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19 義姉として

10/22

 戦意消失した冒険たちを、同胞たちが縄で縛りあげる。

 その光景を見届けながら、私は魔力を回復させるマナポーションを飲みながら、体力を回復させるスタミナレーションを食べていた。

 貪獣晩餐(ビースト・イーター)を使って魔力も体力もだいぶ消費してしまった。

 剣に込められた魔力もすっからかん。魔力を上乗せするラウラ特性の護符も今ある分すべてを使い切ってしまった。あとで、ラウラのところで補充しないと。


「娘様、こやつらの処分はいかがしましょう」

「とりあえず、長が戻ってくるまで拘束して……おく。もしかしたら交渉材料になるかもしれない……から」

「交渉材料? 冒険者ギルド相手にですか?」

「それも、ありだけど……」


 二本目のマナポーションを一気飲み乾し、カラになった小瓶を握りしめる。


「そこで隠れている覗き魔相手に有効かもしれない…し!」


 そのまま、後ろに振り向くと同時に、小瓶を投げる。

 小瓶はそのまま瓦礫と化した家の柱へと直撃――せず、そのまま空中で停止した。


「おやおや、気づいてたのですね」


 声がすると、瓶は握り潰されたように砕かれ地面へと落ちる。

 同時に、透明になっていた不審者が姿を現す。

 だいたい三十代後半の男性。服装からして神官だろう。

 突然、現れた男の姿にまわりにいた同胞たちが驚嘆し、警戒する。なにせ、この至近距離にもかかわらず、男の存在を認知できなかったのだ。驚いて当然。


「コボルドは鼻と耳がよく利くらしいので、透明化だけでなく無音と無臭、それに魔力感知妨害の効果を持つアイテムを装備してたのですが、なぜ気づいたのでしょうか」

「たしかに、匂いと音はしなかった。でも、匂いの流れが不自然だった。風上だから焦げた匂いはまっすぐに流れてくるはずなのに、あなたがいる場所だけ四方に分散していた。まるで目に見えない物体に遮られたみたいに」

「ふむ、そうですか。このアイテム、効果範囲が広いので複数人同時に使えるので便利なんですが、よもやそんな欠点があるとは。このことは報告書に記入しておかなければ」


 男はなるほど、頷く。

 だが、その挙動に一切の隙が無い。

 しかも、鑑定スキルを使っているのに男の情報が得られない。おそらく、ラウラと同様の鑑定妨害のスキルか、アイテムで防いでいるのだろう。

 油断はできない。


「ジャーマインさん!」


 縄で拘束された子が、まるで希望を見出したように男に縋りつこうと暴れる。

 たしか、私が股間で再起不能にした剣士の青年だ。

 男の冒険者たちと同胞たちから、あまりにも可哀想だからと治してくれと頼まれて、しかたなくハイポーション(ラウラ作)で治療してやった。

 痛みで数日は起きないと思ったが、さすがはラウラ印のポーション。もう、あそこまで元気になるなんて。

 青年だけでなくほかの冒険者たちも初老の男性の元へ駆け寄ろうとするが、バフの効果切れと闇魔法による拘束魔法で能力値が低下しているため、同胞たちにより力づくで押さえつけられている。


「助けてくれ! 俺たち、このコボルドの女にやられて、このありさまなんだ!」

「えぇ、分かってます。ずいぶんひどい目にあいましたねぇ。私が支援魔法とアイテムであなたたちを強化したのにもかかわらず、このような無残な結果になるなんて」


 どうやら、この未熟な冒険者たちにバフを付加したのはこの男で間違いないらしい。

 しかも、冒険者たちの反応からして、妄信的にこの男に信頼しているみたい。


「だ、だってしかたないだろう! このコボルドが強すぎて敵わないんだからよ!」

「そうよ! レベルが80台の犬いるなんて聞いてないわよ」


 剣士の青年に合わせて、魔法使いの少女も叫ぶ。

 ほかの冒険者たちと同胞たちも首を縦に振って、同意する。

 なぜ、あなたたちまで同じ反応をするわけ?

 一様、敵同士なんだけど?


「それについて、言い訳はしませんよ。この森にいる魔物は大抵レベルが30から50らいだと聞いていたはずが、よもや英雄級がいるなどと……ここにきて誤算が生じるなど予想はしていませんでした」


 男は顔を手で仰ぎ、ため息を吐き出す。

 男が言った通り、このあたりの魔物のレベルはせいぜい40程度。

 私というイレギュラーを知らなくて当たり前。


「とはいえ、我々の障害となりえる英雄級を発見できたのは幸い。計画の遂行をかねて、この私の手で貴女を排除しましょう」

「計画…? いったい何を言って――」

「死ぬあなたに説明する必要はありません。神威の火花で滅せ――聖火千矢爆セイント・ブラスト・アロー


 男の背後から方陣が複数展開し、神聖魔法の矢が放たれる。

 鑑定スキルによれば、爆裂系の矢のようだけど、この矢の軌道は――まずい!?


「我らを守れ――石影城壁(せきえいじょうへき)!」


 地面から方陣を展開し、地面から漆黒の城壁が生み出され、私と同胞、そして冒険者たちを守る。

 光魔術と土魔術の複合魔法で、巨大で分厚い壁に加え、はあらゆる攻撃を吸収し無効化する影が表面に施された最高の防御魔法。

 並大抵の攻撃ではこの壁は突破できない――はずなんだけど。

 

 ピッキ!? ビッギィ!


 高熱量の魔法の矢が壁に直撃するたび、とてつもない爆発と爆発音が起きる。

 徐々に壁に亀裂が生じ、端から崩れかけていく。

 火力がさきほどの冒険者たちの魔法と比べてけた違いに強い。

 このままだと、防ぎきれない!

 私はありったけの魔力を壁に注ぎ、男の魔法攻撃を防ぎ続ける。

 そして、


「おや、防ぎきりましたか」

「ぜぇ……ぜぇ……」


 壁が全体の10分の一まで削られたけど、なんとか防ぎ切った。

 残った壁は塵となった崩れる。

 せっかく魔力と体力を回復したのに、もう半分以下に減ってしまった。


「ど、どういことだよジャーマインさん!」

「さっきの攻撃、あきらかに私たちも狙ってたわよね!?」


 冒険者たちが男に向けて怒号する。

 未熟者でも、気づくものがいたみたい。

 あの攻撃魔法は私と同胞たちだけでなく、彼ら冒険者も狙っていたことに。

 冒険者たちの眼が、不安と懇願が交じり合ったような感情が籠る。

 まるで、自分たちを裏切ってないよね、と願うように。


「それはもちろん、あなたちを殺すつもりで撃ったのですから当然です」


 男――ジャーマインは平然と答えた。

 彼の言葉に、冒険者たちは目を丸くする。


「そんな……どうして!」

「そうだ! なんで俺たちが死なちゃいけないんだよ!」

「あははは、だってしかたないでしょう。あなたたちは所詮、捨て駒。戦争が起こすための犠牲(きっかけ)なのですから」

「戦争……?」


 捨て駒と犠牲。そして、未熟な冒険者たちの身勝手な奇襲。

 その先にある戦争……まさか!?



「私たちと冒険者ギルドを戦わせるために、この襲撃を企てた……!?」

「正解です、コボルドの孫娘様」


 ジャーマインは肯定する。

 納得した。

 冒険者たちを私たちの集落を襲わせたのは、私たちコボルドが冒険ギルドに対して敵意を持たせるため。

 おそらく、子供を攫ったのはこいつらの仲間。コボルドの主力である戦士たちと集落を引き離すための囮役。本命は戦闘力が低い同胞たちと彼ら冒険者たちを戦わせて因縁を作ること。もしも、双方に死者が出れば、憎しみが生まれ、やがて戦争に発達する可能性がある。

 彼らが言っていてる強奪事件も、こいつらが関与してるかもしれない。


「あなたに、その名で呼ばれるの嫌。それよりも、なぜこんな真似をした! 我らコボルドと冒険者ギルドを戦わせ何の利がある!」

「くっくく、いいでしょう。せっかくです。冥途の土産に教えてあげましょう。我々の目的は我らの神の命に従い、人類こそ至高の存在だと世に知らしめること。そのため、この大地、リーベルク大樹海を神に献上し、我ら教会の威光を世に刻み込むのです!」

「人間至高主義……もしやあなた様はアダナギ教の信者なのですか!?」

「アダナギ教……昔、母が言っていた人間以外を鬼畜扱いするトチ狂った宗教団体か!」


 僧侶の少女の言葉に、私は奴の正体を察した。

 世界には七つの宗教がある。世界を導く七人の神々。その神々を一柱ずつ信仰する七大教会。

 そのひとつが、人類を導き、文明を築き上げる主神アダナギを信仰する教会――アダナギ教。

 人類至高主義を掲げで、獣人や亜人などの他種族を差別し、人間以外を奴隷化。私たち魔物を悪しき存在として一方的に滅する過激集団。母からよく忠告されていたけど、まさかこいつが……。


「そんな馬鹿な! あんたはたしかラーピットの神官だったはずだ!」

「アダナギ教はいろいろと問題を起こすから、冒険者ギルドに入会できないよう出入り禁止にしてたはずなのに!」

「教会と冒険者ギルドは犬猿の仲だろうが!」

「なのになんで、蒼銀板の冒険者になれるんだよ! おかしいだろ!?」


 冒険者たちの反応から、冒険者ギルドとアダナギ教は敵同士みたい。

 冒険者ギルドは実力主義を方針しているけど、仲間と協力して目的を達成する職業だから横のつながりを大事にしてるため、実力や種族を問わず仲間意識が強い。

 他人を差別化してるアダナギ教とは相いれないのは当然かもしれない。


「それはもちろん、スパイとしてギルドに潜入してただけのこと。いかに冒険者ギルドが国家に対抗できるほどの戦力と権力を持っていても所詮は自由人の集まり。懐に入る手段などいくらでもありますよ」

「まぁ、所詮は人間が作った組織……だから」


 どれだけ厳しく規制しても、抜け道は必ずあるもの。

 冒険者ギルドの管理がどれほどのものかしらないけど、もしも、ラウラがいたら「管理が雑ですわね」っていわれるかもしれない。


「この土地を神に献上する……それはつまり、この地を征服するためと、解釈して、いいよ……ね?」

「征服とは物騒な。我らはただ、この地で起こるであろう、戦争のために我らの布教で救うだけ。そのために、数多くの犠牲がでましょうが、それも神の導き。責任を問われた冒険者ギルドに代わって、この穢れた土地を浄化し、楽園にするのです」


 ようするに漁夫の利で、この樹海の権限を掻っ攫うわけ……か。

 この樹海の資源を採取することができるのは私たち魔物の先住民たちと、冒険者ギルドの関係者たちのみ。

 目の敵である魔物と冒険者たちを潰し合わせ、疲労したところで信仰という名の詐欺と暴力でこの樹海を支配する、ってところか…。

 策略としては定石で、卑怯も戦術の一つとしている私が言える資格はないだろうけど……。


 ――そんなくだらないことのために私の大事な家族(いばしょ)を傷つけたのか、こいつは!


「長話をしてしまいましたが、これも我らの信仰のため。聖戦の礎となりなさい」


 ジャーマインの背後から複数の方陣が展開される。


「孫娘様、我らも――」

「ダメ。あなたたちはこいつらを連れて非難してて。死んだらあとで面倒だし、なによりあなたたちを守りながらアレと戦うのは……厳しい」


 魔力量は半分以下。魔力量を上乗せする護符も使い切った。

 回復アイテムを使おうにも、この状況じゃぁ、飲み食いする暇はない。

 使えそうな武具も道具もラウラのところに置いてきたから、手持ちの剣と武器でなんとかしないと。

 それに、また範囲攻撃が来たら、こいつらを守る自信はない。


「ですが――」

「私はコボルドの戦士としてあなたたちを守る義務がある!」

「「「「ッ!?」」」」

「私は長の孫娘……、この場に長と戦士たちがいない以上、戦うのは私だけだから」

「孫娘様……」


 袖から三本の愛剣を取り出して地面に突き刺す。

 同胞たちは悔やむかのように顔を下に向けながら頷き縄で縛った冒険者たちを運び出す。


「くく、逃がしませんよ」


 ジャーマインの方陣からさきほどの神聖魔法の矢が放てる。

 狙いは同胞に担ぎられている僧侶の少女。

 ――やらせない。

 両手に二本の剣、さらに口に一本の剣を咥えた私だけの構え。

 三刀流の型だ。

 私は高速挙動で移動し、剣で矢で切り捨てる。

 両断された矢は左右に分かれ、近くの瓦礫で爆発した。


「なぜ私を……」

「……」


 さっさと連れて行けって同胞に視線で伝える。

 同胞たちは無言のまま冒険者たちを担いで、仲間たちが非難しいる場所へと退却していった。


「さきほどといい、今といい、なぜ、あの子たちを守ったのですか? 私が吹き付けたとえ、君たちの仲間たちを傷つけた一団ですよ?」

「たしかに、私たちの集落を襲撃した子達を守る義理はない」


 彼らは身勝手な理屈で殺される覚悟もなく私の同胞たちを傷つけた。

 それに、情報収集と政治的に利用するなら何人か生きていればそれでもいい。そのあとのことなんて興味はない

 だけど――。


「慕ってた子たちを裏切った挙句、戦争の生贄にするあなたの性根のほうが……とても、癪に障る!」


 自分の手を汚さず私腹を肥やす下郎の思惑に乗せられるのは、非常に不愉快!

 なにより、こいつら教団の人間を野放しにしていたら、私たちコボルド――うんうん、この樹海に暮らす者たちに害をもたらす。

 この場で殺さなかければ、仲間たちの未来を守れない。


「いいでしょう。ならば、聖戦のため、我らの贄となりなさい! 聖閃撃砲(セイント・ビーム)!」


 方陣から極太の光線が発射される。

 範囲は広いけど、避けれない速度じゃない。

 身体を低くして、前へと走る。

 光線は私の頭上ギリギリを走り、後方の瓦礫と木々を焼却させた。

 魔物殺しの魔法だから余波だけで身体がビリビリして痛むけど、耐えられないほどじゃない。


「避けますか! なら、聖閃撃砲・九連式セイント・ナイン・ビーム!」


 今度は九つの光線が時間差で発射される。

 退路を制限するための軌道。これを避けるのは至難の業だろう。タイミングがずれれば、あとの光線の餌食。また、防ごうにも、この攻撃魔法を防ぐだけの防御魔法用を私は持っていないし、使えても魔力はほぼ残っていない。

 ならば、私は前へ出るだけ!

 速度より反射神経を魔法で強化。スキルで強化された耳と鼻で光線の速度とタイミングを予想し、よけ続ける。

 

 一本目、二本目、三本目――クリア。

 四本目、五本目、六本目――ぎりぎりクリア。

 七本目――毛先が焦げたけどクリア。

 八本目――肩にかすれたけど軽症の火傷だから大丈夫。

 そして、九本目――正面ど真ん中コース。

 これは避けれない――だったら!


「ぶった切るまで……!」


 足に魔力を巡回させて、脚力を底上げ。

 三本の刀身に魔力を纏い、両腕をクロスさせる。


「喰らいて裂けよ! ――双犬刀流裂(オルトロス・エッジ)!」


 前方へと飛ぶように地面を蹴り上げると同時に、剣を×の字で重ねてに振り下ろす。

 二本の剣はまるで巨頭の犬の咢となって極太の光線を食らいつき、光線を二つに引き裂き両断。


 ビッギ!? メッギ!?


 技と光線の威力に耐え切れず二本の剣が亀裂が生じて、刀身が砕け散る。

 残っているのは口咥えて、剣一本のみ。

 でも、男に刃を届かせるための活路が開いた!

 一気に距離を詰め、男の首を斬り堕とすため、咥えた剣の刃を宙に走らせる。


「くっ!? 聖障壁(セイント・プロテクト)


 ジャーマインが手を前にかざすと光り輝く障壁が展開され、道を塞ぐ。

 刃と障壁が衝突する。

 神聖魔法で作られた障壁のため、触れば鉄板を押し付けられたような痛みがするらしく、口に剣を咥えたままの私は、障壁のギリギリまで接近しているので、全身、針を刺されたような痛みががする。

 それでも。


「ラウラの魔法に比べて――脆い!」


 顎に力を入れ、刃を壁に食い込ませる。

 すると、障壁に亀裂が生じ、徐々に歪んでいく。


「なっ!? 私の聖なる魔法が!?」


 男はありないとばかりに、驚嘆する。

 そしてついに。


 パッリーン!?


 ガラスのように砕けた。


「これで、おしまい――」

「ま、まって!」


 男の懐に入ると同時に、脱力して体の力を一瞬だけ抜く。

 重力の従って地面に落ちる寸前、体中の魔力を活性化。爆破的に魔力を巡回させ、身体能力を上昇させる。

 刹那、低い体勢から上へと飛び跳ね、口咥えた刃で男の首を切り飛ばす。


 シュッパーン!


「――奥義、頭犬一閃(イヌガミノタチ)


 地面に着地し、私は咥えていた剣を堕とす。

 背後を振り返ると男の首から噴水のように大量の血が吹き出し、そばに男の頭が転がっている。

 濃い血の匂い。

 初めて人間を殺したけど、魔物を狩った時と同じ罪悪感はない。

 むしろ、清々したといった感じがする。

 ……私らしくない感情だ。

 信念を触発されて感情が高ぶったのはしかたないとはいえ、生きる以外で他者の命を奪うのは私のやり方に反している。なのに、私はこの男を殺して、気持ちがいいなどと……命を冒涜している感じがして自分に嫌気がさす。


「はぁ、とにかに、みんなと合流しない……と」


 もう魔力も体力も限界。

 剣にいたっては奥義の反動で刃こぼれして、あと数回振っただけで壊れるだろう。

 それに、この男の仲間であろう誘拐犯を探して、子供たちを救出しに行かないと……。

 私がその場か立ち去ろうとした――そのとき。


「お、おのれぇ……魔物分際で、よくも私を一回殺したなぁぁぁああ!!」

「へ――なっ!?」


 死んでいたはずの男の首が憤怒の形相でこちらを睨みつけて怒鳴った。

 つづけ、男の体と首が黄金に輝きに包まれる。

 すると、男の首が宙に浮き、切断された首へとくっつく。

 輝きがやむと、そこには傷一つ追っていない、憤怒に駆られた男ジャーマインが立っていた。


 どういうこと!?

 手応えからして、即死したはずなのに……ん?

 男の足元にある砕けている壊れた指輪を見つけた。

 さっきまであんな指輪落ちてなかったけど……もしかして。


「死者蘇生のアイテム……!?」

「その通り! 我々、アダナギ教会を統べる幹部『十三使徒』。幹部全員がもしも場合にそなえて死亡時に自動で蘇生するアイテムを常に身に着けているのだ!」


 そういって、ジャーマインは高らかに答えた。

 まさか、伝説級のアイテムを持っていたなんて。

 死んだ者を自動で蘇生させるアイテムはかなり貴重な物。

 昔、オーズがそいうアイテムを作れないかとラウラに頼んだけど「必要な素材がありませんので無理」って断れて諦めた代物(代わりに死者蘇生薬を作ってもらったけど)。

 しかも、壊れた指輪と同じ物を、あの男はあと七つ嵌めていた。あれ全部、自動蘇生のアイテムかもしれない。

あんな貴重品を一個人どころか幹部全員が複数所持しているなんて……。

アダナギ教……ただの過激派宗教団体じゃないのかもしれない。


「英雄級とはいえ所詮は畜生(コボルド)と油断をしたのは私の未熟さ故……。しかし私は負けてはいない! 神の信仰のため。人類の栄光のため。全力で貴様を排除する!」


 そういって、懐から取り出したのは……手のひらサイズの円盤?

 形からしてメダリオンだろうか。


「神よ! 我が神よ! あなた様に逆らう塵芥に神の威光をしらしめてくださいませ!」


 ジャーマインがメダリオンを掲げるとメダリオンから強烈な聖なる光があふれ出す。

 魔物としての本能が告げる。

 アレはヤバい代物、だと。

 止めようと、体を動かそうとするけど、さっきの戦闘で無茶をした反動と光の影響で体が思うように動かせない。


「ふっははは! 神の光輝は貴様ら魔物にとって毒も同然! そこで大人しく見ていればいい! 来たれ! 神の使者よ! この者に神の裁きを!」


 上空で集落を覆い隠すほどの方陣が出現し、そこから人の形したものが大量に下りてくる。 

 それはジャーマインを守るように配置される。

 それは人ではない。

 白い外骨格に身に纏い、バッタのような光の羽を持つ、女性の顔を持つ人形。

 美しい造形なのに、見てるだけで身の毛が立ちそうな気味悪さを感じさせる。

 野生の感が叫ぶ。あれは魔物だけじゃない。

 あれは、すべての生き物天敵だ。


「天動兵! 第七級(セブンス・アーク)! これこそ神が我ら使徒にもたらせた美しき神の兵士なり!」


 天動兵……第七級……。

 たしか、神話で神が魔王と魔族を滅ぼすために作った命なき人型兵器の一種だったはず。

 そんな神話の兵器をこの男は召喚したというの!?


「驚いているのでしょう。当然です。これこそ神より与えられし叡智で作り上げた召喚装置! 天使の環(エンジェル・ピース)の恩恵! このメダリオンを使用すれば天動兵団を無制限に召喚することができるのです」


 もっとも使用できるのは私を含めた十三人の幹部だけですが、と補足する。

 くっ、よりにもよって、とんでもない切り札を…・・!?

 鑑定スキルを使わなくてもわかる。

 アレは私より強い。しかも、多勢に無勢。

 万全の状態なら私に勝ち目はあるだろうけど、疲労しているうえに装備が整ってない今の私では一体相手に挑んでも勝てる確率はゼロに近い。


「さて、今あなたには二つの選択肢があります。私の下僕となって冒険者ギルドを襲い、この土地を我々に献上すること。もしくは、あなたとと、この場にいた目撃者共ども死ぬこと。二つに一つです」

「……」


 先ほどの怒りを嘘のように、ジャーマインはいやらしい視線で私を見る。

 どうやら、私の力は彼には魅力的だったらしい。なにせ、私のレベルは80台。英雄級の実力者。冒険者ギルド相手に戦争するにはうってつけの戦力だろう。差別主義でも、簡単に暴力が手に入れるなら、主義なんて身勝手に折るもの。力という誘惑は誰にでもある。

 二つの内どちらを選ぶのだとしたら、前者のほうがいい。そっちのほうが仲間たちを生かすことができるし、さっきの未熟な冒険者たちとは違う、本物の冒険者(きょうしゃ)と戦えるかもしれない。

 オーズから、戦闘狂だとか言われてきたけど、やっぱり私は戦闘狂だったみたい。今さっき、自覚した。

 ならば、仲間の存亡と私の私欲のため、この男に下くのも得かもしれない。

 ――と、昔の私ならそう考えてたはず。


「戯言にしては、なんて面白くないセリフか…な」


 壊れそうな剣を握りしめ、私は言葉を開く。


「貴方程度の雑魚に従うほど私は負け犬じゃない。なにより、私の心臓はまだ動いているッ。生きている!」


 オーズを鍛えてるとき、彼から教えられたことがある。

 義弟はいつも口では「無理」とか「不可能」とか言ってるのに、最後には目的を達成することができる負けず嫌いな子。

 基本、怠け者でやる気がほぼ皆無のなのに、あんな嫌々な態度をしてまで諦めずにいられるのか聞いてみたら――、


『人が過去を変えられないように、すでに起きた結果を覆すことができない。けど、まだ起きてない結果を認めるのはおかしいだろ。結果(みらい)なんてものは、自分たちが生きている限り、どうこうできるもんだし。だったら最後まで頑張らないともったいないだろ』


 あの子にとって、結果がすべて。

 死んだら死んだで、それを良し。

 生きていたら、生きてたら、それで良し。

 だからこそ、最後まで頑張れる。

 単純な考えだけど、それは私が掲げている弱肉強食の理に真に迫るもの。

 弱者とは強者に負けた者ではない。

 勝者に食われたものが弱者であり、死ぬことこそが敗者。

 なら、生きているものはまだ真の敗者じゃない。

 諦めず、死ぬまで挑み続ける者こそが強者であり永遠の挑戦者。

 だからこそ――。


「心の臓が動いている限り、私は負けない! 息の根を止まるまで私は勝ち続ける!」


 義弟の義姉として、私が諦めるわけにはいかない!


「そうですか。ならば――死ね」


 ジャーマインの合図とともに、天動兵が一斉に襲ってくる。

 上等。

 ここが私の限界というのなら乗り越えて見せる!

 疲労しきった身体を奮い立たせ、私は迫りくる神の兵器に剣を構え――

 


――って、なに勝手に死亡フラグ立ててるわけ、この義姉は?



 ドっゴーン!



 挑もうとした瞬間、前方にいた天動兵が横から飛んできた丸太に激突して吹き飛ばされた。

 ん? 丸太?

 というか、さっきの声とこの匂いは――!


「まったく、急いできてみればなにこの状況? 火事場に犬に担ぎ出される冒険者ぽい若者に空から大量に降ってきた等身大の美少女人形。あと、いかにもチート主人公に問答無用に倒されそうな踏み台狂信者。さすがの俺でも理解が追い付けないんだど。豚足なだけに」


 重く、そして、安定感のある足取りでこちらに近づく巨体。

 獅子のような猛々しく、燃える火よりも紅い赤い長髪。

 びっちびきの洋服で包まれた赤銅色の分厚い筋肉と、長く太い四肢。

 歴戦の戦士と思わせる厳つい顔なのに、しゃべり方は十代の若者と同じ軽さ。

 会話が苦手だと言いながらも皮肉じみたセリフを口から垂れ流す、ちょっとした捻くれた性格。


 見間違えるはずがない。むしろ、あんな目立つ十五歳が二人以上いるわけがない。

 でも、どうしてあなたがここにいるの?


「……オーズ」

「よ、お義姉ねぇさま。数時間ぶり」


 私が怪訝する中、愛しい義弟はいつものように不敵な笑みをみせるのだった。



今回でシャルロット視点は終了。

次回は主人公視点です。

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