~突破~
暗雲の中が光った事に気付いた時には遅かった
私達は決して油断していたわけではない
ほんの僅かな時間、あの世界に気を取られていた時間
暗雲から黒い波動が放たれていた
とてつもない魔力…
でも天界には神様の結界が…
しかし波動は結界をいとも簡単に突き破りこちらに迫ってくる
そんな…あんな簡単に結界を破れる魔力を持つ奴がいるなんて…
予期せぬ出来事の連続でリエルは反応が遅れている
波動の衝撃波で私達のいる地面が砕けていく
足を取られてしまったリエルはさらに反応が遅れる
とっさにバリアを張ろうとしたが恐らく間に合わない
「クッ!バリアが間に合わ…」
「リエルーーッ!!!」
気付けば私はリエルの前に飛び出していた
波動が私の身体にぶつかり、身体が黒い光に包まれる
その直後、今まで感じた事のない痛みが襲ってきた
あれ?これってヤバくない?自分自身の危機に対し、私は本能的に治癒魔法をかけていた
しかし光が身体を壊す力の方が強い
言うなれば死ぬ前の時間稼ぎにしかなっていないレベルだ
「バカが!どうして私をかばう!?どうして飛び込んできた!?」
リエルが私の前にしゃがみ込んで怒鳴りつけてきた
「うぅ…大天使長がやられたら…天界がさらに混乱するでしょ…?あなたの代わ…りはいない…のよ」
ヤバいこれは真剣にヤバい
喋るだけで身体中がとんでもなく痛い
その瞬間リエルは魔力を一瞬で溜めて私に放った
魔力玉よりも強く優しい魔力だ
黒い光を消すための浄化魔法だろう
しかし私を蝕む光は消える事はなかった
「黒き光が消えぬだと…!?」
「う…!くっ…」
痛みの中、新たな魔力を感じる
兄貴は気付いてるかな
ちょっと抜けてるところあるから伝えてあげないと
「リエル聞いて!!気づいてる!?あの暗雲の…中に新しい…魔力が作られ始めてる!あなたは私よりも…あの魔力をなんとか…して天界を守る事に集中して…」
リエルは真剣な表情で私を見ている
新しい魔力には気付いてたのね
それなら…
「あなた…は天使達の長…私たちの…天界を神様を守るためになくてはならない存在…私の事よりも天…界を優先して…これくらいの…攻撃なんてどうって事ないわよ…」
私の言葉にいつもの大天使長の顔に戻ったリエルがいた
「少し待っていろ、すぐに助ける」
そう言うとリエルは立ち上がり、暗雲の方を向く
天使達の作った魔力玉とは比べ物にならないほどの魔力を溜め込む
これで大丈夫ね
ガラ…
その音と共に私の視界が下に落ちていく
地面が耐え切れなくなって、身動きの取れない私は雲へ向かって落ちていったのだ
落ちていく時にリエルの魔力が乱れ始めたのを感じた
いけない
このままじゃバカ兄貴は…
私は頭の中でリエルに語りかけた
「私は大丈夫…こんなの自分で…なんとかしてみせるから天界を守って…」
「———…!!」
上の方でバカ兄貴の叫び声が聞こえた
アイツってばホントに心配性なんだから…
天界は雲を隔てて2層に分かれている
雲より上は天使達の町や神様の神殿があるいわゆる居住区
雲より下は広大な緑溢れる木々や大地があり、外界へ繋がる門などがある採取地
私は雲を突き抜け下の大地へ落ちてきた
美しかった大地は緑が枯れ、所々地割れができており、いくつかある人界や魔界に繋がる門も壊れている
「あの波動の衝撃だけでここまで…どちらにしろこのままじゃ地面に叩きつけられちゃう。なんとかしないと…」
しかし黒い光のせいで私の身体はボロボロだった
身体が思うように動かせない
「この状態で地面に突撃かましたらさすがに死ぬわね…うーん…」
考えた末に私は魔力を解放して落下速度を弱める方法をとる事にした
したのだが…
「あれ?魔力を上手くコントロールできない!このまま解放したらどこに飛んでくかわかんないじゃない!もしも上に向かって解放したら更に加速して死亡確定じゃないのよ!でもこのままだとどっちにしろ死んじゃうからな…。やるしかないわね!お願いだからちゃんとブレーキかかってよね!」
私は覚悟を決めて動かない身体から魔力を解放した
バシュン!
魔力は上でもなく下でもなく背中方向から解放された
「横に加速したじゃないのよー!嫌ー!死ぬ―!」
落下する角度がズレたまま私は飛ばされていった
横に飛びながらも少しずつ高度が下がっていく
やがて崩れた異界への門が見えてきた
1つだけまだ完全に崩れていない門がある
「今度は完ぺきな角度で決めてやるわ!」
私はすぐに魔力を放出した
思惑通り魔力は門と直線方向に向かって放出できた
そして私はそのまま勢いに任せて異界への門を潜り抜けた