16 ゴーレムと町と料理
拠点の前まで歩くと四メートルもあるだろう武骨な像二体が巨門の前で待ち構えていた。
像は二頭身で頭がなく、胴体にはめ込まれた一眼レンズのカメラセンサーが外部情報を確認している。
戦車のような分厚い装甲に包まれており、足裏はキャタピラで、カノン砲らしき武器を片手でもっていた。
もう片方の手は、万力らしき形状をしており、丸太一本を握り潰せそうな重圧感がある。
像というより、まんまロボだ。
『――スキャン開始……完了。個体名オーズを確認』
『お帰りなさいませ、オーズさま』
二体のロボが俺の姿を確認すると丁寧にお辞儀をした。
「おぉ、出迎えご苦労。門番一号、二号」
『訂正、当機は門番一号ではありません』
『正式名称、対大型魔物迎撃用防衛兵器、タンク・ゴーレム986号』
『同じく、タンク・ゴーレム771号』
と、自己紹介をするロボ二体。
名は、タンク・ゴーレム。
ゴーレムの一種で、花娘が製造した人造の魔物だ。
戦車をモチーフにしており、高い耐久性と重量感を無視したような馬並みの機動力、高性能の各センサーが備わり、破壊系の魔法を放てるカノン砲で敵を殲滅する魔導兵器である。
花娘によれば、これが十機いれば小国を落とせるという。
「けど、やってることは門番の仕事だろ。その製造番号だってただの飾りで、お前ら以外にタンク・ゴーレムは作ってないし。門番一号、二号の名前でいいだろうに」
『訂正、当機にもプライドがあります』
『771号に同意。むしろ仕事の効率のために当機をもっと量産しろ、と当機は提案します。現在の資源量なら量産化は可能なはずです』
「量産化ねぇ……」
拠点の防衛手段として作られたとこのゴーレムたちはそう思っているようだが、真実は違う。
数年前、拠点の拡張工事の際、工事に役立ちそうなものを花娘が《叡智閲覧》で探していた際にタンク・ゴーレムの設計図をみつけて、プラモデル感覚で作っただけである。
暇つぶしに国を落とす兵器を作るなっとツッコンだのが懐かしい。
その後、作ったのはいいが使う機会はないに等しいためとりあえず門番の仕事を与えだのだ。
「開発分野はラウラ担当だから、本人に言ってくれよ」
『却下です。このことを開発者に提案した場合――『あらあら、創造物のくせに創造主に物申すなんて、成長しましたわねぇ。しっししし、そう怖がらなくてもいいですわよ。創作者としてあなたちの成長ぶりを嬉しい感じていますわ。いいでしょう。タンク・ゴーレムの量産プロジェクトを認めてあげますわ。むしろ新たに改良したタンク・ゴーレムを作るのもありかもしれませんわね。タンク・ゴーレム改……ネーミングセンスは後々考えておいとくとして、新型のゴーレム作り、腕が鳴りますわ。あ、もちろん新型機が完成したらあなたたちを解体して、資料として部屋に飾っておきますので。中枢核である思考回路と五感機能は分解せず、起動したまま永遠に生かしたままにしときますのでご安心を』と、身動きもできず、不気味な嗤い声をあげなら怪しげな発明をする開発者様の背中を見続ける当機たちの未来が予想されます』
「具体的な未来図だな、おい」
セリフと声質まで本人そっくりだ。
たしかに、あのマッドサイエンティストでドSなら、その展開はありえるな。
『986号に意見します。当機の量産化より現状の改善を優先すべきと、当機は進言します』
『それは何だと、当機は771号に質問します』
『ほかの同胞たちと違ってこの仕事、めっちゃ暇で地味だと当機は暴露します』
ゴーレムのくせにぶっちゃけたよ、こいつ。
すると、今度は門番一号が言葉を綴った。
『771号に同意。それもこれも、ドドリアンバナによる防衛線により、町に大型の魔物が進行する可能が極めて低いのが原因です』
『ドドリアンバナの防衛線を超えてきても、即座にシャルロット様が感知して討伐してしまうので、当機たちの活躍がありません』
『むしろ、門を開けるだけの機械。もしくは魔除けの置物に成り下がっています』
たしかに、と俺は頷く。
魔物対策のためにドドリアンバナをさらに多く植え、防犯装置として防犯カメラなどを樹海のあちっこちに設置した。
おかげでドドリアンバナの匂いで魔物たちが寄せつかなくなり、たとえ侵入してきても防犯装置で即座に発見できる。
そして、魔物は犬娘の修行相手か花娘の実験材料として即座に狩られる。たしか、サイに似た大型の魔物が拠点のテリトリーに入った瞬間、犬娘によって半時間足らずで肉塊になっていた。
そんな最強義姉の活躍によって、タンク・ゴーレムの出番はほぼ皆無に等しく、拠点の門を開け閉めする仕事しかないのだ。
「まぁ、暇は平和の証拠だから別にいいだろうに」
『平和すぎて、当機たちの存在理由が薄くなっていきます』
『このままでは働いている同胞たちに憐憫・侮辱の視線を向けてくると、当機は予想します』
『俗にいう、働かない飯はうまいか? という不名誉な称号を受賞してしまいます、と、当機は暗い未来に不安を抱きます』
「ニート予備軍っか。無機物のくせに」
基本、ゴーレムは感情が乏しくのだが、そこは花娘によるチートの賜物。
俺から聞き出したロボットに関する知識(偏見)などを頼りに、独自の発想と驚異的な技術力で、知性と理性をもった魔法製の人工知能を作り上げたのだ。
うちで稼働しているゴーレムたちはこいつら同様に、人間並みの感情をもっている。
機械仕掛けにせよ、中身が人間並みというのはコミュ障の俺にとって面倒くさい相手だ。
「わかったわかった。ようするに活躍する機会が欲しいんだろ。なら、今度の狩りにお前たちを連れってやるから。それで我慢してくれ」
『つまり、戦闘していいのですか? と、当機は質問します』
「あぁ。所謂、実戦によるデータ収集ってやつだ。防衛のために作られたにせよ、おまえたちは兵器だ。実戦でその性能が発揮されなちゃ作った意味がないからな」
さすがに拠点の前まで怪獣を引き連れて、うっかり町に被害がでるのは本末転倒だ。
樹海の中……おもに、あの谷なら火器を使用しても火災が起きる心配はないだろう。
あの赤い蜥蜴なら、こいつらにちょうどいい相手かもしれない。
壊れた場合は花娘に頼んで治してもらえればいいしな。
『さすがはオーズ様。良い名案です』
『しかし、当機たちが持ち場を離れると町の防衛は下がります、と当機が訂正します』
「そこは義姉に頼んで一日番犬役をやらせておくから」
シフト云々の罰で拠点でお留守番させられるはずだし。
ほかにも防衛手段は準備しているから、一日くらい問題ないだろう。
「そうそう、番犬で思い出したんだが、シャルロットとラウラはちょっと遅れてくるから」
『報告を承認しました』
『では開門します』
二体のゴーレムのカメラアイが赤く光る、それに連動して、重々しい鉄門が開く。
俺は門をくぐり、我らの拠点である町に入る。
●●●
門の先は文明開化の明治時代を思わせる街並みが広がっていた。
日本の木造建築にレンガの洋館、魔法で光る照明灯、石が敷き詰められ道。
その街を徘徊するのは建築や資源採取をする重機に似たユンボ・ゴーレム、庭師のように庭や木々を手入れをする某ドランゴン系RPG風なガーデニング・ゴーレム、農林とその管理をするカカシみたいなファーマー・ゴーレムたちだ。
樹海の森の中だというのに、この土地だけがまるで別世界と思わせるほどの都市部であった。
そして、15年前はただの廃墟という場所であったなどと誰も思わないだろう。
むしろ15年の歳月でここまで発展させたことに、俺も驚いている。
最初のころは、土木作業やライフラインの整備などサバイバル系芸能人チームみたいに悪戦苦闘の連続で、苦労が絶えなかったがオークのスキルと犬娘と花娘たちの協力のおかげで立派な町が出来上がった。
また、花娘が製造したゴーレムたちによって町の運営の負担が軽くなり、自由な時間が増えた。
おかげで好きなように農業やったり、鍛冶で武器を作ったり、工芸や料理など趣味に没頭したりと、快適なスローライフを楽しめた。
ゴーレムさまさまである。
ただ、難点を一つ上げるとすれば――。
「さらに建物が増えてきてるんだよなぁこれが」
朝のときは建設中だった場所に、老舗らしき旅館が建っていた。
実はユンボ・ゴーレムたちが勝手に施設を建築したり、土地の拡張工事をするのだ。
彼らが主に建設するのは食糧庫や醸造所、花娘が研究のための研究所か研究材料の保管庫などといった必要施設だが、なぜが高級ホテルや博物館なども隣に作っていた。
おそらく、初期設定で花娘の注文と、俺の興味本位の提案を命令として従っているのだろう。
しかし、俺が新築するなと何度も命令しているのにもかかわらず、数日後には勝手に建築してしまうのだこれが。
それだけじゃない。ほかのゴーレムたちも同様に、命令した覚えがない仕事をやっていたのだ。ガーデニング・ゴーレムは花を育てるビニールハウスを大量に設置したり、ファーマー・ゴーレムは畑だけでなく果樹園を勝手に作ってしまった(食用として品種改良済み)。
仕事中毒か、と呆れ、花娘に相談しても「その分、やるべき仕事はきっちりやっていますし、彼らの好きしてもよろしいでしょう?」とユンボ・ゴーレムが採取してきた材料を片手に、鼻歌交じりで自身の研究を続けていた。
生みの親なのに、子に買収されてないかこいつ?
ちなみに、土地開拓による森林伐採に対し、犬娘は複雑な顔をしていた。
樹海の先住民族なので、これ以上の森の開拓は受け入れがたく、森林破壊が進めばほかのゴーレムともども壊すつもりらしい。
もっとも、ゴーレムたちのおかげで武具の材料が確保できたり、美味な食材をありつけているため、義理堅い彼女とにとってジレンマになっていた。そのため現状を保留しているらしい。
あれ、こいつも餌付けされてる?
もしかし俺たち、ゴーレムに欺けられている?
ロボット三原則をモチーフにしたSF小説みたいな展開にならなちゃいいけど。
と、そんなこと考えているうちに、我が家である洋館にたどり着いた。
15年前までさびれていた洋館はリフォームされ、みごとな豪邸に生まれ変わった。
庶民である俺がこんな豪邸に住んでいるとは、前世の俺では想像できないだろう。
そんな豪邸の玄関口に、水色の塊が鎮座している。
その塊こそが、長年の相棒であるスライムのミナヅキだ。
俺の姿を確認すると、跳躍して俺の懐に飛び込む。
そんなスライムを俺は優しく受け止める。
――PURUN!
「ただいまミナヅキ。今、ご飯の用意するからな」
十五年で成熟している犬娘と花娘と対して外見だけが一切変わっていない相棒。
むしろ、変化しない分、安心感がある。
あと、和む。
女の生肌と違う感触と無邪気で無垢な心が、色欲で憔悴した心身を癒してくれる。
例えるなら安眠枕かぬいぐるみ感覚だろう。
とにくかく、和む。
「今日のメニューは味噌漬けの焼き魚に味噌汁だな。異世界にきてもやっぱり日本食は忘れられない味だよ、ほんと」
――PUR?
それどういう理屈と、ミナヅキが首をかしげるような仕草でぷるんと震えた。
俺は微笑してて、ゼリーボディを撫でながら家に入った。
■■■
我が家のキッチンにたどり着いた俺。
キッチンは花娘のテクノロジーによって冷蔵庫やオーブン、コンロなどが完備されている(電気の代わりに魔力で動いています)。
おかげで、不自由なくスピーディーに料理できる。
まず、最初に時間がかかるお米を炊こう。
お米は米蟻と呼ばれる蟻の魔物で、こいつを乾燥し精米の応用で加工することで米の代用にできる。しかも、高級のお米に劣らない旨い。
白米にした米蟻を鉄窯に入れ、水と白ご飯をおいしくさせるため備長炭を入れて竈で炊く。
花娘のテクノロジーなら炊飯器くらい作れそうだが、うまい米を食べたいため、あえて竈を使っている。
「それじゃ、火の番を頼んだぞ相棒」
――PUR!
竈の火の調整をミナヅキに任せる。
スライムなので料理はできないが、簡単な仕事ならできるため料理の手伝いを任せているのだ。
さて、相棒に火力調整を頼み、俺はメインである魚の味噌漬けに取り掛かる。
一週間ほど味噌漬けにした魚の切り身を冷蔵庫から取り出す。
魚は粘着魚と呼ばれる身を切ると納豆のような粘りと糸が発生する奇妙な淡水魚で、匂いが納豆に近いため食べる人はあまりいないらしい。
それでも珍味らしく、納豆に近い感覚なので同じ大豆で作った味噌をしみ込ませてみた。チャレンジ精神だったが、切り身から納豆の旨そうな匂いがして、食欲がそそる。
今すぐ、お米が食べたい!
そんな欲求を抑えながら、余分な味噌を切り身から剥がし、味噌を別の容器に移す。味噌は味噌汁用にするためだ。
切り身を鉄のトレイに乗せ、オーブンに入れてじっくり低温で焼いていく。
その間、味噌漬けにした味噌で味噌汁を作る。具は昨晩余った野菜と生卵だ。
鍋に入れた水に味噌を溶かしてから野菜を入れ、火が通ってから生卵を投入し、弱火にする。食べるごろには半塾になるようにだ。
ちなみに説明し忘れたが、味噌の原材料は犬娘が調達してた豆と、花娘が魔法で生み出した塩と麹で使っており、作り方は花娘が《叡智閲覧》で調べたため、物流が無い森の中でも味噌などの調味料は自作可能である。
ほんと、頼りになる女性たちだ。
――PPRN
ミナヅキが俺のズボンのすそを引っ張る。
俺は味噌汁の鍋から炊いているお米のほうへ視線を移す。
羽釜の蓋がガタガタと揺れ、隙間から泡がすこしこぼれていた。
そろそろ炊けたな。
ミナヅキに火を止めるように命令し、竈の火を止めさす。
あと数時間、蒸らせばおいしい米のできあがりだ。
あとは低温でじっくり焼いている味噌漬けの切り身を、フライパンで表面を強めに焼くだけだが、それまでには時間がかかるため、余った時間にデザートでも作っておこう。
昨日は粘着魚を捌いたときに出た骨で骨煎餅を作ったから、今日は柔らかいものがいいな。
そう想いながら、俺は食後のデザートがなにをするか鼻歌交じりで冷蔵庫の中身を見るのであった。




