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32 釣りキチ豚骨

仕事の都合上、半年ぶりに投稿できました。

亀更新ですがこれからもよろしくおねがいします。


 昼食を済ませた俺は街の中央付近に建てられた研究所に足を運んでいた。


 まるで豆腐のような窓の無いシンプルな白い外装の施設。ここは花娘が親方たちに頼んで建築した彼女の個人の研究所(おもちゃばこ)である。

 そのため基本的に花娘“たち”しか利用しておらず、毎回、彼女のろくでもない研究や実験がこの施設で行われている。

 どういった研究内容なのかは例えを上げたいところだが、下手をすればSAN値直葬されるレベルなのであえて説明しないでおく。


 真っ白い廊下を歩いていると、窓ガラス越しになにやら無骨な大型機材や旧式のスパコンらしき設備がちらほら目に入る。

 ファンタジーの世界なのに、ここだけ時代が違いすぎる。

 これもスキルの恩恵で得た技術だろうが、背景的に昔の特撮番組の悪の秘密結社の研究所といって過言ではない。

 というか、廊下に積まれた段ボールから見覚えがある黒い全身スーツと覆面がはみ出ているのだが……。


「おや? あなたさまが此処に来るなんて珍しいですわねぇ」


 声をかけてきたのは白衣を来た花娘――の分身(クローン)だ。


《増殖分身》

【SPを消費することで自身の分身を無制限に生み出せる】

【分身はこのスキルの使用時の所有者の記憶・人格・ステータスをもつ】


 花娘がもつスキル《増殖分身》で無制限に生み出された彼女の分身体の一体であり、多くの分身体は基本的にこの研究所の職員として働いている。

 なお、本人と区別できるように分身体には額に生まれ順に記号と数字が刻まれている。彼女の額にはR-03が刻まれているため、初期から三番目の分身(ラウラ)だ。


「ちょっと野暮用で研究室ひとつ借りに来た。本体(ラウラ)は居るのか?」

「オリジナルでしたら東棟の二階十三号室にいますわよ」


 分身(はなむすめ)に教えてもらった俺は彼女と別れ、言われた場所にたどり着く。

 二階十三号室と書かれた分厚い鉄の扉を開ける。


「ラウラ~、邪魔する――」

「ヴォホオオオオオオオオ!!!」

「――ぞ、って、なんじゃこりゃ!?」


 扉を開けた先には、無骨な並べれられた手術台の上で金属製の拘束具で四肢を拘束され巨大な装置にケーブルで繋がれたヘルメットをかぶった数十人の男女が嬌声交じりに絶頂していた。

 手術台には先端が怪しい注射機と鋸状の刃に鉤爪、あげくに大人の玩具らしき太いバイブが先端になったアームが伸びており、さながら悪の秘密結社に改造される一般人の構図そのものであった。

 ……もしくは変態科学者によって淫乱へと薬漬け&肉体改造される主人公たちの構図。というか、後者が正しいだろう。さっきから「もっとほじくって」とか、「もっと絞って」とか、涎を垂らしながら懇願しており、乳首らしき突起がピチピチのスーツ越しに張ってるし、股間の周りなんて……これ以上言うと十八禁になるから、あえて言わないでおこう。


「おや、あなたさま? 何用にこんな場所に?」


 横を振り向くと、分身同様白衣を着て、また珍しく眼鏡をかけた本人(はなむすめ)がいた。

 手には怪しい色をした薬品が入った試験ととてもおっきい極太バイブをもっていた。

 おい、その手にあるやつで何をする気だった。


「何用という以前に、おまえこそ何しようとしてたんだ?」

「見ての通り人体実験ですけど?」


 さらっと、外道な解答を述べる花娘。

 その表情に悪意らしきものは感じられなかった。


「あの襲撃事件のおかげで手ごろな実験材料(にんげん)が手に入れましたので、試したかった薬品や改造技術を徹夜でやっておりますの」

「道理でここんとこ工房に泊まり込んでいるわけだ」


 ポーカーフェイスで会話するも内心ドン引きする俺をよそに、花娘は手に持った薬品を極太バイブにかけると近くにいた被検体(女性)のに躊躇なく突き刺した。

 被検体(女性)は悲鳴と嬌声が混じった絶頂を吐き出し、拘束された身体を激しく震えさせる。

 叫びながら花娘への罵倒と神への懇願を訴えるが、花娘は気にせずその様子をレポートしていく。


「伊達に精鋭部隊であって薬や異常状態などの耐性は高いですが、その分、貴重なデーターが取れますのでやりがいがありますわぁ」


 うっとりとした表情で鼻歌を歌いながら、先端が針になった二本の触手を被検体(女性)のこめかみに突き刺す。同時に液体らしきものが触手から針へ通り、実験体(女性)の頭部へと注がれていく。

 とたん、被検体(女性)は声にならぬほど悲鳴を上げ、全身から大量の液体を噴射させ気絶。白目をむけながら体をビクンビクンと痙攣し、股間から黄色い液体を垂れ流す。


 ……いやさぁ、凌辱系のエロ同人誌は好きだけどさぁ、三次元――しかもリアルで凌辱シーン(ハードプレイ)はさすがに無理だわ。

 ジャンルだけ聞くとエロい想像をしてちょっと興奮するのが思春期の男子だけど、生で観るガチの悲鳴と涎と汗まみれの汚いアヘ顔が生理的に受け付けないというか、もはや俺の息子は萎えるのを超えて苛立ちを覚えてしまう。


 幸い、相手が悪党なので義憤や罪悪感はほぼないのが救いだ。これがもし善良な一般市民ならSAN値が減っていたかもしれない。


「そうそう、ある程度実験データら取れたら被検体は廃棄せず、男を女体化させて、女ともども性欲処理用の肉便器に改造して専用施設に設備しておきますので、ムラムラしたら男の冒険者方々と一緒に利用してもよろしくてよ」

「せっかくだけど遠慮しますッ」


 悪意の無い善意のプレゼントであろうが、俺に肉便器で愉しむ趣味は無い。いや、二次元なら好きだけどリアルで肉便器を体験できるのは思春期の男子にはレベルが高すぎるというか、早すぎるというか……。

 ってか、あいつらまで巻き込むなッ。性癖を拗らせる気か!?

 あと、女体化した肉便器はいらん。TS系は嫌いなジャンルだから俺ッ!


「あらあら、彼らと穴兄弟になるのは嫌ですか。しょうがないですわねぇ。なら実験体の中で素質が良いものを貴方様専用のダッチ〇イフに――」

「それよりも、お前も釣り大会に参加しないか!?」


 淫乱モンスターからさらにとんでもない禁止ワードが飛び出しそうになったので、急遽話題を変える。


「釣り大会ですの?」

「あぁ、なんでも義姉が……」


 俺はさきほどの訓練の様子と釣り大会のことを説明する。


「ぎっししし、二週間しか経っていないというのに、長としての貫禄が出てきましたわねぇシャルロット様は」


 親友の成長ぶりに笑みを浮かべる花娘は部屋の片隅で沸かしていたコーヒー(正確にはコーヒー豆ぽい豆を代用した飲料)を触手で器用にコップ二杯に注ぎ、片方を俺に渡すと、淹れたてのコーヒーを飲む。

 うーん、異形な容姿を除けば友人想いな知性的な少女なのに、なんであんな淫乱でマッドサイエンティストなんだろうか。

 その性癖が無ければ完璧ヒロインなのに、とそう思いながら彼女が淹れてくれたコーヒーを口にする。

 うん、うまいな。老舗の缶コーヒー並みに旨い。


「しかし、釣り大会ですか。面白そうですわね。たまには外で遊ぶのもいいですし、私も参加しますわ」

「了解。あとで義姉に報告しておくから。……ところで、外出してる間被検体(こいつら)どうする? 聞いた話、釣りが終わったら夜通しで宴会するかもしれないとか言ってたんだが……」

「う~ん、釣りの日まで時間がありますし、その間、試したい実験を一通り終えたら分身(わたし)たちに管理を任せておきましょう。今のところ冒険者(かれら)たちを実験台にはできないので、あまり実験材料(にんげん)を無駄に消費させたくありませんし」

「是非ともそうしてくれ」


 このマッドサイエンティストの言葉に俺は嘆息して呆れる。

 ……つまるところ、よほどのことがあれば冒険者(あいつら)を躊躇なく実験材料にするということか。


 初対面の頃に比べてだいぶ丸くなったが、ときより厄介ごと(主に魔法娘筆頭が)起こすから下手すれば被検体(こいつら)の仲間入りになるかもしれないな。


 手術台の上で痙攣している被検体たちを眺めながら、冒険少年少女たちがバッドエンドにならないことを心から祈る。

 なお、俺はかばうなどのことは一切しない。バッドエンドになってもあいつらの自業自得だし、そこまで面倒を見る気はない。


「そうそう、スキルで釣り大会場所についていろいろと検索してみましたら、どうやら湖の底に海に通じる地下水があり、そこから産卵目的のために地下水を通った海魚が湖で繁殖するので結構な魚が釣れそうですわよ」

「まるで鮭みたいだな。いや、鮭は川を昇るから違うか。で、味のほうは?」

「この時期だと、卵を産むため湖の魔力で体力を限界まで貯めるので脂がのって美味だと検索で判明していますわ。焼いても良し、煮ても良しな上、湖のおかげで寄生虫が駆除されるため刺身でもいけるようです」


 湖の魔力?

 なにやら重要そうなワードが出てきたが、刺身という単語のほうが重要だ。

 なんたってここ転生してから今日まで淡水魚しか食べていないから、新鮮な刺身は初めてだ。

 是非とも食べてみたい。


 ん、転生したその日に生魚を食ってなかったかって?

 あれは魚を丸ごと生で食べただけで、刺身として食べるとは別だ。

 しかも淡水魚と海水魚では生の旨さは違う。ここ重要。


「ところで、あなた様。なにしに研究所へ? 暇潰しにわたくしに合いに来た……訳ではありませんわね」

「あぁ、ちょっとばっかし釣り具を作りにな。釣り竿は俺と犬娘の分しか無いから若い冒険者(あいつら)の分を作らないといけなくなってな」

「でしたら研究所(ここ)ではなく工房や工場で製造したらよろしくては? あそこなら予備の分も合わせて同じ品を大量に生産できますし」

「いや、今日の訓練で新しい素材が手に入ったから、釣り竿を生産する前に新作のルアーを作ろうと思ってな。薬品とか使うから、薬剤と器具が揃ってる研究所で作ったほうがいいだろ」


 そういってアイテムボックスから犬娘と俺で仕留めたのち、解体された破城犀とレッドレックスの素材を取り出す。


「破城犀とレッドレックスの骨に牙、それと角ですか。外の世界だと一級品の武具の素材なのに、釣りのためのエサにするとは贅沢ですわねぇ」

「魔物の素材で作ったルアーのほうがよく釣れるからな」


 ちなみに、魔物製ルアーは犬娘から教わった。

 はじめのころは、こんな素材で大丈夫かと思ったが予想外によく釣れた。

 それ以来、趣味のクラフトに魔物の素材を使ったルアーが追加され、暇があればオリジナルのルアーを作るようになった。


「あと、此処にない素材は冒険者たちの新しい武具に使うから、鍛冶担当のシャルロットに渡しておいたぞ」

「新しい武具ですか? たしか三日ほど前、分身(ワタクシ)とシャルロット様が手伝って彼らが装備していた武具をほぼ修繕した記憶がありますが?」

「今日、レッドレックスに挑んだ班が修繕できないレベルまで壊してな。作り直すなら、全員の武具を新調することになったんだよ……」


 俺は肩をすくめ、花娘は「あらら……」と袖で口元を隠し苦笑する。

 今頃、拠点に戻った犬娘があいつらの装備作製のための工房で下準備している頃だろう。設計にデザインから部品の準備までいろいろと手間がかかるから今日は徹夜だなありゃ。

 今晩のおかずは犬娘が好きなやつにして、工房に持っててやるか。


 その後、花娘と少し談話した俺は花娘から空いている研究室を借りることにした。


「それじゃぁ、分からないところや魔法技能が必要だったら呼ぶしな。あと、もしも冒険者たちが来たら上の階にいるって伝えといてくれ」

「はいはい、分かりましたわ」


 そう言いながら拷問器具らしき道具を片手に被検体たちの前に立つ花娘に若干引きながら俺はこの拷問部屋(けんんきゅうしつ)を後にした。













「――最初は面倒見るのを嫌がってた癖に、なんだかんだで面倒見がいい保護者ですこと」




 ●●●




 まるで学校の理科室のような研究室に着いた俺はさっそくルアーの作成に取り掛かった。


 今回使う材料はこちら。


・破城犀&レッドレックスの骨・角・牙


・針状に加工したグラビティメタル


・金箔上に加工したミスリル


・孔雀蛇の羽根


・ヒヒイロカネの釣り針や金具その他


・接着剤や塗料などの薬品多数



 まずははじめに、魔物の骨と角と牙を複数の大量の薬品が入った大型の鍋に漬け、一時間ほど沸騰させながらアクと雑味だけを抜く。

 花娘によれば、魔物の骨はレベルが高い個体ほど旨味を蓄えているらしく、ダシにすると別嬪。その旨味から骨までしゃぶる魔物もいるという。

 また、角や牙も薬の材料や象牙のような美術品に加工できるなど価値が高いとのこと。


 今回はルアー作製のためあえて骨からダシを取らず、薬品の効果でアクと雑味および雑菌処理をする。

 こうすることで木製よりも頑丈で、劣化しにくくなるのだ。

 ちなみに、これらの薬品類は花娘が錬金術で作成してくれた。

 異世界の化学(?)は凄い。


 骨などを茹でてる間、ルアーの重り兼心臓兼釣り糸を通す金具となる芯を作る。


 芯には針状に加工したグラビティメタルと金箔状に加工されたミスリルで作る。


 このグラビティメタルというのはこの異世界において最も重量がある金属らしく、針のサイズの加工したのに一キロ以上の重さがあるのだ。

 重りなら鉛や鉄など普通の金属を使うところだが、小さくて細いルアーの芯にするには加工が難しく、下手に大きくすればルアーがひび割れたり、逆に小さくすると重量が足りずただの無機物が浮かんでいるようになってしまう。

 その点、グラビティメタルは爪サイズでも十分な重さを持っているためルアーの芯として丁度良く、しかも、グラビティメタルの性質なのか、どんな激しい水の流れでもルアーを安定させ、生きた魚が泳いでいるように見せてくれる。


 そして、この芯づくりに欠かせないのが金箔状のミスリルだ。

 異世界において定番な魔法金属。

 見た目アルミホイルを丸めたような見た目で結構柔らかいが、これを薄く延ばして剣や防具の表面に張り付けて接合・鍛造することで魔力が籠った魔法の武具となる。

 魔力が籠った武具は基礎となった武具の攻撃力や特殊効果を強化するほか、魔力が籠っているから物理無効だが魔力による干渉に弱い対象に有効なので上位の冒険者たちはミスリルの武具を愛用している。

 ちなみに、シャルロットやコボルドたちが使ってる武具もミスリルが使われている。



 コボルドって、たしかゲーム的に雑魚モンスターなのに、装備してるアイテムが強いなんてゲームバランスが壊れてるなぁ。


 ちょっと偏見なことを考えながら、針状のグラビティメタルを釣り糸を通す穴の部分を除いて金箔状のミスリルで巻いていく。


 なぜ、魔法の武具の製造に必要なミスリルをルアーの素材に使っているといいますと、実はミスリルを加工すると魔力が籠められるという特性が釣りにとって重要な要素になっているのだ。


 というのも、異世界の魚が獲物を捕るとき、水中で対象の魔力で探知し、魔力の量を基準に獲物を選ぶ。

 魔力が大きいものは味がうまいが同時に強く、魔力が小さいものは味はまぁまぁで捕食は可能。その判断で食事をしているとのこと。

 逆に言えば、たとえ旨味成分が溢れている生物がいたとしても魔力が無い=生物でないと判断するため、無機物である疑似餌には食いつかず、大抵の漁師や釣り師は疑似餌ではなく生きた小魚を餌にして吊り上げるのが一般だ。


 もっとも、この技法以外の裏技が存在しないわけではない。

 その裏技がミスリルを利用した疑似餌だ。


 なぜなら、異世界の魚は生物の魔力を探知して餌を選ぶため、魔力が籠った疑似餌だと生きた生物と誤認して食いつくのだ。

 しかも、ミスリルなら武具と違って魔法や外傷からの防御などで魔力が消耗しない限り半永久的に魔力を貯め続けることができるため、長く利用できる。



 まぁ、もっとも、ミスリルをつかったルアーを使うのは俺と俺にミスリル入りルアーを教えてくれた犬娘とコボルドたちくらいなもので外の世界だと活用しているのはごく一部の釣り師(金持ち)のみだが。


 なにせ、ミスリルって希少金属だからルアーに使うってことは無い以前に誰も思わないだろう。主に貴族や騎士団や上位の冒険者の武具に使われているし。


 ……その希少金属がその辺の石ころ並みに手に入るってリーベルク大樹海は凄い場所だな。

 芯に使ってるグラビティメタルもミスリル以上の希少金属なのに親方たちに頼めばすぐに発掘してくれるし、資源の山だな此処。


 おかげで愉しいクラフトができるのがありがたいけど……、と内心微笑を零しつつ、針状のグラビティメタルを金箔状のミスリルで巻き終えたらハンマーで叩いて細い板状に加工。ただの針ならハンマーで砕けてしまうがグラビティメタルは鋼鉄以上に硬いためハンマーで強く叩きつけても砕けないから問題ない。

 厚さ一ミリ以下の小さな金属板が出来たら、バーナー(魔導具製)でミスリルを熱し、数回ハンマーで両面を叩いてグラビティメタルの芯と融接していく。この時、ミスリルを熱することでミスリルに含まれる微量の魔力が化学反応を起こし、内部で魔力が溜まるという(花娘談)。

 ただし、ミスリルの温度をむやみに上げ下げしてり、下手に叩いたりすると、魔力が活性化しなかったり、せっかくの魔力を漏らしてしまいただの鉄くずになるなど、ミスリルの加工で一番むずかしい作業である。そのため、ミスリルを扱える鍛冶師はごくわずかで、国に一人いるかどうかのレベルだとか。


 あと、俺はミスリル製の武具は作れない。

 一様、興味本位で犬娘から鍛冶の技術をならったおかげで鍛冶系のスキルを習得したけど、達人レベルとはいかない。金属細工系および器用性強化系のスキルで応用すれば、ミスリル製の装飾品なら問題なく作れるくらいだ。


 さて、見た感じミスリルとグラビティメタルが融接したぽいので熱した金属板をぬるま湯の油(+複数の薬品入り)につけて急速に冷やして固める。

 冷えたら油から取り出し、表面の水滴を布でふき取ると、キーホルダーのような金属板が完成。

 最後に魔導具のライトの光で表面に亀裂が無いか確認する。一ミリでも亀裂があればそこから魔力が漏れてしまう原因になり、時間差でただの金属のキーホルダーになってしまうため、視力系のスキルを並列使用して慎重に確認していく。


 ……よし、亀裂無し。


 ルアーの芯が完成した。

 薬品で茹でていた骨なども丁度良く雑菌処理が終わり、鍋から取り出して付着した薬品を布で一本ずつ拭いていく。

 そして骨を鉈でへし折り、内部の骨髄を削り取って表面の骨膜と分別。粉砕機に別々に入れて粉状になるまで粉砕していく。

 その間にレッドレックスの爪と牙、そして破城犀の角を加工していく。これがルアーの素体となる。


 まずは鉤爪のような太い爪と牙を魚を捌くがごとく専用の刃物で平らに切り分ける。魔物の爪は鉄並みに丈夫だから多少強引に切断しても亀裂や破損する恐れないから楽だわ。

 そのあと、爪と牙の中身を彫刻刀(ミスリル製)などで削り空洞にする。同時に、ルアーの頭部となるところに穴を空けとく。切り分けた爪と牙を張り合わせるときルアーの芯および釣り糸を通す金具が邪魔になり、隙間ができるのを防ぐための溝堀だ。

 肉抜きと金具の溝堀ができたらそこに、接着性のあるパテ(樹脂製)を淵まで注ぎ、つづけて先ほど作ったミスリルの金板および釣り糸と釣り針の金具を溝にはめ込む。

 見た目、餡子を注いだ時のたい焼きのようで、ちょっと旨そうだ。

 さて、半分に切ったもう片方の爪と牙にもパテを淵まで注ぎ、先ほどのパーツとつなぎ合わせる。

 このとき完全に接合するよう、万力とかの道具で挟んでおく。あとは接着が乾燥するまで待つ。


 その間、粉状にしていた骨を特殊な薬品を複数混ぜ、数種類に分別。それぞれに色が違う着色剤を混ぜ合わせてルアー用のインクにする。


 なぜ、魔物の骨で顔料を作ったのかというと、水に浸すとうっすらと骨の旨味成分が溶け出し魚を引き寄せる効果があるからだ。

 ちなみ、制作過程で薬品を大量に使ったが生物的には無害なので問題ない。


 接合が乾いた本体を万力を取り出すと切り口からパテがはみ出ているのでヤスリで削り取り表面を研磨。

 つづけて、専用の彫刻刀で鱗や目などを彫刻し、色を付けていく。

 今回は水面から見えるよう、光に反射するゴールドとシルバーを軸にしてみた。

 最後に、孔雀蛇(孔雀の羽根をもつ鮮やかな蛇の魔物)の羽根を尾ひれの代用として尾に装飾し、腹にヒヒイロカネ(異世界において最硬度の金属)の釣り針を装着させて完成。



《高級手作りルアー》

【魔物の素材で作った擬餌】

【魔導具としてのランクは星五つ】

【純度の高いミスリル製の芯を使用しているため、どんな魚も擬餌を生きた魚だと誤認する】

【旨味のある骨粉の顔料を使用しているため、どんな魚もたまらず食いつく】

【ヒヒイロカネ製の釣り針は最大級の魔物でも決して折れず曲がらす噛み砕かれることはなく口内を容赦なく抉り引っ張り上げる】

【高レベルの魔物の素材および貴重金属を材料にしているため値段は最低でも金貨百枚以上は下らない】


 鑑定系のスキルで確認したら、相当な出来だった。

 ちなみに魔導具としてのランクは製作された品物がどれだけの品質および価値があるかを示す目安のことで、花娘によれば最高で星七つだとか。

 う~ん、あと二歩手前か。せめて星六まで届いてほしかったが、それでも金貨百枚以上の価値があることに、ちょっと嬉しいかも。


――PURUN!


「お、ミナヅキか。遊びに来たのか?」


 作業台の上にミナヅキが現れた。

 構ってほしくてやって来たのだろう。

 ミナヅキは作業台に並べられた三種類のルアーをジィ~と見つめる。


「新作のルアーだ。どうだ、なかなかの出来だろう」


 久々の自信作に胸を張る。

 すると――



――PURN! パクッ!



「ぎゃぁああああああああ!? おまえ、なに食ってんだッ!」


 子犬が拾い食いしたかのようにルアーの一つが丸呑みされてしまった。


「こら! ぺっ、としなさい、ぺって!」


――PURRRRU! もぐもぐバキバキめきめき!!


 吐き出させようとミナヅキを掴もうとするが水色の球体は小回りが効く体と素早さで研究室中を跳ね回りながら逃げていく。

 しかも、あの小さな軟体からものすごい音が鳴っている。例えるなら、骨が砕く音に加え金属が軋む音……、だろうか。

 スライムに歯がないのに、なんであんな音がでるわけ!?


 というかナニを噛み砕いてるんだ、あの粘着生物は!?


 数十分かけてようやく捕まえたが、同時に水色の球体から何かがふたつ吐き出される


 それはアルミホイルをくしゃくしゃに丸めて潰したようなさび色の鉄塊――変色し籠められた魔力を吸いつくされたミスリルとグラビティメタルの板の残骸。


 そして、ひび割れ捩じり曲がった緋色の釣り糸――けっして曲がらず破損しない異世界最硬度の金属の釣り針の残骸。


 ルアーの本体はこの粘着生物に消化されたのだろう。魔物の素材で作ったから食べれないはずが無いだろうが、決して破壊することが出来な金属をどうやったらこんな屑鉄にできるのだろうか。


 俺の掌で「もっと、ちょうだい」と強請る水色の球体に内心ビビる。




●●●●●



 ルアーを一個損失したが、残りの材料でさらに追加して作ったらもう夕方前になっていた。

 夕飯の支度をしなくてはいけないが、せっかくのルアーを試したいので晩御飯のオカズを一品増やすため穴場の滝つぼで魚を釣ることにした。

 ちなみに、ロッドは俺のルアー作りを察して犬娘が試作品として“数本”作ってくれた。

 あとで、犬娘だけデザートをすこし増やしておこう。


「ほぉ、こんないい穴場スポットがあったんだな」

「いかにも魚が釣れそうな場所だな」

「うんうん。それに滝つぼって初めて見たけど風情があってなんかイイ感ね」

「あれ、ニーナは滝つぼを見たことないの?」

「山育ちのおまえは知らないだろうが、大抵のやつはら城下町や平坦なところに住んでるから見かけないものだ。俺みたいな貴族や王族なんかは東国の島国のわびさび?という風習を見習ってガーデニングや別荘とかで人工の滝を作るからみなれているが、こういう天然でしかも大きな滝は始めて観たな」


 後ろのほうで槍戦士と女戦士と格闘娘と弓娘とボン騎士が雑談していた。

 なぜ、彼らがいるというと、俺が犬娘からロッドを受け取っていた時、工房で武具の手入れしていた彼らに見られてしまい興味津々で付いてきたのだ。

 本来ならひとり静かに釣りをしてみたいが、試作品のルアーとロッドの性能のなら大勢のほうが良いため、仕方なく連れてきたのだ。


「はいはい、無駄話をしてる時間はないぞ。あと数時間でここら一帯が暗くなるし、晩飯の用意もしなくちゃいけないからな」

「へいへい了解だよ、豚の旦那」

「山育ちで磨いて腕前、見せてやろうじゃない」

「そんでもって晩飯のオカズを増やしましょう!」


 女戦士と弓娘と格闘娘は気合を入れる。

 とくに山育ちで幼少期から川魚を釣っていた弓娘には俺的に期待している。


「しっかし、いい釣り竿と擬餌だぜ。たしか、このロッドって希少金属を複数合金した特別製だったよな。大量のミスリルとダマスカスガネで何を作っているか分からなかったがまさか釣り竿の材料にするなんてな。最初目を疑ったぜ」

「たしかにな。しかもレッドレックスの素材でルアーを作るとか頭が可笑しくなる。あの魔物の素材も高級品だったはずだ。素人目だがこの釣りセットで金貨が数百枚は下らないだろうな……」


 槍戦士とボン騎士がロッドとルアーを褒めながら品定めしている。

 ちなみに、鑑定したらロッドが一本金貨千枚なのでルアー合わせて最低でも金貨数千枚以上は固い。


 たいしか、前世の金銭感覚だと金貨一枚が約一万円程度だから、金貨数千枚以上だと約一千万円以上……。


 真面目に考えたらこの釣り具、とんでもない高級ブランドだなコレッ……!?


 もっとも、金額を口にしたら庶民派の槍戦士たちだけでなく貴族であるボン騎士なら絶句あるいは気絶するかもしれないからあえて言わないでおく。


「えーと……あそこだな」


 夕方近くなので水面が薄暗いが、透視系のスキルを使って魚の位置を把握。

 食いつきそうな位置にルアーを投げ込み誘うように揺らしならルアーを巧みに操ると魚がルアーに食いついた。


「よしっ!」


 器用系および筋力系さらに幸運系のスキルを並列化させ、吊り上げる。


「こんなもんかな」


 釣りあげたのは俺が転生して初めて食べた川魚である金槌魚である。


「おいおい、金槌魚じゃねーか!?」

「まさか、あの高級魚が釣れるとは!」


 周囲が俺が釣った金槌魚を見て騒ぐ。

 そういえば、この川魚は相当な高級魚だったな。


「よし、わたしだって!」


 格闘娘が気合をいれてルアーを投擲する。

 ほかのメンバーも意気込んで釣りを開始する。

 すると格闘娘の数秒足らずウキが沈んだ。


「かかった!」


 格闘娘はとっさに釣り糸を巻き上げ、釣り上げた。


 ただし、それは魚ではなかった。



――PURUN!


「って、ミナヅキ!?」


 まるで水風船の如く格闘娘に釣り上げられた俺の従魔(あいぼう)であった。

 どうやら勝手について来たようだ。

 


 釣り上げたのが魚でなく見慣れたスライムだったことに格闘娘は唖然。

 ほかのメンバーにいたっては半数が苦笑い、もう半分(おもに槍戦士)が大笑いしていた。


 一方、食い意地が張った粘着生物はボリボリとルアーを咀嚼する――ってまたかよ!


「いい加減、ルアーを食うのをやめろ。ほら、間食用に持ってきたお菓子でも食ってとけ」


 呆然と立ち尽くす格闘娘に近寄り、お菓子を見せる。

 するとミナヅキはこちらに視線(眼は無いが)を向け、ルアーからお菓子に飛びつき、足元で黙々と菓子を食べる。


「悪いな、うちのペットが迷惑かけて」

「いえ、いいんです。……ただ、ルアーが……」


 格闘娘が仕掛けたルアーは、頭部以外が無くなりルアーの芯であるミスリルとグラビティメタルの金属板だけがさび色になって残されていた。しかも、粘液まみれのおまけつき。


「念のため予備を多めに作ってきたから問題ないぞ。ほら、新しい奴つけてやるからそのまま待ってろ」

「えっ、いえ、自分で付けますから!?」


 格闘娘が一歩下がろうとするがすぐさま彼女に近寄り釣り糸の先にある半壊したルアーを掴む。

 俺はすぐさま挟みで釣り糸を斬りルアーを外す。


 ……もうこのルアーは再利用できないな。


 ポケットから予備のルアー……格闘娘のカラーに合うルアーを選び、付け替える。


「あれ、そのルアーの色……」

「ん? おまえに合いそうなカラーのルアーがあったから付けたんだが嫌だったか?」

「いえ、とんでもありません!?」


 格闘娘は慌てて俺から目線を逸らす。

 

 すこし、馴れ馴れしかったかもしれないな。

 女性相手は犬娘と花娘だけだったらつい敬語なく話したから気を悪くしてかもしれない。

 まぁ、二週間以上は立っていてもコミ障である俺(しかも女性の天敵であるオーク)と会話したくないのは当然だろう。

 前世でも異性とは迷惑をかけぬよう関わらないようにしてたし、現世でも極力犬娘以外の異性とは触れないようにしておこう。


「――おい、あれってワザとじゃねぇ?」

「どうだろうな。種族はオークとはいえ、今は可愛らしい少年だからな。事情を知らぬ者から見たら少年少女の微笑ましい光景でもあるが……」

「そもそもオークがあんなモテ紳士のような芸当ができるかよ。間違いない。豚の旦那の中身は天然の女殺しだ。エリックの野郎も同じようなことしてたけど、アレとは大違いだな」

「そうそう、マミの靴紐を結ぼうとしたけど下心が丸見えだったわね、あいつ。しかも、最後にキザなセリフで決めてたらからすごく気持ち悪くて……。あんな風に、オーズさんの謙虚さを見習えってほしいものだわ」

「「「言えてる言えてる」」」


 後ろのほうでほかのメンバーがなにやらヒソヒソと話しているが内容が半分理解できない。

 さりげなく剣士君をディスってることは分かるが……。


「……ふぅ、気を取り直してもう一度!」


 格闘技娘が呼吸を整え、再度ルアーを投擲する。


「――ッ!? また、かかった!」


 先ほどと同じく、器用な手つきでロッドを捌き、釣り糸を巻いていく。


 釣れたのは――。



――PURUN!


「って、ミナヅキ君!?」


 またしても、我が家のペットだった。


 またかよ、おまえっと言うとしたとき俺の足元でお菓子を味わうミナヅキに気が付く。

 あれ、お前がここにいるということは……。


「そいつミナヅキじゃないぞ」

「別のスライムだな、こいつ」


 俺とボン騎士が言う。

 先ほどのミナヅキと同じように水風船状態に釣られているが色が違う。

 ミナヅキはコンバットブルーだが、こいつはスカイブルー。

 別の個体のスライムだ。

 ルアーが完全に捕食される前にスライムをチョップで叩き堕とす。

 地面に落ちたスライムはさっきまで捕食していたルアーを物欲しそうに眺めていたが、傍でお菓子を食べるミナヅキに気づき、ミナヅキと一緒にお菓子を食べ始める。

 こいつも食い意地が張ってるなぁ。


「どうして私だけスライムが……」

「この滝つぼ、スライムの生息地なのか?」

「いや、スキルで確認したがスライムはいないぞ」


 落胆する格闘娘と疑問を抱くボン騎士。

 透視および感知系のスキルで調べたが滝つぼ周辺にスライムの反応は無かった。


「それに、ほかのメンバーは普通に魚が釣れてるしな」

「あぁ。特にソーランとシャノンにいたっては入れ食いだぞ」

「よっしゃぁぁ! 五匹目!」

「こっちは金槌魚、三匹目。どんどん釣るわよ」


 女戦士の視線の先で、槍戦士と弓娘が順調に釣りを満喫していた。

 弓娘もさることながら槍戦士も相当な腕の持ち主だ。


「むむむ、今度こそ!」


 二人の成果に熱が入った格闘娘が再度、釣りにチャレンジする。


 そして――。



――PURRRRU!


「って、またぁぁ!?」


 またしてもスライムである。今度はピンク色だ。

 格闘娘は勘弁してとばかりに、声を荒げてしまう。


 しかしどうなってんだこの滝つぼは……。

 スキルによるレーダーには一切引っかからなかったぞ。

 あのスライムたち、ステルス機能でもあるのか?


「なんで、私だけスライムが……」

「家系に三百年スライムを倒し続けた魔女がいるんじゃないのか?」

「私の家系にそんな変な経歴の魔女もちぬしはいません! そもそも実家は代々豆腐屋ですッ!?」

「「「「おまえ/あんた/貴女の実家豆腐屋なの/かよ/だったのか!?」」」」


 見た目、どこぞの道場娘ぽい風格と恰好なのにまさかの豆腐屋!?

 というか、この異世界に豆腐屋ってあるのか!?

 めっちゃ興味あるんだけど。今後の食卓の品が増えるかもしれないし。


「くぅぅ、こうなったら、ちゃんとした魚を釣れるまで勝負!」

「なんの勝負してるんだおまえ?」


 意気込む格闘娘に呆気る女戦士。

 俺も女戦士に同意見である。



 その後、夕飯の支度時間ぎりぎりまで釣りを続けた結果、格闘娘以外は金槌魚などの川魚を釣り上げたことで夕飯のおかずは増えた。

 代償として格闘娘が時間ぎりぎりまでスライムを連続で釣りあげたことにより、せっかく作ったルアーが予備を合わせて三分の一ほどスライムたちに食べられてしまった。


「オーズさん、もういちどだけ一緒に釣りに行きましょう! 私、釣り大会までにちゃんとした魚を釣りたいんです!」

「……勘弁してくれ」


 なんで俺まで付き合わされるんだよ?

 釣りの腕を磨きたいなら一人でも良いだろが。


 面倒臭かったので最初は断ろうとしたが、格闘娘の熱意と俺と一緒に釣りに行きたいほざく冒険者(おもに女性陣)たちの要望に負けてしまい、結局釣りに出掛ける羽目になった。

 しかし、彼女が釣れるのはスライムばかりであり、そのせいでルアーを何匹もダメにされてしまう。

 そればかりか、格闘娘本人は諦めきれず、釣り大会まで約二日間なんども釣りに突き合わされることになり、さらにルアーを消費してしまった。


 おかげで材料が足らず、ルアーの素材を集めながら徹夜でルアーを製作すること……。


 はぁ、早くボッチなスローライフを満喫してみたい。

 そう願いながら俺は釣り大会までルアーを作り続けた。



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