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閑話 偽王アルバストール

 都市モンターニャ。


「【惑星リオット】、本日も異常なーし」


 天体望遠鏡を覗く長耳族エルフの青年が気だるそうに声をあげ、寒さで震える体をさすった。


 彼の役目は雪の惑星リオットの監視だ。かの惑星は南方ウェロペ共栄圏に加盟しているが、同時に偽王アルバストールの侵攻ルートでもある。


 序列10位「偽王アルバストール」。惑星マルの全土を覆う粘菌状のその魔王は、マルからリオット、リオットからウェロペと何度か攻め込んだ過去があるのだ。


 全く退屈な役目だ。青年が生まれてはや100年、一度もアルバストールは攻めてきていない。望遠鏡で惑星を眺めるだけの仕事を始めてもう10年になる。10年! もしこの都市が首都ルーボワに匹敵するほど華やかだったら、彼の人生はどれだけ幸福に満ちていただろうか?


 都市モンターニャは、標高5,000メートルを超える巨大な山脈の山頂を削って築かれた都市である。一年中雪が積もり、天文台や商館を維持するためだけのつまらない街なのだ。


「おいこら若造。適当な報告をするな」


 本日の報告書を読んだ星詠士の男が彼を睨んだ。ぴりぴりした様子で怒鳴るように声を張り上げる。


「いいか、惑星リオットの接触まで2週間だぞ。もっと惑星の様子を詳細に書け」


「そんなこと言われてもアレっす。リオットは豪雪で惑星全体が覆われてるっす。拠点も雪の嵐で見えず……」


「馬鹿野郎、見えるまで望遠鏡を覗いていろ」


「えぇー……」


 もし偽王アルバストールが惑星リオットに侵攻した場合、あちらの拠点にいる雪人族ビッグフット警告の合図(ウォーサイン)を送ってくる手はずになっているのだ。


 青年には、先輩の星詠士が何故そこまで神経質になっているのか理解できなかった。その思考が読み取られたのか、男はため息をつきながら説教を始める。


「あのな若造。お前や俺が生まれるずっと前、魔王の一部が馬鹿な商人の手でこの惑星に運び込まれた」


「はいはい」


「結果は知っているだろう。当時の人口の五分の一が魔王に殺された。そして偽王アルバストールを退治するため惑星全土の兵士が駆り出された。何とか駆逐することに成功したが、経済は衰退、治安も悪化した。国の成長が100年は遅れた」


「うす、肝に銘じます。お疲れしたー」


「おいまだ話は終わってないぞ!」


 耳にタコができるほど同じ話を聞かされたのだ。形だけの謝罪をして青年は天文台を飛び出した。防寒着を着込み、さっさと家に帰るべく雪の積もった道を歩く。


 この都市での娯楽といえば酒場か娼館しかない。まずは娼館へ足を向けていると、これまた剣呑な空気の兵士らとすれ違った。彼らは検疫官だ。


 リオットからやってくる商船は、一旦この街の商館に滞在して検疫を受けなければならない。検疫官の許可が無ければ、この都市から荷物を運び出せない取り決めになっている。


 よくもまあ、あんなだるい仕事を真剣にやれるものだ。彼らは比喩ではなく船を隅から隅まで調べるのだから。


 偽王アルバストールが紛れ込んでいた場合、常駐している魔道騎士団によって焼却される手はずになっている。そんな彼らや天文台の職員を慰めるための娼館が唯一の癒しだ。


 今日はどの子を指名しようか。割と真剣に悩みながら歩いていると、見慣れない二人組が目に映った。妖狐族ヨーコの巫女と海人族シーマンの兵士だ。巫女はこの寒さだというのに軽装である。


 妖狐族ヨーコを生で見たのは初めてだ。死ぬまでお目にかかることは無いと思っていた。グラティア帝国では密かに奴隷として売買されているらしいが……。


 よし、今日は今の女に似た娼婦を指名しよう。


 足早に去る青年を尻目に、将軍クレープスは星巫女アニヤに囁いた。


「本当にかの勇者がこの辺りにいるニガ?」


「ええ。これでも私の占星術はよく当たると評判なんですよ。恐らくこの都市か、標高の低い森の中でしょう。()()()()()()を派遣してください」


「承知ニガ」


 大使という名目上、ノーブレス王国へ入国した際の護衛は最少人数だった。しかし勇者マタタビを捕らえるのに何の不都合もない。なぜならクレープスは現地で兵士を量産できるのだから。


 勇者マタタビへ彼らの手が迫るのは、もうすぐだった。

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