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127. 竜人、変身する

 アニヤがスピカの背中に杖を当てる。


「ちょっとくすぐったいですよ」


「ふひひっ」


「『憑依覚醒』! ドラゴーネ!」


 詠唱が終わると同時にスピカが金色の鎧を纏う。竜騎士を連想させるその鎧の美しさも見事だが、更に驚くのはスピカ自身の変化だ。体つきが一回り大きくなり、アホ顔から目つきの鋭い女戦士の表情に変わる。


 一言でいえば彼女は成長したのだ。


「雷門の補修作業、このスピカが承った」


「誰ですか!?」

「誰だよ!?」


 モモ様とリトッチが叫ぶのも無理はない。口調は全然違うし声も凛々しすぎる。


「ウヌらが驚くのも無理はない。この姿は俺様の全盛期の状態だからな」


「ス、スピカが俺様……あのスピカが……」

「しかも語彙力があがってるぜ、おい」


 二人がひそひそと喋るのを尻目に指示を出す。


「今にも突破されそうなポイントがあるから、まずはそこに魔力を供給してね」


 スピカは首の骨を鳴らしながらニヤリと笑った。


「ウヌの頼みならばもちろんだ。それとマタタビ」


「なに?」


「この戦が終わったら俺様を抱け。ウヌとの子供が欲しい。二人ほどな」


「ぶっ!?」


 思わず咳き込む。大人スピカは無邪気さと強情さが混じった表情で僕の肩に手を置き、そのまま頬に口づけしてきた。


 ……実はこの行為は2回目である。最初に『憑依覚醒』した時もこんな感じで迫られたっけ。


「今宵を楽しみにしているぞマタタビ」


「……い、いってらっしゃい」


 大人スピカは呆然と佇むモモ様とリトッチに男らしくウインクと投げキッスをした。そして一気に跳躍し、背中から金色の翼を生やして飛翔する。


「い、いやー。『憑依覚醒』って凄いなー」


「やっぱりマタタビ君はロリコンです! 相手はスピカですよ!」


「この変態野郎! お前5歳児と子作りするつもりか!?」


「だあああーっ! 大人の記憶は効果切れで無くなるからいいの! はいこの話終わり!」


 強引に話を打ち切ると上空で爆音が響く。見れば大人スピカが口から膨大な魔力エネルギーを放って雷門を修理していた。


「彼女一人でも戦域全体はカバーできません。ほら作戦スタートです!」


 モモ様とリトッチはまだ文句を言いたそうだけど知らんぷり。


 アニヤは巫女舞を始め、リトッチが地図上に艦隊の駒を置き、僕とモモ様は再び船首に立った。


「ポイント30-0、31-2、33-4が突破されます」


「第一艦隊、第二艦隊、第四艦隊をそれぞれ配置しろ」


「了解! 第一艦隊はポイント30-0へ。第二艦隊は――」


 モモ様が僕の指令を《念話テレパス》で飛ばし、各艦隊は迅速に行動して雷門の修復作業にあたる。


 後はアルバストールとの根気勝負だ。


 頼むから諦めてくれよ。



◆◇◆◇◆◇



 元々の指揮系統は10時間ほどで復旧したので、ケイトスに指揮権を返上した。流石に緊張の糸が切れそうだったので休憩を挟みたかったのだ。気力を回復させて明日に備えなければ。


 パーティーの中で元気なのは大人スピカだけだった。体力が無尽蔵にあるのか、へとへとの僕を寝室に連れ込もうとする。


「さあマタタビ、俺様とセッ〇スだ!」


「ど真ん中ストレートで来た!?」


 モモ様とリトッチが間に入って全力で止める。


「駄目ですよスピカ! マタタビ君が犯罪者として捕まってしまいます!」


「な、なあ落ち着けって。せめてアルバストールを追っ払った後にしようぜ」


 大人スピカは彼女達をじっと見下ろすと牙を剥き出しにして笑い、二人をまとめて抱きかかえる。


「モモもリトッチも美味しそうだな。食べていいか?」


「「!?」」


 スピカは誰の返事も聞かずにそのまま船室に入った。二人の悲鳴がドアが閉まると同時にかき消される。


「……寝よ」


 多分大丈夫だろう。うん。


 それから更に5時間後、日をまたいで僕らは戦線に復帰した。


 出会い頭にモモ様とリトッチが恥ずかしそうにしていたので、昨晩何があったのかは一切聞かない事にした。なお大人スピカの効果は継続中である。


「昨日は腹八分目だったな。明日は四人で仲良く眠ろう、マタタビもそれを望んでいる」


「余計に気まずくなるからやめて!?」


 成長しても食い意地の良さは変わってねえ!


 連合艦隊は夜通し戦い続けていた。僕らも第七連合艦隊を支援して雷門防衛に努める。


 日が昇り、そして夕暮れになるまで戦況は変わらず。いよいよ二つの惑星の接触が終わろうとした時、アニヤの表情が険しいままだと気づいた。


「何か心配事ですか」


「ええ。何度占ってもアルバストールが残り続ける結果しか出ません」


「……その場合はあと何日間防衛すれば良いんですか?」


「少なく見積もっても一週間です」


 魔王はアメーバ状に広がり続けているので、日ごとに戦域が拡大することになる。既に船団は散り散りになりかけていて、モモ様の《念話テレパス》でもカバーしきれなくなっていた。


「……この状況をあと一週間。無理だ」


 人は誰でもミスを犯す。しかしアルバストールはたった一つのミスも逃さないだろう。


 やはり何とかしてアルバストールを撤退させなければならない。


「でもどうやって……」


 誰かの呟き。答えられる者はいなかった。


 その時だ。あの女の声が脳内に響く。


『――ふうん。流石の勇者もお手上げってわけか』


 モモ様が慌てた様子で告げる。


「マタタビ君! 魔人の気配が近づいてきます!」


 次の瞬間、空から真っ黒なドラゴンが飛来して甲板に降り立った。兵士達は悲鳴をあげて腰を抜かしている。


「て、敵襲、敵襲ー!」


『煩わしいハエどもめ、我が魔王の御前であるぞ!』


 ドラゴンが口から炎をチラつかせて吠える。大人スピカが兵士達の前に飛び出し、怪獣のように雄たけびをあげて威嚇した。


「暴虐竜アウトレイジ、なぜウヌがここに!」


『貴様、まさか蒼火竜バザルの娘か!』


 ドラゴンの背中から降り立ったのは緑色の炎を纏う女の子。紛れもない、夢に出てきたあの魔王だ。


 仲間達が一斉に武器を構えるが、僕は彼女に敵意が無い事を察して一歩前に出る。


「……皆はまだ手を出さないで。奴の狙いは僕だ」


「マタタビ君気を付けて、彼女は欲王ココペリです!」


 モモ様の警告に周囲がざわめく。まさか二人目の魔王が出てくるとは夢にも思っていなかっただろう。説明しておけばよかったと少し後悔。


 ココペリはちらりとモモ様を見てため息をついた。


「ずっとポンコツ女神に言いたかったんだけどさ、やっぱりボクの方が背が高いじゃないか」


「私は成長期なのです。すぐに身長も胸も貴方より大きくなります」


「胸は関係ないだろ……!」


「マタタビ君を倒しに来たのでしたら残念でしたね。勇者の子は以前よりも更に強くなりました」


 ドヤ顔で胸を張るモモ様。魔王は少女を鼻で笑った。


「キミは知らないだろうけどさあ、ボクは彼と一晩を共にした仲なんだぜ」


「え゛!?」


「誤解を与えるような表現はやめてくれませんか」


「う、嘘です! マタタビ君に限ってそんな事……」


「マタタビに限ってならありえるだろ」


「リトッチも煽るのホントやめて」


「証拠です、証拠を見せてください!」


「そういえば肩にホクロがあったなあ」


 モモ様が石のように硬直する。その瞳には今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。少女は頬を膨らませ、今にも爆発しそうな剣幕で僕を睨む。


「マ、マタタビ君……私という女神がありながら……魔王と……魔王と……」


「だから誤解ですモモ様。あれは魔王の挑発ですから」


「ではどうして否定しないのですか!?」


「いやそれは……夢の中で襲われたからです。あと何もされてないし、ちゃんと追っ払いましたから」


「SMプレイはしただろ?」


「「SMプレイ!?」」


「だあああーっ! だから話をややこしくしないでっ!? いい加減に何の用か言えよ!」


 無理やり話題を逸らすと、欲王ココペリは肩をすくめながらさらりと言った。


「――キミらを助けにきたのさ」

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