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112. ニセ勇者と魔王、調査する②

 ギルドから通りを挟んだ路地裏にて。


「よし行けケルベ……ケルちゃん」


『!?』


 ココが召喚した使い魔はシベリアンハスキーそっくりの毛並みをした犬だった。可愛い名前だが、気のせいか呼ばれた瞬間に真顔になった気がする。


 エピテスの殺害現場から臭いを辿れば、何か新しい手掛かりが見つかるかもしれない。地面を嗅いで進みだすケルちゃんについていく。


「ところで、何で小娘と派手に喧嘩したんだい?」


 ココはリトッチの事をよく「小娘」と呼ぶ。せっかくだから彼に相談してみよう。僕は喧嘩のいきさつを説明して助言を求めた。


「ココ君はどう思う? 勇者アニヤを信じても良いのかな」


「それは意味の無い質問だなあ」


「……というと?」


「キミが求めているのは『答え』じゃなくて『安心』だろ。ボクが肯定すればほっとするし、否定すれば他の誰かに尋ね続けるだけさ」


 ココの指摘は的を射ていた。彼がどう答えようと、大サピエーン皇国へ行きたい気持ちは変わらない。その判断が正しいと思いたいだけなのだ。


「小娘もそうだ。キミの提案に反対なのは、キミにもしもの事があったらという不安からだ。要するに小娘を安心させればいいのさ。甘い言葉でも投げかければいいよ」


「あ、甘い言葉かあ」


 彼ははっとして、やや後悔したかのように口を歪めた。


「要らないアドバイスだったな」


「いや、参考になったよ。ありがとう」


 感謝の言葉を口にしても彼はむすっとしたままだ。それにしてもリトッチを安心させる方法か……ぱっと脳内に浮かんだ案を口にする。


「じゃあココ君達も一緒にどうかな。大サピエーン皇国へ」


「はっ?」


 彼にとって意外な提案だったのか、完全に呆けた表情になった。その顔が段々赤くなると慌ててそっぽを向く。


「……ふん。まあ、一応考えとく」


 頼もしい味方が一緒ならリトッチも安心するはずだ。もしココが仲間になってくれるなら楽しい旅になるし。


 使い魔がワンっと鳴いて目の前の建物に顔を向けた。商店街の一角、二階建ての木造住宅だ。表のドアには「空き店舗」と張り紙されている。エピテスはここに隠れていたらしい。


「どうだケル……ケルちゃん。人はいるか?」


 ケルちゃんは首を横に振る。


「それじゃあ中に入りましょう」


 建物内は散らかっていて、複数の人物の足跡が残っていた。どうやらオトスとその信奉者達は既に立ち去ったようだ。散在具合から慌てていた様子がうかがえる。


「……ん? ココ君、これは何?」


 部屋の角に山積みされていたアイテムの数々が目に留まった。ゴーレムを象った彫刻、氷のように青く冷たいハープ、狐のような仮面に剣身の半分が溶けた宝剣。竜の鱗の化石もある。


 ココがその品々をひとつずつ確認して結論付けた。


「間違いない、博物館から盗まれた展示物だ」


「でもおかしくない? せっかく盗んだ物を置いて逃げるなんて。仮面や化石はリュックにも入るサイズだし」


「確かに妙だね……とりあえず博物館に持っていこう」


 さて、これだけの展示物をどうやって運ぼうかな。



◆◇◆◇◆◇



 博物館の館長は犬人族フントの老人だった。盗品を取り返したと報告するとワンワン泣きながら大変喜んでくれた。


「おいもっと慎重に運べよ。壊したら剣闘場で死ぬまで働かされるぞ」


「お、おう」


 盗品の運搬は『青の獄門』パーティーに手伝ってもらった。正確に言うとココが脅してこき使ったのだけど。


 念のため鑑定するとの事で、僕らは館内の大広間で待機していた。すると宝石だらけの白いドレスを纏った長耳族エルフの女性が駆け寄ってくる。


「わあ~~ココちゃんありがと~~!」


 彼女は子供のような笑みでココに抱き着いて頭を撫でた。彼が嫌がって引きはがすと、今度は大鬼族オーガの三人にも同様の挨拶をする。屈強な男達をいちころにしたその抱擁は、最後に僕に対しても牙を剥いた。


「はぁ~~幸せですわ。この子がアシュリアちゃんお気に入りの勇者かしら。食べちゃいたいくらいですわ♪」


「えっ!? あ、あのっ……」


 豊満な胸がぎゅっと押し付けられ、男を惑わすフェロモンが鼻をくすぐる。彼女の色気あるハスキーボイスにメロメロになりそうだ。いやもうなってる。


「ごほんっ。彼はボクのものだぞマリリン」


「えぇ~~? 仕方ないですわ」


 くらくらしかけたところで離れてくれて助かった。ココ君の謎のフォローのおかげである。


「アシュリア王女のお知合いですか?」


「姉ですわっ♪ ぶいぶい~~♪」


 ダブルピースは第二王女という意味なのかな? この自由人ぶりは女神フレイヤを思い出すな。


「くっそ勇者マタタビぃ……ぶっ殺してえ……」


 大鬼族オーガの連中が血涙流してる。なぜ僕にばかりヘイトが集まるんだよ畜生。


「改めて自己紹介しますわ。わたくしはマリリン・カットラス、博物館のパトロンですの」


「勇者マタタビです。いやあ凄いですねこの博物館。ざっと見渡しましたが共栄圏内の色んな遺物を展示しているんですね」


「遺物は歴史の足跡ですわ。この博物館に加盟惑星全ての歴史を展示することが夢ですの。ちなみにココちゃんが発掘した遺物も飾ってますわ♪」


「ああ、その縁で知り合ったんですね」


「……まあ、そんな感じだ。これで借りは返したよマリリン」


「もうココちゃんったら、貸したつもりはありませんのよ。お礼に私のお気持ちを歌で表現しますわ」


 突如、マリリンは両手を組んでタップダンスを踊り始めた。しかもその場で歌い出す。脇に控えていた長耳族エルフの男達がバイオリンを弾き、数名がバックダンサーの如く踊り始める。脈絡なしにミュージカルが始まったのだ。


 『青の獄門』の三人は感極まった状態で観賞していたが、僕は彼女のノリについていけずに帰りたくなった。姉を見て育ったアシュリアが規律正しく強気な性格になるのもわかる。反面教師というやつだ、こんな大人にはなりたくない。


 ミュージカルが5分ほど続いたところで館長が戻ってくる。正直すぐに終わってほっとした。明らかに30分くらいは続けますよという雰囲気だった。


「お取込み中、申し訳ないワン」


「お疲れ様ですわ、館長さん♪ それで遺物に問題はありませんでしたの?」


「いずれも状態は良好ですワン。ですが目録と照らし合わせた所、ひとつだけ盗まれたままの遺物がありましたワン」


「へえ、興味深いね。その遺物がオトス兄弟の本命だったのかもしれないなあ」


 そして館長が遺物の名前を告げた時、ココもマリリンも首をひねった。恐らく盗まれた理由がわからなかったのだろう。大鬼族オーガの三人も特に興味を示さなかった。


 ただ一人、僕だけが心臓が止まる思いだった。その名前をこの瞬間に聞くとは一切思っていなかったのだ。全身から血の気が引き、聞き間違えじゃないのかと自分に言い聞かせる。


「そういえばそんな遺物もありましたわ。でも分類は『用途不明』ですのよ?」


「……」


「オトス兄弟は使い方を知ってて盗んだのかもね。……どうかしたかい、マタタビ?」


「館長さん、もう一度名前を言ってくれませんか」


 頼む、間違いであってくれ。


 館長はやや不思議そうに名前を読み上げた。




「『カクバクダン』ですワン」

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