14 アルラウネの豆知識とBBQと名前付け
唐突だが、花娘とスライムがうちに暮らすことになった。
花娘のほうはチートスペックな上、健康体になったのでてっきり別の場所で暮らすのだと予想してたのだが……。
「外界から遮断され、誰も知られてない秘境。しかも貴重な資材が採取できるうえ機材が揃えて放置されているなんて良物件! ぜひとも、私をこの地においてくださいませ! 家賃代わりに私の持つ知恵と技量をあなた様に捧げますわ! たりなければこの体であなた様の肉欲を解消してもよろしくてよ」
と、おもちゃを強請る子供のように要求してきたので、最後のは無しの条件で暮らすことを認めた。
まぁ、彼女がここで暮らしたいかはわかる。なんせ花娘は伝説の魔物だから、隠れるならここで暮らしたほうが安全だろう。寝首を搔かれる可能性があるが、チートが味方になってくれるのは心強いのでしばらくは様子見することにした。
それと会話して分かったがこいつは研究者としての側面を持っている。工房の機材や大量の資材があることをはなしたら興味津々で、「ワイバーン系の材料があれば、机上の空論だったあの動力炉が……」とか呟いていた。
創作意欲があるのは別にいいが、危険物を作るのだけはやめてほしい。ただでさえ、ゾンビハザードを起こした種族なんだし。
ちなみに、犬娘のほうは花娘が暮らすことに大いに賛成していた。
なにせ花娘の《叡智閲覧》で魔導機工学の知識を教えてくれるだけでなく、彼女自身がその技術に精通しているため、欲しがっていた重機を操作できる人材(魔物)が早くも確保できたのだ。
「伝説のアルラウネがいれば……鍛冶が捗るどころか、失われた技法を再現することも……」
おかけで、こっちはこっちで職人顔になっている。
俺も同じく生産系に力を入れるつもりだが、職人の域まで極めるつもりはない。
趣味程度しか熱意がないし。
つぎに、俺の頭の上で遊んでいるスライムのことなんだが――なぜか、俺にティムされていた。
こいつのステータスを再度確認したら、端に『オーズの従魔』というテイマーに従属された証があった。
テイマーの概念があったんだな、この異世界。職業的な意味なんだろうか。
犬娘が俺にテイマーの素質があるんだろうとほめているが、俺はこのスライムをティムした覚えはない。
知識豊富な花娘にテイマーとティムについて聞いてみると、モンスターをティムする場合、一般的な方法として弱い魔物もしくは弱った魔物を屈服させ、魔法やスキルなどで隷属化させるというのもだという。
しかし、俺にはそんな魔法もスキルはない。
喧嘩を売って勝利して、猫みたいに可愛がっただけだ。
そのことを話すと花娘が言葉を返す。
「一般的な工程をすれば誰でも魔物を従属化させることができますわ。そして、その技術を極めたのがテイマーという人種であり、テイマーだけができる芸当ではございませんの。魔物の心を開きの信頼関係を持ち込めば、自然とその相手に従属します。《叡智閲覧》で検索したところ、テイマーとしての技能を持たない普通の村人が、弱いモンスターをティムした実例が何件もありますわ。それも一年に五件ほど」
「数字でいわれても少ないのか多いのかわからないんだが、なんとなく野良の動物をペットにしている感覚だと分かった……。けど、それって人間が魔物の使役してることだよな。オークの俺がその後者に当てはまるのか?」
「たしかに自然的な方法だとテイマーの方法と比べて難易度は高めですわ。下位とはいえ魔物は魔物。魔物が人種系統に懐くことは難しいレベルですし。――もっとも、魔族なら例外中の例外が当たり前ですが」
花娘によれば魔族は魔物に懐きやすい体質のため、テイマーのような難しい工程を飛ばして魔物をティムすることが可能らしい。おもに魔物を使役しているのはダークエルフで、オークにも将軍クラスなら大型の魔物を乗り物として使役しているという。
にしても、魔族が魔物に懐かれやすい体質だったとは。
俺は横目で犬娘を見ると、そんな見つめられると恥ずかしい、と芝居臭い仕草で紅潮した頬に手を当てて照れている。
うーん、懐いてるというか、遊ばれていうかなんというか……。
「それと、最弱とされるスライムですがかつて可能性の生命体と言われ、育て方次第で戦略兵器並みの化け物に変貌するとか。過去にスライム系統の魔物によって人類の四分の一を滅ぼしたという記録もありますわよ」
「うわ、物騒」
「スライムが……そんな危険物だなんて……知らなかった」
「まぁ、歴史による風化のせいでスライムについての情報が失われたので、シャルロットさんが知らなくて当然ですわ。あと、スライムによって滅亡に瀕した国が大陸一の大国へとなった歴史もありますので、そこまで危険な生物ではありませんわ。たかがスライム、されどスライム、ということわざがありますように、スライムの育成によって神にも悪魔にもなりますので注意して育てるように」
「へーい」
――PURUN!
とまぁ、そんな雑談を交わしながら花娘ことアルラウネとスライムがうちに暮らすこととなったのだ。
●●●●
新しい住人が増えたので歓迎会をすることになった。
提案者は犬娘だ。
連続して祝ってばかりだが、却下する理由はないので俺も賛成した。
宴会する場所は拠点である屋敷の庭だ。屋敷のキッチンはまだ使えないし、あとで掃除するのが面倒なので。
宴会の料理は朝調達した食材があるが、二人分しかないので足りえない。なので、犬娘は宴会の食材集めのため樹海へ出かけている。
俺も手伝いに行こうと思ったが、狩りは素人のため花娘とスライムと一緒にお留守番となった。
なお、スライムが集めたスライムたちはいつの間にか解散して街でふらふらしている。自由だなスライム。
「あなた様、錆びついていた包丁すべて直し終えましたわよ」
「ご苦労様。今度は食器を洗うの手伝ってくれ。その間、コンロ作りにできそうな岩とか瓦礫とか集めてくるから」
「承知しましたわ」
花娘は多数の触手を使い、巨大なタライに浸かった泡だらけの食器を布で洗っていく。
横ではスライムが洗った丸呑みし、《液体吸収》で余分な水分を吸収・乾燥させ、お皿を吐き出す。食器乾燥機いらずだなスライム。
留守番組である俺たちはただいま宴会の準備に勤しんでいた。
食器や調理道具などは屋敷にあった物を使用。食器類のとんどが陶芸品なので洗えればまだ使えるが、包丁や金属製の鍋は長年放置されていた錆びついて使い物にならなかった。
しかし、そこは花娘の腕の見せ所。
花娘がスキル《錬金術》で錆びついていた金属の調理器具を修理してくれた。錆びついた鉄鍋なんて新品同様!
さらに《薬物生成》と《調薬》で洗剤を作ってくれたおかげで汚れまくっていた食器を綺麗に洗えることができた。
おまけに、《叡智閲覧》でサバイバルに必要な知識も検索し、釜作りの方法や簡単な調理法など俺に伝授してくれたので、不足していた知識分野がカバーできる。
というか、なんでもありだな、と俺は花娘の有能さに感心するしかなかった。
昔の人が彼女たちアルラウネを求めたのも納得だ。
金の卵を産む鶏の同等の能力を彼女は持ち合わせている。
恐るべし、賢者の花密。
敵ではなかったことが俺にとっては幸運だ。
――PURUN!
「あぁ、お前も手伝ってくれてありがとうな」
褒めってと上下にジャンプするスライムを撫でる。
ゼリー状の触感が気持ちよくて癒されるわ~。
「――ごっほん。和んでる最中ですが、ついでに木材も運んできてくださいまし。調理用の牧が必要なのでして」
「はいはい、肉体労働専門のオークにおまかせあれ」
雑用は好きじゃないが、嫌いではない。
幼馴染の委員長にもっぱら雑用を押し付けられてきたので、こういう作業は慣れている。
……今頃あいつなにしてるんだろうか。
幼馴染の顔が脳裏に浮かぶも、すぐに払拭する。
俺と同様に転生したので、今世では赤の他人だ。前世からの縁を持ち出すのは無粋というもの。
むしろ、俺のことを忘れて幸せな人生(どんな種族かは知らないけど)を歩んでほしい。
そんな願いを内心呟きなら、ついてきそうなスライムに花娘の手伝いをするように説得し、俺は倉庫から取り出してきた鉈(錆びていたので花娘に直してもらった)を片手に岩と木材の採取に向かった。
●●●●
「――こんなもんかな」
数時間後、歓迎会の準備が完了した。
岩と粘土で積み上げた手作りコンロ。その上には鉄板焼き用に分厚い鉄板が乗っている。
鉄板は錆びていたフライパン数枚を花娘が錬金術などのスキルで加工したものだ。
出来栄えは素人目から見て見事なもので、均等に熱が通りやすいだろう。
牧はスライムのスキルで余分な水分を抜き取り、花娘が放った刃のような魔法の風で牧に適したサイズにカットされている。肉と野菜を指す串はスパイクシューター・マウスの針で代用だ。この針、熱伝導がいいらしい。
こういうときが魔法が便利だなと、しみじみ思う。
また、自家製コンロを中心に、座るのにちょうどよい岩を三つ置いている。これは椅子の代わりだ(花娘は下半身が触手のため椅子には座れないためだ)。ちょうど、町の傍に落ちていたので持ち上げて運んできた。
傍には調理用に屋敷内から引っ張り出してきた巨大な木製の机が二台置かれている。一台目には木製のトレイや包丁に犬娘が置いてきた調味料一式が。
二台目には料理を置くための大量の皿が積み重なって並んでいた。
「んじゃ、シャルロットが来るまで、タレでも作っておくかな」
「なら果実とかがほしいのであれば、わたくしにお任せをあれ。どんな果物も実らせ上げますわよ」
と、花娘の触手に木の実のようなものから柑橘系な果物が実っていた。
「……シャルロットの麻痺を治したときに思ったけど、それも、おまえの能力なのか?」
「えぇ。スキル《植物接続》で果実が実らす植物の遺伝子情報を獲得して、《万能触手》を主体に複数のスキルで再現・改造したものですわ。カテゴリーだと人工物ですが味は天然物に近いですわよ」
さらっと簡単そうに言っているがやってることはバイオテクノロジーだな。
伊達にバイオハザードを起こした種族だけがある。
とりあえずチャレンジ精神で(皮が青色の)オレンジぽいのを皮ごと齧ってみた。
…………うっ、オリーブオイルの味がする。
生のオリーブオイルを飲む人種じゃないので、はきかけたが我慢して飲み込んだ。
「ぎっししし、調味料にオリーブオイルがありませんでしたので、一個だけオリーブオイルの代わりになる実を作っておきましたわよ」と、花娘が笑って言う。
おのれ、図ったな……!
我が忠実なるモンスター、スライムよ!
――PURU?
なーにー? という反応で俺に振り向く。
緊張感がないがまぁいい。
スライムよ……やっちまえな。
――PURUN!
スライムが弾み、花娘に突撃する。
彼女に張り付くと、《液体吸収》でアルラウネの水分を吸収していく。
「ぎゃぁああああああ!? それだけは勘弁してくださいましぃぃ! わたくしの美貌が! 潤った肌が! 味わい深い紅茶の葉みたいに乾燥しちゃいますわぁあああああああああ!」
触手を使ってスライムを体から剥がそうとするが、スライムは花娘に張り付きながら高速で移動し、触手を回避する。
これは長引きそうだ。
さて、花娘とスライムがじゃれているうちにタレ作りを始めるとするか。
犬娘がどんな食材を調達するのかはしらないが、肉でも魚でも野菜でも使える味にしておこう。
激しく触手を動かしたおかげか、果物が地面に落ちているので、《嗅覚分析》でタレ作りに使えそうなものだけ拾った。
まずは、オリーブオイルの味がする果物を手で絞り、深めの器に入れる。
青い果実だったのに液体はオリーブオイルだ。知っているものより若干、黄金色に輝いている。異世界産だからか?
次に犬娘が持っていた数種類の香辛料やハーブを入れる。
パンチも欲しいのでカットしたニンニク(らしき実)やトウガラシ(ぽい実)を加えてみる。オリーブオイルにはニンニクとトウガラシが基本だな。
あとは柑橘系の果物の汁を適量入れ、かき混ぜて味を調整。
よっし。これで焼き料理用のタレは完成だ。肉や魚に漬けて焼けば淡白な食材であってもおいしく頂けるだろう。
ついでに、つけ塩にも一工夫。
塩と別の調味料、粉にした香り高いハーブを10:1:1の割合で混ぜ合わせる。味が均等になるようにこん棒で砕きながら器に擦りつける。ゴマすり鉢がないため、細かくできないがそこはオークの筋力で無理やり潰していく。
数十分で均等に混ぜ合わせたら、抹茶塩ならぬハーブ塩の出来上がりだ
一口なめてみると、結構旨い。揚げ物に合いそうだが焼肉でも使えそうだ。
「おや、容姿に似合わずなかなかの腕前ですわね。露店に出しても文句は言われないほど美味ですわ」
のっわ!?
いつのまにか花娘が横にいた。
しかも、作ったばかりのタレを舐めている。それ、料理に使うんだか指につけないでほしいんだが。
というかスライムはどうした?
「遊び疲れて寝ていますわ」
触手で木の根っこを指さす。
そこに溶けたアイスみたいな状態で眠っているスライムいた。
まるで子猫だな。ネコ科じゃないけど。
「にしても、あなた料理できるのですわね。これもまた前世による異世界での経験の賜物なのでしょうか」
「っ!?」
俺は反射的に身構える。
なぜ、俺が転生者ということを知っているんだ?
そのことは犬娘にも話していないのに。
「ぎっし、そう警戒しないでくださいませ。別に脅迫するつもりはありませんわよ」
「……スキルで知ったのか? 俺のこと?」
チートな《秘密看破》なら俺の過去も見破ることもできるだろう。
しかし、花娘は察したように答えた。
「いえいえ、《秘密看破》はそこまで万能でありませんわ。あくまで本人が意図的に隠している事実を見抜くだけの力。本人が隠す意思はなく、また、本人が知らないことまで見抜ける能力ではございませんの」
「……そういわれても信用できないんだが」
証拠がないし。
「疑い深いですわねぇ。まぁ、その反応は当たり前ですが。証拠ならスキルの効果内容をもう一度見ればわかるはずですわ」
「スキルの効果内容?」
もう一度、花娘のステータスにある《秘密看破》を確認してみる。
……たしかに、効果内容でも『秘密以外の情報を得ることはできない』と書かれていた。
この文章が事実なら、このスキルはあくまで相手の秘密を見破るだけ、相手の過去を完全に閲覧するものではないということだろう。
なら、俺に《秘密看破》を使ってないな。
俺が転生者ということを彼女たちに話してないが、別に秘密にしていたわけでない。
ただ、説明するのが面倒くさいかったから、言ってなかっただけだ。意図的に偽ってなどいない。
「ぎししし、あなた様が異世界の元住人だということを気づいたのは宴会の準備をしてた時。生後約四日ほどで人間のように他者と会話し、加えて誰からにも教えられてないのに知識と技術力がある。オークの子供はそんなことできませんわよ」
「そうなのか? ってか、なんで俺が誕生した間もないこと知ってんだ?」
「そこは《全分析》であなた様を解析して調べましたので」
あぁ~なるほど。
そのスキルって俺の《嗅覚分析》の上位版みたいなスキルだったな。
《全分析》
【あらゆるものを分析・解析し情報を得る】
異世界系で定番な鑑定系スキルだ。
もしも、俺が人間だったらほしいスキルでもある。まぁ、《嗅覚分析》もそれなりに便利だからこれで十分だ。
下手したらリアルなら匂いフェチと勘違いされそうだけど。
「けど、オークならこれくらいできるんじゃないのか? オークって成長スピード早いぽいし」
「たしかにオークなら数日程度で成体にまで成長しますが、理性と知能までは簡単に成長しませんわ。未進化体は基本獣性のように本能で生きています。それも、生まれてすぐに自身を生んだ母体に性的行為をする畜生レベル」
「リアル薄い本展開っ!?」
個人的に興味があるが、主題が違うので自重する。
「あなた様は未進化体でありながら第一進化体並みの知性と理性をお持ちでした。魔物――魔族の生態からして本来ありえませんわ」
また、知らない用語が出てきた。
にしても、魔族にもいろいろと設定があるみんだな。
前世の記憶がなかったら、俺もそいつらみたいな淫獣になっていたかもしれない。スキルで《淫獣》もってるけど。
「そのことがどうしても気になったのでBBQの準備の合間に《叡智閲覧》で似たような事例がないか調べていたら、ちょうど興味深い情報がありまして」
「いつのまにっ。ってか、興味深い情報?」
「はい。今から二十年ほど前。誕生して間もない魔族――ゴブリンの一体が歴史上考えられなった最新の兵器を作り上げました。その名は銃器。簡単な仕掛けで遠い敵を殺す武器ですわ」
「へ、銃器だと……!?」
「……その反応からして、やはり銃器というのは異世界の技術なのですね」
花娘の話によれば魔導機工術を用いて作られた魔道具らしいのだが、その構造理論は現代兵器の銃火器と酷似していた。
殺傷能力と使い勝手の良さから武力が乏しい一部の魔族(主にゴブリン)の主力武器となっており、しかも銃器類を基にした戦術も提案され、ついには異世界版現代兵器で武装したゴブリンたちによって鉄壁とされてきた城塞都市を壊滅させたという伝説を作り上げたという。
あれ、それって犬娘が尊敬してる城砦落としのゴブリンたちの武勇伝では?
というか銃を作ったのって、俺より先に転生したクラスメイトのうちの誰かではなかろうか。
最初に頭に浮かぶのはオタク眼鏡だが、あいつが表舞台で活躍するなんて度胸は無いだろうから、たぶん別の誰かだろう。
あと、脳筋マンは絶対にありえない。武器を使うより拳で殴り倒す派だし。
「銃器を作った一体のゴブリンはその後、銃器をはじめとした数々の兵器類を発明し、多くの戦果を挙げ、ついには魔王たち率いる魔王連盟の幹部となりました。その記念として自身の経験を書いた書籍を売りはじめましたが、文章の一部に読者が首を傾げる内容が書かれていまして……」
「?」
「――『オタク眼鏡さんの言う通り、異世界転生で出世するなら政治知識よりゲーム知識ですね! 趣味のサバゲ―と現代兵器知識で勝ち組になれました!』、と」
ズッドーン!?
俺は反射的にその場でズッコケた。
「……急にずっこけてどうかしました?」
「き、気にするな。聞き覚えのある名前があったからちょっと驚いただけだ」
まさか、あいつが間接的に関わっていたとは。
となれば、前世で俺と脳筋マン以外であいつと接点を持つ奴がそのゴブリンに転生したことになるな。
しかし、サバゲ―が趣味な奴なんていたか?
まぁ、俺コミュ障で、クラスメイトたちのことあんまり知ろうとしなかったし。知らなくて当然か。
花娘が話を続ける。
「この異世界転生という単語に気になりましてね。このゴブリンと似たような事例がないか調べてみたところ、ここ数十年の間に遊具や服装、料理や政治など画期的な発明品や発想が誕生していました。しかも、その大本が十代の青年少女という年少の子たち」
あ~ほかのクラスメイトも異世界転生の定番のごとく、技術革命を起こしてたようだ。
うちのクラスって問題児で構成されてるけど、その分、全員が極端な才能持ってるからなー。
そういう展開になっていても不思議ではないか。
「異世界転生、これまで考えられなかった以外な発想、その中心にはほぼ同じ年代の他種族たち。これを総合的に推理した結果、彼らはこの世界と違う別の世界の元住人であり、あちらで死んでこちらの世界に生まれ変わった存在。独特な発想と技術を生み出せたのはこの世界とは違う別の世界の文明技術を知っていたから。そして、あなた様もまた彼らと同じ異世界から生まれ変わった存在――と推測しましたが、さきほどの反応した時点でもう事実確定ですわね」
「あー、うん。せっかく推理して悪いけど」
面倒くさいがお互いの信用のため俺は花娘にこれまでのことを順番に話した。
宇宙娘のミスで俺を含めた25名がこの世界に転生したこと。
俺がオークに生まれ変わり、気づいたらリーベルク大樹海に捨てられていたこと。
犬娘と出会い、この町を見つけたこと。
ついでに、夢の中の女性に花娘の生み出した謎の宝石などを説明した。
久しぶりにこれだけ会話したのは、オタク眼鏡と最新ゲームについて語り合った時だろうか。
「この世界とは別の神に異世界、そして夢の中の女性にわたくしを生み出した石。興味が注がれる話ですわ。暇があるときに、もっと詳しく聞きたいですわ」
「暇な時間があればな。シャルロットにもこのこと話したほうがいいか?」
「うーん、それは別の機会があるときにしときましょう。急ぐほどの重要な話でもありませんし」
「だな。俺も連続して同じ話するのは面倒だし。――それで、要件は?」
「はい? 要件?」
「わかりやすい惚け方しなくていい。あんたが俺が転生者と気づいた。だが、急いで聞くことじゃないことを聞きに来たのはほかに要件があって、わざと回りくどい言い回しで話す切っ掛けを作ったから。でなければ恐喝なんて言葉は最初にでないはずだ。脅しではなくお願いを聞いてほしい。そうだろ?」
「――ぎっししし、ほんと疑い深いお方ですわ。でも、察しがよくて話が進みやすいのはありがたいですの」
花娘がニヤニヤと微笑みながら、身体を寄せてくる。
妖しい甘い香りが鼻孔をくすぐり、脳が蕩けそうになる。……おっと、さりげなく肌に触れるな。
イエス・ロリ・ノータッチだ、俺。
「要件というほどではありません。ちょっとしたお願い事をか叶えてほしいだけですの」
「――いっとくが性的なお願いは無理だからな」
「むぅ、お堅い人。まぁそれについては後々、交渉するとして」
まだ、諦めていなかったんかい。
さすがはアルラウネ。幼女なのに性欲に忠実だ。
寝るときはバリケードでも作っておこう。
「実はですねぇ、あなた様にわたくしの名付け親になってほしいのですわ」
「は? 名付け親? なんで俺が……」
「だってあなた様がわたくしを栽培したのでしょう? ならばあなた様はわたくしの親ではありませんか」
「いやいや、栽培といっても俺はただ謎のアイテムを言われた通り土に埋めただけなんだけど……」
「だとしても、あなたの手でわたくしを生み出したことには変わりありませんわ。ならばあなた様はわたくしの親。親が子に名前を付けるのは当然の役目。ぜひともわたくしに名前をくださいませ、お父様」
「お父様と呼ぶのはやめろ。あと、あとそんなに近づくな。いい香りして、つい理性が揺れそうになる」
「わかりましたわ。ならパパで」
「パパもやめろ。お父様よりイケナイ関係ぽいだろうが! ってか、いい加減離れろ! あぁ煩悩が! 色欲が俺の中で暴れだすぅぅ!」
平らなのに柔らかな感触と甘い幼女の香りが本能を刺激する。
おつけ、オーク。痴女だとしても幼女に手を出したそこで負けだぞ。
「あぁーわかったわかった。名前つけてやる! だからもう離れてくれ!」
「うっふふふ、ありがとうございますわ」
そいって小悪魔な微笑みを零して俺がから離れた。
まったくとんでもない幼女――否、妖女だ。ペドだったらその場で襲っちゃうほど、色気が半端ない。
犬娘と同様に距離を保たないと、煩悩に流されそうだ。
しかし、名前ねぇ。
俺はこいつのことを『花娘』という字名で認識しているが名前なんて別に気にしてはないが。
というか、安直に思いつくのは花子やローズなどといった名前だけ。絶対に気に入らないだろうな、
アルラウネ……アルラウネ…アルラ……アルル……ラウネ……ラウ…ラウラ?
「――ラウラ。ラウラってどうだ?」
「ラウネ、ですか……ふむ」
花娘が腕を組んで考え込む。
気に入らなかったのか?
「念のためほかに思いついた名前とかありません?」
「花子、ローズ、アルとかあるぞ」
「なら、ラウラで! わたくし、ラウラがいいですわ!」
さっきまで躊躇してたのにすぐに肯定した花娘。
こいつ、もしや俺の名前センスを見限って、安全な名前を選んだので。
「わたくしの名前はラウラ。アルラウネのラウラ。ぎっししし、良い名前ですわ」
……まっ、本人が喜んでるからいいか。
語呂がいいから覚えやすいし。
もっとも、俺にとっては花娘は花娘であることに変わりはないがな。
――PURUNN!
おっ、起きてたんだなスライム。
――PURRRRU!
スライムがズボンの袖引っ張る。
まるで何かを強請っているようだ。
「……もしかして、おまえも名前をつけて欲しいのか?」
スライムが震えて頷く。
花娘に名前をつけたことに羨ましく思えたんだろう。
……せっかくだし、こいつにも名前付けをしておこう。
不本意だが初めてティムした魔物第一号だし。なにより名無しのままは不遇だろう。
スライムだし、名前を半分にしてライム――はダメだな。
ネット小説でスライムの定番な名前だ。
なら、スゥ――は言葉に迫力がない。
うーん、どんな名前がいいんだろうか。
スライムを見つめて考える。
……ぷるぷる、ひんやり、それでいて透明。ほんと水まんじゅうを思い出すな。これに泥とかが乗っていたら水無月かも。
――うん? 水無月?
「――ミナヅキ。お前の名前はミナヅキだ」
――PURUUUN!
俺がかっこいい名前で呼ぶとスライム――ミナヅキは喜んでその場で弾んでジャンプする。
相当気にったようだ。
「なんでしょう。いつのまにかスライムに名前負けしたような気分がしますわ」
ソンナワケナイヨー。
ラウラモ、知性ヲ感ジル程オマエピッタリノ名前ダヨー。
トイウカ、ソノ場カラ離レタホウガイイヨー。
マップデ確認シタラ、丁度オマエノ頭上カラ――
「ありゃ、あなた様? どうしてわたくしから離れていくのですの――」
ドッスン!!
「――ぐっへ!?」
「……ただい……ま」
花娘の頭上より何か巨大な物体が花娘を押しつぶした。
「おかえり、義姉よ。随分と大物を狩ってきたなー」
子犬サイズである犬娘が両手で持ち上げていたのは軽自動車並みのある牛のような魔物だ。
形状からして牛に似ているが、アルマジロのような甲羅が張り付いていた。
「……甲殻牛。丁度群れがいたから狩ってみた」
「へぇ、こいつが甲殻牛か……。牛とアルマジロを合体したような生物だな。昨日は蒸し料理の奴を食ったがBBQ――焼き料理でも食えるのか?」
「うん……獣臭さはするけど、むしろ焼くことで食欲を……そそらせる」
「そいつは楽しみだ。あっ、実は留守番している間に焼きタレを作ったんだ。こいつでつけて焼いたら美味しくなるのは間違いなし」
オリーブオイル仕立ての焼きタレとハーブ塩を渡す。
犬娘は甲殻牛を後ろに置き(なんか踏まれたカエルの悲鳴が聞こえたような?)、タレとハーブ塩を舐める。
「ん……おいしい。甲殻牛の肉に合いそうだし、魚と茸にも良さそう」
そういって首にかけていた風呂敷を広げる。
俺が食べたことがある金槌魚やプロテイン茸など魚や茸、野菜などがあった。
短時間でこんだけ集めたのか、この義姉は!
さすが樹海の原住民。生まれながらのハンターだ。
「甲殻牛の解体してるから、その間、これら焼いて……て。血抜きは済ませているけど甲羅を剥がすのは時間……かかる……から」
「了解。それじゃ、ミナヅキ。BBQをはじめるぞ!」
――PURRRRUN!
久々のBBQでテンションが上がるぜ。
ふあっはははははははは!!!
「――テンションが上がってるとこ悪いのですが、そ、それよりも甲殻牛の下敷きになっているわたくしを助けて――ガック」
あっ、忘れてた。




