07 ファンタジー界のマスコット
朝食の食糧調達と水の確保のため俺は屋敷から出た。
自家製マップによれば屋敷の裏側方面にこの町の貯水池がある。飲めるかどうか直接この目というか、この鼻で確認する必要があった。《嗅覚分析》は臭いさえ嗅げば、対象を分析・鑑定ができるのだが臭いが薄いもの、もしくは臭いがないもには機能しない。オークは優れた嗅覚の持ち主なので、遠くからのわずかな匂いを嗅ぎつけることができるのだが、遠近に比例して性能の幅が違う。至近のほうがもっとも活用できるため、現場に行く必要がある。
それに貯水池の周りにいる魔物に興味があるし。
屋敷から出て十分くらい歩いて、ようやく貯水池に着く。
都会の池とは違って澄んでいて、周りに森林を背景に綺麗だ。
また、池のほとりでなにか小さいものが蠢めく――というよりぴょんぴょん跳ねていた。
――PURN
水まんじゅうのように丸く瑞々しく、青い透明なボディー。
異世界の名物マスコット――スライムだぁぁぁああああ!!
俺のテンションが上がる。
ファンタジーといったらスライムがいなくてははじまらない。むしろ、スライムのいないファンタジーはファンタジーとは呼ばないと俺は断言する。
しかも鳴き声がプルンとか、古典的。
――PURN?
俺の存在に気づき、スライムの一体が俺に近づく。
スライムは手のひらサイズで、女子が見たら写メをとってぷにぷにしてそうなほど可愛い。
子供なのかと思ったが、他にいたスライムを見比べても大きさはおにぎり一個分ほど。兼本家RPGのスライムと違ってコンパクトサイズで、目や口といった器官がないが逆にシンプルでいて不思議な魅力感がある。
――PURN!
俺がスライム観賞していると、スライムが俺に向かって飛び掛かる。
しかし、スライムは俺の腹に跳ね返され、地面にリバンドして転がる。
昨日の金槌魚を思い出す。というか攻撃されたのか俺?
スライムはあきらめず、俺に何度も突撃を仕掛ける。が、結果は同じだ。
――PURRRRR!
――PURRRRRRN!
池のほとりで跳ねていたスライムたち(約三十匹以上)もつられて、俺に突撃を仕掛けてきた。
なにこれ? 集団リンチ?
可愛い見た目だが、まるで水まんじゅうが次々襲ってくような光景なので、ほんわかというよりちょっとしたホラーだ。
もっとも、俺の耐久値が高いため、HPは一つも削れてはいないけど。
数分して、スライムたちは体力切れになり、まるで溶けたアイスのようにぐったりとした。
俺が近づくとスライムの一匹が仰向けになり腹を見せた(球体だから上か下か区別つかないが)。
服従のポーズなのかと考えたが、丸い体を餃子の皮のように薄く広げて、まるで手足を広げているように見える(というか伸縮できるんだな)。
つまりアレだ。やるなら一思いにやれ! と言いたげな態度だ。男らしい。スライムなのに男らしい。
そんなスライムに俺は手に乗せてみた。
スライムは借りてきた猫のように大人しくなり、元の水まんじゅうスタイルになった。
というか水まんじゅうそのものだった。
ついでに指でつついたり、撫でたりした。ゼリーというか水ようかん的な感触がする。あと、ひんやりして触り心地が良い。
――PURU~
スライムは撫でられて気持ちよさそうにプルプルとしてうっとしていた。
口がないのどうやって鳴いているのやら。
ほかのスライムたちは落ち着いたのか、その辺をうろうろと解散とばかりにそのへんをうろうろし始めた。
自由だなスライム。念のためスライムを分析してみるか。
種族:スライム
LV:10
HP:120
MP:1200
SP:120
筋力:10
耐久:10
敏捷:80
魔力:80
知力:30
器用:10
スキル:《浄水》《分裂繁殖》《液体吸収》《栄養吸収》《栄養貯蓄》《同種合体》
レベル的には能力値が高くないが、スライムならこんなもんだろう。
むしろ、スキルに関しては面白いものが多いな。
《浄水》
【汚れた水などを清浄する】
【このスキルで清浄された水は飲料可能な水へと加工処理される】
《分裂繁殖》
【自身を分裂させ、同種族を増やす】
【分裂した分だけ分裂させた個体の能力値が減る】
《液体吸収》
【水分を吸収する】
【吸収量を超えると身体の面積・質量が増える】
《栄養吸収》
【生物の栄養を吸収する】
【吸収した分だけHPの回復量に回される】
《栄養貯蓄》
【栄養を半無制限に貯めることができる】
《同種合体》
【同種族と合体し、別の個体へと進化する】
分裂に吸収、さらに合体とスライムらしいスキル構成だ。合体したらキング系になるのか気になる。
とくに、俺が注目すべきは《浄水》というスキル。この世界の技術水準は知らないが、汚れた水を綺麗にしてくれるのはありがたい。サバイバルに欲しいスキルだ。
あと、説明欄によれば、スライムは豊富な栄養素を蓄えており、死ぬと死体が土地に吸収され、その土地が豊になるらしく、農家にとって重要な魔物で重宝されてるようだ。
自然環境にやさしい魔物か……優秀だなこの世界のスライムは。
スライムの感触を楽しんだのち、手に乗せたスライムを地面に下した。
解放されたスライムは、俺を一瞥(顔がないから分からないけど)して仲間たちのもとへ向かい、そのまま仲間と共に森林へと移動していった。
ゲームでは雑魚だが、現実だと自然界にとって重要な生き物だと、俺はしみじみと思った。
説明欄の一番下にあるスライムの料理を知って。
「…スライムって生でも食べれるんだ。調味料であえて酒のツマミに……刺身コンニャクみたいなもんか?」
朝食用に何匹かシメとけば良かったなー、と、すこし後悔した。