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03 オークは高性能?


 岸辺に座りながら、安定した衣食住を確保するための計画を考えていると、ふと、あることに気が付く。


 《嗅覚分析》で自分を分析すればステータス確認できるんじゃね?


 効果欄に自分自身を分析することはできないとは書いていなかったし、おそらく可能なはずだ。

 さっそく、自分自身の匂いを嗅いで分析。

 するとゲームのようなステータスが視界に表示された。


名前:-

種族:オーク

LV:10

HP:4462

MP:360

SP:4712(+428)

筋力:357

耐久:425

敏捷:146

魔力:30

知力:110

器用:138

ユニークスキル:二元論の堕とし子(アップグレード)

スキル:《嗅覚分析》《鋭敏嗅覚》《鋭敏聴覚》《地理》《掘削》《剛力》《不屈》《剛体》《特攻》《生存本能》《体力自慢》《雑食》《飢餓》《痛覚耐性》《淫獣》《自己再生》《性別固定》《悪道》《正道》《自己管理》《人化》《神託》


 改めて思ったがオーク高性能だな。

 宇宙娘から渡されたデータによれば、前世での常識で例えると、一般人場合はLV:10ほどで、能力の平均値は100程度。歴戦の達人なら平均LV:30で能力値は500ぐらいだから、LV:10(しかも赤子)にしてこの身体能力は破格すぎる。

 その分、敏捷と知力と器用は人間並みで、魔力が一番低いが、肉弾戦なら十分に戦えるほど強い。

 強化系スキルとSPを増やすスキルとかあるから持久戦ならかなり有利になるはずだ。


《剛力》

【使用時、筋力が強化される】

【使用中、SP減少】


《剛体》

【使用時、耐久が強化される】

【使用中、SP減少】


《体力自慢》

【SPを増加させる】

【SPの減少を半減にする】


 しかし、特に気になるのがオークのデフォルトになかったスキルが混じっていたことか。


《自己管理》

【自身ステータスを任意で確認することができる】


《不屈》

【精神干渉を無効化】

【精神を常に安定化させる】


《正道》

【善行に比例して、成長率が上昇する】


《神託》

【神・精霊と交信することが可能になる】


《人化》

【人間に近い姿に変身することができる】

【使用中、能力値が人間の能力値に近い数値に変更される】



 まさかの《自己管理》が習得済み。

 先天性で持ってたのか、それとも後天性で生えたのか分からないが手札は多めに越したことはない。

 ただ、この《正道》と《神託》いうスキルがあるのかが疑問だ。

 たしか、これらのスキルは聖職者もしくは勇者にしか生えないスキルだったはず。人間に敵対するオークが習得しているのは可笑しい。


 そして、重要なのはこのユニークスキルだ。

 個人(ユニーク)スキルだから特別な能力なんだろうが、宇宙娘から特典チートは付かないって宣言していたから、彼女の仕業ではないはずだ。

 だとすれば俺がこの世界に生まれたときに先天性で手に入ったものなのか。

 念のため《嗅覚分析》で鑑定したが鑑定不能だった。

 今度は《自己管理》で確認するも、効果の内容が文字化けして読めなかった。

 レベルが低いからか、それともなにかしらのバグがあるのか…。

 

 情報が少なすぎて検討が付かない。

 しかたない。ステータス云々は後回しにして、次の行動に移そう。


 サバイバルで必要なのは衣食住の三つだ。

 幸い、水の確保ができそうな川と食料となるキノコや魚は確認できたから食は当面は問題ないだろう。

 あとは住処にできる諸点探しと、衣服類の二つだ。

 能力値が高くても雨風がしのげる場所は確保したいし、なにより腰布だけで生活するのは心苦しい。

 ここの環境がどのようなものか分からないが、病気にかかったり、寒さで凍え死んでしまう可能性がある。

 怪我は再生系スキルで治るから問題ないが、病気に関しては医療知識や製薬知識のない普通の男子高校生にとって重要だ。

 まぁ、そこは《嗅覚分析》で薬草とか調べて、独学で身に着ければなんとかなるだろう。


 そうと決まれば家探しでも――と立ち上がったその時、索敵の範囲内に、血の匂い垂れ流す生物がこちらに向かって一直線に近づこうとしていた。


 すぐさま《嗅覚分析》を発動させ、こちらに向かってくる者の匂いから情報を読み取る。

 が、分析速度が遅い。おそらく、相手のLVが俺より高いのだろう。

 自分より強い相手だと分析・鑑定が難しくなる。

 30秒ほど経ってから、相手の情報が手に入った。


 走ってきているのはグリーンタイガーと呼ばれる虎の魔物だった。傍にはコボルドと呼ばれる犬のような二足歩行の魔物がくっついていた。どういう状況なのかわからないが匂いからして二体とも血まみれなのは間違いない。さらに分析すると、グリーンタイガーは瀕死の状態で、コボルドは気絶しているだけだった。

 情報からから察するにグリーンタイガーはおそらく無我夢中で走っているだけで、俺を狙っているわけではなかろう。しかし、このスピードと方向だと、あと1分くらいでこちらと鉢合わせになってしまう。

 グリーンタイガーのステータスによればLV:22で能力値は俺より二倍もあり、敏捷に関しては四桁であった。

 能力値的にLV:10の俺には分が悪すぎる。

 どこか隠れたほうがいいのかもしれないと思い、隠れる場所を探そうとするが――。


 ――GALLLLLL!


 向こう岸から、何かが川を飛び越えてこっちの川辺へと着地する。

 全身が緑と黒の模様で覆われた迷彩柄の魔物――グリーンタイガーだ。 



種族:グリーンタイガー

LV:22

HP:2521/7920

MP:4783/6432

SP:815/8328

筋力:694

耐久:660

敏捷:1290

魔力:536

知力:203

器用:196

スキル:《危険察知》《胆力》《斬鉄爪》《斬鉄牙》


《危険察知》

【危険を瞬時に感知する】


《胆力》

【不利な状況・状態でも戦闘を続行することができる】


《斬鉄爪》

【硬い鉱物を切り裂く爪】

【使用時、爪の硬度が倍になる】


《斬鉄牙》

【硬い鉱物を噛み砕く牙】

【使用時、牙の硬度が倍になる】



 緑色の虎は俺を直視して、低く唸り声を鳴らし警戒する。

 動物園で見たことのある虎とは違いカラフルで普通の虎より二回りも大きい。

 しかし、その肉体に異物が混じっていた。肩や腹、尻などに矢が5本ほど、ナイフらしき刃が2本背中に深く突き刺さっている。約森に溶け込むほどの緑色の体毛が血で赤黒く染まり、傷口からポタポタと地面へ落ちる。

 満身創痍状態。けれど、その瞳に死という恐れがなく、必死に生きようとする意思が感じられる。

 そして、そんな活力を断ち切ろうとする者がグリーンタイガーの背中に乗っていた。否、しがみついていたほうが正しいだろう。

 グリーンタイガーから背中に突き刺さる2本のナイフの柄を握り締め、振り落とさぬようにしているアイヌ民族の民族衣装らしき服を着た犬のような人型の魔物――コボルドと呼ばれる魔物がいた。


 宇宙娘から見せてもらったデータにもコボルドに関する情報もあった。

 コボルドは魔物に分類されるが、会話ができるほどの理性と知性を持ち合わせ、集団で狩りをするという。

 おそらく、コボルドがグリーンタイガーを狩猟している最中、グリーンタイガーが逃げ出し、逃がさないとして一匹のコボルドがへばりついたってところか。

 約五キロメートルを爆走する獣にしがみつくとは、あのコボルド(分析によればメスらしい)の執念に称賛を覚える。


 ――GULOOOO!


 グリーンタイガーは俺に向かって吠える。

 その瞳には敵意が籠っていた。

 あれ? もしかして、俺を敵と勘違いしてる?

 傷口から溢れ出す流血が緑色の毛皮を赤く染め、ポタポタと岸辺の砂利に落ちる。

 グリーンタイガーのHPを確認すると全体の八割ほどが減っており出血多量により徐々に減少していた。

 あと数分もすればHPが0になってこの魔獣は死ぬだろうが――。


 ――GULOOOOOOOOO!!


 突然、瀕死のグリーンタイガーは俺に向かって飛び掛かる。

 こいつ、出血多量で興奮状態になってるのか!?

 俺はとっさの行動に驚き身構えるが、体格差がありすぎるため、そのまま押し倒されてしまう。


 ――GALLLLL!


 グリーンタイガーが俺の頭を噛み砕こうと、牙を向ける。

 俺の身体は虎の太い前足で押さえつけられ身動きができずにいた。


 俺はとっさに《剛力》《剛体》を発動させ、顎を掴み抵抗する。

 だが、筋力を耐久を強化しても、能力値の差は歴然だった。

 胴体が虎に抑えられ、両腕は俺を食おうと涎を流す顎を抑えるのが精一杯。

 スキル《不屈》の効果で恐怖心は抑えられ冷静に対処できるが、この巾着状態を打破する手段が思いつかない。


 ――GULOOOOOOOOO!!


 痺れを切らしたのか、グリーンタイガが片方の前足を掲げ、まるで日本刀のように硬く鋭そうなかぎ爪を伸ばし、振り下ろそうとする。

 あの爪がどれほどの威力があるか分からないが、強化したオークの皮膚など容易く引き裂くかもしれない。スキルの効果で痛みはある程度耐えられるけど、鉄をも引き裂く爪で斬られたら即死は確実だ。

 グリーンタイガの爪が振り下ろされる。


 ブッシュー!


 耳元の血しぶきらしき音が聞こえた。


 ――GAA!?


 同時に、グリーンタイガーの短い悲鳴もだ。

 グリーンタイガはエビ反りになって、俺を押さえつけていた前足を上げた。

 その隙に、俺は横へ転がり、グリーンタイガーから距離を取る。


 一体何が起きた、と疑問を抱くがグリーンタイガーの背中に答えがあった。


「逃がさない……絶対に…仕留める……!」


 先ほどまで気絶していたコボルドがグリーンタイガに刺さっていた刃で突き刺せたまま肉を無理やり切り裂いたのだ。グリーンタイガーの背中からまるでシャワーのように鮮血が吹く。


 ――GULOOO!?


 痛みに苦しむグリーンタイガー。

 離れろとばかりに、暴れ牛のように体を激しく揺らす。


「…うっ…!?」


 コボルドの彼女も体力の限界か、剣から手を離し地面にリバウンドして転げ落ちた。

 グリーンタイガーは立ち上がろうとする彼女に殺意を向け、とどめを刺そう一歩ずつ近づき――。


 ――オイ、こっちを無視すんな。


 俺はグリーンタイガーの首根っこを掴んで、そのまま背中に乗った。


 グリーンタイガーは突然のことに驚き、体を揺らすが俺は体ごとを密着させ飛ばされないようしがみつく。

 まるでロデオのような感覚だが、力を一切緩めない。

 このままグリーンタイガーの首を確実にへし折るため、奥の手であるスキル《特攻》を発動させる。


《特攻》

【三分間だけ、身体能力・攻撃力を最大限まで強化する】

【使用中、再生系・回復系のスキルが使用不能になる】

【使用中、SPの減少量・減少速度が倍になる】

【使用後、このスキルは二十四時間使用不可となる】


 グリーンタイガーは口元から泡を吹き零し、苦しそうに吠えるがまだしぶとい。

 スキルのデリメットで体力(SP)が減る。同時に、俺の内面から飢えが襲う。スキルの《飢餓》による衝動だ。グリーンタイガーとの消耗と《特攻》のデリメットが引き金となって発動した。

 《飢餓》の効果により能力値が上がり、グリーンタイガーとの能力値の差がほぼなくなった。

 

 ――いいや。まだたりない。


 首を絞められてもなおグリーンタイガーは足掻いている。

 能力値――とくに筋力ならこちらが上であるにも関わらず、一向に死ぬ気配がしない。

 スキルの効果か、それとも俺の知らない裏技でもあるのか。どちらにせよ、ステータスが上回っていれば勝てるほど異世界(リアル)は甘くないのは確かだ。

 このまま三分が過ぎれば《特攻》の効果が切る。そうなれば、能力値負けでグリーンタイガーから振り落とされ――殺される。


 前世で感じられなかった死への悪寒――と、恐怖。

 その感情に躰が硬直し、力が自然と抜けていく――。


 ――――――ドックン


 ……まだだ、岡崎麟之助。


 ――――ドックン


 …まだ…勝負は…。


 ――ドックン!


 終わってはいない…!


 ドックン!!


 俺の中で何かが起動(こどう)した。

 まるで、歯車ががっちりと嚙み合った様に。

 まるで、プログラムを書き換える様に様に。

 肉体と魂が塗りつぶされ改変されていく。


「ぐぅぅ…!?」


 同時に頭痛や激痛が体中が走り、吐き気がする。痛覚耐性があるのにも関わらず、耐性を超えるほどの痛みが体中に襲う。

 しかし、それと比例して体中から溶岩のように沸々と力が溢れてくる。


 メキメキ!!


 ――GAL…GUH!?


 俺より強かったはずのグリーンタイガーの首から軋む音が鳴る。

 首を絞められたグリーンタイガーは呻き声を上げ、苦しみだす。


 何が起きたんだ?

 俺は困惑するが腕の力を緩めず、締め落とす勢いでさらに力を入れる。

 分かっているのはこれが最大のチャンスだということ。

 グリーンタイガーは俺を払い落とそうとす必死に体を揺らし続ける。



 ここで、ふと、不謹慎なことを考えてしまった。

 …(こいつ)って食えるのか?

 虎で緑色だが、肉であることに変わりはない。

 むしろ飢餓状態だから、余計に肉が食いたくなってきた。

 無意識に、グリーンタイガーの右耳に涎を垂らす口を近づけ――


 ガッリ!!


 ――GAOOOOO!?


 頭蓋骨ごとグリーンタイガーの左頭部を噛み砕き咀嚼する。

 筋力が上がったから咀嚼筋も強くなり硬い骨もバリバリ噛み砕くことができ、《雑食》のおかげで食べた瞬時に消化・体力回復ができた。

 グリーンタイガーは自分の頭が半分、食われたことに驚嘆し恐怖する。

 にしても、頭を半分食われても絶命しないとは。ゲームみたいにHPが完全に0になるまで死なないらしい。


 ならば、その命のひとかけらも残さず食い尽くすのみだ。

 首に噛み付き、皮ごと噛み千切っていく。


 ――GALOOOOOOOOOOOOOON!?


 生きながら食べられていることに恐怖するグリーンタイガー。

 だが、俺は食べることやめない。

 こんなおいしい肉を食べ残すなんてもったいない。

 生で血生臭いが、新鮮で程よい噛み応えがあって美味い。

 今度は肩ロースを味見。



 ――GALOOOOOOOOOOOOOON!?!?


 命乞いをするかのように悲鳴をあげる緑の虎。

 俺はそんな断末魔を無視しなら、虎の活き食いを続けた。




 数分後。そこにグリーンタイガーの姿はなく、あるのはグリーンタイガーの肉片と骨、体中に刺さっていた凶器類。

 そして、血で赤く染めた砂利だけだった。

 獣の死骸がなければ猟奇的殺人の現場だなこれ。


 グリーンタイガーを丸ごと完食したことで飢餓状態からようやく解放されたが、冷静に考えたらやりすぎたと自覚する。

 …《雑食》と《飢餓》のコンボは禁止しておこう。

 今回は猛獣だったからよかったが、もしも相手が人だった人喰鬼確定だ。

 人外になったが心まで変態バケモノになるつもりはない。

 というかグロ無理。お化け屋敷の出し物ならギリギリだが、ホラーとかスプラッター系はガチで勘弁。



「…………」


 コボルドの女の子?が、じー、と警戒しながらこちらを見つめている。

 双眸から困惑や恐怖がわずかに感じられ、グリーンタイガーに刺さっていたもう一本の刃毀れした剣を握っていた。

 まぁ、目の前で大型の肉食動物が赤ん坊サイズの化け物に食い殺されたのだ。

 警戒するのは無理もない。

 コボルドの娘が言う。


「貴方…オーク…?」


 オークだ。と言いたいが、俺はまだ赤ん坊だから声を発することができなかった。

 なので首を縦に振って肯定する。


「私…も…食べるの…?」


 それは食材的な意味か、それとも性的な意味なのか。

 オークだから両方ともありだろうが、相手がケモロリだとどうなんだろ?

 もっとも、俺はケモナーでないので、そんな毛は一切ない。

 現物で見ると、コボルドという魔物は、愛玩動物のように小柄で愛らしく、まるでマスコットキャラのような生き物だった。

 こんな子に手を出したら動物保護団体と教育委員会と幼女愛好家に捕まって変態の烙印を押されて死刑されてしまう。

 なにより俺は、オタク眼鏡の教育によって「イエス、ロリ、ノータッチ!!」の精神をとことん叩き込まれた紳士だ。


 ファンタジー世界の汁男優代表になっても、貞操概念と道徳は守り通す!

 たとえ、それでオークでありながら童貞を貫き通すことになったとしても――!


 ……と、もっともらしい建前を叫んでも、正直に言えば恋愛とか性病とか子供とかそういう責任の重りや面倒ごとが嫌なだけで、異性に興味がないわけでもない。

 前世思春期まっさかりだったし……改めて考えるとここって異世界だから娼館があるだろうなぁ…。

 オークじゃなかったら行ってみたかったかも。


「? 本当に…オーク……なの?」


 怪訝な眼差しで呟くコボルドの娘。

 失礼な。どっからみても立派なオーク(の赤ん坊)………だよな?

 グリーンタイガーを食い殺した時の力といい、スキルの質と数といい、元のスペックの高さといい、俺が想像してたオークと比べてかなりの高性能。

 転生してから今の自分の姿をはっきりと確認していないから不安だ。

 ただでさえ、転生させたのがあの宇宙の神(幼女)だからなー。ミスしていないか疑いたくなる。

 

 溜息を吐くとコボルドの娘は俺を見てクスッと微笑し、剣先を地に向けた。

 どうやら、俺が敵でないと判断したらしい。剣を離さないのはまだ警戒してるためだろうが、敵意を緩めてくれるだけマシか。


 …ん?

 ずっと発動してた索敵マップに反応が……コボルドだ。

 十中八九、この娘の関係者だろう。数は……げっ、26体!?

 しかも、全員がLV30~40とグリーンタイガーを超えていた。

 能力値的に筋力や耐久、敏捷はグリーンタイガーに劣るが、それでも一般人の数値より高く、敏捷と器用は四桁台。

 そんな奴らがあと五分ほどでこちらに来てしまう。

 

「なんで…慌ててるの…?」


 俺が森のほうに視線を向けてオドオドしてると、コボルドの娘も森に視線を向け「…仲間…迎えに来た…」と呟く。彼女も森からやってくる仲間たちの匂いで気付いたようだ。


「私の仲間…会うのが嫌…?」


 いや、だって、この状況だと絶対に誤解するだろ?


 肉片しか残らなかったグリーンタイガーの死骸に広がる血痕。


 グリーンタイガーの返り血で体中血まみれになった俺オーク。


 満身創痍で剣を持つコボルドの娘。


 はたから見れば、俺がこの娘を襲ってる光景にしか見えない。


 誤解を解こうにもオークの言葉を信じてくれるどうかわからない。それ以前に、俺はまだ発音できないし、なによりコミュ障が大勢の人間――なかったコボルドの面前で会話できるかどうか。

 逆にこの娘が説得くれればいいけど、独特な間がある娘だがら、説明する前に集団リンチされる可能性がある。

 積んだか、俺?


「困ってる…なら……私が逃がしてあげる…」


 俺の心を察したのかコボルドの娘が剣を捨てて俺に近づき両手を握る。

 なにを――と首を傾げた次の瞬間――視界に青空が広がった。


 ザッバーン!!!


 ぶっは!?

 一体何が起きた!?

 思考が正常なったとき、俺は水の中にいることに気付く。

 まさか川に投げ飛ばされた!?

 川から上がろうとするが、地面に足が付かず、流れが速いところだったので、岸辺まで泳ぎ切ることができない。

 赤ん坊だが重量があるオークである俺は沈まぬよう必死に水面から顔を出し息継ぎをする。

 岸辺に俺を投げ飛ばしたコボルドの娘が無表情でこちらを眺めていた。


「この川…下れば…安全な場所に流れ着く…最後に滝つぼがあるけど…オークは頑丈だから…平気のはず」


 あーなるほど…それは名案だ。

 これならコボルド達とエンカウントせず、別の場所へ移動もできる。

 まさに一石二鳥だ。

 

 犬娘のおかげで転生してから喋れなかった今なら喋れる気がする。

 俺は、段々と遠ざかっていく犬娘に向けて――叫んだ。


「その前に溺れて死ぬわボケェエエエエ!!!」


 異世界で初めてのツッコミを言い終えた俺はそのまま川の激流に飲み込まれていく。

 あの犬娘……今度会ったらその体をモフモフしてやる…!



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