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31 みんなで一狩いこうぜ


 若い冒険者たちをうちで引き取って、早二週間が経った。

 最初のころ、冒険者たちは別の土地での生活や犬娘のスパルタ修行のせいかいろいろとトラブルが起きたが、時間の経過と拷問というべき無茶な修行のおかげか、あの痛々しい性格と偏見な価値眼が破壊――もとい丸くなり、今では平穏な共同生活を送りながら修行に明け暮れている。


――VBOOOOOOO!!


「……ヨッと」


 犬娘が迫りくる大型の魔物の突進を紙一重で避ける。

 サイに似た魔物の長く太い角は貫こうとした犬娘の胸に掠りもせず、正面の巨大な岩に激突。突き刺さって抜けなくなった。



「秘剣……犬影(いぬかげ)!」


 身動きできない魔物に、犬娘は魔物の影に隠れるように体勢を低くして、地面すれすれまで下げた二本の剣を素早く持ち上げ、魔物の腹と背中の真ん中あたりに刃を突き刺し、そのまま左右に引き裂く。

 横一線の切り口から対象の血が噴き出し、内臓らしきものが飛び出す。



――VBOOOOOOOO!?


 魔物は悲鳴を上げ、痛みのあまり背筋を曲げて上半身を持ち上げる。

 その拍子に岩から角が抜けた。


「そこ…!」


 魔物の胸あたりまで数歩移動した犬娘が、首を伸ばし切った魔物の頭――おもに頭を首の付け根に剣先を突きを放つ。

 振り子のように下に落ちる魔物の頭と犬娘の膂力による突き。双方の力が働きによって、剣は魔物の首と頭の付け根あたりに刺さり、魔物の脳がある頭部を貫通、硬い頭部の皮膚ごと突き破った。

 魔物は脳天突き刺しにより即死し、剣を引っこ抜くと同時に、力なく地面に倒れ伏した。


「ふぅ、こんなもんか……な」


 犬娘は刃に付いた血をふき取り、鞘に収めた。

 その様子を俺と冒険者たちが見届けると、冒険者の一人である僧侶娘とソーランこと槍戦士が犬娘に駆け寄る。

 現在、俺と犬娘は若い冒険者たちに魔物に対する戦闘術を教授している真っ最中だ。


「すごいです、シャルロットさん!」

「城壁破りで有名な破城犀を簡単に倒すなんてな。分厚い城壁を貫通させる角も脅威だが、魔法の武具ですら傷つけねぇ甲殻が一番の厄介だったはずだ」

「そうね。教師から硬い甲殻をもつ魔物には甲殻の隙間か真下の腹部が弱点だって教えられたけど、なんで硬い甲殻に近い横っ腹を狙ったわけ? あの角度なら真下から直接腹部を切り裂くことくらいできたはずよ?」


 俺の真横で格闘家のニーナこと格闘娘が犬娘に質問する。


「ニーナの言う通り、堅牢な殻をもつ魔物には柔らかい部位を狙ったほうが……いい。でも、耐久値が高ければ高いほど皮の密度が強靭になって傷つけにくくなる……。むしろ弾力がありすぎて刃が通らない。だったら斬りやすい部位を攻撃したほうが効果……的」


 懐から取り出したナイフで破城犀の皮を一部剥ぎ、敷物を広げるかのように俺たちに見せる。

 へそ当たり部分はゴムのようにツルツルで刃が弾くほどの弾力があるが、剣で切り裂いた傷口あたりの部分は先ほどの部位と比べて分厚いが、砕けたクッキーのようにボロボロの崩れていた。


「甲殻の近くの皮はあまり伸縮しないから乾燥して弾力は無い。その分、皮膚が分厚く固まっているけど通常道理に刃を食い込ませて斬ることができる」

「なるほどね。なら関節部分を狙うのはどう? 巨体の持ち主と対抗するなら、その巨体を支える足を狙えって学校の先輩が言ってたけど……」

「巨体を支える足は狙うのは悪い手じゃない。ただ、必勝じゃない」


 弓使いのシャノン――弓娘の指摘に犬娘は否定する。


「ほとんどの生き物は基本脚で支えている。体が大きい生き物ほどその重量を支える脚に負担がかかるけど、必ずしも弱点というわけじゃない……」

「弱点じゃない……?」

「どういうことですかシャルロットさん?」

「――負担がかかる分だけ足腰が強いってことだ」


 怪訝する弓娘と首をかしげる僧侶娘に、俺が代わりに答える。


「脚力は腕力より数倍強い。なぜなら重い体を支える脚腰は体でもっとも強靭な部位だ。ましてや人外の魔物なら相当丈夫だ。生半可な攻撃だと致命傷にはならないぞ」

「ほんとうですかオーズさん?」

「あぁ、実際体験したからな」


 昔、有名な相撲部屋からスカウトにあった時、なんだかんだあって関取とストリートファイトすることになり、関取の足に渾身の蹴りを入れたのにビクともしなかった時はすこしビビったなぁ。蹴りでブロック塀を壊した実績があるんだが俺。

 関取の先輩である横綱から相撲において重要なのは強い足腰であり、足腰の強さが肉体の強さだって教えられたっけ。

 実際、自分より大きい魔物相手に足を狙って攻撃したけど全然倒れなくって、上半身への打撃とかでギリギリ倒した記憶が懐かしい。

 

「……対人でも同じ。足の動かし方こそ、強さの秘訣であり心臓と同様。達人クラスなら、下半身を疎かにせず、なにかしらの対策は立ててるから弱点としては意味はない。これ、重要。覚えておく……ように」

「おう、了解だ犬師匠」


 犬娘が話を締め、槍戦士たちは肯定して頷く。

 ちなみに犬師匠は彼らの犬娘に対するあだ名だ。

 ――ん?


 俺の索敵領域でこちら向かってくる一団が引っかかった。

 その方角に視線を向く。


「――たすけてぇぇぇぇええええええ!?」


 訓練をボイコットして、単独行動をしていたマミこと魔法娘を筆頭とした青年少女たちがボロボロになりながらもティラノサウルスに似た真紅の魔物に追われていた。

 あれって、まさか犬娘に谷底に堕とされたとき、俺の腕を食い千切ったレッドレックス……?

 俺が抉り取った片目の傷があるからあの時の個体で間違いないだろう。

 ってか、あいつらあの谷底に行ったのか。たぶん、知らずに足を踏み入れたのだろうけど、全員ここまで逃げ延びたことに悪運が強いなぁ、と感心してしまう。


「マミさん!? それにみんなさんも!?」

「あのバカ、なんちゅう化物を連れてきやがったんだ!」


 魔法娘たちに迫るレッドレックスに、槍戦士たちは慌てて戦闘態勢を取る。

 そのさなか、犬娘は微動だにせず俺に告げる。


「丁度いい。オーズ、次はあなたの番。彼女たちに巨体に対する戦闘術を教える」

「了解。ところで、元の姿に戻っても――」

「ダメ。その姿で倒して。でないと修行にならない。あくまで人間として使える術を教えないとけないから」


 はぁ、仕方ない。

 あまり本気出すのは嫌だが、魔法娘たちの救助を兼ねてすこしだけ本気を出すか。

 俺は本来の姿(オーク)に戻らず、人間形態のまま槍戦士たちの前に出る。

 人間形態だと本来の能力値が十分の一になるが、高いレベルと大量のスキルは健在だ。

 まずは強化系のスキルすべて使い、身体能力およびMPなどを最大まで増強。

 アイテムボックスから魔法で強化された丸太を右手で持ち、左手に雷撃およびデバフの効果を与える付与のスキルと形状変化系のスキルを発動。左手に状態異常を与える雷の爪が形成された。

 レッドレックスと魔法娘たちが俺の居合に入ると同時に移動系スキルおよび加速系スキルで刹那に魔法娘たちの頭上を飛び越え、レッドレックスの顔面の前に移動。

 慣性の法則を利用し、加速を込めてレッドレックスの鼻先に破城槌の如く叩きつける。

 その突進力と鼻孔による激痛にレッドレックスは怯み、混乱。

 突進の反動で空中に放り出された俺は、丸太をレッドレックスの目線近くに投げ飛ばす。むろん、丸太はレッドレックスに直撃せず、鼻先擦れ擦れで地面に突き刺さるだけ。

 むろん狙い通りだ。

 おかげで、気を取り直したレッドレックスの注意が地面に突き刺さった丸太に釘付けだ。直接丸太を叩き落としてもレッドレックスには致命傷にはならないからな。

 俺は、空中を蹴って移動するスキルで空を蹴り加速。怪訝し首を伸ばすれレッドレックスに、雷撃の爪で頸動脈を切断する。

 地面に着地すると同時に、レッドレックスの首から大量の鮮血が噴き出す。

 だが、大樹海において上位の魔物。よろけながら後ろに下がり逃亡を試みようとするも、状態異常のデバフの影響か地面に伏し、数十秒痙攣した後そのまま息絶えた。

 

「こんなもんでいいか、義姉さん」

「……及第点。よくできました」


 犬娘は無表情で、親指を立てる。

 とりあえず合格ラインは超えたようだ。


 一方、助けられた魔法娘たちや槍戦士たちは何が起きたのかわからずみな口を開けて呆けていた。

 ただ、襲撃して虚を突いて必殺仕事人しただけなんだが。



●●●●




「ほら、ラウラ特性のスポーツドリンクだ」

「ありがとう……」


 狩場近くの休憩所に移動した俺たちは、そこで一息入れていた。

 俺はアイテムボックスからラウラが作ったスポーツドリンクをマミたちに渡した。

 なお、小腹も減っているのでチョコレート味のレーションも一緒に配った。疲れたときは甘いものに限る。


「たくっ、てめぇらは毎回問題を起こしやがって……」

「自分より強い魔物と群れの魔物には要注意って学校でも教えられていたでしょう。仮にも主席なんだからバカな真似はやめないさいよね、まったく」

「尻ぬぐいするのは大方オーズさんたちなんだから迷惑かけるのはダメよ」


 槍戦士と弓娘と格闘娘が魔法娘たちに愚痴をこぼすように説教をする。


「うっさい! だいたいエリックがレッドレックスなんていう化物相手に余裕で倒せるとか豪語したのが原因なのよ! 私は悪くないッ!」

「お、俺のせいにするなよッ! そもそも七十近くまでレベルアップしたからもう怖いモノなないとかいってあんな化物が跋扈してる谷賊に突撃しかけるアルマが発端だろが!」

「イヤー、悪い悪い。犬の姐さんの訓練から逃げ出したあんたらは迎えに行ったら、目の前に強そうな魔物が居たらつい衝動でな」

「アルマ、いっとくが僕たちは逃げ出したんじゃない。教わることがもうないから自主訓練しただ――ぐっ!?」

「う、動かないでくださいグレーマさん。貴方のほうが重症なんですから……」


 魔法娘がイジリキャラが似合うッ剣士のエリック(通称:剣士君)に責任転換し、剣士君は褐色肌の筋肉レディーことアルマ(女戦士)にさらに責任を押し付けるが、本人は承認するが反省の色は見えない。純粋なバトルジャンキーであるが、もうすこし我が身を心配してほしい。

 ちなみに上から目線でかっこつけているのは彼らの中で唯一貴族生まれのグレーヌことボン騎士だ。

 ボン騎士は怪我を負っており、ただいま僧侶娘に回復魔法で治療されていた。

 なんでも、レッドレックスが横に振った尻尾による攻撃を大盾で防ごうとしたら、体ごと吹き飛ばされ岩壁に激突。全身の筋肉が三割裂傷、両腕が複雑骨折したらしい。

 彼らの中で一番性格に難があるがこのチームの中で我慢強く、精神的に大人なところがある。

 おそらく冒険者として実力者はボン騎士ではないかと俺は思っている。


「まったく、シャルロットさんの訓練をサボったあげく、余計なモノまで引き連れて……。天罰が当たったのよ」

「はははは、でも生き延びてくれてほっとしました……」

「だな。むかしの俺たちなら数秒で食わてただろうに」

「そうね。私たち、先輩冒険者を超えるほど強くなったけど、あのレッドレックスとオーズさんの戦い方を見たらまだまだ教わることは山ほどあるって気づかされたわ」

「謙虚しなくて……いい。あなたたちは私の眼から見ても十分、強い」


 弓娘が溜息を洩らし、僧侶娘が安心し、槍戦士、格闘娘が己の未熟さを再度実感する。

 そんな彼らに犬娘が淡々と励ました。

 彼らがいう先輩冒険がどれほどの実力者は知らないが、ステータスや精神面から見ても十分強いと思う。


 ただでさえ、犬娘による超過酷な修行を今日までやり遂げたのだ。弱いままであるはずがないッ。

 とくに、心身を鍛えるため魔物連鎖侵攻(モンスタートレイン)相手にほぼ素手で立ち向かえという無茶ぶりなイベントは格別だった。おかげで彼らのレベルが一気に十まで上がったが、お互いトラウマになった。思い出しただけで疲労と苦痛が蘇ってくる……。


「……今のあなたたちなら、アレに参加させてもいいかもしれない」

「アレとはなんですかシャルロットさん?」

「三日後、コボルドを含む他種族の先住民たちで三十年に一度に開かれる釣り大会が……ある。私もこの街の代表として出場するからオーズを含めあなたたちも一緒に……出ることとなる」

「釣り大会?」


 そんな行事初めて聞いたが。

 俺が首をかしげると、犬娘は胸の隙間から一枚の地図を出して、俺たちに見せた。

 どこにしまってるだよ、義姉よ……。


「ここの湖は森の中で一番デカく神聖な場所。立ち入ることももちろん釣りも禁止されているけど、釣り大会の日だけ解禁されて、釣りをすることができる。しかも、釣れるのこの土地だと手に入らないいろんな海魚。美味なのは保証する」

「海魚!? ほんとうですか!」


 樹海の地図に掛かれた大きいな湖。そこに淡水魚ではなく海水魚が釣れるという。

 そのことにヘルファが一番に反応した。


「ヘルファは魚、好きなのか?」

「わたしの実家は港町なので。水揚げされた魚が食卓に並んでいるのが日常だったのですが、大陸中央の冒険者育成学校に入学して以降、新鮮な海魚を食べる機会が無くて……」

「氷の魔法で鮮度を保ったまま市場に売り出されているけど、その分コストが掛かってボッタクリ値段なのよねぇ」

「学生時代は奨学金とかで食ってた俺たちには手が出せねー品物だったんだよこれが」

「なら、なんで海魚が手に入れ難い土地に来た……? 港じゃなくても海に近い冒険者ギルドに加入すれば食べれる機会がいくらでもあったはず?」


 魔法娘と槍戦士の説明に犬娘が問う。


「もともと私たち、卒業後は各自所属したい冒険者ギルドがあったんです。ですが……」

「学校からの推薦であの暴力ギルド長のギルドに強制加入されたの」

「ん? どういうことだ?」


 顔をしかめる格闘娘と弓娘の言葉に俺は首をかしげる。

 するとボン騎士が言葉を紡ぐ。


「ギルド長から教えられていると思うが、現在、冒険者ギルドは人材不足と新たな資源確保の問題に陥っている。そのため新人の育成と同時に物流の回復を専念するため重要拠点であるこのリーベルク大樹海にギルドを建設することになった」

「あぁ、その経緯はあのおっさんから説明してもらった。けど、それとおまえらの人員移動にどう関係してるんだ?」

「関係は大ありさ、オーズの旦那」

「冒険者学園の上層部とゼクトさんは敵対関係なんだ」

「はぁ?」


 女戦士と剣士君の説明によれば、学園の運営している上層部のほとんどが黒い噂がある貴族や王族とコネを持つ上級国民であり、かつてゼクトのおっさんが所属してるPT(犬娘の母が作った《愚者の栄光》だろう)と対立していたらしい。

 また、彼らは自身の権力と地位を固めるため恐喝や賄賂、詐欺など裏であくどいことをしており、地方の冒険者ギルドやその関連組織にも手を出そうとするも、因縁のあるゼクトのおっさんがギルドを権力者たちの道具にならないよう同じくアレコレと対処して彼らの策略を防いでいたようだ。

 あのおっさん、こいつらの後ろ盾にいる学園の人たちにを警戒していたがまさかそんな経緯があったんだなぁ。


「過去の因縁や地位や思惑、理由はさまざまだが、学園の上層部にとってあのギルド長は目の上のたん瘤……。排除しようにもギルド長はかつての英雄であり実力者。無駄に権力と地位があるためうかつに手を出さない。ならば逆に自分たちの掌に収まるよう取り込むしかない」

「そのために人材派遣としてあたしたちが送られたの。敵に塩を送って借りを作らせて、内部からギルド長の立場を失わせるためにね」


 ボン騎士と魔法娘の説明に問題児なこいつらがこんな辺境な地で冒険者をする羽目になったのか納得した。


 おそらく学園の上層部(という名のアホ共)は貴重な人材兼問題児たちゼクトのおっさんのギルドに送り込ませることで、ギルド内で問題を起こさせ、ギルド長であるおっさんに迷惑をかけさせるためだろう。

 それに冒険者ギルドというのはどこも人材不足であり、それを本人の意思を無視しておっさんのギルドに派遣させた。

 見方を変えればおっさんが貴重な若い冒険者たちをほかのギルドから無理やり奪った構図が出来上がる。おっさんのギルドに推薦した学園のほうは派遣した事実を隠蔽・改竄をすれば、学校側はある程度被害が抑えられるだろう。事実、悪いのはおっさんだけとなり、職権乱用としてギルド長として立場を追われる……かもしれない。


 なんとも、回りくどい策謀だが、俺が見たところそんな姑息な手段で殺せるほど、あのおっさんは弱くない。

 いかにも悪巧みが強くて、ゴキブリに並みにしぶといそうだし。

 もしも裁判で訴えられても、ごり押しで無罪を勝ち取って逆に賠償金をむしり取るタイプだ。

 なので、政争的な問題はゼクトのおっさんに任せるとして、俺は俺ができること、やりたいことをするだけだ。


 にしても……


「最初に合った時と比べて、結構冷静だなおまえら。あの時は大違いだぞ」


 二週間前、知力と理性が1しかないのか疑うほどDQNだった若い冒険者たちは、今では個性的な人格者になった。

 そのことに関心と驚きを覚える。


「……いや、今更だがそうだと思う。あの頃の俺たちは自信がありすぎて慢心していた」

「だからは現場の空気になれなったというか……自分たちより格上の現地の熟練冒険者の実力を比例して劣等感を抱いては心配してくれた人たちに反発して……」

「現実を受け入れず、あの屑野郎の甘い言葉に妄信したんだ」

「ほんと、情けない」

「あの時の自分を殴りたいわ」


 俺の言葉に胸に突き刺さり、暗い顔をする若い冒険者たち。

 まぁ、アレは黒歴史になってもおかしくないだろう、そう思っていると、バンッと手を叩く音が鳴り、暗い空気を散らした。


「……暗い話はそこまで……」


 喝を入れた犬娘だった。


「昔はどうあれ、過去を変えることができない。けど、過去を学び、成長することができる。事実、あなたたちは己の過ちを気づき、反省した。なら、あとは同じ過ちを繰り替えなさいよう未来に進むだけ」

「シャルロッテさん……」

「……最初に出会った時はロクデナシの未熟者だと思っていたけど、今は違う。あなたたちは私が指導する守るべきもの。ならばこそ、あなたたちが親離れするまで責任をもって育てる。それが長として、師匠として、あなたたちを預けさせたギルド長との約束を果たすべきこと、だから」


 そう言って、犬娘は珍しく微笑を浮かべ、彼ら彼女を褒める。

 彼女の言葉に感動したのか、何名かがうっすらと目尻に涙を浮かべた。


 やれやれ、たった二週間で立派な師弟だな。

 義弟として嬉しいが、なんか姉を他人に取られたような寂しさがちょっとだけ感じてしまう。


「――それじゃ、釣り大会に全員参加するでいいよな?」

「もちろんです!」

「犬師匠が、俺たちのリーダーが長としてはじめての晴れ舞台なんだぜ」

「弟子として師匠の顔に泥を塗るわけにはいけないわ」

「未来の実力冒険者の実力を見せてあげようじゃない」

「コボルド以外の先住民か…・どんなのかしら」

「是非ともて合わせてしてみたいな」

「おい、あくまで釣りだからな」


 俺の質問に、全員が意気を込めて返答する。

 気合は十分のようだ。


「それじゃ、たくさん魚釣って海魚のフルコースを食うぞ!」

「「「「「「「「「おぉー!」」」」」」」」」


 三日後は久々の海魚尽くしだ。

 料理人として腕が鳴る。


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