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118. ニセ勇者、集める

 夕方、マタタビランド。


 あれからオトスの手下を探したが見つける事はできなかった。


 少なくとも連中が狙う施設はわかっている。まずはモモ様を含めた仲間全員を集めることにした。力を貸してもらうためだ。


 最初に見つけたのはリトッチ。彼女はアトラクションで遊ぶわけでもなく、園内のベンチで箒のメンテナンスをしていた。不機嫌そうな表情で僕を睨む。


「お前の顔も見たく無いって時に、お前そっくりのゴーレムが辺りをうろついてんだぜ。アタシの気持ち想像してみ?」


「……あー、えっと。とにかく来て欲しい。緊急事態なんだ」


「すげえ困った顔してるな。またモモがやらかしたか」


「遊園地の時点でやらかしすぎですけど、別の問題があって」


 リトッチはため息をつきながらも、しぶしぶついてきてくれた。


 次はスピカだ。彼女はジェットコースターに乗っていた。乗り場ではルビィが顔を真っ青にして蹲っている。


「ルビィ君どうしたの? 大丈夫?」


「……お姉ちゃん、10回も乗ってる」


「えぇ……」


 どうやら姉に付き合いすぎて乗り物酔いしたらしい。ジェットコースターが戻ってくると、幸せそうな笑顔のスピカが降りてきた。


「楽しかった! あっマタタビ」


「ごめんスピカ。ちょっと来て欲しいんだけど」


「もう1回乗っていい? ねーねー、これ凄いよ。コトコト、ヒューン、グワーッ、グルグルー!」


「緊急事態なんだ。後でまた遊んでいいから」


「むー、じゃあ我慢。腹八分目」


 最後にモモ様だ。彼女はまさに有頂天という様子で観光客に笑顔を振りまいていた。実はお昼以降、来客数がどんと増えたのだ。僕が闘技場コロッセオで暴れたせいで、勇者のテーマパークに興味を持った人々が押し寄せたらしい。


 図らずもモモ様の借金返済に手を貸してしまった。しょうがない、お尻ぺんぺんで許してあげるとしよう。


 お尻を真っ赤に腫らして泣くモモ様を引っ張りレストランに連れて行く。数週間ぶりに全員集合だ。


 僕にモモ様、リトッチにスピカ。そしてココとドゥメナ。皆で縛り上げたオトスとヤンバルマンを見下ろしつつ、核爆弾の脅威と現状を説明した。


「おいおい。つまり、こいつの手下がチキュウ産の爆弾を爆発させようとしてるわけか?」


「『雷門』という施設を狙ってる。リトッチは知ってるよね?」


「この目で見たことは無いけどな。『雷門』は惑星ウェロペの防衛装置だ。偽王アルバストールの侵略に備えてんだな」


「つまり『雷門』を破壊されれば……」


「この星が魔王に蹂躙されちまうな」


「蹂躙なんて安っぽい言い方をするなあ。あいつはそんな生易しい存在じゃない」


 ココがまるで彼をよく知るような口ぶりで話す。


「奴には敵も味方も関係ないのさ。星に降りたら全部を食らいつくす。人も魔人も分け隔てなくね」


「大食い勝負なら、スピカ負けないよ!」


「まあ、竜人族ドラゴニュートならちょっとは対抗できる……かもしれない。頑丈だし」


 得意げになるスピカだが、アルバストールの生態を読んだ限りでは相手になるイメージが一切沸かない。


「その『雷門』の具体的な役目って――」


 突如、外から雷の音が響き渡る。僕も皆も、観光客もその方向を見つめた。


 普通の稲妻は空から落ちるものだが、それは逆の光景だった。大樹イアペトゥスの頂上から宇宙に向かって稲妻の束が伸びている。その稲妻は高度3万メートルの成層圏まで届き、花が開くように同心円状に広がった。


 再び雷の音。この都市ではない、地平線の彼方に同じような稲妻の束が見える。更に反対側の地平線にも……。


「雷門だ。雷門だ!」


 観光客が次々と叫び、ある者は感嘆の声を、ある者は悲鳴に似た叫びをあげた。



◆◇◆◇◆◇



 数十分前、都市モンターニャ。


「惑星リオット、本日も以上なーし」


 観測員の青年は気だるそうに声をあげた。ちなみに今日もリオットは豪雪で覆われている。あちら側の拠点は確認できていない。


 先輩の星詠士に報告しようとしたその時、ふともう一度確認しようという気になった。虫の知らせというやつだろうか?


 とは言っても、このような気まぐれはよくある事だ。「もしも合図が見えたら……」と不安に思って望遠鏡を覗き、「なんだ、やっぱり異常なしか」という場合は数えきれないほど経験している。


 つまり確認する行為は、大抵は不安をかき消すためなのだ。


 青年は望遠鏡を覗いた。嵐の隙間から光が点滅していた。


 心臓の鼓動が段々と早くなっていく。三度確認した。雪人族ビッグフットの拠点から警告の合図(ウォーサイン)がはっきりと出ていた。


「えっと、何すればいいんだっけ」


 素っ頓狂な声をあげ、手順を思い出そうとする。混乱のためか次の行動までたっぷり数十秒を要した。


「せ、せんぱーい! 灯りです、灯りが見えましたー!」


 青年が星詠士を呼ぶ。彼もまた望遠鏡を覗き、それが見間違いでないことを確認した。星詠士は震える声で呟く。


「――若造。鐘を鳴らせ」


 天文台を飛び出し、すぐ近くに設置された大鐘を打つ。何度も何度も、決められていた合図を送ると街全体がにわかに騒ぎ出した。


「おい、この鐘はまさか……」

「アルバストールの侵攻!?」


 人々は不安げに互いの顔を見ている。慌てふためいた様子の魔道騎士団が街の中央へ駆けていた。『雷門』を開くためだろう。


 傍に先輩がやってきて煙草を吸い始める。自分も彼と同じ表情なのだろうか。


「これから、どうなっちまうんすか……」


「さあな。俺も初めての経験だ。だがこれだけはわかる……戦争が始まるぜ。惑星ウェロペ共栄圏とアルバストールのな」


 先輩が煙草を一本勧めてくる。青年もまた煙草を吸い始め、呆然と事の成り行きを見守った。


 数分後、モンターニャの雷門が開き稲妻が天へと登る。この光の柱を見た他の都市も雷門を開くだろう。そうやって世界中に伝わるのだ。


 偽王アルバストールが侵略してくる事実を。



◆◇◆◇◆◇



「あれが雷門ですか?」


「キラキラ、綺麗」


「並々ならぬ魔力を感じます。きっと星核ほしざねの光ですよマタタビ君」


「その通り。あれは神獣『ライコウ』がため込んだ電気エネルギーさ。『雷門』は地面に設置された門なんだけど、要は星核のエネルギーの出入口なんだ。雷門を開けば、これまで蓄積したエネルギーをああやって放出する」


 今や稲妻の柱は東西南北、そこかしこで見えていた。それらは成層圏で花開き、隣り合った稲妻の柱と手を結ぶように繋がった。


「空全体に稲妻が……!」


「すげえな、まるで魔道防壁だぜ。北東星域でも似た装置が作られてるが、こっちは規模が段違いだ。星全体が覆われたんだろ?」


「雷門が機能する限り、アルバストールの侵略はかなり制限される。だけど一部が無理やり侵入するはずだ。それを駆除するために星中の兵士が駆り出されるはずだよ」


「これだけ雷門があるなら、核爆弾ひとつじゃ足りませんよね」


「逆だよマタタビ。雷門をひとつでも破壊すれば、その部分だけエネルギーが放出されなくなる。つまり防壁に穴が開くと言う事さ」


 どんなに頑丈な堤防も、蟻の穴一つで崩壊する。雷門を破壊し、アルバストールを地上へ呼び込む事がオトスの狙いだったのだ。


「雷門の数は500以上。どうやって絞り込むんだい勇者様?」


「どうやってと言われても……」


 僕らだけじゃ無理だ。あまり気乗りはしないが、彼女の手を借りよう。


 まずはアシュリア王女に連絡しなければ。

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