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100. ニセ勇者と女神様、振り返る

「それでマタタビ君、モモ教の広め方をちゃんと考えましたか?」


 モモ様のワクワクした視線が痛い。あまり期待されても困るのだけれど。


 一般的な新興宗教には創始者、いわゆる開祖が存在する。開祖は指導者であり最初に教義を広める人物だ。この場合は僕だ。


 勇者が宗教の開祖というのは、この世界では珍しいことではない。例えばフレイヤ教の開祖は第一次邪神討伐戦にも参加した勇者【慈母ニグラス】だ。フォームを生み出した勇者「鬼斬ケンブ」の同期である。


 T.E.500年当時、人族ヒューマンは世界の嫌われ者であった。彼らが支配する国は例外なく戦争を起こし、あらゆる種族と敵対していたのだ。人族ヒューマン同士で争う姿勢も、他の種族にとっては理解しがたいものであったらしい。


 そして邪神が現れ世界を震撼させてなお、人族ヒューマンは一丸にはならなかった。愚かにも人類同士の争いをやめようとはしなかったのだ。結果として邪神の成長を許し、いくつもの国が滅びた。


 その人族ヒューマンを取りまとめる事に成功したのが慈母ニグラスである。彼女は惑星を渡り歩き、行く先々で国王と交わり子を産んだ。人族ヒューマン長耳族エルフ炭鉱族ドワーフを始め、あらゆる種族の子を産み落としたと言われている。


「何度聞いてもぞっとするな。こんな変態開祖の武勇伝を有り難がる意味がわかんねえ」


 リトッチが身震いしているが、その気持ちはわからなくもない。この世界の人類は何十もの種族で構成されている。それらの王とセッ〇スしまくって軒並み子供を産むなんて信じがたい話だ。ぶっちゃけ相当盛っているんじゃないかと疑うくらいである。


 慈母ニグラスが産んだ子供達は例外なく聡明であった。彼らは次々に他国(正確には他国にいる異父兄弟)と友好関係を結び、来るべき母の号令を待った。


 そして勇者が集い「第一次邪神討伐戦」が始まった際、何百という国が勇者らの支援を表明したという。そのほとんどが慈母ニグラスが訪れた国だというのだから凄い。


 かくして邪神は討伐され、慈母ニグラスは老いて死ぬまで世界を渡り、フレイヤ教を布教しつつ子を産みましたとさ。めでたしめでたし。


「流石に勇者の開祖は信じがたいエピソードが満載ですね」


「せめてこの開祖に負けないくらいの箔がマタタビにも欲しいよな」


 モモ様が胸を張って自慢げに語る。


「マタタビ君は最初から凄かったので、信者が崇める事間違いありませんね」


「まあ暴走ドラゴンを倒すくらいの事は他の勇者でも……」


「召喚の儀でズタボロの状態で召喚されたのは、後にも先にもマタタビ君だけです」


「えっそこから!?」


 そもそもモモ様は僕を召喚していないぞ。主に僕の祖父のせいである。


 スピカが手を挙げて質問する。


「ねーねー、ズタボロってどんな感じ?」


「では再現してくださいマタタビ君」


「いや無理!」


 エリンギみたいだったと説明すると、リトッチがげらげらと笑いだす。失礼な。


「次にマタタビ君は半神族デミゴッドに転生したのです。この時点で開祖としてパーフェクトな出だしですね」


「エリンギの時点で0点だと思います」


「つまり、マタタビは神様の子供?」


「そうです。彼は私の子ですよ」


 モモ様の発言を聞いたスピカが、心底哀れんだ表情で僕を見た。


「マタタビってモモの子供だったんだ……可哀想」


「えっ」


「いや誤解だよスピカ、モモ様は僕の体を作ってくれただけです」


「えっ」


「この下りは教典から削除な」


「えっ」


 僕の両親は地球にいた日本人だ。もう思い出せないくらい昔の事である。……全く覚えていないのは薄情かもしれないな。祖父の事は死んでも覚えているけど。


「それから惑星ゴルドーに降りて冒険を始めました」


「地竜アダマの暴走を止めたのは、真面目に語り継いで良いと思うぜ」


「スピカ聞いた。地竜アダマ、海竜マギナと同じ強さ」


「戦う際に女装する件も語り継ぎましょう」


「いやそれは結構です。女装は触れないようにしましょう」


「でも魔王を倒すときは必ず女装してますよマタタビ君」


「……マジで?」


 とても信じられない。これまで《衣装コスチューム》で戦ったのは片手で数えるほどしかないはずだ。


 いや、もうちょっとあったかな?


「こいつ都合よく記憶を消去してやがる。アタシに着せた事はまだ許してねえぞ?」


「はいはーい、スピカ着てみたい!」


「あああーー! 女装の話やめ! 脱線してる!」


 これまで戦った魔王は3人。勇者と言えど、この広い世界で魔王と遭遇することは非常に稀らしい。魔王の目的も勇者を倒すことではなく、あくまで邪神教の信者を増やすことだからだ。


「せっかくだから魔王全部を叩きのめしましょう。勇者の子はもう10人と戦ったと教典に書いて良いですか」


「盛りすぎです。誰も信じませんから」


「他の魔王、強いの?」


「星の一つや二つを平気で滅ぼせる奴がごろごろいるな。まごうこと無き災害だ」


 スピカがごくりと唾を飲む。序列5位「嵐王ズムハァ」の被災者だからこそ実感できるのだろう。


「アタシの故郷には虐殺王を名乗る魔王がいたな。その名の通り虐殺する奴なんだが」


「一生会わないことを祈ります」


「教典の〆はこうしましょう。『魔王殺しマタタビは、全ての魔王を倒し女神に祝福されましたとさ』」


「正直、次の魔王で死んでもおかしくないと思います」


 真顔で答えた僕に対し、リトッチが笑いながら尋ねる。


「しかし魔王殺しの勇者様なら、偽王アルバストールの倒し方くらい考えておかないとな。昔はこの惑星に攻めてきた事もあるらしいぜ」


 聞いたことがある名前だ。確か序列10位だっけ。


「スピカ、手伝うよ!」


「あ、ありがとう。そういえばモモ様は『魔王大図鑑』を持っていたんですよね。読んでいいですか?」


 嵐王ズムハァ戦の際は魔石が壊れていたので、本を取り出すことができなかった。魔石を修復した今なら図鑑を読んでしっかり対策できるはずだ。


「マタタビ君がやる気になって私も嬉しいです」


 モモ様が笑顔で図鑑をもってきて、偽王アルバストールのページを開く。


 それを眺めた僕ら3人は沈黙した。


 ……いや無理じゃん。何が序列10位だよ。むしろ最強と呼ぶべき存在じゃないか。


 偽王アルバストールは()()()()()()()()だったのだ。

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