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10 日記と海賊と騎士とワイバーン


――『今日も波が穏やかで、カモが見当たらない平凡な日々。おかげで俺たちドレットノート海賊団は今日もまた暇を持て余していた。退屈で死にそうになる』


――『久々に港の酒場で飲んでいたら、面白い情報が手に入った。なんでも西大陸の王国から帝国に友好の証としてお宝が献上されるらしい。こいつは海賊として見逃せない』


――『裏の確認は取れた。お宝は帝国屈指の戦艦に西大陸から運ばれるという。あの東大陸最強の帝国の戦艦が相手か…歯ごたえがありそうだ。念ため、もっと情報を集めておこう』


――『俺たちが動いているのが帝国にバレた。お宝を運ぶため艦隊が編成された。一団体に用心深いことだ。まぁ、なにせドレットノート海賊団が相手だ。それだけの戦力は必要だろう。むしろ略奪甲斐がある』


――『俺の頭脳と武芸、そして優秀な部下たちの活躍により、艦隊の半分は沈み、見事お宝を頂戴した。残りの艦がお宝を取り戻そうと必死になるが、俺の航海技術の前に手も足も出せず、俺たちはその場からクールに立ち去った』


 何気に自画自賛に書かれているが、怪獣と真っ向から立ち向かって倒すほどの猛者たちだ。

 自称でなくこの海賊たちは相当な実力者ぞろいだったのかもしれない。


――『俺たち海賊団は見事に貨物船を略奪した。しかし、突然の嵐が起き、船が沈没。リーベルク大樹海の南方面に流されてしまった』


――『三大大陸においてもっとも危険地とされている地帯。大事な船と半数の部下たちを失った。もはや海賊稼業を畳むしかないだろう』


――『悩んだ末、海賊を廃業して盗賊に転職することにした。生き残った部下たちも賛同してくれた。今日からこの大樹海が俺たちの新たな海だ。海賊稼業を廃業したが海賊としての誇りは捨ててない。この緑色の大海を統べるため、過去の偉業を胸にこの樹海を生き抜く』


なるほど。海賊じゃなくて元海賊だったか。

どうして海賊がこんな陸地にいたのかようやくわかった。


――『諸点となる場所を探索中、大荷物を護送してる騎士団を発見した。エンブレムからして南東の王家だった。護衛しているのは王国の精鋭騎士だろうが、大樹海で最初の得物だ。腕が鳴る』


――『精鋭騎士団らしくしぶとかったが、俺たちの敵でなかった。一人残してほかは皆殺し。護送していた宝物類っをすべて強奪したやった』


 あっ、護衛がやられた。

 騎士たちの実力は想像できないが、相手が怪獣とワイバーンの軍団と渡り合えた元海賊団だから分が悪いのは当然か。

 しかし、なぜ一人だけ生かしているんだ?

 気になるので続きを読んでみる。


――『生き残った騎士を捕虜にすることにした。そいつは15に満たないガキだった。俺はこいつを青年騎士と呼ぶことにした。久々の少年だ。夜が待ち遠しい』


 えっ、まってキャプテン。

 その意味ありげな言い方はなんだ?

 嫌な予想がするんだが?


――『深夜、青年騎士は快楽に溺れ、びくびくしながら痙攣しながら俺の横で呆けている。その顔だけでパン三個はいける』


 ぎゃぁぁぁあああああ!? 

 青年騎士がキャプテンに食べられた!

 性的に!

 というかキャプテンそっち系!?


――『太ももを触るとびっくと反応し、耳たぶを甘噛みすれば喘ぎを漏らす。すこしばかり穴に指を入れると悲鳴を上げ、さらに指をこねると涙を流して殺してくれと懇願する青年騎士。生まれながらの受けのようだ。感じてるのに強情に否定するところに嗜虐心がそそられる』


 やめろぉぉぉおお!

 リアルに描写するな!

 薔薇の園を想像してしまうだろ! 

 というか他の文章と比べて生き生きしてないかキャプテン!


「オーズ、この人、騎士になにをした…? ひどいこと…?」

「無理だ。俺の口からは言えない…!?」


 シャルロットは日誌の内容を理解してなかった。

 このまっまピュアでいてほしい。

 俺は恐る恐る、続きを読む。


――『今夜も青年騎士を可愛がろうと彼のもとへ行くと、部下どもが俺の青年騎士を手を出しやがっていた』


 青年騎士ぃぃいいいいいい!!

 まさかキャプテンだけでなくその部下たちまで穢されたのか!

 ってか、部下も同じ性癖!?


――『部下たちは俺が青年騎士ばかり愛でるのに嫉妬してたらしい。青年騎士はあいつらに滅茶苦茶にされとんでもない顔になっていた。信頼していた部下に裏切られたことにショックだが、なぜかゾクゾクしてしまう』 


 おまえらそういう関係なの!? 

 リーダーと部下の関係でなく、ゲイで構成された海賊だったの!

 あと、NTR(寝取られ)で興奮すんなキャプテン!

 もう、やだ。この日記閉じたい。

 だが、シャルロットは青年騎士とキャプテンを純粋に心配して、ページを捲ってと言ってくる。

 腐った眼ではなく純粋な瞳でみつめられたため、俺は嫌々読む。


――『青年騎士と野郎どもは疲れて眠った。朝日がまぶしいぜ』


「朝チュンかこの野郎ぉぉおおおおお!!」


 たまらず、日記を地面に叩きつける。

 愛人(男)を部下たちに寝取られたのに、全員まとめてイカせまくったよ、この絶倫ゲイキャプテン!

 まともな思考回路を持った海賊はいないのか!


「青年騎士…海賊たちと仲直りできた…?」

「あぁ、できたぞ。キャプテンの器量のおかげで…!」


 全員、穴兄弟になったんだからな。

 青年騎士の貞操は犠牲になったが。

 床に叩きつけた日記をシャルロットが拾う。


「オーズ、この日記、ここで何が起きたのか書いてるかもしれない…情報のために読んだほうが…いい」

「えぇー。俺、もう読みたくないんだが…」

「…そう、なら、私が代わりに――」

「貸せ、最後まで俺が読む」


 シャルロットから日記を取り上げる。

 この日記で、こいつが変に目覚めるのは避けたい。

 ヤバそうな文章を飛ばしつつ、重要そうな要約してみると、大量の宝と青年騎士を手に入れた海賊たちは、苦境の末この廃墟を見つけだしたようだ。

 彼らの中に建造物や歴史学に詳しいものがおり、この廃墟が東大陸で都市伝説とされていた帝国(冒頭に出ていた国らしい)の先々代国王が密かに作り上げた幻の別荘地だということが判明する(規模が町並みだが王様感覚でこれが別荘なのか?)。

 誰も発見されなかった秘密の廃墟と遺跡の地下に隠されていた財宝を発見した元海賊はここを根城に盗賊稼業を開始することにした。

 大樹海を横断する運搬業者や熟練冒険者を襲撃し、金品強奪や棒鋼など数々の悪行三昧に精を出した。

 むろん、何度も討伐隊が森に派遣されたが、樹海を熟知した元海賊たちを捕まえることはできず、彼らはいつしか神出鬼没の盗賊として有名になりさらに恐れられるようなった。


 ただ、彼らは大樹海で有名なるまでに苦労はあった。樹海での暮らしは優しくなく、慣れない土地に獰猛な魔獣、拠点の運用など精神的に肉体的にも過酷なものだった。しかし、海の上で生活していたおかげで環境の適応が速く、また、原住民(ここだけ特徴らしき部分が消されていた)の慈悲のおかげでわりと楽しく暮らしていたらしい。

 海賊に捕虜にされた青年騎士も、海賊たちに感化されたのか最初に比べて丸くなり、彼らと共に生活し、元海賊たちから戦闘技術や航海技術、交渉術など海賊団がもつ技術と知恵を伝授。口では反抗的な態度だが心は開いていると日記ではそう書かれていた。

 そりゃ、何度も凌辱なことされれば堕ちるわ。エロゲーのヒロインみたいに。中身はBLだけど。

 昼は愉快に強盗、夜では愛する人とお楽しみながら盗賊稼業を謳歌して元海賊たち。

 だが、その栄光は盗賊稼業を始めてわずか二年で終わりを告げた。

 隠されていた財宝と簒奪した宝が金庫に入りきれなくなったころ、この廃墟に数匹のワイバーンが襲撃してきたのだ。この時、部下数名が重傷になるもなんとかワイバーンを撃退に成功する。その後、宴をやったらしいのだが、日誌の執筆者であるキャプテンはこのとき疑問を抱いていた。

 そもそもワイバーンは獰猛な魔物であるが、手を出さなければ襲ってこない生き物。しかし、襲撃してきたワイバーンたちは敵意を向きだして元海賊たちを一直線に襲ってきた。

 その証拠に一週間に一度のペースでワイバーンの襲撃が起こり続け、時間と共に襲撃してくる期間が短くなってきた。

 海賊たちはこの異常なワイバーンたちの襲撃に怯え、樹海から撤退して別の土地に移り住むことを考え始めたがこの土地に愛着を抱き、さらにこの廃墟を住むことを賛同してくれた原住民の義理と彼らからワイバーンの脅威を守るため、防衛を選択。それに伴い、ワイバーンが襲撃の原因を探し始めた。

 そして、原因が彼らが強奪した宝にあったことを突き止める。

 宝のひとつに巧妙に隠した卵――ワイバーンの卵があったのだ。

 魔物とくに龍種は同胞を害するものを許さない。ましてやワイバーンの卵が盗まれれば、同族全員で血眼になって探し出し、盗人らしきものは全員皆殺しにする。関係者じゃなくとも、盗まれた卵が傍にいれば同罪。問答問わず平等に殺し尽くす。


 はた迷惑な生物だが、これが龍種の性質だからしかたない、と横のシャルロットが言う。

 ふむ、この廃墟に樹海で珍しいワイバーンが大量に死んでいるのか、その真相が見えてきたかも。


 日記では、何故、宝の中にワイバーンの卵が隠されていたのか元海賊たちは頭を悩ますが、もはや手遅れだということは理解できていたようだ。

 なにせ、相手が言葉が通じないワイバーンだ。

 素直に卵を返そうが、誤解を解こうが、人の事情なんて知らない怪獣(ワイバーン)が納得すわけがない。

 それどころか、これまで数十体のワイバーンをキャプテンたちは殺している。

 こうなると本隊――大統領グレート・マザー・ワイバーンが本腰を上げて襲撃してくるのは時間の問題とキャプテンは指摘していた。

 伝説級のワイバーンが攻めてくることに、キャプテンは決意した。

 無残に殺されるなら、戦って蜥蜴もろとも地獄に落ちてやる、と。

 海と陸に畏怖された誇り高き無法者。そのプライドを貫くため、逃げる選択はしなかった。

 部下たちも賛同し覚悟を決め、ワイバーンたちとの決戦を準備する。

 ただし、ひとりだけは別行動だった。

 青年騎士である。

 彼もまた、騎士の誇りにかけてワイバーンと戦うことを意気込んでいたが、キャプテンからもしも自分たちが負けて国にも被害が出るかもしれないためグレート・マザー・ワイバーンの軍勢が大樹海に侵攻していると国に伝えて来いという無茶な命令で拠点から追い出されてしまった。

 はっきりいって、青年騎士を戦わせないためのキャプテンの方便と配慮だということが俺にはわかる。

 ワイバーンは卵を盗んだ奴は絶対に殺すのだが、あくまで盗まれた卵の付近にいる人だけだ。卵がない場所を襲う確率は限りなく低い。そして、青年騎士がこの危険地帯である樹海をなんとか抜け出し祖国に帰還しても二年近く消息不明だった彼の話を国のトップが聞く耳を持つか不明だ。むしろ、精神病院に送られるのがオチだろう。

 それでも伝説級の魔物とその軍勢で確実に死ぬより、こちらのほうが生存率は高い。

 日誌にも青年騎士を無理やり追い出したことに、心を痛めていたことが書かれている。

 キャプテンにとって青年騎士はそれほど大切な人だったようだ。

 

 最後の日付では文章が少々汚く、血らしき血痕があった。グレート・マザー・ワイバーンが襲撃した途中でも書かれていたのだろう。

 しかし、その文字に死にゆくにものたちの儚げな生気は感じず、むしろ、力強く生気にあふれた執筆でキャプテンの最後の言葉がつづられていた。


――『俺たちは海賊だ。散々、他人に迷惑かけて生きてきた。今更な地獄に行くことに恐怖はない。後悔もない。死ぬ覚悟もしている。ただ、アイツ…青年騎士がその後どうなったのか心残りだ。大樹海は生半可な実力者では生きられないがアイツは俺たちが鍛えた男だ。必ず生きて国に帰国してるはず。だからもしも、この日誌を読んでる者がいるならば、あるうわさを流してほしい。――ドレットノート海賊団はリーベルク大樹海で誇りを抱いて眠ってると。そうすれば青年騎士の耳に届くかもしれない。アイツはなんだかんだで責任感が強い騎士だ。自分だけ生き残ったことに後悔してるかもしれない。ならば、せめて俺たちが勇敢に死んだことを知らせておきたい。それだけでアイツは安心してくれるはずだ。海賊と騎士。相反する存在だが、俺たちは青年騎士を仲間だと思ってる。たとえ、あいつは俺たちとの関係を否定しようが、あいつとの時間と思い出はけっして消えない宝だ。この地に屍を曝そうが、風化され忘れられようが、この地こそ俺たちの宝が眠っている。だからどうか、俺たちの生き様と宝の在りかをあいつの耳に届けてくれ。頼む。――ドレットノート海賊団船長デリトル・ドレットノート』


 …………。

 俺はゆっくりと日記を閉じる。

 こういう頼み方は嫌いなんだが…。


「……シャルロット」

「…なに?」

「海賊たちの供養、手伝ってくれるか?」

「…うん」


 こくりと、シャルロットが頷く。

 海賊たちの生きざまに感銘に受けて、ぜひとも供養したいという気持ちが見えてわかる。


 悪行三昧に生き、最後に男を見せた海賊たち。

 そんな彼らのために墓を作るくらい神様も許してくれるだろう。


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