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17 異世界の食事(和食)


 食後のデザートを冷蔵庫に入れたのち、昼飯にしようと料理をリビングに 運ぶとそこに先着がいた。


「あら、味噌のいい香りですこと」


 席に座り、のんびりと緑茶を啜っているラウラ。

 どうやら料理中に帰ってきたようだ。


「お帰り。今ちょうど料理ができたところだ。とろこで、シャルロットは?」

「それが、途中で逃げられちゃいまして。今頃、集落のほうへ戻っているかと」


 帰ったのか。今日は日帰りだといえ飯くらい食って帰ればよかったんだか。

 仕方がないので、犬娘の分は明日にでもとって置いとくか。

 明日もは帰りで来るし、おかずは朝食に追加しておこう。


 とりあえず、茶を啜っている花娘にも手伝わせてテーブルに料理を並べる。

 食事前のティータイムを中断され文句を零すも、働かざる者食うべからず――は言い過ぎだが、料理を運ぶくらいだけはみずからやってほしい。伊達に触手(てのかず)が多いので、一度に大量に運べて楽だし。

 食後のデザートをエサに働かせ、昼食の準備は完了した。


「それじゃ、いただきます」

「いただきますわ」

――PRUN!


 テーブルに並べられているのは、白飯と味噌漬けの焼き魚と卵と野菜の味噌汁。あと、付け合わせのキュウリの漬物だ。

 見事なまでの日本食でおいしそうだ。

 まずは、味噌汁から頂く。

 味噌の香りが鼻孔に入り、熱々の汁を啜ると野菜と魚と卵のうまみが味噌と溶けだし濃厚な旨味が口に広がる。

 ダシは入れてないが、魚に塗っていた味噌と野菜の出汁でダシの役割をしているため深い味わいだ。

 卵も、加えてだけでトロトロに崩れ、濃厚でゼリーのような触感の黄身が口内に流れる。

 これだけでご飯が三杯進む。


「焼いたこととで表面の味噌が香ばしくなり、さらに味噌をしみこませたことによりねっとりした粘着魚の身の味がさらに深くなってうまみが倍増。これはライスが進みますわ!」


――PRUU!


 花娘とミナヅキは味噌漬けの焼き魚を夢中で食べていた。

 好評であるのは幸いだ。俺も箸で魚の身をほぐし、一口入れる。

 彼女の感想と同じく、これはうまい。同じ味噌味だが、味噌汁と違い、焼き魚のほうがうまみが濃い。

 例えるなら、発酵させた納豆のような旨味か。納豆の味はしないけど。

 どちらにせ白飯が食わねば止まらないほど美味であることには変わりはない。

 白飯を口に掻き込みなら、おかずをいただく。

 あーもー、ご飯が止まらない!



 ●●●



「ふぅ、ごちそうさまでした。やっぱりあなた様の料理は最高ですわ」

「褒めていただき光栄だが、そこまで称賛することか?」


 食後のお茶を飲みながら一息つく。

 称賛されるのはうれしいが、そこまで絶賛するほどでないだろうに。

 前世のクラスメイトである高級料理店の看板娘の料理と比べれば、俺のは素人以上玄人以下だ。

 趣味の料理とプロの料理とでは美味のレベルは違いすぎる。

 彼女ならもっと旨く、もっと美味に調理できたはずだ。


「やれやれ、また自分を卑下するんですから。いいですか。わたくしとシャルロットさんはあなた様と違って料理センスはありません。おいしいものを食べたいのは生物として当たり前の欲求。それを満たしてくれる人を尊敬するのは道理ですわよ」


 そう微笑を零し、ティーカップに入った紅茶を一杯飲み干す花娘。

 さりげなく元気づけてくれるのはあり互いが、だったら料理くらい覚えろ、と俺は言いたい。

 毎回、料理するのは俺だからな。料理のレパートリーを考えるのは大変なんだぞ。

 一様、簡単な手伝いならミナヅキに、食材の解体なら犬娘ができるが、それでも調理するのに手が足りないんだよ。異世界の動植物って通常の動物と違って特殊な調理法でしないと食えないし、調理に苦労が絶えない。

 ――まぁ、その苦労の甲斐あって欲しかったスキル《調理》が手に入れたけどな。


《調理》

【料理の技能を上昇させる】

【未知の食材に対してもっとも適した調理法を思いつかせる】


 このスキルの補正が無ければ、今回のようなおいしい料理にありつけなかっただろう。

 スキル様様である。


「そうそう。あなた様に頼まれていた例のアレ。シャルロットさんをお仕置きしてて渡しそびれてましたわ」


 カップに茶を入れなおしていた花娘があることを思い出し、ティーポットを机に置いた。

 指を鳴らし虚空から魔法陣――次元倉庫ディメンションポケットのゲートを出現させると、片腕を魔法陣に突っ込み、収納しているものを掴んで引っこ抜く。

 彼女が掴んでいたのは手のひらサイズのサイコロ状のアクセサリーだ。


「ご注文道理に調整はしましたわよ。今は待機状態(アクセサリー)にしているので、パスワードを唱えれば待機状態が解除されますわ。今はパスワードを設定してないので後で決めましょう」

「了解。悪いな。俺の我儘に突き合わせて」

「かまいわせんわ。わたくしにいわせれば暇つぶし程度のこと。もちろん、技術者としてお粗末な物を作ってはいませんわよ」


 自画自賛する花娘。我が家の技術者顧問であって、その自信に不安はない。

 机の上に差し出されたアクセサリーを手に取ってみる。

 一見、ただのキーホルダーにしか見えないが感触が金属ぽく、隙間から配線らしき光がうっすらと見えていた。

 どことなく、SFチックなアイテムだ。

 ファンタジー系の世界だが、ロボットのようなゴーレムが徘徊しているから問題ないだろう。


「にしても、用意周到すぎませんの? ソレ、使う場面なんてあまりにも限られていますし。わたくしの調整でそれなりの品物になっていますが、大型の魔物相手には通用しませんわよ」

「まぁ、念のため、って言葉もあるしな。護身用としては十分だ」


 本音を言えば個人的な趣味なのだが、時と場合によっては試す価値がある。

 それに俺が注文したギミックがどこまで再現されているのかぜひとも試したい。


「せっかくだし、シャルロット相手で性能テストでもするか。昨日、新しい武器を作ったっていってたし、あいつ」


 たしか、投げたら対象の急所を自動で命中し手元に戻ってくる槍……という名の丸太だったはず。

 なぜ丸太なのか疑問だが、彼女曰く理論上なら軍隊を一撃で壊滅させることができる大量殺戮兵器だと豪語していた。丸太なのに。

 花娘同様、とんでもない物を作りだすな我が義姉は。丸太なのに。

 だがしかし。チートだろうと、丸太であろうと、俺の新たな新調したアレなら相性的に戦えるはずだ。

 なにせ、花娘が作ったものだ。十分チートに対抗できる裏技を秘めている。

 あいつが驚く顔が目に浮かぶ……のに、最後には寝技で負けて絞られる俺の姿が浮かぶのはなぜだろうか。

 やっぱり、コレの効果がアレだからなのか、と、アクセサリーを指で遊びながらオチを予想する俺であった。

 一方で、


「…………」


 先ほどから神妙な顔つきで花娘が何かを考え込んでいた。


「どうした? いつもなら、ならわたくしも参加しますわって乗り気で参加して、俺たちにえげつない魔法の実験体にするくせに」

「いえ、ちょっとシャルロットさんのことで気になることがありまして」

「気になること? あいつへのセクハラがマンネリしてきたことか?」

「ご冗談を。わたしくしは日々新たに開発したおもちゃや房中術をシャルロットさんで実験台にしていますのでマンネリなど――って違いますわよ。さらりとボケないでくださいませ」

「ボケじゃない。ただのセクハラ発言だ」


 と、にこやかに言う。


「まったく……。薄々気づいてるはずですが、あの方、最近情緒不安定というか、ストレスをため込んでいらっしゃるようのですの」

「ストレス? あいつが?」

「ため込んでいるといいうよりここで発散している感じですわね。修行の時には回復アイテムがあるからって四肢がもぎれるまでオーバーワークに鍛えたり、狩猟では狂犬みたいに相手かまわず挑みまくっては絶滅させる気ですかというばかりに暴れまわりますし。いつもの戦法である罠の設置も拘束系から致死量高めの殺す気マシマシで、作る武器はすべてひとりで大軍に挑みますのとばかりの兵器ばかり。そのうち、どこかの国に単騎で戦争でもするつもりですか、あの方」

「あぁ、たいしかに。昔はもっと冷静沈着で自然主義者だったのに、今じゃ冷徹な鬼軍曹兼戦闘狂キャラでフィーバーしましってるよな。お前と一緒で」

「失礼な。わたくしは常日頃から気品と清純に満ち溢れたお嬢様キャラですわよ」

「同性に触手プレイをするおまいう?」

「義姉と同居人で性欲を発散させている自戒がゆるいあなた様が言いますの?」


 むむ、痛いところを突かれてしまった。

 言い訳に聞こえるかもしれないが、俺の場合は自戒がゆるいんじゃない。

 お前らが色気で誘うから、流されてしまっただけだ!

 って、ミナヅキさん。なんで俺に微妙な視線を送る?

 眼が無いのになぜか「優柔不断な下半身野郎」とばかりの視線らしきものが突き刺さるんだが。

 

「なによりも、あの方がほぼ毎日こちらに足を運んでいるのが証拠。本来なら集落の掟上、三日くらいした滞在できないはずなのに、滞在後には日帰りで来ますわ。それも日にちが変わるギリギリまで」


 そういえば、そうだな。

 十年ほど前までは三日間滞在して次の週にまた三日間滞在する日々を繰り返してきたが、五年ほど前から、日帰りでほぼ毎日来ているのだ。


「わたくしの視点で申しますと、まるで居場所が無い野良犬が安住の地に見つけて、そこから離れたくない感じですわね」

「居場所が無いかぁ……」


 はたしてそれはどうだろうか。

 あいつがどれだけ家族と集落にいる同族たちをどれだけ大切にしているのか十五年間傍にいった俺にはわかる。

 あそこまで家族思いな女性は前世でもそういないだろう。

 ……だが、


「大切であっても、それで自分が幸せになれるのかは別なんだよなぁ」

 

 前世での苦い経験を思い出し、ため息を漏らす。

 俺と同じなのか、彼女の本心は知らないので確信ができない。

 が、確信があってもなくても、それは俺が気にする資格は無いだろう。

 あくまでコレは彼女の問題であり、家庭の問題だ。

 義姉弟だが、関係上部外者である俺にはこれ以上の詮索は無粋。彼女自身、なにかしらのアクションを起こさない限り手出ししないほうがいいだろう。

 もっとも、俺ができる範囲ならの話だけど。

 ……まぁ、手遅れにならないよう注意だけはしておくか。


 カップを口につけ、紅茶を啜る。


『――い……子……危機……ます』


「ん? ラウラ、なんか言ったか?」

「え? わたくしは何も言ってませんわよ?」


 それじゃ、ミナヅキか?

 と思ったが、こいつは言葉を話せないので違うな。

 なら誰が――


『番犬……急ぎ……運命……義姉……迫って……』


 脳裏から女性らしき声が突き刺さる。

 ノイズが入っており、言葉が途切れ途切れだ。

 しかも――


「あっだだだだだ!?」

「あなた様!?」

――PURN!?


 同時に脳天を鉈で叩き割られたような頭痛がする。

 その激痛に耐え切れず椅子から倒れ落ちてしまった。

 一体何なんだよこれは…!?

 困惑するも聞こえてくるのは心配する花娘と相棒、そして謎の女性の意味不明な言葉だけ。

 徐々にノイズが無くなり、女性の声が徐々に消えていく。

 比例して頭痛も薄れていく。


 そして、その声が完全に消えかけた刹那、彼女の言葉がはっきり伝わった。



『番犬の血を受けぐ一族のもとへ急ぎ駆けつなさい、運命の堕とし子。あなたの義姉に危機が迫っているわ』



10/22文章修正

《料理》→《調理》

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