20 異世界の聖職者は速攻で消毒すべき
2019.12/31 誤字修正しました
犬娘に余裕の笑みを見せるが、内面疲れ切っていたりする。
数時間前、突然の天からの忠告(頭痛)を聞き、野次馬感覚で出向いてきたのだがこれが間違いだった。
犬娘が半日で実家に帰っているから、数時間程度で着くだろうと思い拠点を出たのだが、実際はめちゃくちゃ遠かった。
スキルで確認したところ、拠点から犬娘がいる集落まで約北海道から山口県まで続く距離。もはや遠距離通勤どころではない(しかも徒歩での移動だし)。この事実を確認したとき、時間の法則がおかしいだろうとツッコミをいれてしまった。
ユニークスキルと花娘の強化系の付加魔法がなければ、全力疾走だけで数時間たらずで到着することはできなかっただろう。
まさに超人の所業だよ。魔族だけど。
でも、あえて言おう、めっちゃ疲れた!?
もう二度と長距離マラソンはしない!
デブは走るのが苦手なのです。今は筋肉マッチョな狂戦士もどきだけど、それとこれとは話は別だ。
……まぁ、その努力の甲斐があって、“今回”は間に合ったけど。
「オークだと……!? なぜこんな辺境にいる!? 犬どもが魔族と結託している噂は我々が流したデマのはず! まさか、魔族どもがこの地でなにかを企てて……」
聖職者らしき怪しいおっさんがなにやら勘違いしている様子だが、説明する義理はない。
というか、どっからどうみてもこの惨状の黒幕だろう、あのおっさん。
だって、異世界の聖職者だし。異世界の宗教は基本DGN集団で道徳的に邪教だから、出会ったら即殺するべきだと、オタクメガネも言ってた。
「なぁ、シャルロット。あのいかにもかませ犬ぽい聖職者のおっさんは誰だ?」
「私の、集落を襲撃してきた首謀者ぽい……人間」
やっぱりか。
一見どころから、言語とリアクションで、ライトノベルでモブ相手に無双して主人公に瞬殺される狂信者(踏み台キャラ)なのは確定事項。
コミュ障でも話の分かるやつには頑張って会話をする俺でも、さすがにDGN野郎とは会話したくない。
コミュニケーションが交わせない障害者とちがって、コミュニケーションを交わそうとしない腐敗物は即座に焼却処分すべきだと、俺の中で結論に至っている。
せめて、事情聴取ができるように、七割殺しにとどめておこう。
「えぇい! 考えるのは後です! 魔族だろうが、所詮は進化をしていない個体っ。天導兵の敵ではない!」
そういって男が天使のような人外に命令を下す。
すると、彼女たちは両手からレーザー状の刀身を生み出し、俺に向かって襲い掛かる。
刹那に、天導兵と呼ばれる集団を分析した。レベルとスキルで思考が超速化された今の俺の脳なら瞬きの間に敵の情報を抜くどころか、明日の献立を考えるくらい余裕である。
さて、天使もどきのステータスは……
種族:天導兵(第七級)
LV:100
HP:119988
MP:119988
SP:119988
筋力:9999
耐久:9999
敏捷:9999
魔力:9999
知力:9999
器用:9999
スキル:《聖気》《聖具形成》《砲撃》《瘴気吸収》《邪気耐性》《物理無効》《破魔》
エクストラスキル:《魔族殺し》《異教徒殺し》《【error】》
レベルが100の上に、能力値がカンストしていた。
スキルについては、俺のような魔族や魔力による効果をほぼ無力化する魔力に似た《聖気》をはじめ、通常スキルより強力なエクストラスキルである《魔族殺し》は魔族に対して即死効果をもっているから厄介だ。《異教徒殺し》は異教徒に対してのみ有効なので俺には関係ない。
一部、分析不能になっているスキルがあるが、それでも総合的な戦闘力はレッドレックスより格上だ。
しかも、あちらは多勢で、戦力差はあちらが上だろう。
聖職者もとい神父のおっさん?
見た感じ、俺の敵ではないステータスだったので、戦力外として扱う。
――さて、相手が天使なのでひさびさに本気を出すか。
ユニークスキルの条件が成立しため、ユニークスキルが自動で発動する。
すると、《自己申告》のスキルによるステータスアップなどのアナウンスが頭に流れ、新たに変更されたステータスが視界に表示された。
名前:オーズ
種族:オーク
LV:91→99
HP:112800(102648)→119988(11878812)
MP:109200(99372)→119988(11878812)
SP:105600(+96096)→119988(11878812)
筋力:8800→9999
耐久:9400→9999
敏捷:7900→9999
魔力:9100→9999
知力:9800→9999
器用:8200→9999
ユニークスキル:二元論の堕とし子
スキル:《嗅覚分析》《鋭敏嗅覚》《鋭敏聴覚》《地理》《掘削》《剛力》《不屈》《剛体》《特攻》《生存本能》《体力自慢》《雑食》《飢餓》《痛覚耐性》《淫獣》《自己再生》《悪道》《正道》《自己管理》《人化》《性別固定》《斬撃耐性》《突刺耐性》《威圧》《感知透過》《神託》《調理》《農業》《鍛冶》《建築》《道具作成》《気配感知》《生命感知》《猛毒耐性》《麻痺耐性》《病魔耐性》《薬物耐性》《味覚鑑定》《潜水》《水泳》《剣術》《槍術》《格闘術》《銃術》《砲術》《投擲》《電流耐性》《風圧耐性》《凍結耐性》《火炎耐性》《打撃耐性》《衝撃緩和》《衝撃吸収》《衝撃収束》《衝撃拡散》《隠蔽看破》《魔力循環》《熱量低下》《熱量上昇》《火炎付加》《凍結付加》《熱源探知》《反響探索》《音波透過》《振動撃》《雷電付加》《脱磁》《体温調整》《無音挙動》《生命増強》《衝撃浸透》《結合粉砕》《振動耐性》《高速乾燥》《魔武化》《魔装化》《即死耐性》《悪臭耐性》《魔力簒奪》《生命簒奪》《溶解耐性》《重力耐性》《斥力透過》《疎通妨害》《裂傷促進》《不治付加》《魔力促進》《生命促進》《直感》《未来予想》《暗視》《高速疾走》《引力倍加》《自己申告》《魔物調教》《五感共有》《能力共有》《従魔管理》《魔力供給》etcetc……
別次元から「なんじゃこりゃ?」みたいなツッコミが感じるが、今はスルーだ。
全身に痛みが生じるも、それは能力値がカンストまで上昇した証拠だ。つづけで天使もどきに対して有効なスキルを獲得。物理無効を突破するスキルと聖気に対して有効な《邪気》と邪気耐性を無効化するスキルを手に入れた。
さすがにエクストラスキルに対抗できるスキルは手に入らず、なぜかレベルが100にならず99で固定されてしまったが、能力値は変わらないので問題ない。
あとは所持しているスキルで自身を強化して準備完了。これで、総合的な戦闘力はこちらが上になった。
つぎは、素手だときついので、武器を取り出そう。
最後に腰にぶら下げたアクセサリー状のマジックボックスから、肥しになっていた丸太を取り出して――
――バッコーン!
フルスイングで天使どもを撃ち返す!
プロ野球選手顔負けの強力なスイングが、飛び交ってきた天使もどきたちはホームランとばかりに吹き飛び、バラバラに砕け散る。
「ば、ばかな!? 階級は最底辺だが、そえでも神が作りし兵器! 下級魔族が千匹いようが一体だけで殲滅するほどの力を有しているのに。それを一体のオークに返り討ちされるなぞ! しかも丸太で!?」
神父のおっさんが騒いでいるが、まぁ、当然の反応だろう。
天使もどきを殺せるように丸太に強化系や属性系のスキルをありったけ付与して、隠蔽系のスキルで隠しているから鑑定しないかぎり勘違いしたままだ。もっとも、鑑定してもレベルがこっちが上だから一生わからないままだろうけど。
バッキン!
手に持った丸太がひび割れていき、最後には破裂したように壊れた。
過剰なまでに強化を施しため限界がすぐきてしまう。
俺の手元の丸太が壊れたことに神父のおっさんの顔がほころんでいるようだが、残念ながら、アイテムボックスに肥しになっていた丸太は六桁以上あるのですぐさま、新しい丸太を取り出す。
あっ、神父のおっさんの顔が強張った。
続けざまに天使もどきが襲ってくるが、そのたびに、取り出した丸太(強化版)で殴り飛ばす。
手から伸びる光を刃を振るう天使もどきに、丸太で殴り潰す!
聖なるエネルギーを込めた拳を放つ天使もどきに、丸太で突き飛ばす!
上空からビームを放つ天使もどきに、投げ飛ばした丸太で叩き落とす!
さながらGを丸めた新聞紙で殺すように!
さながらGを丸めた新聞紙で滅ぼすように!
「なぜだぁあああああ!? 神話時代の聖剣や魔道具ならともかくただの丸太で神の軍勢が倒されるのだぁああああああああああ!!!!」
神父のおっさんが発狂して、頭をかきむしっていた。
元凶でもある俺も同意見だけど、こうして使ってみて初めて実感した。
いまのご時世、異世界ファンタジーで最強の武器は聖剣とか神器とかロマン武器じゃない。
丸太こそが、異世界ファンタジーにおいて最強の物理武器なのだ、と。
もっとも、オタク眼鏡の受け売りであるが。
最初のころは、そんな馬鹿なと笑ったけど、意外と強かったんだな丸太って。
これらかの俺のメインウェポンは丸太にしようかなマジで。壊れても生木から直接調達できるし。
「殺さなくては! このような下等生物が我ら神の奇跡を凌駕するなどあってはならない! ――神よ! 私にさらなる力を!」
神父のおっさんがメダリオンを掲げると、天から魔法陣らしきものが展開され、そこから天使もどきたちが現れてきた。
うわ、めんどくさいのが増えた。
「あの召喚……止めるには、あの男がもっているメダリオンをなんとかしないかぎり……無限に増え続ける」
いつのまにか横から義姉が立っていた。
「もう動いて大丈夫なのか?」
「問題……ない。ポーションで回復した」
さすが花娘印の回復薬。
即効性で頼りになる。
「あのメダリオンなにか知っているか? 鑑定スキル使ってるのにあんまり情報が読めないんだが?」
「あの男は……天使の環って言ってた。たぶん天導兵を召喚するためのアイテムだと思うけど……それ以外はわからない」
義姉は首を横に振る。
「ついでに補足するけど、あの男、自動蘇生のアイテム……あと四つもっている。つまり、あと四回殺しても生き返る」
「へぇ、それはさらに面倒だな」
コンプリートマニアにとってそのアイテムに興味があるが、まずは天使もどきをどうにかするほうが先決だ。
シンプルに考えて神父のおっさんからメダリオンを奪って壊すのが手っ取り早いだろうが、天使もどきたちが邪魔で近づけず、また、あのアイテムは大抵破壊不可の効果をもっていそうだが物理的には無理だろう。
しかし、この状況を打破する術は実はある。今朝方、花娘から頼んでおいた“アレ”なら破壊無効のアイテムでも有効なはずだ。
ただ、あの天使もどきが邪魔だ。障害物なうえに複数体倒してもすぐに召喚されるから、無限ループでこっちが不利になる。
せめて、一撃で天使もどきたちを全滅させる手段があればいいのだが――いや、あったな。アレが。
「義姉よ。頼みたいことがある」
「珍しい、あなたが私に頼るなんて……」
「まぁ、この状況だと俺でも手に余るから」
すばやく義姉に耳打ちをし、説明する。
「――それいいけど、今の私の火力では、とても、無理」
「それについては問題ない。念のため、あんたの武器を持ってきたから」
そういって、マジックボックスから一本の丸太を取り出す。しかし、その丸太は先ほどの丸太と違って表面が紅色で魔術的な刻印がされている。
「これは――三分だけ時間稼いで。その間に最終調整するから」
「了解、義姉さん」
新たに取り出したただの丸太(強化版)を両手で持ち、蝗の大軍のような天使もどきの軍勢に向かって特攻する。
増えた分だけ、先ほどと違って攻撃が激しいが、丸太で応戦する。
「あっははは! どれほど貴様がイレギュラーであろうが一騎だけで軍勢に挑むのは無謀! このまま我が神の力の前に滅びよ! 魔族よ!」
さっきから、神父のおっさんがウザい。
そのセリフをいうなら、俺に傷一つつけてから言え。
高性能なスキルとけた違いの能力値のおかげで、痛みも怪我はない。ただ、羽虫がよってきた感じでうっとしい。
それでも、敵の注意が姉に行かないよう、俺がヘイトを集める。
RPGで使っているアバターはタンク系が主流なので、それを見習ってみるが、見るのと体験するでは大違いだ。おもに反撃できないことと、周りを気にすることでヘイトよりストレスが溜まりそうになる。
「――オーズ、お待たせ!」
後ろで義姉が叫ぶ。
俺は丸太をスイングして近寄る天使もどきたちを払い飛ばし、後方に飛ぶ。
それと同時に、片手で赤い丸太を投げ槍のように持つ姉が前衛に飛び出す。
その赤い丸太から、何かしらの力を感じる。
「ッ!? 天導兵よ! そのコボルドを止めなさい!!」
神父のおっさんもなにかを察知したようだがもう遅い。
「飛翔し、刺し殺せ! 皆殺しの赤き鏃!!」
槍投げのごとく、重量のある丸太が投擲される。
丸太は湾曲に落ちず、戦闘機が発進かのように空へと上昇し、垂直に飛ぶ。
重力という名の鎖を引きちぎるかのように、ミサイルのごとく加速し、上空に描かれていた魔法陣を貫通し、破壊するも、推進力は衰えずさらに天へと登っていく。
「どこまで登るんだアレ……?」
「計算上だと……青空の向こう側まで、飛ぶ」
弾道ミサイルじゃん、ソレ。
天使もどきやおっさんたちも、興味があるのか攻撃の手を止め、恐る恐る空を見上げる。
俺はスキルによって大気圏まで見える視力で、丸太を確認すると、丸太から怪しい光があふれ出すのを確認した。
丸太は徐々に細かい無数の破片となり、線香花火のように地上へ降り落ちてくる。
五センチ未満の破片だが、大気圏に燃えきれず、赤色の閃光となり、天使もどきたちの頭上へピンポイントに――
ドドドドドドドドドバーン!!
轟音と爆発音が連続で鳴り響く。
さながら流星群が地上に落ちたような衝撃が体に直撃する。
爆発音が鳴る響くたびに煙が上がり、煙の中から天使もどきたちの短い絶叫とおっさんの醜い悲鳴が爆音に隠れながらも俺の鋭い耳に届く。
これが、うちの犬娘が花娘と共同して開発した新兵器――皆殺しの赤き鏃。
投擲することで、大気圏まで上昇し、無限に分裂した魔法の鏃となって、地上へ落下。大気圏からの落下速度と魔法による強化によって鏃はさながら小型の隕石となり、設定していた敵軍に対し、ひとりひとりを狙って貫通し爆散させるという対軍兵器である。しかも永久追尾の機能付き。
こうして生で見てわかるが、必中の隕石攻撃モドキはえげつない。
幸い使い捨てでコスパが高いため大量生産は無理だが、この大火力で範囲内の敵味方を識別して敵だけを攻撃するというのはもはやチートだ。
この犬娘は本気で世界征服でもするつもりなのか、本気で思ってしまう。過剰戦力にもほどがあるだろうに。
一分後、皆殺しの赤き鏃による隕石の雨が止む。
煙が晴れると、そこにあったはずの建物や木々が塵芥になって消え去り、地面がクレーターだらけの荒野と化していた。
天使もどきたちの影も一つもない。隕石落としモドキで木っ端みじんに消し飛んだだろう。
その代わり、惨状の中心でないやらバリアらしき魔法術式が刻まれたドーム状の物体があった。しかも、全体がひび割れ、ところどころ大きな穴が空いていた。
そして、バリアらしくパリーン!とガラスのように壊れ、中から泥まみれの神父のおっさんが震えて出てきた。
「ななななっなんだった今のは!? 私の……セブンス・アークの軍勢が全滅に!?」
理解できず恐怖にかられて腰が抜けてしまった神父のおっさん。
魔法かアイテムとかで、さきほどのバリアを張り爆発を防いでいたんだろう。
四回殺しても生き返るから神父のおっさんだけ、皆殺しの赤き鏃の攻撃目標を設定していなかったが、あの爆発地帯の中央にいたのだから、一般時ながら余波だけで死ぬかもしないので、生きているだけで幸運である。
だが、悪運はここまでだ。
ようやく天導兵が居なくなった。
これで、例のアレが試せる。
左手のつけている“アクセサリー”を手で握る。
「――顕現」
俺がそう呟くとアクセサリーから無機質な電子音が流れる。
――パスワードを確認。
――システムを起動。
アクセサリーが肥大化し、ある形へと変形していく。
――物質構築……完了
――戦闘モードに移行します
変形が終わると、俺の手が一丁の大型拳銃を握っていた。
それは無骨でありながら、神秘的な文様や光線が刻まれており、通常の拳銃とは違い銃口とカートリッジが無い複雑かつシンプルな機械構造をするSFチックな銃だ。
「――《ヴィーナス》、レベル1からレベル3に設定」
――使用者からの命令を承認しました。
――レベル1からレベル3に移行。
――チャージ開始……完了。
銃の先端から魔力が収束し、小さな魔法陣が展開する。
指を引き金にひっかける。
「これで――王手っ!」
引き金を引くと、銃口から緑色の光弾が発射。
放たれた光弾は巨大化し、神父のおっさんを包み込む。
「うっわぁあああああああああああああ!?!?」
悲鳴を上げる神父のおっさん。
光弾は神父のおっさんに直撃したのち消滅する。
そして、
「――う? なんだこれ? なんともないぞ?」
痛みがないことに気づき唖然する神父のおっさん。
だが、自身の状態に気づき、驚く。
「な、なんじゃこりゃぁああああああああああああ!?」
そう、神父のおっさんはすっぽんぽん。
裸である。
この光景に横にいた犬娘は唖然するも、つい笑いを零してます。
「ぷっ。……オーズ、その…銃は?」
「こんなこともあろうかとおもって、ラウラに頼んで作ってもらったアイテムを破壊する魔法の銃だ」
武装破壊用特殊術式銃――ヴィーナス。
もしも武装した冒険者と遭遇した時を考え、相手を無力化するために花娘に作ってもらった武器だ。
機能は文字通り、相手が装備・所有している武具やアイテムを強制的に原子レベルに分解・破壊する魔法の弾丸を放つもの。レベル1で相手が手に持った武具で、レベル3で相手が身につけいるものをすべて消滅させる。
つまり、すっぽんぽんにさせてしまう魔法の武器だ。
――別に、女冒険者をすっぽんぽんにするつもりで製造したわけではない。あくまで平和的手段のためだ。そう私欲など三割くらいしないのである。
ちなみに、強制的に物質を分解するため破壊不可効果があっても、それも無効化するので――
「――無い!?私の装備品が……天使の環が……神より作られし聖なる神器が魔族の武器が!?」
天使もどきを召喚するアイテムが破壊されたことにあたふたする神父のおっさん。
あのメダリオン、そうとうレアのアイテムだったらしいが、アルラウネの技術力には通用しなかったようだ。
さてと、これで相手の戦力はゼロに等しくなかった。
「ひっ!?」
俺たちが近づくと、神父のおっさんは尻餅しながら後退する。
「ままままままった! ここは平和的に話し合お――ぐっは!?」
命乞いをする神父のおっさんの顎を犬娘が蹴り上げる。
骨が砕ける音がしたから、顎の骨が砕かれたな。
痛そう。
●●●
「……オーズ、この男の身柄、私たちコボルドが預かってもいい?」
「どうぞご自由に。男をいたぶる趣味はないから、俺は」
神父のおっさんは地面に倒れ伏し、痙攣しながら泡を吹いて気絶していた。
犬娘は無抵抗になった神父のおっさんを拘束魔法と頑丈な鎖で縛り上げる。
拘束魔法は拘束した相手の能力値を八割くらい低下させ、鎖は花娘お手製の魔法のアイテムで、なんでも大型の魔物すら千切れない特殊な合金とのこと。
過剰だが、これも念のため。
こえで、たとえ神父のおっさんが目覚めても身動きひとつ取れないだろう。
「……これでよし。あとは火事の鎮火と攫われた子供たちを救いに行く……だけ」
「子供たちってコボルドの子供か?」
「うん。こいつらの仲間に攫われた……らしい。今、私の同胞たちが後追ってる。私もすぐに彼らと合流する……つもり」
……あぁ、なるほど。そんなことがあったのか……。
「……あぁ、その安心しろ。コボルドの子供たちのほうはたぶん大丈夫だと思うぞ」
「……? なぜそう言い切れる? しかも、なんか歯切れ悪い」
それはだな――と言いかけたとき、遠くのほうで爆発音と溢れんばかりの光が俺たちに当たり、その方向を向くと、樹海の向こう側から、天を穿つほどの巨大な火柱が上がっていた。
オートで発動したスキルによる分析により、火柱は魔法によるもので、その魔力は俺たちがよく知る者の魔力だとすぐさま理解した。
「……ラウラも来てたんだ」
「たまには外で体を動かしたいからって、なぜかついてきてな。それでマップに怪しい人間の集団とコボルドの子供たちがいたから、不自然と思ってあいつにませておいたんだ」
荒事は控えるよう言い聞かせたのだが、耳の耳に念仏であったようだ。
確認してみるとマップではコボルドの子供たちと犬娘の同胞たちに無事なようで、コボルドの子供たちを誘拐した集団は全員が重度の火傷でHP1という瀕死の状態だった。
とりあえず、手加減だけはしてくれたらしい。
「うんじゃ、ほかの犬っころが来るかもしれないから、俺はこのへんで――」
「――まって、オーズッ」
厄介ごとが終わったので、すぐに帰ろうとする俺を犬娘が、俺の袖を掴んで引き留める。
「こんな時に頼むは無粋だろうけど、あなたにぜひとも、お願いが……ある」
「お願い?」
小首をかしげ、怪訝な目で犬娘を見つめる。
犬娘は渋るように数秒ほど沈黙するが、重い口ぶりで言葉をぶつける。
「……オーズ、私、あなたのこと、みんなに紹介したい」
「……それがどういうことか、わかって言ってるんだような?」
鋭い目付きで犬娘を睨む。
俺の正体と関係を秘密にしていたのは面倒ごとを回避するため。
そのことを犬娘が一番理解していたはずなのに、なぜ、今になって犬娘たちに同族たちに打ち明けようとするのか、俺にはわからなかった。
ただ、犬娘の覚悟と苦痛が入り混じった目が、彼女が真剣だということを証明していた。
俺は、彼女が紡ぐ言葉を無言で聞く。
「うん、私だけでなくあなたやラウラに迷惑をかけてしまう。けど、今回の一件で私の中のモヤモヤが晴れた。この集落ため――うんうん。“私”が前に進むためには、私たちの秘密を明かす必要がある」
集落のためじゃなき自分のために……か。
前までは、家訓や規律を第一にし重んじる娘だったの、今では自分に正直に物申せる娘になったものだ。
秘密を明かすことで、犬娘にどのようなメリットがあるのか知らないが、俺は自己中心な豚なので彼女がやろうとしていることは否定しない。
ただ、それだと俺にメリットがないので返事に困る。むしろ、お互い面倒ごとと負担が増えるだけだが、この空気で気軽にNOと言えない。
相手がただのDQNなら問答無用に拳で解決できるのに、コミュ障のおかげで適したセリフが出てこない。
どうしすればいい、と俺が内心焦る中、犬娘はさらに言葉を紡ぐ。
「自分勝手だって自覚している。そのせいで、あなたが私を嫌いなってしまうのは仕方がない。それでも、私はこのまま、今の私のまま死ぬまで生きるのが、イヤ。息苦しくて死にそうになる」
犬娘は自身の頭を俺の胸のところに当て、顔を伏せるながら悲痛に言葉を絞る出す。
「断ってもいい。嫌ってもいい。でも、これだけは聞いてほしい。一生に一度のお願い――私は、あなたの隣に居続けたい」
…………
………………
……………………
……はぁぁぁぁぁあ、こんな遠回しな告白、前世を合わせて生まれて初めてだ。
大きなため息を吐いて、犬娘の頭をぽんと撫でる。
犬娘はゆっくりと俺のほうへ顔を上げた。
その表情は不安の文字が読み取れる。
「オーズ……?」
「……まだ、お前の想いには答えられないけど、隠し事を明かすにはいいかもしれないな。どうせ秘密は遅かれ早かれバレるもんだし」
交渉とかは口がうまい花娘にまかせればいいし、最悪、武力行使になったとしてもうちが勝てる自信があるから、別にバレても何の問題がない。
流れに乗りながら、行き当たりばったりで判断するのが俺のやり方なのだ。
ならば、ノリでいけば、なんとなる――はず!
にやりと、微笑すると犬娘は安堵し、なにか決意した様子で頷く。
「……うん。もしも、長達がなんかいってきたら、私が何とか……する。おもに物理的な意味で」
「暴力反対。せめて、平和的に説得してくれ」
「それじゃ、念のためラウラお手製の薬を盛って……」
「おまえ、同族相手に容赦ないな」
一体誰に似たんだか。親の顔がみたいものだ。
そう思いっていると、遠くのほうから犬娘の同族たちがこちらに近づいてくるのが俺の鼻が感知した。
どうやら、戦闘音が止んだので犬娘のことを心配して、集まってきたようだ。
その証拠に鉄と鋼の匂いがする。武器類を装備しているのだろう。
犬娘は、それを察知して彼らに事情を話すため走ろうとする。
しかし、何かを忘れたのこちらのほうへUターンしてきた。
「そうだ、オーズ」
「ん? なんだ――」
――チュッ
なっ!?
俺の唇と犬娘の唇が重なり合う。それは数秒程度の接触で、前からやっている濃厚なモノではないが、突然い不意打ちに、つい動揺してしまう。
犬娘は満足したかのように、静かな笑みを浮かべて言う。
「助けてくれて、ありがとう」
そう言い残し、同族たちの元へ走り歩きで向かっていった。
俺は、その場で呆然と立ち尽くしたままだ。
「……おかしい。俺、ラブストーリーは苦手だったはずなのに……」
ぽつんと、小さくつぶやく。
羞恥心で顔が熱くなりそうなる。
彼女とは何十回もキスもやっているし、本番以外のプレイも何度もしている。
おかげでキスの一回で恥ずかしいとは思わなくなっていた。
そのはずなのに、さきほどのキスと彼女の笑みだけで、俺の心が鼓動する。
性的興奮によるものじゃない。だって、股間が反応していない。
思春期特有の反応ではないと断言できるのは、俺はこの状態を知っている。
――あぁ、そうだ。知っているとも。
――だって――ゼンセで、イチドだけ、ケイケン、シタカラ。
――『助けてくれてありがとう、岡崎君』
「………………はは、一途な男だと思っていたけど、案外、惚れやすい人間だったみたいだな。俺って」
思い出したくない記憶が蘇るが、すぐさま脳裏の底に沈める。
自惚れた己に自嘲しながら、神父をのおっさんを肩に担ぎながら、犬娘の後を追う。
この感情については、あとで犬娘とゆっくり話し合おう。
それで彼女が傷ついても、覚悟の上だ。
互いの関係に亀裂が生じる不安があるが、彼女にまで俺の罪を背負わすわけにはいかないし、それが推進剤になって互いの関係を進ませるわけにもいかない。
その理由はただ一つ。
俺は、他者と恋愛する資格がない家畜だから。




