「ボクに聞くなよ」


 周囲の人々が「おめでとうアル!」と賛辞を投げて拍手した。困惑したまま突っ立っている僕。


 やがて市民達はスライムにお別れの挨拶をして、笑顔のまま去っていく。スライムは相変わらず腕の中だ。感触から何となく嬉しそうな感じが伝わってくる。


 ……えっと?




「――カカカッ、好かれておるのう夢人」




 振り返るとそこには祖父がいた。噴水の縁に座り、ニヤリと僕らを眺めている。


 その姿を見た瞬間、僕は思い出した。《事象ノ地平線(イベント・ホリゾーン)》で因果律を変えたきっかけ、リトッチに怪我を負わせたきっかけの全てを。


「……お前は」


 祖父の姿を真似たナニか。僕の左腕に宿った恐るべき存在。腕の痣は死霊王スペクターにつけられたものだったはず。


 であるならば、こいつの正体は。


「お前は魔人なのか? スペクターから僕に乗り移った?」


 老人はため息をついて、がっかりしたような口調で返答する。


「お主がそう思うなら、それでええ」


 ココペリは訝し気な表情でそいつを睨んでいるが、どうも彼女でさえ心当たりが無いらしい。


「儂は核爆弾を使うべきじゃと思うがの」


「危うく大間違いするところだった。また僕を焚きつけたな」


「他にアルバストールを倒す方法があるかのう?」


「それはココ君に期待しようかなって」


「あのさぁ……」


 あきれ返るココペリ。だけど頼れるのは君だけなんだ。


 祖父の姿をした魔人(?)は嗤った。まるで僕の迷い一つ一つを楽しんでいるかのようだ。正体不明なだけにアルバストールよりも気味が悪い。


 そいつは興味が移ったのかココペリに視線を向ける。


「ならばそこのお姉さんに聞こうかの。この世界は何じゃ?」


 彼女は少し考える素振りを見せ、慎重に言葉を選び始めた。


「ここはアルバストールの夢の世界だ。偽王は食欲しか持たないモンスターとばかり思っていたけれど、現状を見ると少し違うようだね」


「というと?」


「キミが抱えているスライムが魔王の人格だと仮定すると、アルバストールが侵攻した真の理由は恐らく――」


 彼女は一拍置いて告げた。


「――友達を増やすためだ」

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