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12 アルラウネは絶滅種

「うぅぅ、無理やり引っこ抜くなんて破廉恥極まりないですわ」


 目を覚ました植物娘が泣きべそ(ぽく)をかきながら上半身を起こす。

 容姿からして小学一年生くらいだろう。桜色の髪に、ルビーを連想させる紅い瞳。平らな胸は葉っぱのブラで隠し、太い蔓が服の代わりに上半身に巻き付いているが、お腹や太ももなどが露出し、少女とは思えない色気を醸し出している。

 見たところエロ写真集に乗っていそうな色っぽいロリッ娘だが、肌が緑色で下半身が巨大な葉っぱと多数の触手で出来ている時点で、人間の少女ではないことは明確だ。

 というか、この花娘がなんの種族なのか俺は知っている。


「破廉恥な格好で触手生やしてる痴女に言われたくないな。つうか、あんた誰?」

「誰といわれましても、わたくしは先ほど人格が形成したばかりの動植物です。名称はアルラウネ。名前はまだありませんの」


 やっぱり、アルラウネか。

 アルラウネはゲームや漫画とかで登場する魔物娘だ。サキュバスのようなメジャーな痴女と違ってマイナーだが、人外系のエロゲーだとたまに出演している。おもに主人公ショタを触手で逆レイプする係として。

 オタク眼鏡から魔物娘などの人外系エロゲーを紹介されたことがあるから知識として知っている。しかし、アルラウネって基本モデル体型の痴女なんだが、こっちの花娘は完全に幼女だ。エロいけど。

 成長途中ってことか?

 エロいけど。


「ほんとに……アルラウネ?」


 後ろを振り向くと地面に横に寝かせていた犬娘がいた。

 犬娘は怪訝な視線で花娘を見つめながら近づくが、ずっこけて前のめりに倒れかける。

 俺はとっさに、犬娘の身体を抱き留めた。


「おいっ」

「大丈夫…姉は平気…」


 そう言うが、やせ我慢してるしか見えない。どうやらまだ麻痺状態が続ているようだ。

 犬娘に介護していると、花娘が興味深そうな顔つきで、下半身の触手をタコのように動かしてこちらに近づいてきた。


「おやおや、即席の麻痺液でしたが、数分足らずで動けるとは。一時間くらいは指先一つ動かせないほどに調合はしましたがずいぶんと丈夫なんですわねぇ」

「……樹海には毒や麻痺をもつ魔物や植物が多く……いる。対策として幼いころから少々の薬毒を飲んで状態異常への免疫力を高める修行……するのが習慣。この程度の麻痺で参るほど、軟な鍛え方はしていない」


 ステータスに耐性スキルがなかったが、それなりの準備はしていたようだ。


「なぁ、こいつの麻痺を解いてくれないか? このままだと話が進まないんだが」

「おや、なんで私が? そっちから襲ってきたのですよ。自己防衛として対処したまでのこと。それに麻痺を回復させる手段なんてわたくし持ち合わせてはいませんですよ」


 小馬鹿にするように言葉を返す花娘だが、そんな戯言は想定済みだ。


「たしかに刃を向けたけど、ことの発端はおまえの触手だろ。庭で襲ってきたの忘れたのか?」

「おや? そうでしたか? なにぶんわたくしの触手は暴れ馬並みに融通が利きませんので知りませんでしたわ」


 白々しく微笑する植物娘。

 こいつの口ぶりと態度からして、確信犯であることは間違いないな。


「それと、さっき即席の麻痺液とか調合とかいってたよな。その言い草からして、麻痺状態にする薬や毒を作れる能力があるということだろ? だったら逆に解毒剤も作れるはずだ」

「……ほう、オークの癖に鋭いではありませんか」


 まぁな。コミュ障ってやつは、常日頃から相手の顔色と言葉に敏感な生き物だ。

 おかげで相手がどう考えているかくらい推察はできる。

 ……不測のアクシデントがおこると、パニックに陥るけどな。

 こうして、脊髄反射で会話しつつ、ポーカーフェイスを保っているが、そろそろボロが出そう。この後のセリフをどう吐けばいいのか、語彙力が足りなくなってきたし。

 ……このまま硬直状態が続くと、危ないかもしれにない。俺が。


「ぎっしししし、いいでしょう。手癖の悪いわたくしがやった手前です。謝罪の気持ちとして治してあげましょう」


 そういうと、一本の触手から果実らしきもの実る。

 見た目からして、一粒の葡萄だが、大きさは林檎サイズだ。

 花娘はそれを躊躇なくもぎ取り、俺に差し出した。


「この実を食べれば麻痺は解除されますわ」

「……これってオマエのスキルかなにかか?」

「そんなもんです。果実に麻痺の解毒効果を付加させています。麻痺液をぶかけったように液体状にしてぶっかけることもできますが、ビジュアル的にはこちらがよろしいかと思いまして。……ぶっかけにします?」

「そういうのは美女か美少女にやってくれ」


 液体噴射は触手の基本だが、ぶっかける相手は(コボルド)だからな。

 少女だけど犬頭だぞ。動物にぶっかけても重要性がない。獣耳美少女ならアリだけど。

 と、つい脱線してしまった。

 花娘から果実を受け取り、犬娘に食わせようとするが、口を開けようとしない。


「どうした? 食べないと麻痺が治らないぞ」

「……無理。ひびれて……うまく噛めそうに……ない」


 そうか?

 感触からしてバナナのような感触だし、顎が弱い老人でも咀嚼できそうだが。

 俺が困っていると、犬娘が潤んだ眼で言う。


「オーズ……おねがいがある」

「ん? なんだ?」

「……口移しで私の口に――」

「果汁にして飲ませるのはありか?」

「焼きや煮込みをしなければ効果は変わりませんわよ」


 ということで、オークの有り余る握力で果実を絞って犬娘の口に垂れ流す。

 喉に果汁を注ぎ込まれ犬娘が暴れて口を閉ざそうとするが、先読みしていた花娘の触手により口と四肢を拘束し無力化。

 一滴まで果実を絞り切り、汁を犬娘の口に注ぎ込み終えると、花娘は犬娘の拘束を解いた。


「げっほっげほ!? オーク……ひどい」

「おふざけしたお前が悪い」


 犬娘はせき込みながら、涙目でこちらを睨む。

 麻痺による状態異常はゲームだとポピュラーだが、医療的に考え直したら臓器停止で死につながりかねない危ない状態だ。早く治療したほうがいい。

 花娘の口ぶりからして、そこまで危険視するほどではなさそうだが、まだこいつを信用してわけではない。麻痺を解除させる方法がなかったといえ、もらった果実はすぐに分析系スキルで分析してみた。効果は麻痺による解毒で不審な効果や異物は見つからない。

 むろん、犬娘のステータスを確認したが、先ほどと違い麻痺状態が無くなり、異常な点はなかった。


「ぎっししし、どうですかわたくしの果実のお味は? 解毒剤はそのままだと無味無臭。薬物としてはそれは正しいのですが、少々味気ないので、その辺のあった果物の樹をリソースに作ったのでフルーティでおいしいでしょう」

「……ん。ほんとだ。果物みたいに甘い」


 犬娘がぺろりと口元に残った果汁を舐める。

 薬だから手に着いた汁を舐めないのだが、オークのするどい嗅覚からして野イチゴや柘榴のような甘酸っぱい臭いがする。

 しかし、アルラウネってそんな能力あるものなのか?

 俺の知識とは若干違うのだが。


「シャルロット。さっきこいつのことで驚いてたけど、アルラウネって一体なんだ?」

「アルラウネは伝説の魔物……古き時代に絶滅したとされるこの世のすべての叡智と秘密を与える華」


 犬娘によれば、アルラウネという魔物はかなりのチートな存在だという。

 その理由は、相手の秘密を看破するスキルと世界中の知識と情報を検索するスキル、そして、死者蘇生や不老不死の効果を持つ霊薬や不治の病を感知する万能薬に一晩で一国を滅ぼせる猛毒などを作り出せるスキルを所持しているからだ。

 このスキルはアルラウネの固有のもので、彼女の種族以外が習得することはできないらしい。

 秘密を見抜くだけでなく、膨大な情報源を入手し、さらに、神クラスの毒薬を作り出せる能力は現代人の視点からしても破格だ。

 くわえて、アルラウネは頭脳明晰な天才種族で、達人ですら習得できない魔法や技術などが扱え、また、その知恵と恩恵を与えられた者は賢者になれるといわれている。

 このことからアルラウネは『賢者の花密』として有名になり、王族や権力者、さらに不老不死や力を求む者たちが、この魔物を捕まえようとした。

 しかし、俗物たちの戦力では、高度な知能と高位の魔法を使えるアルラウネたちには敵わず、ほぼ惨敗。一割の確率で捕獲に成功しても、気に入らない相手に力を貸すくらいな死を選ぶという高潔な意思で即座に自決。調教師(テイマー)で運よくティムしても、主人に忠誠せず老獪に周囲の人間を言葉巧みに操り洗脳。アルラウネの力で大国家になった国は、最後にはゾンビが徘徊する生者がいない荒野と変貌したといわれている。まさに、傾国の美女ならぬ傾国の魔物娘だ。

 で、悪の権現なアルラウネたちだが、なぜが突然としてその存在が消えた。

 原因は不明。うわさでは「討伐され絶滅」「自然災害による絶滅」「神罰によって絶滅」などあるが根拠も確信もない。

 それでも、アルラウネという魔物は地上から姿を消したのは事実であり、アルラウネは絶滅種として認定され、伝説の魔物として後世に語られているとのことだ。

 そんな危険人物が俺の拠点の花壇にいますけど、どいうことなんでしょうねぇー。 

 話を聞くか限りこの世界のアルラウネは最悪チートだな。前者二つはともかく、最後のスキルはやばい。下手すればバイオハザード起きる。というか起きていた。

 誰か特殊部隊のあの人呼んでぇ。


「そう警戒しなくてもよろしいでしょう。せっかく善意でこのコボルドちゃんの麻痺を治したではありませんか」

「生憎、正体を隠してる相手を信頼するほどお人よしじゃないからな。警戒して当然だろ」


 バイオハザード起こせる危険物を注意しないほど、気楽になれないから。

 感染したらゾンビ・オークになるかもしれないし。というかゾンビ系のオークっているのかなこの世界。字面的に居そうだが。

 せめて、こいつのステータスが確認できれば、余裕が持てそうなのに。

 覗けない原因は、隠蔽系のスキルを持っているからだろうか。

 俺のユニークスキルなら隠蔽スキルを突破することができるスキルを習得できそうだが、あれは戦闘時限定で、完全に習得するまでタイムラグがある。念のため自分のステータスを確認したが変化していなかった。使用のデリメットである激痛がなかったのが証拠だ。

 さきほどの引っ張り合いは戦闘に含まれないらしい。


「しかたありませんね。女のプライバシーを見せびらかす性癖はありませんが、信用してもらいないのはこちらとして嫌ですので。……これでよし。隠蔽スキルは解除しましたので、どうぞ好きなように見てくださいまし」


 エロティックなポーズで誘う花娘。幼女なのに色気が半端ないな。ペドじゃなかったら、そのまま押し倒している。

 あと、俺が分析スキル持ちだということを知っているのは、おそらく知識としてオークを熟知しているからだろう。もしくは、鑑定系のスキルを使ったか……。 

 とりあえず、ステータスを観よう。


名前:――

種族:アルラウネ

LV:21

HP:2140/4560

MP:7093/38400

SP:759/2520

筋力:210

耐久:380

敏捷:100

魔力:2100

知力:3200

器用:1900

ユニークスキル:進化の種エボリューション・シード

スキル:《秘密看破》《完全情報規制》《叡智閲覧》《薬毒精製》《精吸》《地脈循環》《魔力循環》《万能触手》《自動治癒》《火魔術》《水魔術》《土魔術》《風魔術》《雷魔術》《光魔術》《闇魔術》《星魔術》《錬金術》《状態異常耐性》《高速思考》《分割思考》《高速演算》《植物接続》《念波》《増殖分身》《生命感知》《魔力感知》《調薬》《全分析》


 絶句。

 チートすぎるステータスだ。俺のステータスの割合と対照的だが、能力値が約二倍。スキルなんて全魔術スキルがコンプリート済みで、さらにユニークスキルありときた。

 能力値とスキル構成からして魔法使いタイプとみて間違いない。

 あっ、スキル《魔力循環》がある。


《魔力循環》

【MP消費量で魔力値を別の数値に加算する】


 シャルロットが言ってた秘密を見抜くスキルと情報源を得るスキル、それとバイオハザードすら起こすスキルは《秘密看破》《叡智閲覧》《薬毒精製》の三つだな。分析スキルが機能しなかったのは《完全情報規制》の恩恵だろう。


《秘密看破》

【対象の秘密を看破して情報を得る】

【秘密以外の情報を得ることはできない】


《叡智閲覧》

世界機構(システム)の記録領域に接続】

【古今東西の知識・技術・歴史を検索して必要な情報を入手する】


《薬毒精製》

【あらゆる薬や毒を体内で生成する】

【保有者は薬毒の効果を任意で無効化することができる】


《完全情報規制》

【自身のステータスを外部から遮断し分析・鑑定を完全に無効化する】


 ほかの気になるスキルを見てみよう。最初は……触手だ。


《万能触手》

【自身の触手を自由自在に操作する】

【触手を無制限に増殖させる】

【触手の形状を自在に変える】


《自動治癒》

【HPおよび四肢欠損を自動で回復せる】


《錬金術》

【錬成による技能を向上させる】

【錬成による成功率を向上させる】


《全分析》

【対象を分析・解析し情報を得る】


《地脈循環》

【土地のエネルギーを吸収し生命力に変換する】

【自身の生命力を土地に分け与え活性化させる】


 錬金術とか分析鑑定できるスキルはいいけど、俺個人としてはこの触手のスキルがめっちゃほしい。

 使う彼女(あいて)いないけど、オークの性なのかそそられる。

 あとは、この土地を枯らしたのはスキル《地脈循環》で間違いないな。触手……根っこを伸ばして地中から栄養を吸ったんだろう。

 ユニークスキルのほうはシステム上の都合か内容が読めなかったが、名前から推察して進化関連の能力だと思われる。


「どうですか。さらけ出した、わたくしのすべては」

「あぁ、伊達に伝説の魔物とまで呼ばれるほどだな。しかもユニークスキル持ちだし――」

「ユニークスキルっ!? ユニークスキル持ってるの!?」

「ん? どうしたシャルロット。そんなに驚くほどなのか?」

「ぎっしし、コボルドの娘の反応は正しいですわ。えぇと、オーズさんに、シャルロットさんでしたっけ? 種族名で呼ぶのは失礼なので名前で呼んでもよろしいですか?」

「あ、うん。別にいいぞ」

「わたしも好きに呼んで。……それよりも貴女、ほんとにユニークスキルを持ってるの?」

「えぇ。むろん、どういう能力なのかある程度熟知していますわよ」

「すごい……! 普通、ユニークスキル持ちは少ない上に、それを使いこなせる人は一握りだけ……。なのに自分で使いこなせるなんて……しかも使い手が、伝説の魔物なんて反則すぎる!」

「ぎっしししし、そうでしょうそうでしょう! わたくしったら、元から天才だったのに、とんでもなく出鱈目な個体になってしまいましたわ! 自分の才能と運命が怖いくらいです!」


 …………。

 二人の会話が弾んで、ただいま置いてけぼりされてる俺。

 というかこの植物娘、エロティックでミステリアスぽかったが本性は自己陶酔しやすいタイプなんだな。

 ここで話に割り込むのはKYだが、情報収集のためだ。

 覚悟を決めろ、コミュ障の俺。


「……話を割って悪いが、そんなにユニークスキルってやつはレアなものなのか?」

「当り前です。ユニークスキルとは通常のスキルと違って能力効果が桁違いの上に、世界に二つもないもの。いわばオンリーワンな能力なのです」

「それに、ユニークスキルは強力な分だけ使いづらくて……宝の持ち腐れになることが……多い」

「とくに常時発動型は本人の意思を無視して問題や害を及ぼすので、必ず制御できるよう訓練しなくてはなりませんの。下手をすれば死んでしまう恐れがあるので」


 二人の説明は俺の中の疑問がひとつ解消した。

 ユニークスキルが発動したときの激痛は、俺がユニークスキルを制御できるだけの力量がなかったのが原因か。なら、訓練すれば、ユニークスキルを制御することができるかもしれない。

 完全制御できるまでこの能力を使わないようにしないと。

 バトル中に、自滅する恐れがあるし。


「ところで、あなた様のユニークスキルに興味があるのですが、どういう能力なのか教えてはいただけません?」

「んっ? オーグもユニークスキルもってるの?」

「あぁ、隠したわけじゃないけど持ってるぞ。ってか、おまえ俺のステータス覗いただろう」

「もちろん。わたくしを見せたのですから見る権利はありますわ。それとも恥ずかしくて見せたくなかったのですの?」

「……いいや。別にみられてもデリメットはないからな。ステータスを覗いたんだら、どういう能力なのかわかるんじゃいのか?」

「残念ながらわたくしの《全分析》では能力名が分かっても、どういう能力なのまでは分かりませんの。ユニークスキル級を分析するには同じユニークスキル級の分析系能力か、神具級のアイテムでないと」


 ユニークスキルというものはとんでもない能力だったみたいだ。

 初手で手札一枚を見抜かれる心配はほぼ無いな。

 信頼のためにすこしだけネタ晴らししておくか。教えてとばかりに犬娘が目をキラキラして訴えるのが面倒くさいし。


「最初に言っとくがそんなにすごい能力じゃないから。戦ってる時だけ、自分より強い相手のレベルと能力値を同レベルまで成長させる程度のもんだし」

「いえいえ、なんですかその出鱈目な能力は!? 十分に素晴らしい能力ではありませんか! スキルや強化魔法で能力値を一時的に強化するならともかく、能力値どころかレベルまで成長させるなど本来ならありえません! 世界の法則を無視してますわよ!」

「うん。ずるい」

「そこまで驚くことか? まぁ、たしかにチートぽいけど。ただ、あくまで同格までだ。限界値だってある。敗北率は低くなっても引き分けになる程度だし。なにより、能力値が上がっても技量まで上がるわけじゃないからな」


 格闘ゲームで例えるなら、ゲームが下手なプレイヤーとプロの天才プレイヤーが同キャラで戦うイメージだろう。キャラの性能は同じでも、操作するプレイヤーの腕前が天地の差があれば、勝つのは必ず後者だ。

 前者がなにかしらの反則(チート)を使えば勝てるだろうが、俺のユニークスキルはあくまで公式枠の権限(ちょうせい)で、正面からリアルチートのプロに勝てる勝率は限りなく低く。

 と、俺の説明に花娘が納得しように頷く。


「ふむふむ、能力値が上がっても本人の技量・力量までは成長はしない、ということですか」

「そういうこと。凡人が天才並みの能力を手に入れても、凡人は所詮凡人。やることすべては凡人の範囲内で価値観も凡人の視点だ。天才と同じことはできないよ」

「おやおや、ずいぶんと現実的ですわね。大抵のユニークスキル保持者は自身の能力を過信することがありますのに」

「そういう踏み台キャラがリアルにいるほうがレアだと俺は思うけど。俺の手札を見せたんだ。今度はそっちがバラす番だ」

「ふふふ、そうですわね。あなたさまの固有能力に比べて少々制限がありますが、つまらないものでないことはお約束します」

「制限?」

「制限というより条件といいましょうか。――シャルロットさん」

「ん? なに?」

「あなたさまが袖に隠しているワイバーンの魔核。一個わたくしにくれませんか?」

「ッ!?」


 犬娘がギック!の擬音語が飛び出すほど驚く。

 たしか、ワイバーンの魔核は集落の持って帰れないから工房のほうに置いていくこと二人で決めたはずだが。

 ちょろまかしたのかこいつ?


「……なんで知ってるの?」

「アルラウネの前に、秘密など無意味ですわ」


 もしかしてこれが《秘密看破》の能力か。相手の隠し事を見抜く効果は敵味方関係なく脅威的だ。

 名探偵が不要になるな。黒幕さんもトイレで震えていそうだ。


「……猫糞したわけじゃない。鍛冶の修行の際、鍛冶担当のおじさんに樹海で拾った魔核を手土産にもっていこうとしただけで……」

「あーわかったわかった。修行のために必要ならもってもいいけど、ボロをださずにしてくれよ」

「……うん」


 悪いことをした子供のように言い訳を呟く犬娘の頭を軽くなでる。

 浅知恵だが悪意がないことは分かっているので、ちょろまかしたことは許す。

 俺は器が小さな男ではないからな。

 撫でられ喜ぶ犬娘は袖からワイバーンの魔核を取り出し、花娘に渡した。


「では、わたくしのユニークスキルついて説明しますが、見たほうが速いでしょう」


 そういって、魔核をコインのように指ではじき、宙に浮かべた後――。


 パックン!


 魔核を食べた!?

 というより飲み込んだ!?

 のどに詰まりそうな宝石を一飲みで!?


「んー、さすがワイバーンの魔核、なかなかの魔力量(リソース)ですわね」

「……なぁ、魔核って食べても大丈夫なものか?」

「食べても生体に無害だから……異物として尻から出るだけ」


 体に害はないようで安心するが、なんで食べたんだこいつ。

 花娘は魔核の旨味に喜びを感じていた。というか魔核に味なんてあるのか?

 ――今度、ためしに舐めてみよう。


「ふぅ、そろそろ馴染んだころでしょうか」


 花娘は息を吸い込み腹を含ませる。

 隣で犬娘が?マークを浮かべるが、俺の漫画知識(ちょっかん)が囁く。

 これは避けたほうがいい展開(パターン)だ、と。

 瞬間――。


「――――GAAAAAAAAA!」


 少女の声とは思えない、怪物の咆哮が轟く。

 同時に、花娘の小さな口から、巨大な火炎の球体が放たれる!

 ――あぶんなっ!?

 回避態勢をとってたので余裕――まではいかずギリギリで避けれた。

 犬娘は火炎の塊に驚嘆するが、すばらしい反射神経で身体を捻って躱す。

 火炎の塊は後ろの枯れた樹木に直撃し、爆発。

 樹木は消滅し、巨大なクレーターと轟々と燃え盛る残り火だけが残った。


「なに今の!? 魔法か!?」

「違う。魔法なら魔法陣や紋章が発生する……はず。あの豪火は……母さんから昔聞いたワイバーンのブレスに似ている」


 ワイバーンのブレス?

 どうして、植物系の魔物がドラゴン系の能力が使え――ってまさか。

 花娘のステータスを再度確認すると、スキル欄に《爆裂咆哮》《豪火球》《飛翔》《気流操作》《火炎耐性》のスキルが追加されていた。


「ふふふっ、お気づきの通り、わたくしは魔核を食べることで、魔核の持ち主である魔物の能力を手に入れるもの」


 さらに、と花娘が言葉を紡ぐと彼女の身体が変貌していく。

 背中に蝙蝠のような羽が生え、下半身の触手が重なり合い恐竜のような脚と尻尾に変形。

 最後に頭部から象牙のような角が二本生えてきた。


「その魔物に擬態化、あるいは部分的に変身することができる。それがわたくしのユニークスキル《進化の種》。魔核を食べれば食べるほど強くなる能力です」


 それ、異世界小説でありがちなチート級コピー能力じゃん!

 下手すればどこぞのスライム魔王と戦えるほどだぞ!

 というか、魔核で強くなるということはこいつが襲ってきた動機は俺たちの魔核を――。


「そう怖がらなくても別にあなたたちを殺しても魔核を得ようとは考えてませんわ。あくまでわくたしが欲しいのはあなたさまの――うっ」


 察して誤解を解こうとする花娘だが、突如としてふらつき始め、膝を折り地面に臥す。

 急にどうした?


「わ、わたくしとしたことが……自分の状態を忘れてつい楽し気に長話をしてしまいましたわ」


 演技でなく本当に具合が悪そうだ。心配した犬娘が寄り添う。

 ユニークスキルの副作用なのかとステータスを確認してみる――んん?

 能力値とスキルに注目してた気付いてなかったが、HPとSPの数値が半分を切って文字が黄色くなっていた。しかも微小だが数値が徐々に減って赤色になりかけている。

 これは一体……俺が疑問を抱ていると犬娘が何かを思い出したようにポンと手のひらを叩いた。


「……そういえば植物系の魔物が誕生するには大量の栄養が必要で……栄養が足りないと不完全体となって数分足らずで死んじゃうんだった」

「今言うのか義姉よ……」

「はぁはぁ、シャルロットさんの言う通り。ですから、この土地のエネルギーを枯渇するまで摂取したのですがわたくしを完全体なるほどのエネルギーがなく……結果、御覧の有様です」


 たしかに。

 花娘の今の状態は栄養失調で苦しむ人の症状と似ている。

 若干、体が細くなってきていた。


「ぜぇぜぇ、実は土地のエネルギーを代用する方法があるのですが、それにはどうしてもあなた様のお力が必要不可欠で……」

「俺の力か……」


 なんだろう。

 オークのスキルにこいつを助けられそうな能力はなさそうだが。

 しかし、ここで見殺しにするのもKYだしなぁ……。

 はっきりいってこいつのステータスとスキルは警戒するに値するが、逆に言えば魅力的だ。

 こいつと協力関係になれば、異世界でのスローライフが楽になるかもしれない。

 性格面は妥協しておこう。問題児相手には慣れてるからな俺。


「命と金以外なら協力してやる。ただし、俺ができる範囲での話だけど」

「か、かまいません。むしろあなたにとってはある意味お得な話ですので」


 ある意味お得はとは?

 お得とか限定品とかの言葉には弱いんだけど俺。

 怪訝していると、花娘が頬を淡く染めて呟く。

 

「乙女が口にするのは恥ずかしいのですが……あのですね……あなたさまの……せ……液を」

「んん? 液をなに?」

「――あなた様の精液をください。それも中出しで」

「…………はい?」

 

 すまん。難聴で聞こえなかった。

 もう一回プリーズ。


「すいません。淑女としてお下品な言い方でした。……ごっほ。改めましてわたくしと交尾してくださいませ」

「――ちょっと待ちたまえ君」


 堂々とセックスを要求する花娘に、冷静に待ったをかける俺

 今どきのビッチ女子高生でも初対面の男性に援助交際を申し込まないぞ。

 しかも、生なんて自分の身体を大切にしなさい!

 親御さんが泣くぞ!


「どうして、俺がおまえとセックス――交尾しなくていけならなんだよ」

「それはもちん、わたくしが《精吸》スキルをもっているからですの」


《精吸》

【体内に吸収した精液を栄養素に変換する】

【子宮による摂取が吸収効率が一番高い】


 なんというエロゲー的スキルだろうか。 

 サキュバスあたりがもっていそうだ。

 じゃなくて!


「オークはいわば性欲の塊。いっぱつで異種を孕ませる精液の質と量は全種族で一番。完全体になるための栄養源として悪くありません。同時に、あなたさまは持て余している性欲を解消できる。とても素敵な交換条件ではありませんでしょうか?」

「たしかに最善策としては正しいけど……正しいけど!」


 思春期の男子高校生ならタダで交尾できることは喜ぶだろう。しかし、相手は植物……それも幼女だ。

 植物相手に性欲をぶつけるのは変態なのに、さらに幼女に手を出すとか現実手にアウトだ。

 しかも、この花娘は先ほど誕生したばかりの魔物娘……実年齢ゼロ歳児の赤ん坊である。

 手を出したら変態の烙印どころか、ド変態の死刑執行書を押し付けられ、ペドどもに惨殺される未来が確定してしまう。


「おや? オークの癖に戸惑っておいでですか? 中出しされた精液はすぐに栄養として吸収されるので妊娠する恐れはありませんわよ。それに初物ですよ? 誰も触らせたことのない新品ですわよ?」

「幼気な処女が初物とか口にするな、ビッチ」


 せめて、こいつが合法ロリなら情状酌量の余地があったのに。実年齢が女性なら社会的にセーフなはずだ。たぶんだけど。

 俺はエロい娘が好きだが、童貞を捨てるならやっぱり経験豊富な成熟した女性がいい。

 世間的には熟女好きに当てはめられるが、色気の濃さと欲求不満による性欲が高いのがその年齢層だったので、俺は否定しない。

 あと、ロリババァは守備範囲内である。エロくて綺麗ならそれで良しだし――って、現実逃避してる場合じゃなかった!


「……オーズ」


 ほら、傍に義弟想いな義姉がいるんだし。

 他人に見られなあら交尾するプレイなんてできるはずが――。


「怖いなら姉も一緒になってまぐわって……あげる」


 ブルータス、お前もか。

 今日の朝、互いの距離を考えていこうと決めたのは嘘だったのか!


「おやおや、シャルロットさんも参加したいのですか」

「……うん。義理姉弟の関係を続けるならそういうことはやっちゃいけないんだろうけど……やっぱり興味ある。それに昨日はちょっと不完全燃焼だったし。妊娠しないように注意すれば大丈夫……かなって」


 十歳の癖に保健体育に興味津々だな、オイ!

 むっつりスケベか、この犬娘は。


「でしたらわたくしが避妊薬を作りましょうか? 《叡智閲覧》で避妊薬の製薬方法を入手することできますので」

「でもそれって人間用じゃ…ないの?」

「問題ありません。私の知識と技量ならコボルド用に調合するくらい簡単です。そのためにはまずわたくしが完全体にならなくてはいけませんので、シャルロットさんは二番目になりますがそれでよろしくて?」

「義弟の初めてになれないのは……残念。でも……わたしの初めてをあげれるから、それで……いい。代わりに義弟を気持ちよくさせて……ね」

「ぎっししし、シャルロットさんと同様実戦経験はありませんが、アルラウネの誇りと力に賭けてオーズさまを立派な雄にしてあげますわ」


 あかん。

 俺に味方がいない。

 こいつらヤル前提で俺を食べる気だ。性的な意味で。

 幼女から背負向けて逃げるのは情けないが、逃げ恥だが役に立つという名言がある。

 会話している二人の隙を見て、その場から退散しようとする――が。


 後ろから飛んできたナイフが右頬を掠れ、反射的に硬直。

 その隙に、花娘がワイバーン化した四肢で俺を組み伏せて、拘束した。


「オーズ……逃げたダメ」

「これも人助けのため、わたくしのため。どうかあなたさまの濃い精液をくださいませ」

「えぇい離せ! 離せぇ! 俺は犯罪者になりたくないんだぁぁぁ!」


 花娘から逃れようとするが、なぜか拘束から抜け出せない!?


「言い忘れましたが変身中は変身した魔物の強さまで再現するので、今のわたくしの筋力はワイバーン並みですわよ」

「この反則(チート)め!」


 元のステータスだと筋力は貧弱だが、ワイバーンの筋力もあってか、完全に力負けをしてしまった。

 高い魔力値と《魔力循環》スキルでさらに強化もしてるのだろう。

 こっちは強化系スキルを重複してるのびくともしない。


「オークという魔族は性欲にかけてはサキュバスの対になる存在。幼体であれ、その生殖器はかなりの一品だとか」

「うん、オーズのアレは……大きい。長老と父さんより……立派」


 いや、犬と比べられると元男子高校生として恥ずかしいんだけど。

 たしかに、サイズ的には前世よりちょと大き目だけど、成人男性ならそれくらいじゃないのか?

 あと、祖父と父親が泣くから、そういうことは本人の前にいっちゃだめだからな。


「命の危機のためとはいえ、そんなことを聞かされますと目的そっちのけで発情してしまいますわ」


 そう言って俺を仰向けの状態にし、腹にのしかかる花娘。

 鼻息が荒く、頬が赤く染まり、虚ろな双眸で俺を見降ろしている。

 横では犬娘が顔を赤くし興味津々に俺たちを見守っていた。――この義姉は…!

 花娘は尻尾を巧みに使い俺のズボンを降ろそうと、尻尾の先で引っかける。


 やだぁぁ!

 (社会的に)死にたくない!

 (社会的に)死にたくない!

 (ペドの焼印を押されて)死にたくないぃぃ!!

 

 最後まで抵抗するが能力値で負けている時点で勝ち目がなかった。

 ここはユニークスキルの出番なのに、発動する気配が一向にない。

 発動条件に含まれないからだろうが、使えねぇ。

 使えねぇよ、俺の固有能力。

 やっぱりハイスペックなだけの欠陥品じゃないだろうか。


「さぁ、溜まりに溜まった子種を解放してくださいま――ぐっは!?」


 花娘が俺のズボンを一気に降ろそうとしたその矢先。

 彼女めがけて水色の塊が高速で飛んできた。

 加速した塊は顔面に直撃。花娘は慣性の法則に従い海老反りになり後方へと倒れる。


「むぐぅ!? ぐぐうぅぅ!? むぎゅうぅぅうううう!?」


 水色の塊らしきものは花娘の顔面にへばり付き、花娘が必死に取ろうとするが剥がせない。

 犬娘はのほうが何が起きたのか理解できず、オロオロしている。


 というか水色の塊という時点で身に覚えがあるんだが……。


「――ぷっは!? いきなり何をするのですか!」


 やっと水色の塊を剥がすことができた花娘。

 額に青筋を浮かべて水色の塊を地面に叩きつけた。

 塊はポヨ~ンとボールのように弾み俺の手前に着地する。


 艶やかで透明な青色に、柔らかく弾力のある水まんじゅうボディー。

 うん。まちがいない。

 おまえは!


――PURN!


 スライムぅぅぅううう!



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