表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/174

93. VSアシュリア王女①

 ノック音が響き渡り、アシュリア王女が入室する。必然的に空気がピリッとした感覚。スピカは歯を剥き出しにするが……。


「ようこそ来ましたね、騎士の子よ」


 ずいっと前に出たのはモモ様だ。その表情はニコニコしていて、いかにも調子乗ってますよという顔であった。アシュリアも表情を和らげる。


「まもなくノーブレス王国の領空に入ります、女神モモ」


「堅苦しい言い方は無しですよアシュリア。モモと呼んでください」


「……モモ」


「はい、モモです」


「……うふふ♪」

「……あはは♪」


 二人は僕らがいるのも構わずに、手を取り合ってステップを踏み始めた。


「何度見てもキモいな」

「モモ、裏切り者」


 僕はこの女に殺されかけたんだけどなあ。モモ様が許すと言うのならしょうがない。いやしょうがなくない、むしろ嫉妬でアシュリアが更に嫌いになった。


 なんでこの二人が仲良くなってしまったのか……。



◆◇◆◇◆◇



 回想。惑星ウェロペに渡る2週間前。


 僕らは竜族ドラゴンを引き連れて船を強襲した。甲板に降り立つ僕の前に現れたのは、調査団を指揮するアシュリア・カットラスだ。彼女はこめかみに青筋を立てて怒り心頭の様子である。


「船夫の小鬼族ゴブリンを買収していたとはな、小賢しい」


『買収ではなく信心です』


 ゴブリン達は機関室に立てこもり、今も「革命だー! 女神モモの神託だー!」と叫んでいる。彼らが魔道防壁を解除したおかげで、こうして労せず突入できたのだ。


「お父さんを返せ!」


 スピカが唸りつつ、アシュリアを護衛する騎士団を威嚇した。冒険者ギルドの連中はココとドゥメナが牽制している。二つ星の称号を持つココはそれなりに権威があるらしく、冒険者たちは明らかに尻込みしていた。


 リトッチが僕にそっと耳打ち。


帆柱マストに狩人が隠れているぜ。あいつらを警戒しとけば大丈夫だ」


 頷いて前に進み出る。そして王女に対して決闘を持ち掛けた。


「血を流すのは本意ではありません。お互い一騎打ちで決着をつけませんか」


 ノーブレス王国の貴族は騎士道精神を重んじる。ここにはいないが勇者カタルからもらったアドバイスだ。王女様はその提案にすぐさま反応した。


「カットラス王家たるこの私に、あろうことか一騎打ちを望むだと?」


 彼女が自信満々に腰からレイピアを抜く。僕も聖剣タンネリクを構えた。


「僕が勝てば、ドラゴンは全員解放してもらいます」


「私が勝てば、スピカを頂こう」


 アシュリアの優雅かつ凛々しい佇まいから、かなりの鍛錬を積んだと察することができた。だからと言って気後れはしない。魔王を何度も退けた身としては、この程度でびびるわけにはいかないのだ。


「「勝負っ!」」


 しかし僕らの決闘は剣を交えるどころか動く前に中断された。


「待った! お待ちください王女様!」


 副団長クーガーが間に割って入り、両手をあげながらアシュリアの前に立ちはだかる。


「御身を大事にアシュリア王女、ここは私が」


「どけクーガー、これはカットラス王家の威信をかけた決闘だ!」


「貴方を護衛し、無事に国へ送り届ける事が私の任務です」


「心配するなクーガー。私がこれまで敗北したことがあったか?」


「そ、それは……」


「あのー、そろそろいいですか?」


 思わず声をかけると、王女は赤面しつつ咳ばらいした。


「見苦しいところを見せてしまったが、今度こそ決闘だ!」


 こちらも改めて剣を構える。


「「勝負っ!」」


「待った! お待ちください勇者殿!」


 クーガーが今度は僕の前に立ちはだかった。え、また?


「勇者殿、100万ローペお支払い致します。この決闘、王女の不戦勝にして頂きたい」


「いきなり不正行為!?」


 騎士道精神とは何だったのか。


「すみません、負けたらスピカを取られてしまうので」


「スピカ殿は結構です。お持ち帰りください」


「囚われたドラゴンが……」


「そちらもお持ち帰りになって結構ですから」


「どういうこと!?」


 それって実質的に僕の勝ちでは? などと思ったその時、アシュリア王女が強烈な殺意を纏う。


「騎士の心を失ったかクーガー、恥を知れ!」


 振り向いたクーガーにレイピアの切っ先が迫り、彼の鼻先で止まる。


「二度目ははないぞ、下がれ」


「アシュリア王女。どうしても決闘するのであれば、私を倒してからにしてください」


「クーガー……お前という奴は……」


「あのー? 早く決闘したいんですけど?」


 なんだろう、この蚊帳の外にいる気分は。当事者のはずなのに。


「ならば引導を渡してやろう。そこを動くな、楽にしてやる」


「王女の手にかかるならば本望です」


「それ決闘の後でやってもらって良いですか?」


 アシュリア王女が流れるような基本の型(ルフ・フォーム)で突きを繰り出した。なるほど速い、その剣筋は一流のそれだ。クーガーの髪や服が切り裂かれる。しかし彼は微動だにしない。それだけ王女の剣技を信頼しているということか……?


「もうおやめください、アシュリア王女」


「……さ、流石だクーガー。私の突きを全て躱して見せるとは」


「いや1ミリも動いてませんでしたよ」


「うるさーい! よそ者は黙っていろ!」


「いや僕は当事者! 当事者です!」


 本当に今から決闘するんだよね?


 アシュリア王女が再び攻撃を繰り出す。しかしクーガーに当たる気配が一向に無い。もしかして神速の動きで避けているのかと思ったが、彼が王女に向ける憐みの目を見て察してしまった。


 王女様、見てくれは凄いが実は剣技がド下手な奴だな。


 それを証明するかのように、攻撃をすかしたアシュリアがその場にすってんころりんと転んでしまう。


「なぜだ……あれほど鍛錬したのにっ!」


「貴方には才能が無いのです、王女」


「あのー。不戦敗を受け入れて良いですよ、なんか可哀想ですし」


「私はもう、兄上や姉上に馬鹿にされたくないのだ……!」


「辛い運命さだめでしょうが、受け入れるしかないのです」


「僕の話聞いてます?」


「諦めるしか無いのか……出来損ないの末妹として笑われながら生きるのか……」


「これ以上は醜態を晒すだけです、終わりにしましょう」


「もう晒した後ですけどね? 決闘は? ねえ決闘は?」


 駄目だ、完全に二人の世界に入っている。リトッチを含めた周囲の視線が痛い。


『……ま』


「モモ様?」


『まだ諦めてはいけません人の子よ!!』


「モモ様!?」


 魔石からモモ様が飛び出す。その両目からは涙が滝のように溢れている。少女はアシュリアの元へ駆け寄ってその手を取った。


「同じ末妹として、人の子の気持ちは痛いほどわかります。そして感動しました、運命に必死に抗う人の子の姿、この目にしかと焼き付けましたよ!」


 おお、モモ様が大衆の目の前に飛び出すとは。また一歩成長した……いやいや感心している場合じゃない。


「あのモモ様、話が余計にややこしくなるので下がってもらえますか」


「シャラップ!」


 ひ、ひどい。困惑する王女にモモ様が優しく語り掛ける。


「可哀想に、とても辛かったでしょう。貴方の頑張りを女神はずっと見守っていましたよ」


「き、貴様は一体……ま、まさか女神フレイヤ……なのか?」


「そうです」


「勢いで嘘までついた!?」


 アシュリア王女の目からも涙が溢れだし、二人して泣き出し始める。


「う、うう……私の努力は、無駄ではなかったのか……」


「そうです人の子よ。今こそ成果を見せるとき。悪しき勇者に鉄槌を下し、運命を打ち破るのです」


「悪しき勇者って誰のことですか?」


「さあ王女、立ち上がって。剣をふるい勝利を掴むのです!」


 アシュリアの瞳に光が宿り、キリッとした目つきで立ち上がる。クーガーを筆頭に周囲のエルフや冒険者ギルドの連中まで声援を投げ始めた。


「王女様、負けるなー!」

「意地を見せろ、勇者なんてぶっ飛ばせ!」

「頑張っれ、頑張っれ!」


「皆……ありがとう。今日ほど貴様達に感謝したことはない。私は……勝つ!」


「え? これ僕が負ける流れ?」


 クーガーが恭しくその場をどいて道を開ける。


「王女様のお覚悟、このクーガー感服致しました。もはや諫める事は致しません。どこまでもお供します」


「いや諫めてください、実力はそのままですから」


「マタタビ君は彼女の勇気を疑うのですか? 勇者の子の癖に何と傲慢な」


「まじでどっちの味方!?」


 まさかのモモ様が反旗を翻す事態。そして周囲が完全にアシュリアを応援する流れになり、僕は完全アウェーな状況になってしまった。


 え、まさか本当に負けなきゃいけないの? むしろどうやって負けろと?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ