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30 ゴーレムだらけの街


 転移した先は我らの拠点(マイホーム)――ではなく広めの洞窟内だった。


「ん? 拠点の前じゃないのか?」

「えぇ。ここは拠点からすこし離れたところにある洞窟ですわ」


 俺が首をかしげると横にいた花娘が言う。


「外敵がこの転移門を利用して拠点に襲撃してくるときの対策として転移先と目的地を別々にしておきまの。三か月前、気分転換に森を探索してたときみつけたこの場所なら転移してた敵を追い込んで有利に迎撃ができますので」

「……うん、ラウラの言う通り。大勢の、敵が来ても、空間が制限された洞窟内なら身動きもできないし、出入口を固めて袋叩きもできる。さすが、私たちの頭脳担当。用意周到で老獪なところが頼りになる」

「きっししし、そほどでもありますわ」


 犬娘の誉め言葉に調子に乗る花娘。

 だが、二人の言う通り、転移門を利用された際の襲撃対策を考えるなら当然の対応だ。


「拠点からすこしはなれたところにあるっていうが、どれくらい離れてるんだ?」

「ん~そうですわねぇ、魔物に出会わなければ歩いて一時間程度で着くと思いますわ」


 歩いて一時間かぁ……。

 花娘が俺の今のステータスを見ながら「歩いて一時間程度」と答えたとなると一般人だとその数百倍の時間と距離があるという意味になる。

 半人前冒険者(こいつら)たちの速度(ステータス)だと日が暮れるかもしれない。


「だとすると下手に強い魔物の出会わないよう進まないとなぁ。こいつらを魔物から守りながら戦うのは面倒だし」

「そ、そんなに強い魔物がいるのですか……!?」


 安全なルートを模索していると、僧侶の恰好をした少女がビビりながら質問してきた。

 彼女の名前はたしかヘルファだったな。エンビス教という宗教の信者で、神聖魔法や回復魔法などのスキルをもっていた(前もって鑑定済み)。

 神聖魔法は魔法使いの花娘でも使えないスキルだから俺的に興味がある。拠点に帰ったら、是非とも見せてほしいものだ。


「拠点がある方角は樹海の北方面……最低レベル75の魔物がたくさん闊歩している土地。弱い、お前らだと一瞬で奴らのエサになるか、樹海の栄養源に……なる」


 俺の代わりに犬娘が説明してくれたが、すこしはソフトな言い方で伝えてくれよ。

 みんなビビってるぞ。


「最低でレベル75だとッ!?」

「そ、そんなの災厄級の怪物じゃないの!?」

「国が全軍をもって対処しないといけないレベルよ!」

「現役の勇者たちでさえ、討伐した魔物の最高レベルが66だったぞ!?」

「どうなってんだこの森は!」

「コボルドといい、オークといい、なんなのよこの森は!」

「化物どもの巣窟じゃねーか!」

「これならギルドに帰還して、奴隷になったほうがまだマシだったぜ!」


 俺たちの拠店に来たことに後悔をし始める若い冒険者たち。

 だが、お前たちが欲と保身のために俺たちについてきたのだ。恨むならそういう大事なことを説明しなかったギルドのおっさんにしてくれ。俺は関係ない。

 とは言え、単体で襲撃されるならまだいいが、集団で行動する魔物たち相手だと、ちょっときつい。

 進化した義姉ならどんな相手であれ撃退することができるだろうが、万が一のこともある。


 もしも、こいつらが全滅しても花娘の蘇生薬で生き返らせることができるから、最悪、全員死体にしてマジックボックスに収納、そのまま拠点で蘇生させる方法もあるが、さすがに鬼畜すぎるからこれは最後の手段にしたい。

 さて、どうしたものか……。


「ぎっしし、護衛の件なら、心配ご無用ですわあなたたち」


 花娘が嘲笑するかのように語りかけた。


「こんなこともあろうと思って足の手配は整っておりますわ」

「足の手配?」


 洞窟の出入り口へと進む花娘の後を俺たちは追う。

 外に出ると、そこには重ダンプトラック(ホウルトラック)に似た巨大なゴーレムが待ち構えていた。


『よぉ、社長、副社長。迎えに来てやったぜ』

「あっ、親方じゃん」


 渋いおっさんの声で語りかけるのは拠店の建築・開拓を担当しているユンボ・ゴーレムたちを統括しているゴーレム――通称『親方』。

 通常のユンボ・ゴーレムとは比べ物にならいほどの巨体で、人間になったことで弱体化した俺が正面から挑めば車に潰された蛙になるのが明白だ。

 ちなみに、俺と花娘を社長と副社長、犬娘はお嬢と親方たちから呼ばれている。


「ぎししし、今回は大勢で移動するなら乗り物が必要だと思い、親方さんに来てもらいましたの。彼の巨体なら一度で全員を輸送できまし、なによりその辺の魔物なら親方に警戒して襲うことはまずまずありませんので」

『おうよ。儂の筋肉のような鋼鉄にドーンとまかせてくれやがれってんだ!』


 機体を揺らして自慢する親方。

 たしかに、親方の積載量なら俺たち全員を乗せることが造作もない。

 しかも、こんなバカデカい金属を襲って食おうとする魔物はまずいないだろう。

 これなら安心して、冒険者たちを拠点まで連れていくことができるな。


「……ねぇ、なにこれ? ゴーレム? ゴーレムなのアレ?」

「わ、わからん。こんな大きなゴーレムみたこともない」

「というか普通に会話してないか? 最新のゴーレムは人の命令に忠実だが会話までできないはず……まさか、人格を搭載しているのか?」

「インテリジェント型だと!? そんなの今の技術者では作れないぞ!?」

「こ、こんな兵器を製造するなんてどうかしてるわ」

「いったい、どれだけの戦力と技術力があるんだ、こいつらの拠店は……!?」


 親方を見て、若い冒険者たちが困惑していた。

 いや、親方は兵器じゃなくて運搬車兼建築家なのだが。

 まぁ、ユンボ・ゴーレムの基本スペックは魔物相手でもガチンコで勝てるロボットだからある意味間違いではないだろう。


 建築用の木材を伐採している最中、魔物の襲われたが逆に倒して資材の足しにした報告をされたこともあるし。



 ……あれ?

 むしろ兵器のカテゴリーに分類されてあたりまえじゃねえ?


「……みんな、慌てふためないで、さっさと、親方の上に乗る。早くしないと昼過ぎになっちゃうから」

「行動力が速いな、おまえ」


 いつのまに犬娘が親方の後頭部に座っていた。

 ここで時間潰すのも無駄だし、さっさと乗るか。


「……すいません。どっから乗ればいいんですか?」


 親方の前で剣士の青年――エリックが困った顔で言う。

 いわれてみれば親方の機体に人が登れる梯子類が備わってなかった。


『おう、すますまん。土砂や木材を積むのが仕事だから人を乗せるための梯子が無かったわい』

「まぁ、仮にも冒険者なのですから、これくらいの高さ梯子無しでもいけるでしょう」


 問題などないような言い方で嘲笑する花娘。

 こいつ、わざと狙っていたな。


「むっ、当たり前よ!」

「これでも一人前の冒険者だ!」

「ロッククライミングと比べれば楽勝のはず!」


 確信犯の言葉にムカついた若い冒険者たちが一斉に親方に前に群がり、よじ登ろうとする。

 しかし、あまりにも巨体な機体のため足を引っかける場所が遠く、今朝方、洗車したのか気体の表面がツルツルでへばりついてもすぐに滑り落ちてしまっていた。


 その様子を花娘は面白そうに眺め、犬娘は親方の上で見下ろしながら、棒読みで若い冒険者たちを応援していた。

 両者とも彼らを手助けする素振りはない。


 ……はぁ、仕方ないな。


「ちょっと、失礼」

「え? ――、きゃっ!?」


 ちょうど近くにいた僧侶娘を姫様抱っこし、そのままジャンプ。

 足をひっかけられる場所を足場に、飛び上がりながら犬娘の隣に着地する。


「義姉よ。頼んだ」

「……うん」

「わわわわッ!?」


 僧侶娘を犬娘に放り投げ(なお、犬娘に抱っこされたら途端に顔を赤くしていた)、アイテムボックスからロープを数束取り出し、ロープがひっかけられる場所に結びつける。


「ほらよ」


 親方の頭上から下の冒険者たちにロープを数束投げ降ろす。


「こいつで登ってこい。登れない奴は俺がおんぶしてやるから、下で待っとけ」


 俺が見下ろしながらいうと、冒険者たちは怪訝するが、すぐにロープに手を持ち、よじ登っていく。

 その近くで、俺におんぶするよう命令してくる女子が何人かいる。

 あとで、乗せてやるからまってくれ。


「……オーズ、優しい子。だけど……」

「最初っから甘えさせると、あとで調子を乗らせることになりますわよ」


 犬娘と、触手でよじ登ってきた花娘が忠告してきた。

 ちなみに、僧侶娘は犬娘の腕の中であたふたしている。


「いいんだよ。こんなところで無駄な時間を浪費したくないし。なにより、これから厳しい合宿研修ぽいことするんだ。最初に友好的な印象を与えとけば、面倒ごとが減るはず」


 我ながら確信が無い打算的な考えだが、コミュ障だからこそ印象は大事しなくてはいけない。

 オークとはいえ、今は美少年(男の娘)の施しなら、警戒をゆるんで殺しに行くことはないだろう。


 もっとも、性的に襲ってきたから手加減する気は皆無だがな。




 ●●●




 親方ホウルトラックに乗って約十分。

 魔物とエンカウントせず無事に拠点の門に到着した。


「とうちゃーく!」

「……なんか、久々に、帰ってきた……気分」

「さぁ、門番一号、二号、今回は客人が多いのでちゃっちゃと開門してくださいましな」

『了解しましたラウラさま。あと、門番一号ではなくタンク・ゴーレム986号です』

『只今、開門させます。あと、当機はタンク・ゴーレム771号です』


 門番一号と二号が文句をつぶやきながら門を開こうとする。


「うっそ、あれってタンク・ゴーレム!?」

「大国の軍にしか配置されない準戦略兵器じゃん!」

「こんな辺境の地で拝めるなんて……」

「か、かっこいぃぃ!」

「そうかなぁ?」

「俺的には親方さんのほうが大きくて強そうなんだが」


 門番たちを見て若い冒険者たちがざわめく。

 そういえば、タンク・ゴーレムは高水準の戦闘兵器だったな。


 けれど、ほとんどの子は親方のほうが強いと評価していた。

 まぁ、見た目からして親方のほうが強そうだし。

 ミリオタなら戦車系の門番たちのほうに分があるが、やっぱりロボは、ごつくて無骨なほうがかっこいいのだろう。

 俺もリアル系よりスパー系のほうが好きだ。

 とくに戦隊モノで巨大ロボに変形するマシンが。


『ほんじゃ儂は昼から別の現場の仕事があるのでこれで』

「親方もご苦労さん」


 青年少女も頑張れよ、と若い冒険者に喝を入れながら親方は舗装されていない道を進んでいく。


「……今更だけど、親方たち今何の仕事してるわけ?」

「さぁ……? ラウラ知ってる?」

「いえ、製造者であるわたくしでも全機の管理を完全に把握しておりませんので」


 あとでとある仕事を依頼したいので夕方には倉庫に戻って欲しいですわねぇ、とぼやく花娘。

 作り主ならちゃんと管理しとけよ。

 放任主義でも限度があるど、ほんと。



 ●●●



 門を潜り抜けたとき、若い冒険者たちは放心した。


 人外が建設した拠点と聞いていたのに、目の前のそれはもはや小国そのもの。

 無造作に増築され、高い建物が軒並みに並ぶ街角。

 遠くからでも見える古城のような建造物と今でも稼働している証として白い煙が立ち昇る工房の煙突。

 そして、石畳で舗装され、そのうえを堂々と歩く数種類のゴーレムたち。


「……ねぇ、何なの此処。大陸一の技術大国を誇る私の祖国がかすむ程すごい街なんだけど」

「ほんとに、辺境の地なのか? もしや別大陸の大国かなのではないか?」

「もしや、私たち、集団幻覚をみせられているのでは……」

「いえ、私たちは正気ですよ」

「あっはっはは、なんなんだと此処は? 魔王軍の秘密基地かなにかか?」

「居るのはゴーレムばっかだぜ。さすがに親方や門の前に居た奴と比べれて強そうじゃないけど」

「いや、まて。あそこで花壇に水をやってるのはガーデニング・ゴーレムじゃねッ?」

「ガーデニング・ゴーレム!? ゴーレムのなかでもっともアンティーク的な価値ありながらその戦闘力は銀板の冒険者が中隊を組んでようやく互角ほどの強さを持つゴーレムの中のゴーレムじゃないのッ!」

「隣にいるのはファーマー・ゴーレムかしら。農作業効率のため大国が開発しようとしたけど、製造コストが高すぎることでお蔵入りになったモノよ。まさか、こんなところで製造されていたなんて……」


 立派な街並みと珍しいゴーレムに唖然する若い冒険者たち。

 ってか、ガーデニング・ゴーレムって高級なゴーレムだったんだな。知らなかった。

 銀板の冒険者がどれほどの実力かは知らないが、彼らの反応からして相当な実力の持ち主のようだ。


「ほーら皆さん、そんなところでボーと突っ立てないでさっさと歩いてくださいましな。拠店の案内は後日してあげますので、今は下宿先に向かいますわよ」


 パンパン、と手を叩く花娘。

 旅行会社の案内人みたくは旗を持ち、俺たちを誘導する。

 途中、無人で営業している飲食店や服屋、雑貨や鍛冶屋などを見て回り、若い冒険者たちは観光客気分で興味津々であった。

 余裕ができたら買い物やほかの名所の周りできるよう手配しておくか。


「はーい。今日からここがあなたたちが暮らす場所ですわ」


 ついた先は老舗旅館とも思わせる木造建築であった。

 中学生時代、修学旅行で宿泊した旅館によく似ている。


「宿泊施設として風呂、調理室、寝室はもちろん、遊戯室や会議室など完備されてますわ。詳しいことは案内板を見るか、わたくしに聞いてくださいましな」

「おっ、というとおめぇいらも一緒に此処で寝泊まりするのか?」


 槍使いの青年――ソーランが質問する。


「ゼクト、さんから、あなたちの監視役と、戦術の指導、頼まれている。目を離すとロクなことしないから、ほぼ監視されているつもりで、いて……ね」

「そんな!? あたしたちが信用できなっていうの!」

「ギルドに無断で出撃してあっけなく返り討ちに合ったのにか?」


 ちょっと生意気な魔法使いの少女――マミが抗議するが俺の一言に言葉を詰まらせたように黙り込む。そのほか数名も同じくだ。

 余所者でもある俺が語る権利はないが、そもそも冒険者としての責務と義務を放棄したうえ彼女らの上司であるゼクトのおっさんからの信頼を失った彼女たちに信用という言葉を使い資格は無い。

 そこんところは自覚してほしい。


「最初に言っとくが、プライベートまで干渉しないからそこだけは安心してくれ。オークである俺がいうのもアレだが、こっちだってプライベートがあるんだ。問題を起こさないならこっちはなにもしない」

「……その言葉はほんとかしら?」

「今は人間の少年のようだが、正体はオークだからなぁ」

「煩悩の塊みたいなもんだからなぁオークって。まっ、アタイは気持ちよくしてくれるなら別にいいけど」


 弓使いの少女と騎士の青年、そして女戦士が順に言葉を漏らす’女戦士の発言は聞こえなかったことにする)。

 信用されてないが相手がオークだから致し方ないだろう。


 言葉ならなんとでも言えるのは当たりめだ。

 ならば、行動で彼らに示そう。


 おもに、放置するという行動で!


「……オーズ、念のためいうけど、彼らの監視と修行、オーズにも手伝ってもらいからそのつもりでいてね……」

「ぎっししし、あなたさまだけのけ者扱いはしませんわよ」


 ちっ、先を読まれたか。


「それでは、細かな話は一旦置いといて、まずはお風呂に入りましょう。一晩牢屋で過ごしたのですから、みなさん汚れていますしねぇ」


 花娘の言葉に若い冒険者たちは「やったー!」とばかりの笑顔を浮かばせる。

 たしかに昨日から汚れた格好のままだったなこいつら。しかも、上司からの説教と折檻で数名失禁してアンモニア臭い。


「一番風呂は頂くぜ!」

「ちょっと、押さないでよ!」

「風呂場は……あっちか!」

「石鹸とシャンプーもおいてるのかしら?」

「それ以前に着替えがないわ!」

「おっ? こっちに着替え用の浴衣があったぞ」

「それと下着もだ!」

「あれ、なんでこの下着だけスケスケなんですか? しかも大きな穴も開いて――」

「「「「「「ヘルファ、それを元あった棚に戻しとけ(なさい)!!」」」」」」


 若い冒険者たちは一番を風呂を頂こうと大急ぎで宿泊施設に駆け込む。

 そして、俺、花娘、犬娘も彼らの後に続く。

 昨晩の乱交からシャワーを浴びてないから、早く体を洗いたい。


「あぁ、そうそう。あなた様は早めに風呂を上がってくださいましね。お昼の食事を作る仕事がありますので」

「そうだと思ったよこんちくしょう……!」


 もはや、俺が料理するオチが定番になってねーか、これ!?


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