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01 転生=赤ん坊


 眼を見開くと、緑に区切られた青空が視界に広がった。


 樹齢百年を超えてそうな大樹の木々が広大な空を貫こうと聳え立つ。

 宇宙娘に黒一色の闇に落とされ後記憶がないが、こうして生きてる所、無事に転生はできたようだ。

 とういうことは、ここは異世界でどこかの森の中で、自分は仰向けに寝転んでいる、と。

 

 森林から木々の匂いが鼻孔に入る。現代社会の排気ガスとは無縁の新鮮な空気だ。山や自然が多い場所へ旅行などで吸ったことがあるが、匂いが違いすぎる。緑の香りがこちらが強く、吸うたびに細胞がリフレッシュされそうだ。

 転生する前の時期は六月頃の梅雨だったが、ジメジメとして湿気は感じられない。

 現代と異世界とでは季節が違うのかわからないが、ちょうどいい湿気と温度で心地よい。

 このまま一眠りしたいところだが、暢気に昼寝している場合ではない。


 なにせ裸一貫でこの異世界を生きていかなくてはいけないのだ。

 ならばやるべきことは二つ。自分が今いる場所の確認と衣食住の確保だ。

 異世界モノの小説なら、最初は情報収集のため町にいくか、諸点となる場所を探すだろうが、こっちはあえて人から離れた生活するのが目的なので、前者は無し。そもそもオークが街に出たら騒ぎが起こるの確実だ。

 宇宙娘によればオークという種族は人から嫌われいる様子だから、冒険者の戦士たちと出会ったら即座に討伐されてしまう。

 そんなテンプレを回避するためには、まずは周囲の把握だ。

 近くに町とかあると、これからどうするか考えなくてはいけなくなる。


 そのため、この森がどういう場所なのか知るため散策でもしておこう。

 そう思いながら体を起こそうとしたが、起き上がることができなかった。

 どういうこと? と、思った時、俺は自分の手を見て気づいた。


 生前のようにごつごつ通して青年の両手でなく、亀の甲羅のような感触と硬さがある化け物のような両手。

 これがオークの手なのだろう。オークを選んで転生したのだ。驚くことではない。

 だが、問題なのはそこではなく、そのサイズだ。



 どう見ても赤ん坊の手と同じサイズだった。



 まさか、と思いながら幼児の手でぺたぺたと自分の顔と体を触る。

 所所、人間とは違う感触と触感があるが人外転生したのだがら生前の自分の肉体ではないことは承知の上だ。

 問題点を挙げるなら――

 



「ヴォォオオオオオ!?(俺、オークの赤ん坊になってるぅぅぅううう!?)」



 まさかの赤ん坊スタート!?

 失念していた…転生する登場人物は大抵は赤ん坊からスタートするんだった!

 てっきり、成人したオークの姿で異世界に放り込むものだとばかり思っていた!?

 

 しかも、こんな森のど真ん中で赤ん坊が布にくるまれて置かれているということは捨て子!

 俺、捨てられた!?


 頭の中で自問自答を繰り返すが数分して考えるだけ無駄だということが結論に至った。

 このまま寝ていても状況は最悪のままだ。

 立つこともできない赤ん坊が知らない森で一人。いや、オークだから一匹?

 どちらにしろ肉食動物が来たら、食べられて即ゲームオーバーまちがいなし。

 転生早々に死ぬなの御免被る。なんとかしてこの場から移動しなければ。


 仰向けの状態から懸命に横へ転がり、俯けの状態になる。

 転がる際、体を覆ていた布が脱げ落ちるが気にせず身近な両手足で地面を踏み、一歩ずつ前へ進む。

 つまり、ハイハイである。

 赤ん坊なら当たり前だが、中身が十七歳の男子だと恥ずかしい。しかし、生きるためにはしかたがない。

 あと、布でくるまられていたから分からなかったが、裸足で踏んだたら痛そうな尖った石ころが転がっていた。

 なのに掌や膝に痛みがなかったのは皮膚が分厚かったからだろう。もしくは痛覚が鈍いのか。

 ほかに思い当たるとすれば、おそらくスキルの《痛覚耐性》と《自己再生》の恩恵かもしれない。


《痛覚耐性》

【痛みに対して耐性を得る】

【ただし、ダメージは軽減・無効化されない】


 痛いのが嫌いな人には有利なスキルだ。もっとも痛みはなくても怪我はするが、そこは《自己再生》でカバーをしとけばいいだろう。多分の今の俺なら擦り傷程度ならすぐに治るはずだ。


《自己再生》

【肉体の損傷・欠損を自動で修復・再生する】

【ただしHPは回復しない】

【損傷・欠損の具合によってSPが消耗する】


 自分で選んで転生したが、オークの癖に便利なスキルを持ってるなーと改めて思う。デリメットもあるけど、デリメットを打ち消すスキルが持ってるから支障はない。

 どこか落ち着ける場所があれば自分のステータスを確認したほうがいいかもしれないな。

 それにはまずは歩けるようにならなければ!


 そんなこんなで、ハイハイすること数分後。

 なぜか急に立てる気がして、近くの木に寄りかかり立ち上がろうと足に力を入れる。

 普通の人間の赤ん坊なら何度かチャレンジして数秒だけ立てるようになるのだが、俺の場合、一発で立てた。

 今度は木から手を放し、二本の足で一歩ずつ地面を歩いてみる。

 立ち上がったばかりなのか、それとも生前の体とは違う体なのか、最初はバランスや違和感でまっすぐ歩くことできないが、数秒でトテトテ歩きからダッシュ移動ができるほど活発に動くことができるようになった。


 もしかして、オークって成長が速い?


 これはこれでありがたいが、それでもまだ油断はできない状況なのは変わらない。

 小学生くらいの運動ができるとはいえ、今の俺は小さな赤ん坊(子豚)のままだ。

 大型の魔物や盗賊とエンカウントしたら、即座に殺されてしまう。

 俺を包んでいた布をとり、腰に巻きつけ、逃げるようにその場を後にする。


 あと、冷静に考えたら、俺さっきまでフルチンだった。

 しかもその辺をハイハイしてうろうろ歩いて…赤ん坊ではなかったら警察に捕まってる。

 今なら異世界に転生した主人公たちの気持ちがよく分かる。


 赤ちゃんプレイは恥ずかしい!



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