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18 コボルドの戦士シャルロット

今回はシャルロット視点です。

 ラウラの触手からなんとか逃げ切った私は道中の川で小休憩をとっていた。

 ここから急いで駆け抜ければ、昼過ぎには集落にたどり着けるだろうが……お腹がすいた。

 日帰りの日とはいえ、オーズのところで昼食を食べて帰ればよかったと後悔している。

 おそらく今日の献立は一晩寝かせた味噌漬けの焼き魚だったはず……。

 きっとおいしんだろうなぁー、と味を想像し、食べ損なった原因であるラウラに食べ物の恨みの念を送る。

 もっとも、私が勝手に義弟(オーズ)に手を出した事が発端なんだけど。

 はたから見れば私が悪いだろうが、恋愛は戦争。意中の相手を射止めるためなら卑怯も減ったくれもない。

 けど、あの触手……というよりラウラの房中術には正直言って敵わない。

 ヌルヌルする伸縮自在の触手だけでなく、舌や指などで的確に私の急所を責め、焦らし、責め、さらに薬と針などの道具で感覚をいじりまくるなど、高度なテクニックと武装の数々には心底恐怖している。

 昼前のことを思い出しただけで、身体が疼いてしまう。


「……水に浸かろう……」


 服を脱ぎ川へ浸かり、川底へ潜る。

 川の冷たさが、火照った身体を静めてくれる。

 数分ほど水浴びをし、ようやく体の火照りが治まった。

 マジックボックスの術式が施された袖からタオルを取り出し、体を拭く。


「……私もだいぶ大人になった」


 大きすぎる自分の胸を見て呟く。

 オーズと出会って十五年が過ぎ、私は立派な大人のコボルドに成長した。

 自称じゃないけど、集落の同性の娘と比べて圧倒的な体型で、メスケモノ?は興奮しないと主張していた義弟からも異性としてみてくれるようになった。

 本音の言えば、大きければ大きいほど動きにくくなるから、ラウラみたいなやや中肉中背な体型が好ましいけど、義弟が喜ぶならまぁいいか納得した。

 このいやらしい肉体のおかげで、義弟の貞操概念削れたし。一線を超えるのはあと少しかも。


 ……ただ、集落の仲間たちの視線が嫌になる。

 理由は単純。彼らが私を(つがい)として意識してるから。

 コボルドは大抵二十歳頃で番を決め、家庭を持つのが一般。私も二十歳になった頃から長から番を紹介されたが、義弟がいるから毎回断った。もちろん、理由は秘密にしている。義弟たちとあの町の秘密を洩らさないよう話をぼやかした。

 だというのに、番の件が続いた。どうやら私の見た目は雄のコボルドには魅力的すぎるらしく、番の申し込みが後を絶たない。そればかりかまだ二十歳にもなってない雄どころか、戦士じゃない奴からにも、番を指名してきた。

 おかげで年近い同性から、のけ者扱いされている。

 それを同情したのか集落の老人たちや年上の戦士たちが私に常に気にかけてくれた。

 狩りの時なんかは私の体を案じて、人一番傷ついて戦ってくれた。

 おかげで私は毎回軽傷で済み、楽々と狩りができていた。

 そう、仲間たちに守られながら。

 

 


 ……正直言って、全員ウザい。

 私はコボルドの一族として、また戦士として、集落と家族と仲間たちを守ってきた。

 どんなに卑猥な視線を浴びようが、どんなに嫌悪に扱われようが、この身ひとつで同胞たちのために働く。

 同情も劣情も色情も不要。

 私から求めるもなんてない。ただ、畏怖と感謝を向けてくれれば、それでいい。

 強者とは、頼られるものとは、そういう生き方なのだと亡き母が言っていた。

 それが私にとって当たり前のことであり、私の運命だと思っている。

 そう、思っているのに……、


「帰りたく……ない……」


 集落と比べてとオーズたちとの暮らしのほうが愉しい。

 自分よりはるかに強い魔物との命を懸け真剣勝負という名の快感と、自身の力だけ得られる勝利と達成感。

 豊富な資材と最新鋭の機材と道具類によって、作り上げた強力な武具。

 快適な施設でくつろげる自由な時間に、様々な食材を使った美味なる料理。

 そして、私のことをコボルトの長の孫娘としてではなく、ひとりの戦士として、また、ひとりの女として接してくれる義弟と親友たち。

 彼らとの生活はとても居心地がいい。

 そう、私の大切な家族(いばしょ)よりも。


「それでも……私は一族を見捨てるわけには……いかない」


 亡き両親が守ろうとした居場所……私の生まれた故郷を守るのがこの森のコボルドとして生まれてきた私の役目。

 私の我儘で一族を蔑ろにはしたくない。

 親の代わりに一族を守っていくって。家族は私にとって大切な居場所だから。


 私はそう自分に言い聞かせながら、服を着ていく。


「――ん? 焦げた匂い……?」


 何かが燃える匂いがする。

 焚火でもここまで焦げ臭くはない。

 それに、火事のような暑い熱波も感じる。

 熱波と匂いの先は――集落がある方角!


「まさか、集落になにか!?」


 間が悪いことに長は大樹海に住む他種族の長同士の集会で一週間近く遠出で出かけている。

 いるのは同僚の戦士たちと職人たちと狩りを知らない子たち。

 私はその場から駆け出し、集落へ高速で向かった。


 ■■■


「みんな……無事!?」

「長の孫娘様!」

「長の孫娘様が戻れたぞぉ!」


 集落にたどり着くと、家々が倒壊し、木々や家の一部が燃えていた。

 同胞……おもに鍛冶職人や大工などの老年の大人たちが私の元に駆け寄る。ところどころケガをしていたが、ほとんどの者が軽症。

 ほかの者は家に下敷にされた者や、動けない者たちを救出と避難をしていた。


「私がいない間、なにが……あった? 戦士たちは?」

「はい、孫娘様が出かけているときに襲撃に合ったのです」

「何者かわかる……?」

「白装束を着た怪しい奴らで人間であること以外わかりません。ですが、よほどの実力者であることは間違いありません。我らの警備網を誰にも気づかずに潜り抜けてきたのがその証拠です」


 ……たしかに。

 集落の周りに設置した罠や結界類はコボルドが先祖代々研鑽してきた代物。そう安々と解除はできないし、コボルドは鋭い嗅覚による探知能力ならすぐさま外敵を補足することができる。

 それが、通じないということは、相手はプロか、隠蔽系のスキルもしくは魔道具を保有しているかもしれない。

 警戒が強いコボルドが襲撃されるまで気づかないほどの相手。油断はできない。


「それだけではありません。奴ら、我らの子供たちを攫ったのです!」

「子供たちが!?」


 子供たちが攫われたことに驚く。

 いわれてみれば子供たちの姿が無い。

 てっきり、先に避難させたのだと……。


「それで、攫われた子は?」

「襲撃者共に東へと……」

「戦士たち全員が子供たちを救出に向かってます。なにせ、高位の魔法を使える人間ですし、なにより子供たちが人質にされている状態なので」

「え……戦士全員ッ!?」


 救出するのは構わないけど、全員はダメ!?

 それだと、集落の防衛力がゼロになってしまうところか、また襲撃されて死亡者がでるかもしれない。

 たしかに子供たちは大切。

 私の世代の時は子宝が恵まれてなかったけど、この数年で多くのコボルドが生まれた。

 だから、私を含め、子供たちを大切に育ててきた。

 それを奪われて怒るは当然。私も怒りで我を忘れそうになる。

 ――だけど、ここで感情に任せてはいけない。

 力技で取り戻そうとしても、相手の思うつぼ。下手をすれば子供たちの命が危ない。

 冷静になって、状況を把握し、もっとも効率な有効手段を考える。

 生前、父から教えてくれた心得だ。

 ならば、コボルドの戦士として、長の孫娘として、この状況を速やかに打破しなくては……。


「……現在、集落を指揮する長がいないから、長の孫娘である私が、長代理で指揮……する。反論ある?」

「い、いえ、ありませんが……」

「孫娘様も戦士なのですから子供たちの救出に参加をしては……」

「子供たちの救出は、救出に向かった戦士たちに任せる……今は私と動ける者は消火活動……および怪我人の避難と治療を。事態が収束したら私も戦士たと合流……する。それでいいよね?」

「は、はい!」

「承知しました、孫娘様」

「ほら、長代理の命令だ! 火が広がらないうちに消すわよ!」

「おう!」


 同胞たちはいっせいに散らばり、消火活動と避難誘導を始める。

 私も消火活動しないと――、


 ドッカーン!


 なに、今の爆発音……?

 もしかして薬品の倉庫? 

 あそこは引火性の強い薬品を置いてたはずし、火事で爆発でもしたのかも。

 そんなとき、中央から三人の同胞たちが慌てて走ってきた。


「たたたたたいへんです!」

「さっきの奴らと違う人間たちが侵入してきました!」

「しかも、消火活動してた同胞たちを魔法で吹き飛ばしました!」


 なっ、また襲撃!

 私以外、戦士たちが出払っているときに!?

 吹き飛ばされた同胞は無事なのだろうか。

 私は走ってきた者たちに聞く。


「その人間たちは…!」

「中央の広場です!」

「若い衆たちが、取り押さえようとしてますが大人数なうえ、武器をもってます!」


 若い衆というのはまだ戦士じゃないもの、もしくは戦士の試練に落ちた者たちのこと。

 集落で鍛錬しているから、戦えることは戦えるが、実戦経験は皆無。

 私は中央へと急いで駆けつけると、そこでは若い同胞たちが30名の人間たちと戦っていた。

 若い同胞たちは力任せに角材や武器を振るうも、盾に防がれたり、躱されたりしてで、人間たちの剣や槍や拳で責められ、さらに魔法で吹き飛ばされてしまう。

 予想してた通り、同胞たちのほうが劣勢。日ごろから身体を鍛えてきたため、対象の怪我で済んでるけど、このまま続けば命が無いかも。

 というか……


「あれって冒険者……?」


 首にぶら下げた冒険者の証を示す鉄版――ギルドカードがその証拠。

 冒険者は、世界を冒険し、狩りや探索をする職業――と、母が言っていた。

 リーベルク大樹海は立ち入り禁止区域として国々が決めた特別な土地。

 でも、大陸を両断する樹海のため、東と西との交通が不便だったから、樹海の面積が少ない地域だけ限定開放して、西と東を数十年かけて道を開拓。

 さらに、運搬と資源確保のために、その道に冒険ギルドを何件か設立したから、樹海で探索している冒険者を何度か見かけたことはある。

 そんな冒険者たちが私の集落を襲うのかは分からないけど、私が怪訝するのはソコじゃない。

 ここ数十年で見かける冒険者は全員が屈強な大人たち。私の目から見ても歴戦の狩人たちだった。

 けど、目の前にいる冒険者たちは二十歳にもなってない青年少女たち。見慣れた冒険者たちに比べて、あまり強くないし、安全地帯から危険地帯まで無傷でたどり着けるのは怪しすぎる。

 が、考えるのは後にしよう。

 私は勇猛果敢に冒険者に挑む同胞たちの前に出る。

 私の存在に気づいた同胞たちが驚いているが、それどころじゃない。

 袖でのマジックボックスから愛用の剣を取り出し、冒険者に問う。


「コボルドの長の孫娘……シャルロットが尋ねる。なぜ、我らの集落を襲った?」


 悪党だろうが外道だろうが、必ずあいさつをするのは大切な作法……って母が言ってた。

 じゃないと、殺す相手に失礼だからって。

 私の礼儀に、冒険者たちは私に警戒して構える。

 すると、魔法使いらしい少女が口を開く。


「はっ、畜生の癖になに人間の言葉で話してるわけ?」


 見下したように少女は傲慢な態度で語る。

 

「だいたい、我らの集落っていうけど、この森は私たち人間たち――冒険者ギルドの管轄よ。勝手に住み着いてる不審者を焼いても罪じゃないわ」


 その理屈はおかしすぎると私たちは思う。

 私たちコボルドを含めほか先住民はこの大樹海に何千年も暮らしているが、誰もが樹海の主とは主張していない。森はみんなの森。ましてや数十年前に勝手に住み着き始めた冒険者たち(こいつら)に余所者扱いされる筋合いはない。

 というか不審者だからって、勝手に殺していいわけがない。

 身勝手な殺害は法律で有罪って母が言ってたし。

 それとも、外の社会のルールが変わったのかな?


「それだけではありません。一か月ほど前から起きている連続輸送馬車の強盗および殺人が、きさまたち魔物の先住民たちであることはとっくにお見通しです」

「しかも、テメェら魔族と結託してるって黒い噂があるんだよ」

「人類の敵である魔族にかかわりがあるのなら、放ってはおけん」

「冒険者として、そして神の信者として、あなたたちを裁きます」

「私たち冒険者に敵に回したこと地獄で後悔しなさい」


 魔法使いの少女に触発されて、ほかの冒険者たちも口を開く。

 というか強盗? 殺人? 魔族との結託?

 なんのことなのか、さっぱりわからない。

 話の内容からしてこの大樹海で殺人事件があったみたく、その犯人がコボルだという。

 ――アホらしい、雑な推理。

 私たちコボルドやほかの他種族と同様、弱肉強食主義で常に命を賭す戦士の一族。

 誰であろうと挑まれれば全力で殺し合うけど、無益な争いは好まないし、人殺しなんて利益にならない所業はしない。

 なにより、事件が起きた場所はおそらく東と西につなぐ道だろう。

 あそこは、冒険者たちの活動範囲内で、コボルドのテリトリーの外。同胞たちがわざわざで出向いてまで無意味な事件を起こすわけがない。森に棲んでる他種族たちも同じく、活動範囲外だから事件にかかわってないはず。

 魔族との結託にいたってもそう。私には魔族(オーク)である義弟を密かに匿っている。しかし、私と義弟に人間たちに危害を加える野心なんてない。義弟曰く、のんびりスローライフを楽しんでいるだけ。

 20年前、魔族の一団が集落(うち)に来たことがあるけど、一夜限りの関係で、あれ以来関わってはいない。

 無罪というところか、ひどい偏見。

 しかも、何名かが正義感を燃やして殺意を向けてくる。

 もしや、これがオーズが言うところの『DQN』かもしれない。

 だとすれば、話し合いは無理だろう。だって、知性が獣以下の生き物に、賢明な判断はできないらしいから。


「あなたたちの主張……いちよう分かった。……なら、私はあなたたちに殺されないよう抵抗する」


 とりあえず彼らを無力化して、情報を聞き出そう。

 なぜ、私たちが犯人扱いされているのか、いろいろ知りたいし。

 すこし、強めに威圧を冒険者たちに放ち、一本の剣を構える。


「構えろ! こいつ、ほかの犬どもとはちげぇぞ!」


 剣士の青年が警戒して叫ぶ。何名かの冒険者たちも、私に警戒して緊張している。

 む、すこし出来る奴もいるぽい。


「長の孫娘様、お気をつけてください」

「あの者たち、なにかしらの加護を受けている様子です」

「おかげでうちの力自慢たちがこのザマですよ」

「うん、そうだろう……ね」


 最近、習得したスキル《鑑定眼》で青年少女たちを鑑定する。

 結果、相手のレベル水準は30以上。しかも、何かしらのバフを受けていた。全体的なステータスは後ろのコボルドたちの数値を上回っている。

 この戦闘力なら、ごり押ししかできない彼らには分が悪すぎる相手だ。

 ――もっとも、


 シュン!

 


「へ?」

「どれだけ力を底上げしても未熟者は未熟者な……だけ!」


 瞬歩で距離を詰め、前衛にいた剣士の青年の胸を掌打を放つ。

 

 ドン!


 掌打によう衝撃音がなると同時に、青年が後方へ吹き飛び、木に激突する。

 青年はビクビクと痙攣して、起き上がる気配はない。


「うっそ、うちの最強アタッカーが一撃で……」

「しかも、素手でだと……」

「くっ、魔法を撃つわ! 援護をお願い!」


 青年が吹き飛んだことを遅れて気づいたパーティーたちが一斉に動き出す。


「はっぁああああああああ!」


 格闘家の少女が四肢を使って、攻めてくる。

 鋭く重い拳と、強烈な蹴り技。この打撃力なら生半可な魔物なら致命傷だろう。

 ――ただ、動きが単調すぎる。

 片手で格闘家の少女の連撃を捌き、体重移動を利用して、私の後ろから槍を突こうとした男のほうへ投げ捨てる。


「のっわ!? おい! 邪魔すんな!」

「ご、ごめん!」

「どっけ! 私がやる!」


 今度はハルバートを持ったやや筋肉質な戦士の少女が来た。

 重たそうなハルバードを筋力任せに振るう。振るうたびに、空気が切れる音がし、地面に当たれば、地面に断裂が走る。

 下手に当たれば、私でも致命傷になるかもしれない。

 ――当たればの話だけど。

 人間の少女に反してパワーがあるけど、それだけ。攻撃手段がハルバートを縦に振り下ろすか、横に振るしか、芸がない。さっきの格闘家の少女より単調。数ミリだけ動くだけで、簡単によけれる。

 一方で、戦士の少女は、がむしゃらにハルバートを振り回したせいでもう息が上がっていた。

 スペース配分を考えないから。

 私は、弱弱しく振り回されるハルバートを剣で切り捨てる。


「なっ、あたしの武器が!?」

「ちっ、この犬め!」


 背後から弓使いの少女たちがが私に矢を放った。

 この距離ならば、普通の魔物でも避けられないだろうが……一撃必殺には程遠い。

 魔力で強化されていないただの矢ごときでは、速度も威力もしょぼい。ましてや狙いどころが分かれば簡単に避けれる。

 先ほどと同様に最小限の動きで躱し、さらに剣で複数の矢を滑らせ、周りにいた冒険者たちのほうへ軌道を調整する。

 突然のことで、冒険者たちは矢はよけることが叶わず体に突き刺さった。


「がぁあああああ!? てぇめら、どこ撃ってんだよてめぇ!」

「ち、違う! その犬のせいよ!」


 戦士の少女たちが怒鳴り、弓使いの少女が私に指をさす。

 醜い、責任の押し付け。

 ほかの前衛らしき冒険者たちはどうすればいいかわからず、仲間たちと目を合わせるばかりいる。

 後衛の魔法使いたちや僧侶たち、遠距離攻撃もちの冒険者たちは、なにやら魔力を練ったり、オロオロしたり、尻込みしたりで無防備になっていた。


 ………うん、わかっていたけど、この子達、戦いに不慣れすぎてる。

 昔、遠くから冒険者の一団を見たことがある。彼らは、豪快で同時に無駄のない動きをし、仲間たちと連携し格上の魔物と戦いを繰り広げた。一人ひとり、個々の強さを持ち、さらに戦い方の違い仲間たちと力を合わせて困難を立ち向かう姿は、実に頼もしく、かっこよかった。

 ……それにくらべて、“こいつら”は残念すぎる。

 ほんとうに冒険者なのか疑ってしまう。


「……とりあえず回復係から潰そう……。対集団なら回復手段を潰すのがセオリーだってオーズも言ってたし」

「ひっ!?」

「さっせん!」


 ヒーラー担当の僧侶たちを視線を移すと、彼女たちは小さく悲鳴をあげた。

 それに反応してタンクらしき青年たちが僧侶たちを守ろうと、盾を構えて全速力で押し寄せてきた。

 守るために前進して相手の動きを止めようとするのは、タンクとして正解だけど、全員で来るのは不合格。

 策も無くただ横一列に突進するなんて、むしろ範囲攻撃で倒してくださいといっているようなもの。

 なにより、僧侶たちに守る盾が無い。今なら遠距離で彼女たちを一方的に殺せる。

 ……殺す気はないけど。


 袖から私お手製のクナイを取り出し、タンクの青年たち分投擲する。

 むろん、青年たちは分厚い盾でガードし、クナイは盾に一本づつ刺さった。

 青年たちは自慢げに鼻を高くするけど――。


「その盾、捨てたほうが……いい」

「あぁ? 何を言ってんだこの――」


 ドドドドドドドドドン!


 この犬と罵る寸前、爆裂術式を施されたクナイが爆発し、盾ごと、青年たちの体を破壊する。


「がっぁああああああ!?」

「腕が!? 僕の腕が!?」

「痛いよぉおおおおおおお!?」

「ク、クナイが爆発した!?」

「ば、爆弾を仕込むなんてこの卑怯者!」

「戦いに卑怯は日常茶飯事……だから」


 四肢欠損と重度の火傷を負った青年たちが泣き叫び、ほかの冒険者たちが私に罵倒するが忠告をむした盾使いが悪い。なにより、死なないよう火力の低いほうを選んだから、ありがたいと思ってほしい。感謝はいらないけど。


「準備完了! みんな非難しなさい!」


 魔法使いの少女が叫ぶ。

 魔法使いたちと僧侶たちの頭上に幾つもの方陣が浮かんでいた。

 魔法少女の魔法は、方陣の規模と魔力量からして、広範囲による殲滅魔法だろう。

 それと、僧侶たちが使う術式はたしか、神聖魔法という私たち魔族に対してもっとも殺傷能力を持つ神の力を一時的に借りたものだとか。

 

「消し炭みになりなさい! 爆炎豪災球(バースト・ブラスト)!」

「魔の者を射抜け……! 聖光投槍(セイント・ジャベリン)



 方陣から巨大な炎の塊と大樹のような剛槍が放たれる。

 しかも、各属性の魔法の弾幕がオマケ付き。

 この威力だと避けて余波でダメージは喰らうかもしれない。

 それに、後ろにいる同胞たちに直撃するし、下手に打ち負かすと飛び火で周りが被害が出てしまう。

 ――しかたがない。

 格下相手に手札を切るのは癪だけど、同胞たちの命ため。

 ちょっとだけ、本気出そう。


 魔力を身体と剣を流し強化。さらに魔法とスキルでさらに能力と威力を底上げ。

 剣を媒体に風魔法主体に魔法を発動。剣の効果で属性魔法の威力が増幅。


 風牙の剣に、黒い風が纏わりつき、渦を作らていく。

 黒い風はだんだんと風速が増していき、その形状はさながら漆黒の竜巻。

 身体と剣の強化で魔力が消耗してMPが心もとないけど、剣の保有魔力と身に着けた護符の魔力でぎりぎりいける。

 竜巻と化した剣を掲げ、上段で構える。

 そして――。

 

「呑み乾せ……貪獣晩餐(ビースト・イーター)!」


 剣を振り下ろすと、竜巻の獣が放たれた。

 竜巻はさらに巨大化し、空気と地面を抉り喰らう。

 まるで口を大きく開いた獣のごとく、魔法使いたちの魔法をすべて喰らいつくす。


 広範囲殲滅型魔法剣術――貪獣晩餐(ビースト・イーター)

 風魔法と剣術を組み合わせた竜巻状の飛ぶ斬撃。超高速で回転する風圧で対象を磨り潰しながらバラバラに引き裂き、遠くへと吹き飛ばす必殺。

 広範囲のため、多勢による戦闘に向いており、魔法による攻撃すら食らいつくす。まさに、魔法喰らい獣といったところ。

 集落ごと燃やし尽くそうとした業火も、私を刺し滅そうとした聖なる槍も、数百の魔法の弾幕も、暴力と化した竜巻がまるごと吞み込み、天へと登った。

 相手の魔法が上空からの攻撃でよかった。

 この技を地上に放ってたら、それこそ大惨事になっていた。


「そんな…私の最強魔法が、一撃で」

「魔物が我らの神聖魔法を打ち消すなどありえない……」


 魔法使いたちと僧侶たちが、絶望したかのような表情で腰を抜かす。

 どうやら渾身の技を防がれたことに、心が折れたみたい。

 ほかの冒険者たちと同胞たちは貪獣晩餐に驚嘆して言葉を失っていた。

 あれ?

 冒険者たちはともかく、なんであなたたちまで驚いてるの?


「――隙ありだぁあああああああああ!」


 私が怪訝していると死角から叫び声が聞こえ、振り向くと最初に掌打で気絶させたはずの剣士の青年が飛びかかってきた。

 手応えからして半日は起きないはずだったけど、彼の後方にいた僧侶の姿が眼に入り納得した。

 どうやら彼女が彼を回復魔法か何かで戦闘に復帰させたようだ。

 さきほどの必殺技の反動で手に力が入らず、剣が振れない。

 しかも、魔力がかなり消費して、魔法が使えないし、身体強化の効果も切れている。

 下手をすれば一撃で死ぬ状況。同胞たちも私を守ろうと駆けつけようが、剣士の青年が剣を振り下ろすのが速い。

 両腕が動かず、ガードする術もない。

 まさに、私を討つのにちょうどいいタイミングだろう。

 ……もっとも

 


 ぐっしゃ!?



「あっ、が!?」

「下半身が……隙だらけ」


 足は動かないとは言ってはいない。

 その場で足を蹴り上げると、足裏が青年の股間に直撃した。

 なんか足の裏で何かがへし折られ潰れた感触がする。棒と球かな?

 青年は股間に蹴りが刺さったまま空中で悶絶し、そのまま地面へと落ちて倒れた。

 ……冒険者の男たちと同胞たちが私を見ながら恐怖した顔で股間を抑えている。

 別に青年が死んだわけじゃないからそう怖がらなくていい。

 回復魔法なら治るはずだから。

 精神的ショックで不能になる可能性はあるけど。


「さて……これでわかったでしょう。……あなたちがどれだけの実力があろうが……――私には勝てない、と」

「うぅ……わぁああああああああああああああ!?」

「こここ、こんな、化け物に勝てるかよ!」

「助けてママぁあああ!!」


 冒険者たちが一斉にその場から逃げ出そうとする。

 何名かが「逃げるな!」と、仲間たちを涙目で叫んで呼び止めているが、戦術的に考えれば逃げた彼らの選択は正しい。

 勝つための術無くして、挑むなど無謀の定石。

 挑んで死ぬより、生き残って再度挑むほうが勝率が上がる。私ならそうする。

 ――だからこそ、逃がさない。


「拘束せよ――黒鎖の光矢フラッシュ・バインド・ブラック


 法陣から冒険者分の黒い光の矢が光速で発射され、一人ずつ、矢が刺さる。

 ちなみに殺傷能力はないため、刺さっても無傷。

 矢が刺さると、矢は黒く光る鎖に変形し、冒険者たちを拘束する。


「う、動けねぇ」

「なんなだよ、この魔法は!?」

「これは、もしや二属性による複合魔法!?」

「あああ、ありえません……! 普通の魔術師でも使える属性はひとつまでのはず。一属性以上の魔法なんて、使えるのはギルドマスターみたい達人でしかいないはずなのに」

「それもただの魔物ごときが、平然と使うなんて」


 冒険者たちは私の拘束魔法から逃げようと足掻くけど、無駄な行為。

 冒険者の一人が言った通り、黒鎖の光矢フラッシュ・バインド・ブラックは光魔術と闇魔術を複合した拘束魔法。光の矢で光速で対象を射止めて、矢を触媒に内側から術式を展開し、肉体と魔力行使を制限する。

 そのため、自力で抜け出すことも、魔法で拘束魔法を解除することもできない。

 冒険者たちは手足をもぎ取られたのも同然といえる。


「……なんでよ」


 魔法使いの少女が呟く。

 さきほどの巨大な火の玉を放った魔法使いだ。


「なんでなんでなんで! なんで私たちが負けているのよ! 私たちは最強のパーティーなのよ! 学園を首席で卒業した、冒険者ギルドの期待の新人!?  先生からいずれ英雄になれる逸材だって評価されていたのに!」


 泣き叫びながら癇癪を起す。それに同調して、何名かの青年少女が叫び散らす。

 こいつら、実力だけでなく、精神面も未熟すぎる。

 これでよく冒険者になったもんだと、私は呆れるしかなかった。


「単純に、私のほうが強かった……それだけのこと」

「はぁ!? コボルドが人間より強いわけねーだろうが!実際、そこにいる犬どもより俺たちのほうが実力が上なんだぞ!」

「それは彼らが戦士じゃないだけ。戦士のコボルドなら最低でもレベル30あるし、熟練者なら40越えの個体も何名かいる」

「嘘でしょ……!?」


 コボルドの戦士たちの強さを知って、驚嘆する冒険者たち。

 この反応から察して、こいつら相手(コボルド)に関しての情報を知らなかったみたい。私たちの集落を襲ってきた癖に、不用心すぎる。

 もしも、この場に戦士たちがいれば、即座に全滅されてもおかしくはないのに。

 悪運?

 いや、一度目の襲撃とこの二度目の襲撃になにかしら意図があるはず。

 連続で襲撃に合うなんて偶然にしては出来すぎてる。

 もしも、最初の襲撃犯とこの冒険者たちどう繋がっているのだとしたら目的は一体……。


「だとしらあなたのステータスはどんだけ高いんだよ!」

「そうよ! 先輩の支援魔法で強化されてるといえ、レベル30以上! 騎士団にさえいい勝負ができるほど強いわ!」

「素でレベル40でも俺たちに敵いっこないはずだ!」


 ……そこ、外野がうるさい。

 さりげなく自画自賛してるんだが謙虚なのか興味ないけど、レベル、レベル、レベルと個人の強さを決めるなんて浅はかに等しい。

 力があろうが、なかろうが、己自身全てを完璧に使いこなせなければ、決して強者にならない。できなかれば、ただの力のもち腐れ、と、義弟がよく口遊んでた。

 (パワー)よりテクニック

 質量(エネルギー)より制御(コントロール)

 この真理を理解できない奴は、ただのバカ。バカの定義でしかいない。

 ……そもそも、彼らの定義が正しいのなら、一生、私には勝てないだろう。

 なにせ今の私は――。

 


「私のレベル……89だけど」

「「「「「「「…………っへ?」」」」」」」


 冒険者たちと同胞たちが絶句する。

 そこまで驚くこと……?

 十五年も凶暴な魔物が危険区域で修行してるから、これくらいレベルが上がるのは当然なんだけど。




名前:シャルロット

種族:コボルド

LV:89

HP:7440

MP:8664

SP:6960

筋力:580

耐久:620

敏捷:6830

魔力:722

知力:780

器用:8200

スキル:《剣術》《一刀流》《二刀流》《三刀流》《運搬》《鋭利嗅覚》《鋭利聴覚》《軽功》《持久走》《高速設置》《道具作成》《調薬》《風魔術》《土魔術》《闇魔術》《光魔術》《占術》《気配感知》《死体解体》《火魔術》《水魔術》《雷魔術》《投擲》《鍛冶》《魔力循環》《麻痺耐性》《猛毒耐性》《悪臭耐性》《高速挙動》《瞬速連撃》《魔力感知》《高速思考》《鑑定眼》《魔装》


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