プロローグ 転生するなら人外転生
――て……おき…さい…
――おきて…ください…
誰かに体を揺すられている感触がした。
眠気で意識が朦朧とする中、舌足らずな声が掠れて聞こてくる。声質からして少女のものだろう。
なんで学校に子供が?とかそんな野暮なことは考えない。
俺はたしか授業中、睡魔に負けてしまいガツンと寝てたはず。
だとすればこれが夢か。高校の校舎で少女が俺を起こそうとするはありえない。どこのギャルゲーだ。
ゲームの主人公ならここで起きてなぞの女神や美少女の頼みや予言を聞く場面だろうが、俺にそんな甲斐性はないし、主人公みたく自らトラブルの渦中に飛び込んでいくフラグなぞ願い下げだ。
ここはあえて狸寝入りするの得策だろう。夢の中で寝ようとするアレだが、これはこれで寝つきが良い。さすが俺の夢の中。いい夢が見れそうだ。
「夢ではありませ~ん! 大事な話があるので起きてくださ~い! お願いですから~!!」
目覚ましコールが泣き叫びモードになった。
同時に体を揺する力も段々強くなってきている。
さすがに子供の泣き声を無視続けるのも無理だな。良心が痛くなる。
俺は嫌々、目を開け絨毯に倒れ伏した体を起こす。
…ん? 絨毯? 机の上じゃない?
俺が怪訝していると視界に一人の少女が映った。
「あぁ、やっと起きてくれました…」
少女は安堵の息を吐き、胸を撫で下ろした。
身長から推測して年齢は小学生上がりの中学生一年だろう。長い髪を後ろに束ねてシニヨンヘアーにしたクリーム色の髪に琥珀色の瞳、服の上からでもわかるくらい小柄で細く、それでいて健康体とばかりの健康そうな肌色。その肢体を包むのは真っ白なカッターシャツに黒ズボン、そしてタータン・チェックの茶色いベスト。まるで無理やり背伸びしたようなゴシック的な美少女だ。
数少ない友人であるオタク眼鏡が見たら「バリスタ系ロリでござる~!」と叫ぶほど可愛さだ。
少女から視線を周りに移すと、そこは見知られた学校の教室ではなかった。
辞書のような分厚い本を綺麗に並べられた薄汚れた本棚。高級そうな軟らかな赤い絨毯に大理石のような暖炉。
少女の背後には年季が入った執務卓とコートが掛けられたインテリアがあり、片隅に置かれたスタンドが部屋を鈍く照らし、レトロな雰囲気を醸し出させていた。
スーツと葉巻が似合うダンディーなおじ様が仕事をしていそうな風味のある書斎室。
眼前のゴシック少女と合わせると実にミスマッチして愛らしさが倍増だ。
前もって言うが、俺はロリコンではない。ここ重要。
さて、少女の審査は一旦終了して、今の状況を確認する。
この部屋には俺と目の前の少女しかいない。右横に閉じられた扉はあるも、窓というものがひとつもない完全な密室。まるで殺人事件が起こりそうだが、別にそいうフラグが立ってほしいとかひとつも思っていない。
事情を説明してくれそうな大人の人がいてほしいところだが、あいにくこの部屋に来る様子も気配もない。
というと少女が今にも会話しそうな目でこっちを見つめていた。
放置すぎたか。
このまま考えてもらちが明かないしこの際少女に説明を求めることにしよう。自分から会話するのは苦手なのだが…。
「えーと、何処ここ? あと誰?」
いつも通りおどおどと質問すると少女はにっこりと微笑んで言う。
「はじめまして岡崎麟之助さん。ここは私の仕事部屋で、私は宇宙の女神。神様をやっている者です」
と、丁寧口調で自己紹介をした。
…ふむ。
「……なるほど夢か」
さて、もうひと眠り――。
「二度寝しないでくださ~い!?」
軟らかそうな絨毯に寝転がろうとすると少女が俺の胴体へ抱きついてきた。
しかし、体格差がこちらが有利なので、俺は少女に抱き着かれたまま絨毯を下にして横になる。
絵面的に俺と少女が体を密着した状態で絨毯の上で寝ている感じになる。ロリコンが見たら嫉妬されそうだが意図的に少女を抱き枕してない分セーフなはずだ。
「お願いですから話を聞いてえくださ~い! もう転生していないのはあなただけなんですよ~!」
泣きながら強く抱きしめてくる少女。集めのベストを着ているはずなのに、ときよりコリコリした感触が胴体に当たる。
たぶん、ベストかスーツのボタンが当たっているんだろう。そうだ。そうに決まっている。
それよりもこの絨毯、触り心地がいいな。寝心地が良くってすぐに眠れそう――
「――ん? 転生?」
「はい、転生です。ネット小説でよくやるジャンルの。死んで異世界に生まれ変わって『チートだ! ハーレムだ! ヤッホー!』するあの転生です」
気になる単語が出てきたので俺は抱き着く少女のほうへ振り向く。
少女は目尻に涙を浮かべながら淡々と説明した。その姿にちょっと被虐心がそそられそうになるが、理性を総動員させて内側に押し詰めておく。
「誰が転生する?」
「貴方です」
ビシッと少女が俺に指をさした。
彼女が言う転生という言葉の意味に心当たりがある。
現代社会で死んだ主人公が神様によってファンタジーな世界に飛ばされて、危険な魔物や敵と戦ったり、国のトラブルに巻き込まれたり、最後にはハーレムofバットエンドを迎えるというストーリー。
俺もそいうジャンルのライトノベルやネット小説は今でもよく読んでいるから知っている。
この状況から察するに、俺はその主人公みたく死んで、異世界に転生させられるってことなのか?
――よし。
「寝よっと」
「寝ないでくださ~いッ!?」
現実逃避するも少女の必死な努力により阻止されてしまった。
まぁ、さすがに小さい子を泣か続けるのは男としてダメだろうし、俺も寝ている間にないがあったのか知りたいから彼女から事情を聞くことにした。
「実はですね……」
説明を聞くこと数十分。
彼女の長い説明を簡潔にまとめるとこうだ。
目の前の美少女が宇宙の女神であり宇宙の運行――簡潔にいえば惑星や隕石の軌道の操作・管理が仕事。
女神の管理ミスで都市一つ分消滅していまいそうな巨大な隕石が地球へ落下。
隕石が地球圏内に入ったため重力の影響により隕石を操ることができずアメリカの首都に衝突寸前に。
女神はとっさの判断で近くにあった軍事衛星数基をハッキングし隕石と衝突させて破壊。
隕石は数基の軍事衛星もろともバラバラになり首都消滅は回避されハッピーエンド――とはいかず。
代わりに隕石の一部分だけが日本へと落下。
隕石の欠片がちょうど学校の教室に激突。
隕石衝突で俺を含めたクラスメイトたち(+教師)が死亡。
死なせてしまった謝罪として別の世界へ転生させて新しい人生を与えるという。
とまぁ、俺が寝ている間にB級映画のような事件が起こっていた模様。
映画化されても内容がテンプレすぎて面白くなさそうだ。
「わりと余裕ですね。ほとんどの人は唖然したり困惑したり、私に責めたりしたのに」
「だって俺、寝ていたし」
寝ている間に隕石が落ちてくるなど男子高校生には想像できない。仮に気付いたとしてもマッハで落下してくる物体から逃げれるわけがない。ただでさえ、こっちは走るのが苦手だ。
むしろ寝ていたことが幸いだったかもしれない。
痛みに苦しみながら悶えて死ぬは地獄だ。
ならば俺はツイてるほうか。なんの苦しみも恐怖もなく死というのを自覚せず死んだんだから。
「ここで喚いても生き返るわけじゃないし。新しく人生やり直せるならそっちのほうに目を向けたほうが気持ち的に楽だろう?」
「神経が太いのか鈍いか分からない人ですね、貴方って」
「ネガティブが続かないだけだ」
ぶっちゃけると脳の処理が追い付いてないのもあるのだが、開き直ったほうが気分が楽だ。
嫌なことを忘れることは人間だけの特権だ。
過去を振り返らず、未来を見据えよう!
なにせ俺たちには新たな世界があるんだから!
……あっ、でも童貞のまま死んだのは思春期の男子高校生として辛いかも。
「ところであのオタク眼鏡――俺以外のやつらは全員転生したのか?」
「ハイ! 岡崎さん以外の、教師含め二十四名は私たちが管理している内の世界、いわゆる異世界へ転生させていただきました!」
ちなみに、なぜ俺が最後の転生することになったのかというと、彼女が死んだ奴らに死因と転生の説明している間、俺はずっと寝ていたらしく、結局、俺は放置されたまま全員は転生したらしい。
くっ、まさかコミュ障でクラス全員との仲を築こうとしなかったことが裏目に出るとは!?
せめて一人くらい親切に起こしてくれてもいいじゃいのかッ!?
主に数少ない親友たちよ!
「あの~、彼らの名誉のために言っておきますが、何名かが貴方を起こそうとしましたよ。ですが、どうやっても起きなかったのでしかたなく、そのまま放置という形で…」
ごめん。俺、寝付けが良すぎて。
一度寝ると梃子でも起きません。むしろ隕石が落ちてきても起きないってある意味才能じゃないだろうか。たぶん、あいつらもそう悟ってあえて起こすのを諦めたのかもしれない。
異世界でもし出会えたら謝っておこう。
「念のために聞くけど、その世界はどんな世界?」
「剣と魔法のファンタジー系の世界です。定番のように世界の危機にさらされています」
いやいや、その定番は必要ないッ。
命の危機がさらされている場所に転生させるってあんたは鬼畜か!?
「あのさー、俺が転生する先、もっと平和で平凡なほのぼの系な世界にするのはできない?」
「残念ながら、ほかの世界は予約がいっぱいで空いている世界はそこしかないんです…」
予約制って…神様の仕事は旅行会社的な業務なのだろうか。
怪訝する俺に、少女が契約を推し進めるセールスマンような勢いで迫った。
「ですが、ご安心してください! そんな殺伐とした世界でも生きられるよう、こちらもちゃんと考えています」
「それって、転生モノよろしく特典チートが、ついてるの?」
「いえ、そこまでサービスする予算がありませんので特典チートはついてません」
「え? 予算の都合とかあるの…!?」
「もちろんです! こっちだって無料でやってるわけじゃありません! ただでさえ一人転生するにいたってどれほどのお金と労働がかかることか……」
宇宙の神――面倒だから宇宙娘でいいか。宇宙娘は顔を俯いてブツブツと呟く。
小説とは違いリアルでの転生はいろいろと問題があるようだ。
金銭面で。
「あっ、問題といえば俺や被害者の家族らはどうなるんだ? 死んでいろいろと迷惑をかけたと思うんだけど」
「そ、それについてこちらが手をまわしますのでご心配なく。おもにカウンセリングと幸運で支えていく所存です」
幸運はともかく、神がどうやって被害者家族にカウンセリングするんだ、と、ツッコミたいが質問するだけ野暮だとおもった。だって、この子、一様神様だし。神様展開でなんとかできるはずだろうな。勝手な想像だけど。
まぁ、いろいろと迷惑かけた親不孝な息子だが、せめて残りの人生幸せになってほしいと願いたい。自分勝手だが、せめてめこれだけは許してほしい。
だって、死んだ俺にできることはこれしかないんだから。
「家族の心配は解消されたので、話を戻しますよ。えーとですねどこから話していましたっけ?」
「殺伐として世界でも生きられる理由」
「そうでしたそうでした! 実はですねぇ、私たちからの特典チートがない代わりとして転生する種族が選べるんですよ」
「種族が選べる?」
俺が首をかしげると、宇宙娘が手を横へスライドすると空中にディスプレイが出現した。
ディスプレイには普通の人間から獣耳が生えた人間、肉食動物に似た怪物から妖艶な悪魔まで、数多くのイラストとゲームのようなステータスなどがずらりと表示されてる。
「本来、転生というのはランダム制でどの生き物に転生するかは運しだいなのでが、今回は転生先を指定できるようにしました」
「ふーん。ラノベだと大抵は主人公か神様とかが選んでいたけど現実は違うのか」
「あるにはありますけど、その事例はよほど地位が高く暇を持て余している神くらいがやってるだけです。私どちからといえば中間管理職的なようなものなので、そんな余裕も権限もありません。会社でいえば社畜扱いです」
えっへん、と平らな胸を張る宇宙娘だが、俺には自虐にしか聞こえない。
こんないい部屋を持ってるの社畜なのかこの娘。
よく見れば、机の後ろに栄養ドリンクと缶コーヒーの箱が六箱づつ積まれて置かれていた。
これから修羅場という名のデスマーチに挑む宇宙娘の未来が脳裏に浮かぶ。
「…ご苦労様です」
「哀れんだ眼で同情しないでください! 私、あなたを転生させた後、事故処理の報告とアルプス山脈みたいな大量の始末書を書かないといけないんです! 同情されると辛いんです! 主にハートと胃に……!?」
それはしかたがない。
ただえさえ凡ミスで地球に隕石落としかけた挙句、軍事衛星をハッキングして、さらに俺たちを死なせたんだから。
今更だが、軍事衛星を勝手にハッキングして軍事問題が起きないだいろうか。
もう自業自得だよ、と言いかけそうになったがとっさに口を閉じる。改めて考えなおせば、彼女もなりに最善を尽くした結果だ。これ以上責めるのは酷だろうし、女の子を泣かすほど俺は鬼畜ではない。
なので胃薬はないけど、ハンチがあったからこれで涙を拭いてくれ。見てるだけで罪悪感でこっちが苦しくなる。
「うぅ、ありがとうございます」
ハンカチを受け取り涙をふき取る宇宙娘。
今気づいたのだが、コミュ障の俺がこうもスラスラと相手と会話できていたことに内心驚く。
普段なら、対人になると大抵会話が続かず、その場から逃げ出したくなるのに。
もしかして対人ではなく対神だからか?
「ふぅ、説明を続けますね。貴方が転生する世界は大きく分けて人間と人外がいます。その際、能力――スキル構成が変わってきます。このデータにはその世界の種族をラインアップしましたので、この中から好きな種族を選んでいただき、その種族に転生してもらう。これが私たちができる数少ないサポートです。あと、性別は選択できますが、なかには性別が固定された種族や無性器、両性具有がいますので注意してくださいね」
「それは……大事なことだな」
転生して蚊だったら人生詰む。
もしも男の記憶を持ったまま女に生まれ変わった日には……考えただけで羞恥心で死ねる。今は死人だけど。
「さて、どれに転生するか…」
普通に考えれば人間を選択するのが無難だろが、流して読んでみたら能力値が全種族で中の中に位置していた。スキルもデフォルトされている者たちと違いすべてランダム制もしくは血統の関係に左右され習得できるかどうか不明だ。
さらにいえば、ファンタジー系の世界ということだからおそらく時代は中世時代もしくは戦国時代のような背景だと考えられる。もしも想像通りなら社会問題や貴族制度とかいろいろと面倒なイベントがあるはずだ。
そんなギスギスした社会に現代っ子、ましてやコミュ症な俺が生きていけるなど到底思えない。ストレスが溜まって死んでしまう。
だとすれ、人間社会の外の住民――人外が適任だろう。
最近は人外転生や無機物転生とかの小説が有名だし、人と関わらないならこっちのほうがいいかもしれない。
ディスプレイを操作して自分にあった種族を選んでいると、ふと目につくものがあった。
ふむ、この能力値とデフォルトのスキル構成は……アリだな。
「あのさー、これに転生できる?」
「…これ、オークですよね?」
横からディスプレイを覗いた宇宙娘が呟く。
俺が指をさしているのはどこか豚に似ているこわ顔の人外――オーク。
アニメやラノベとかでゴブリンと並ぶ名脇役の敵キャラだ。
「データに記入されたものなので可能です。サキュバスや魔物などに転生した方もいましたし」
へー、人外転生した奴もいたんだ。
もしかしたら、オタク眼鏡も人外転生したのかもしれない。
あいつは俺と違って筋金入りのオタクだからそいうジャンルはすでにご存じのはずだ。
性格と性癖を考慮して、合法的にロリと戯れるできるそうなペット類、あるいは戦闘系美少女の持ち物になれそうな武具系に転生してそうだ。
……変な言語で喋る動物と道具に出会ったら用心しとこう。
「でも、オークですよ。不細工で臭くてゴブリンの次に転生したくない女性受けがしない種族ですよ。ただでさえ、あちらの世界の住民のほとんどがオークを毛嫌いしていますし…はっ、もしやエロ同人みたいく女騎士を捕まえて破廉恥なことを!?」
「しない、しない」
美少女が醜いオークやゴブリンなんかに強姦されてアヘするエロ漫画を愛読しているが、そのためだけにオークに転生するなど一ミリも考えてはいない。
それ以前に、女を襲う度胸は俺にはない。リアルで強そうな女性に喧嘩売るなど命を捨てるようなもんだ。
男尊女卑?
ガチで殺しに掛かってくる女性には通じない言葉だ。
「もしもサバイバル的な環境だったら人より人外のほうが生き残れそうだろ? この能力値とスキル構成なら凶暴な獣とか襲われても返り討ちできそうだし」
「それでしたらこちらの獣人や亜人でもいいのでは? 偏見者を除いて人々からの好感度が高く、初期設定で便利なスキルが揃えていますよ」
「たしかにそっちにも興味が注がれるけど、悪いけどパスだ。優秀だとそれに甘えて頼ってくるバカがいそうだし。……なにより、俺、あんまし人と関わりたくないから」
人から嫌われているのはむしろ好都合。
俺はひとり静かに暮らしたい。
深い森のペンションで野生動物を狩り、自分だけの畑を耕して悠々自適な時間を過ごす。
そういう生活に俺は憧れていた。
「人間以上の力持ちで適応能力が高いやつにすれば厳しい異世界でのんびりスローライフができる。その条件に合ったのがオークってわけ」
「なるほどー、ちゃんと考えているのですね」
「あぁ。あと理由をもう一つ上げると、親近感がわいた。主に容姿に」
そういって自分の腹をポンと叩く。
俺の体型は長身でがっちりしているが立派な肥満体。健康診断で中肥満と診断された。腹だって相撲取り並みに膨れ出ている。
顔のほうは痩せればカッコいいのにといわれたこともあったが、俺から言わせば中途半端な印象だ。
むしろ、普通のイケメンより見事なブサ面のほうが個性が高く、強い印象がもてるだろう。それが人気者になる秘訣だと俺はそう結論している。
イケメン俳優より、不細工な芸人!
面食い女性にはわからないのです!
と、自分勝手な理論を唱えたところでコミュ症で人付き合いが悪い俺には関係ないことだ。
ボッチで生活するんだから顔の良し悪しに重要性はないし。
「美的感覚が独特というか物好きだというか…変わっていますね」
「よく言われる。ちなみに性別は男性で頼む」
「了解です。というかオークは雄しかいないので問題ありません。あと異世界での言葉とかは転生した瞬間に自動で習得しますので日本語のようにふつうに会話が可能です」
そいつはありがたい。
異世界転生てご都合主義で言葉がペラペラの喋れるタイプか、異世界っで一から学ぶタイプに別れるから、初めから異世界の言葉と翻訳ができるのは安心できる。
俺は英語が理解できない人間なので、日本語以外の言葉を一から学ぶのは絶対に無理だ。
「心の準備はよろしいですね? では、私こと宇宙の女神が貴方をオークに転生させます!」
そう言って宇宙娘が元気よく返事をして―――ちょい、まてまて。
その垂れ下がっていた赤い縄はなんだ!?
まるで引っ張たら仕掛けが発動しそうな雰囲気がするんだけど!?
「えいッ」
パッカ。
幼女が可愛く縄を下へ引っ張った瞬間、俺の視線が下がった。
つまりあれだ。俺の足元に穴が開いてそのまま重力に従って――
「嘘ォォオオオオ!?」
底なしの穴へ落下する俺は彼が引き裂くほど絶叫した。
生まれた初めてあんな大声をだしたのはこの瞬間だけだろう。
そんな俺を見下ろす宇宙娘こと女神様は「ではでは、素敵で楽しい異世界ライフを~」と陽気に笑みを浮かべて手を振っていた。
こうして俺――岡崎麟之助は異世界へと転生することとなった。