11 なぞの蕾
数時間かけ、遺跡と廃墟にあった人骨すべてを遺跡の裏にある空き地に埋葬した。
墓石に代わりにキャプテンが使っていた錨で代用。見た目わりと立派なお墓だと自賛する。
これで死んでいった元海賊たちも満足してくれるだろう。
お墓を作った後、俺たちは金庫へもう一度足を運び、ワイバーンの襲撃の原因となった卵を探してみたが結局見つからなかった。
海賊たちがどこかへ持ち出したのだろうか。あるいはワイバーンたちが取り戻したか。
唯一の手掛かりである日誌にはそれについて書かれていないため真相は謎のままだ。
トラブルの種となる卵がこの廃墟からなければそれで幸いだけど。
怪獣の軍勢など御免被る。
墓の前で海賊たちに黙祷を捧げた後、時間に余裕があったので次に工房へ向かった。
まるでファンタジーゲームのような煉瓦造りの洋式タイプで、巨大な煙突が特徴的な工房だ。
屋根や外壁の一部が崩れていたが、大釜や溶解炉に古めかしい重機類、巨大な大槌や鉄ばさみなど設備・道具類はホコリを被ったまま無傷で放置されていた。
また、倉庫らしき部屋には材料らしき金属や魔物の素材が大量にストックされており、シャルロットの目利きによればどれもこの大樹海でレアなものだという。おそらく、元海賊たちが集めた材料だろう。武器や防具はなかったがおそらくワイバーンとの決戦ですべて持ち出したのだと予想される。
だとすれば、この工房は海賊たちが武器のメンテナンスとかで使用していたに違いない。
事実、あの日誌にもこの工房についての記述もあった。飛ばして読んでいたので内容をあまり覚えていないが、元海賊たちにとって重要な施設だったようだ。
まぁ、なんせここは危険な魔物がうようよしている土地だ。強い魔物と戦えばそれだけ武具が消耗するし、他人から武器を強奪するよりも自分たちで生産したほうが安定して武器が手に入る。なにより、資源が豊富な土地だから材料には困らない。
生産者にとってはある意味理想的な地域だろう。設備も充実して、材料が現地調達で可能。ただし、周りが大型の猛獣に囲まれたジャングルだというところが難点だけど。
そんな危険地帯でも、その地域で生活してるシャルロットには関係ないが。
「この炉…うちの炉より大きい。…このでかさならワイバーンの骨どころかあの金属の加工も…」
ブツブツと溶解炉を触りながら独り言をつぶやいている。
早速、あのワイバーンの骨で武器を作る計画を考えていた。
ぜひとも、俺もその計画に参加もしくは見学したいのだが、そのまえに掃除したほうがいいな。
長年放置され続けたため道具類が錆びつき、手入れが必要だ。あと、雨風をしのぐため、せめて屋根を修理しなくては。壊れた壁はオープンテラスとして手直しすればいいか。
●●●
すこしばかり整理整頓したのち、俺たちは工房から出た。
結局、あの工房で鍛冶する計画は保留だ。
というのも、あの工房の設備を稼働させるための技術と運営方法が今の俺たちにはないためだ。
「あそこの設備はうちよりも…高度で複雑。素人が下手に障ればケガするどころか、事故る可能性が高い」
「たしかに。漫画とかだと主人公が知識チートで解決するけど、リアルだと一般男子高校生が全員頭が言い訳ないし。東大生とかクイズ大会の選手ならできそうけど」
「東大生? クイズ大会?」
「ただの戯言だ。それで、工房を使うのは鍛冶の修行を終えてからでいいのか?」
「うん。スキル《鍛冶》させ習得すればワイバーンの素材で武器を作ることが…できるはず。たぶん、修行が完了すれば習得してる」
「スキルって修行しだいで習得できるもんなのか?」
「技能系スキルなら…努力次第で手に入る。…ただ、あの工房をフル稼働させるには鍛冶の腕前だけじゃダメ。あの大型機械を動かせるには魔導機工学に精通してる技術者でないと…無理」
「魔導機工学? 機械工学じゃなくて?」
「魔法で動く機械類の…学問のこと。あの工房にある設備のほとんどが魔法で操作するタイプ…。私もある程度魔法使えるけど、その学問だけは難しすぎて覚えられなかった。それに、スキル《鍛冶》だけだと作れる種類にも限度がある」
「そうなのか? てっきり武器とかって鍛冶職人ひとり(と助手たち)が作るものだとおもってたけど」
「それはなんの効果も付加されてない通常武器を作る場合。この剣を見て」
犬娘が腰にぶら下げていた佩刀を一本だけ抜く。
一見、ただの刀に見えるのだが。ためしに、《嗅覚分析》で鑑定してみる。
・風牙の剣
攻撃力(斬・突):700
耐久性:900
保有魔力:500
魔力伝導率:15%
効果:風属性攻撃強化(小)
この世界の武器をはじめてみたので、性能がいまひとつ理解できない。知らない用語もあるし。
ステータスの数字を基準に考えれば、わりといい武器なのかもしれない。
ノーマルよりちょいレアって感じか?
「この剣は切断力と高い保有魔力を持たせるため複数の鉱物と魔力値が高く魔物の魔核を配合して鍛えた…もの。特性が違う素材をかけ合わせるには鍛冶の技術だけでなく錬金術の技が…必要不可欠。特殊効果を付加するために魔法的処理も施されてる…」
ふむふむ、何言っているのかわからないがとりあえず頷いてみる。
「魔剣や魔法道具類は鍛冶屋や錬金術師に魔法使い…その他いろいろな職人がお互い協力してはじめて…完成する。あの工房も各職人たちの作業を想定して設備を取り揃えていた。…私がスキル《鍛冶》を習得して、ワイバーンを武器に加工するができても、それ以上のものを仕上げることはできない。…あの設備をすべて使えれば可能なのに」
がっくりと、肩を落とす。
SRな武器を作りくても、知識も技術も人でも足りない。
無学な俺にはどうしようもないな。異世界だから地球の物理法則が違う可能性もあるし。
というか、あの工房を元海賊たちがフルに活用してたすれば、あの男色キャプテンの部下って、相当優秀な人材が揃っていたということになるな。
いったいどういう人選で構成された海賊団だったのか気になる。
もっとも、日誌を二度読みするに抵抗感があるが。内容がほとんどBLだし。
「……せめて、錬金術師か薬剤師がいれば作業が捗るのに……残念」
「錬金術師はなんとかく(漫画知識で)分かるが、武器作りになんで薬剤師が必要なんだ?」
「材料を加工する時、いろいろな薬品を…使う。武器の状態によって使う薬品の種類も量も変わってくるから、すぐに調薬できる薬剤師がいれば安定して武具を鍛えることが…できる」
へー。
ファンタジーの鍛冶屋って化学的な工程もあるのか。
異世界の技術に感心しながら、俺たちは拠点である屋敷へと戻った。
●●●
「へ? なにこれ?」
屋敷の庭を見て、俺は破顔する。
外出する時まで緑に生い茂っていた庭の草木が枯れつくしていた。
地面も荒れ果て、ひび割れている。
数時間前まで、緑が溢れていたはずだが……。
「オーズ! 下がって…!」
犬娘が叫ぶと、地中から太い何かが十本飛び出す。
「触手っ!?」
エロゲーでおなじみ触手みたいな緑色の蔓だ。
うねうねと動きながら、蔓が槍のように鋭く迫りくる。
「……邪魔」
前へ飛び出し、剣を抜き、二刀流で蔓を三本斬り捨てた。
凄い腕前だ。太刀筋が速すぎて見えなかった。
リアル抜刀に感動していると、残りの蔓が俺の四肢と胴体をからめとる。
「ちょっ! オークに触手プレイって!? せめてメスにしろッ!」
有り余る腕力で触手を引き千切ろうとする……が、切れない。
人食い熊くらい簡単に倒せるほどの能力値だから、この程度の蔓くらいは簡単に抜け出せるはずだが?
これは、アレか?
超人並みの能力を持つヒロインが触手に無力化されてしまうというエロゲー的補正。
いやいやいや、それはない。だって俺、オークだし。むしろ触手を味方のはずだ。
と、馬鹿なことを考えている間、蔓が俺の身体をきつく締めあげていく。
耐性スキルのおかげで痛みはないが胴体を絞められて息苦しい。
というか、締められすぎて骨が折れそう!?
「オーズ……動かないで」
犬娘が居合抜きの態勢で俺を見据える。
――ちょっとまって。
何をする気かは予想できるけど、生身で体験するのはガチで怖い。
せめて、俺が覚悟しいてからで――。
シュパパパパパン!
刃が俺の皮膚すれすれで空を切る。
すると、身体を縛っていた蔓が細切れになって地面へと落ちていく。
自分の身体を確認。
うん、キレテナーイ。
「悪い、助かった」
「弟が無事なら…それで良い」
犬娘は安堵を漏らす。
きつく締められたので、肉が紫色に変色しているがこれくらい大丈夫だろう。
すぐさま《自己再生》で元道理になる。もっててよかった再生スキル……って、《剛力》と《剛体》を使うの忘れてたわ。
もう後の祭りだからまぁいいか。
「にしても、これ……植物の蔦なのか?」
「形状から考えて植物系の魔物…と思う」
植物系の魔物……食虫植物みたいなもんか。
細切れにされた蔓を手に持ってみる。
感触はやわらかいが、植物の繊維らしき部分と青臭さとあった。
「こんなにぷよぷよしてたのに、なんでさっきは千切れなかったんだ?」
「丈夫だったのは触手に魔力を流して強度を上げた…から。筋力だけだと…千切れない」
「魔力を流す? どういうこと?」
「魔力を自分の身体や武器に流して纏わすと強化することができる……身体なら能力値ひとつぶんだけ魔力値分を上乗せが可能になる」
「なるほどー」
俺の魔力値は五百くらいあるから、能力値ひとつにプラス五百ほど上乗せすることができるな。
また、《魔力循環》というスキルがあると、ほかの能力値も同時に上昇させることができ、数値もさらに上昇するらしい。しかし、使用中はMPが大幅に消費されつづけるため、長期戦は向かず、魔力を纏わすにはそれなりのセンスと修練が必要。
犬娘もまた、魔力を纏わすのに六年も修行したという。
「遺跡で床を壊したのは魔力を体に纏って筋力を上げたおかげってことか」
「うん……。魔力だけでなく強化魔法も……使った」
「魔法って、あの魔法のこと?」
「魔法は魔法以外にない。魔法には八種類の属性があって、強化魔法は闇魔法の属して…いる」
どんな魔法なのか、まとめるとこんな感じだ。
火魔法。
火と熱量を操る。攻撃性に優れており、純粋な火力なので殲滅戦だと重視される。
魔法職において基本的な攻撃手段。
水魔法。
水と流体を操る。火魔法と同様攻撃性に優れているが主に飲料水の精製など生活面で活躍している。
町や熱帯地では欠かせない。
土魔法。
土や鉱物を操る。全魔法においてMP消費が激しいが物理的な攻撃力と防御力に優れ、罠の設置や建築など活躍の場面が多い。
戦争だと防衛線の要となる。
風魔法。
風と空気を操る。攻撃・防御・索敵・強化など全魔法において応用性が高く極めれば無敵になれるのだが技量が低いと器用貧乏になる。
実用性が高いため、魔法職は必ず習得するのが基本。
雷魔法
雷を操る。全魔法において破壊力が高く、どんな防御もほとんど貫通させてしまう。
しかし、風魔法と比べて応用性が極端に低く、技量が低いと自爆してしまうため上級者向け。
光魔法
光と影を操る。全魔法において最速の攻撃手段と堅牢な拘束力といったスピードとトリッキーな効果をもつ癖の強い魔法。
雷魔法同様上級者向けなので扱いが難しく、下手をすれば攻撃力がほぼゼロである。
闇魔法
肉体と精神を操る。身体による強化や弱体化、さらに洗脳など生物相手に間接的に干渉する。
所謂バフ・デバフで前衛職や呪術師が使用している。
星魔法
時空を操る。空間転移や重力操作などといった代名詞がこれに属している。
レアな魔法なので習得している者は限りなく少ない。
ネット小説でそれなりに魔法のことは知っていたが、現実だといろいろあるんだなぁ。
ちなみに、オークでも魔法が使えるかどうか聞いてみた。
「魔法は術式と詠唱と魔力があれば誰にでも……できる。ただし、魔術系スキルの有無で魔法の効果と性能が……違ってくる」
「どういう風にだ?」
「通常だと使いたい魔法の術式を覚えて理解し、それを発現するための詠唱が必要不可……。でもスキルがあれば術式を覚えるだけで長い詠唱は不要。魔法名を唱えれば大抵発現する。しかも効果が三割増し」
やっぱりスキルが重要のようだ。
そういえば、こいつも魔術スキルが四つもってたな。
「そのスキルってどうすれば身に着けるんだ?」
「魔法の勉強すれば自然と身に着く…こともあるけど、魔術分野は鍛冶と違って才能と適正があるからスキルが身に着くかどうか努力と……運しだい」
魔力をまとわすと同様に、魔力に関してはなにかしらの才能が必要なようだ。
ファンタジー系の映画を見てたから、大体は予想できたけど、やっぱり楽してスキル獲得は無理だなこれ。
魔法の勉強って科学と英語が混ざったような学問ぽいし、難しい授業で寝ちゃう俺には相性が悪すぎる。
しかたがないので魔法はあきらめよう。もしも、俺に魔法が使える才能があったとしても、魔法を覚えることができなければ馬の耳に念仏だ。
魔法のことはひとまず置いとくとして、まずは脱線していた触手モドキに関して話を戻そう。
「もしかしたらこの庭にグリータイガー並みの魔物がいる可能が……ある。いつのまに紛れ込んだのか知らないけど駆除したほうが……いい。植物型の魔物は繁殖能力が高い…放置すればこの町を浸食する恐れ……ある」
「雑草みたいだな。駆除の方法は?」
「根元から断つ。それに限る。……念のためオーズにはどこか隠れていたほうが……いい」
剣を握り締め忠告する犬娘。
心配してくれるのはありがたいが、その申し出はあえて断る。
「悪いけどそれは無理な相談だ。勝手に住む突いたが、もうここは俺の拠点だ。俺の許可なく縄張りに入り込んできたなら、この手でシメるのが家主の務めだからな」
「………わかった。せめて、自分の身は自分で守って。姉でも常に守れるわけでもないから」
「了解」
魔物との戦闘はまだ不慣れだが、ゲーム脳とシャルロットの動きを観察つくしたので仮想戦闘はばっちりだ。
プロもいろことだし、どんな相手でも対処できるだろう。
本音を言えば、あまり強い相手は遠慮したいけど。
ハイスペックぽいが、やっぱ痛いのは勘弁だ。
●●●
襲ってきた触手モドキの大本である魔物は屋敷の裏庭にある花壇にいるらしい。
自家製マップで相手を確認しなら俺たちは警戒して進む。
……その、途中であることを思い出した。
魔物がいる花壇ってたしか、例の石――夢で出会った女性からもらった奴を埋めた場所だったはず……。
「オーグ……どうしたの?」
「いや、なんでもない、なんでもない」
まさか、昨日埋めた石が原因?
振り返らばあの石、なんか魔核に似てたような……。
不安と疑問を抱きながら、花壇ある裏庭へと到着。
昨日は雑草だらけで庭木が手入れされず枝と蔓が伸び放題だった庭は彼は手ていたが一か所だけは違っていた。
花壇の中央で蕾が鎮座している。
桃色の花びらが閉じており、深緑の葉が何十枚も重なり合っている。
さらに下は幾つもの蔓と茎が大樹のように重なり合いその躯体を支えていた。
涸れた庭園に実った美しき蕾。
その存在感は、荒野に咲く一輪の花――咲く直前を奮闘させる。
ぜひとも、満開時の瞬間を見てみたい、そんな衝動と欲求が駆られてしまう。
たとえ、そのサイズがテント一個分の大きさで、何十本ものの触手が取り囲むように地面から生えていたとしてもだ。
「まちがいなく、原因はアレだよな」
「うん、あの蕾が庭の栄養を吸ってる……それで植物が枯れたと思う」
綺麗な花には棘があるというが、なんとなく棘だけじゃないようが気がする。
たとえば、触手とか、触手とか、触手とか。
とりあえず、念のため分析を。
改めて嗅いでみると蕾から良い香りがする。
はちみつのような濃厚な甘い香りがするのに、ミントやレモンみたいな爽や酸味みも感じる。
ずっと嗅いでいたい香りだが相手は魔物だ。どんな手札をもっているのか分からない。
さて、分析の結果は……エラー? 解析不可?
対象が俺よりレベルが高いと、分析速度が遅れるだろうがエラー表示なのは初めて知った。隠蔽系のスキル効果かなにかか?
「まずは小手調べ……」
俺が怪訝していると、シャルロットが一歩前に出て、ゆっくりと剣を抜く。
刀身にうっすらと蛍光らしき紋章が浮かぶ。
おそらくこれが魔法によるエフェクトだろう。
とたん、刀身を包むように風が集まり、刃にとどまる。
「風刃撃!」
そう叫び、剣を投げ捨てる様に上段から振り下ろす。
刀身にとどまっていた風は、斬撃となって飛ぶ。
弧を描く刃に触手たちが反応し、蕾を守るように何本も束になって壁と化す。
ブッシャーン!
飛ぶ斬撃と触手の壁が激突し、風の刃が霧散。
三割の蔓がぐちゃぐちゃに斬り潰され、体液を撒き散らす。
「それが魔法かぁ」
「うん、風魔術の中級魔法…消費が少なく殺傷能力があるから便利」
ついでに武器に付属された属性強化効果で、すこしばかり威力を底上げしているらしい。
鉈を振り回しても切れなさそうな蔓の束を安々と切り裂くとは。
一般人だと、一撃で即死だな。
一方で、犬娘の魔法でバラバラになった蔓だが、すぐさま元道理に戻っていた。
おそらく俺と同じ、再生系のスキルだろう。
つづけて、犬娘が風刃撃を放つが、蔓がすべて防いだ。むろん、蔓も無傷ではないが、五秒足らず元道理に再生してしまう。
「斬ってもダメ…なら爆散させる」
袖から取り出したナイフを取り出し投擲。
ナイフが蔓の根元へと突き刺さった。
「地爆陣……!」
ドッゴォォ!
ナイフが刺さった場所から魔法陣らしき文様が光り広がえると、地雷のように地面が爆発。轟音が炸裂する。
その爆発で蔓が根元から吹き飛び、残り10本となった。
再生スキルがあろうが、あそこまでは破壊されれば、復元は難しいだろう。
「光魔矢…!」
すかさず犬娘が魔法を放つ。今度は光に輝く矢だ。
魔法によって生成された光の矢は全部で約50本。
その50本が連動して、散弾銃のように蕾へと飛来する。
しかし、殺傷能力は低かった。
光速で飛ぶ矢は、分厚い蔓の表面に数本だけ突き刺さる程度の威力しかなかった。
蔓がその身をふるえると、ポタポタと光の矢は地面に落ちた。刺さった部分は瞬時に再生された元道理になった。
なぜ、こんな威力が低いを攻撃を……その理由を後で知った。
「地爆連鎖陣…!」
地面に落ちた光の矢から、魔法陣らしき陣が浮かび上がり、地面が爆発。連続で起こった。
さきほどの爆発と同様な、破壊力。さきほどの矢はフェイクであり、本命が爆破だったのだ。ナイフで先ほどの魔法を使ったのは、おそらくナイフで仕掛ける魔法だと錯覚させるためだろう。魔法の矢でも別種の魔法が発動できることをあの植物は俺と同様に気付いていなかったようだ。
犬娘の爆発魔法によって、巨大花を守っていた蔓はなくなった。
「……身体強化魔法! 身体加速魔法!」
犬娘の身体から淡い光が一瞬溢れ、続けて文様が浮かび上がった。
名前から察して強化系の魔法だろう。
犬娘が地面を蹴りつけ、一息で蕾に肉迫する。
もはや、邪魔な触手はいない。二本の二刀流で、蕾を輪切りにしようと振るう――。
カッキーン!
犬娘の剣が当たる直前、金属音が鳴り響く。
刃は蕾の半ビラを当てることなく、発行する魔法陣の盾によって防がれてしまった。
「ッ!? 魔法障壁!?」
空中で硬直する犬娘。
蕾の先端から黄色い液体がジェットエンジンのように噴出し、犬娘に浴びせ吹き飛ばす。
「シャルロット!?」
「ふ、不覚…!?」
後方へ吹き飛んだ犬娘をギリギリキャッチする。
「オイ! 大丈夫か!」
「傷はない…でも身体がしびれて…動かない」
ステータスで確認すると麻痺状態になっていた。
たぶん、さっきの液体が原因だ。
「バトンタッチだ。次は俺がする」
動けない犬娘を地面に寝かせ、蕾に向き合う。
地面から新たな蔓が出現し、一直線に伸びて、俺の四肢を拘束する。
蔓の動きが速くなってるな。
「オーズ!?」
犬娘が叫ぶ。
心配するな。
犬娘ににやりと笑みを浮かべ、四肢に力を入れる。
二度も同じ轍は踏まない。
今度こそ強化スキルを発動させる。これにより、俺のステーガスが上昇。
初戦とは違い、触手モドキと対抗できるだろう。
だがまだ足りあい。完全に覆る力がまだない。
それに、このまま引っ張り合いをつづけたら、SPポイントがきれそうだ。強化スキルはSP消費がネックなのである。
スキル以外で力を上げる方法は……犬娘が言ってた魔力を巡回させる方法だろう。
オークでもできるかどうか不安だが、そこは前世での漫画・ライトノベルによるイメージで代用だ。
漫画だと、血流の流れを感じながら瞑想する感じで……おっ、なんか魔力ぽい感じがした。
俺の表面にオーラらしきエネルギーが漏れ出し、体中を包み込む。
うしろで、「この短時間で魔力を纏う技術を……オーズ、すごい子」と犬娘が驚いていた。
反応からして、これが魔力を纏うことか。わりとできるもんだな。
おかげで、筋力が底上げされ、パワーは十分だ。
なにか危険を感知したのか、触手が強く引き締めて、蕾のほうへ引き寄せようとする。が、もう手遅れだ。
綱引きではデブの得意分野だ。
なにより、犬娘の魔法で地面が柔らかくなったので、芋ほりの感覚で引っ張れば、根っこから引っこ抜けそうだ。
ということで。
「よっこら――セイァァァアアアアアアアア!!」
ありったけの力を込めて蔓を引っ張り上げる。
一瞬だけ、抵抗感があったものの、柔らかくなった地面では踏ん張りはできず、根っこごと蕾を空中へと投げ飛ばす。
「きゃあああああああああああああああ!?!?!?」
ん?
少女の悲鳴?
突然、空中から響いた謎の少女の叫び声。
蕾が地面に落下すると同時に、「はうっ!?」という間抜けな声が聞こえた。
音源は蕾のほうであった。
……もしや。
俺は不用意に蕾に近づく。
テントほどもある蕾は落下の衝撃でばらけてしまい、中身が丸見えになった。
蕾の中に隠れていたのは――。
「きゅぅぅぅぅぅ……!?」
少女らしき上半身が蕾から漏れ出し、眼を回して気絶していた。
……誰、こいつ?




