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84. ニセ勇者と魔術士、特訓する

 僕らは船内でテーブルを囲み、作戦を練ることにした。


「一番の問題は星を覆う嵐ですよね。あれを消せば惑星ドラゴネストの問題は解決です」


「惑星級魔術《死季ノ風(モンスーン)》だな」


「リトッチは何か思いつきませんか?」


「魔力の供給源は嵐王ズムハァだ。魔王を倒せば消えるが、確か嵐王は《完全耐性フル・レジスト》の才能ギフトを持ってるんだよな」


「《完全耐性フル・レジスト》は姉達から聞いたことがあります。確か同じ才能ギフトを持った勇者がいました。マタタビ君のひとつ前、第四世代の勇者です」


「どんな能力なんですか」


「即死系の魔術を含む、あらゆる攻撃に対する耐性獲得と超回復能力です。魔力と根性さえあれば負けることはありません」


 インチキ能力も大概にしろって感じだ。


「じゃあどうやって倒すんです?」


「倒せないから封印したんだろ」


「マタタビ君、ここいらで凄い才能ギフトに目覚めたりしませんか?」


「目覚めません」


「では覚醒イベントが必要ですね」


「覚醒イベント?」

「覚醒イベント?」


 首をかしげる僕とリトッチ。モモ様は自信たっぷりに宣言する。


「要はマタタビ君の中に眠る、なんだか凄いパワーを目覚めさせれば良いのです」


「急に根性論かよ、本当に大丈夫か?」


「具体的にどう覚醒させるのです?」


 モモ様が後ろを向き、服をいそいそと脱ぎ始める。背中を完全に露出させた半脱ぎ状態で、顔だけ振り返り自信満々にウインクした。


「マタタビ君が覚醒したら、私の体でエッチな妄想して良いですよ♪」


「……」

「……」


 思わず絶句。


「な、なんですかそのゴミを見るような目つきは!」


「真剣に問題と向き合ってる時に、何でエロで解決しようとするんですか」


「そんな貧相な胸で言われてもな」


「ひどいです二人とも! 私は大真面目なんですよ!」


「どこがですか、僕がエロ目的で覚醒する男だと?」


「はい」

「まあゼロじゃないな」


 いや確かに全人類の男はスケベですけれど。 


「そんなんで覚醒するならとっくに一万回は……ゴホンゴホン!」


「このムッツリスケベ」


「ご、誤解ですリトッチ。僕は別に普通ですから」


「マタタビ君がエッチかどうかは、彼女に聞けばわかります」


 モモ様が脈絡なくウンディーネを召喚する。


『お呼びでしょうかモモ様』


「待って、ちょっと待って」


「ウンディーネ、マタタビ君はエッチですか?」


『93年間お付き合いしておりますが、マタタビ様の引き出しの多さにはいつも驚かされます』


「引き出しの多さって何だ!?」


「分かりましたよ僕はエッチです! だからウンディーネは黙ってて!」


 リトッチの犯罪者を見るような視線が痛い。


「仕方ありません。私ではなくリトッチの体ならどうですか?」


「セクハラ発言ですよ女神様」


「覚醒する前に永眠させてやる」


 不味い、完全にエロで覚醒する前提になってるぞ。


「よくわからない力に頼るのは危険ですから、僕らが既に持ってる手札でなんとかなりませんか」


 するとリトッチが「ふむ」と顎に手を当て考え込む。


「それなら一つだけ方法があるな。光と闇の合成魔術を習得すれば、嵐を何とか出来るかもしれん」


 合成魔術と聞いて途端に自信が無くなった。なぜならこれまで一度も成功したことがないからだ。


「最初のステップはクリアしただろ。左右で別々の魔術を発動するやつな」


「でも準備に時間がかかるし、集中力も必要です。しかもそこから合成しなきゃいけないし、とてもリトッチのようには……」


「大丈夫だ、アタシに考えがある」


 リトッチがモモ様に尋ねる。


「その合成魔術には大量の魔力が必要なんだが、信仰ポイントはどれくらいだ?」


「今は1万ポイントくらいです」


「魔石を直せる量すら無いのかよ」


「竜の子から信仰を得られれば良いのですが……。彼らは協力してくれるでしょうか」


「それならひとつ案があります。元々はモモ様の信者を増やすために考えたんですけど」


 二人にその方法を提示すると、モモ様は憤慨してリトッチは笑い出した。


「ふふ、不敬ですよマタタビ君! そんな方法で信仰を集めるなんて駄目です!」


「ぷふっ、マタタビも悪い奴だな。チキュウ人は皆そうなのか?」


 確かに褒められた方法じゃないけれど、今回は非常事態だ。少しでも竜族ドラゴンから魔力を得なければならない。


「というわけでモモ様、持ってますね?」


「……持ってません」


「ウンディーネ」


『はい。こちらにございます』


 ウンディーネが()()を取り出すと、モモ様が手を伸ばして奪い取ろうとする。


「う、裏切りましたねウンディーネ! 私の宝物ですよ!」


『申し訳ありませんモモ様。ですが今は必要な供物であると判断します』


 そんなこんなで、僕とリトッチは合成魔術の特訓を、モモ様とウンディーネは竜族ドラゴンから魔力を集めることになった。


「期限は24時間だ。しっかり集めとけよ」


 モモ様が頬を膨らませてそっぽを向く。とはいえ了承してくれたようだ。


「ウンディーネはモモ様の護衛を頼みます」


『畏まりました、エロ勇者様』


「ねえ、せめてニセ勇者と呼んで」


『畏まりました、ニセエロ勇者様』


「だからエロは抜いて!?」



◆◇◆◇◆◇



 モモ様が出かけた後、僕は光と闇の合成魔術の詳細をリトッチに教えてもらった。


 魔術の合成は「属性の相性」で難易度が大きく異なるらしい。リトッチが得意とする炎・風の合成はお互いに相性が良く、調整さえ間違わなければ比較的簡単とのこと。しかし土・雷のように相性の悪い属性の合成は難しく、魔術士の腕が試されるという。


 そして肝心の光・闇は、お互いが反属性のため合成が不可能というのが通説だ。魔術大国である大サピエーン皇国は合成魔術の研究が進んでいるが、この二属性の合成に関しては未だ開発されていない。


「というのが表向だが、実は皇国は密かに完成させていた。だがあまりにも危険な魔術なんで封印指定されているらしい。師匠はその魔術を理論的には解明したんだが、やばい魔術だと気づいて習得はしなかった」


 思わず唾を飲み込む。そんな危険な魔術を今から習得しようとしているのだ。


「光と闇、相反する二つの属性をぶつけることで生まれる特異点。その魔術は《事象ノ地平線(イベント・ホリゾーン)》と呼ばれている」


「おっかない名前ですね。発動すると何が起こるんですか?」


「あらゆる防御を突破して対象を切り裂くことができる。理論的には魔法でさえ防ぐことができん」


「なにそれ凄い」


「幸か不幸か、お前の魔核まかくは光が主属性、闇が副属性だ。特訓すればその魔術を習得し、嵐を消し去ることができるはずだ」


「24時間でその魔術を習得できるんですか?」


「無理だな。完全な習得は数十年かかる」


「ですよね……」


「そこでだ。お前はまず、光と闇の魔術を同時に発動させろ」


 リトッチが僕の掌に彼女自身の掌を合わせる。


「その魔力をアタシに移せ。合成はこっちでやる」


「簡単に言いますが、実際はめちゃくちゃ難そうですね」


「当たり前だ。今からひたすら特訓するぞ」


「よろしくお願いします、リトッチ師匠」


 僕は他人に魔力を与えることが得意だし、リトッチは魔術の合成において一流だ。二人の強みを生かした合体魔術というわけだ。


 この技を成功させるには、いくつかのステップを踏む必要がある。


 最初のステップ。僕が右手で光魔術、左手で闇魔術を発動する。この時、双方の威力をピッタリにする。魔力量が僅かでもずれれば特異点が生まれない。これだけでもかなりの集中力が必要だ。


 次のステップ。リトッチに二つの魔力を受け渡す。魔力を完璧に渡すため、事前にお互いの魔力回路を調整する必要がある。


「他人と魔力回路を繋げるのは魔術士にとってご法度だ。魔核まかく干渉ハッキングされる危険があるからな。今回は非常事態だから特別だぞ」


 最後のステップ。リトッチが魔術を合成して《事象ノ地平線(イベント・ホリゾーン)》を放つ。これはリトッチを信じるしかない。


「お前はとにかく、左右の魔術のバランスを完璧にしろ。アタシは魔力回路を最適化する」


「わかりました。やってみます」


 竜族ドラゴンを救えば、彼らの力を借りてスピカとバザルも助けることができるはずだ。


 必ず成功させてみせる。

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