~追跡~
よくわからないが今俺は生きている。これだけは間違いない
倒れた自転車を起こし鞄を拾いあげ、中からジャージを取り出す
中に着るシャツがないので仕方なく素肌のままジャージを着る
夜で誰もいないとはいえ外でパンツ姿は情けない
だがこれで話を聞く準備が整った
「これでゆっくり話せるだろ。わかるように説明してくれるか」
「それじゃあ話してあげるわ。けど1つ聞かせてほしいんだけど、あんたが焼かれた炎はどこから飛んできたの?」
「自転車で走ってたら腰の辺りが急に燃え出したんだよ。それで止まったら後ろから炎が飛んできてたんだ」
なんで炎が飛んできた所を気にするんだ?今回の事は意味不明な超常現象じゃないってのか?
「とりあえず飛んできた方向に向かって歩きましょう。説明は歩きながらするわ」
「わかった」
俺は自転車を道の端に置き、帰り道と反対方向に歩き出した
炎が飛んできた方向へと向けて
「信じる信じないはあんたの自由だからまずは聞きなさい。私は天界の天使、名前はリーナ。とある理由で私は人界に来て、あなたの肉体に魂を転移させてもらったの」
天使?冗談だろと言いたいが今俺が置かれている状況では冗談とは言えない
ましてや頭の中で声がしていて俺はその声と会話をしている
今はただ黙って話を聞くしかないのだろう
「理由に関しては追々話すとして、まずあんたには魔力と使い方について説明してあげる」
「ああ、あれは一体何なんだ?」
まさか現実に魔法が存在するとは
でも魔法ってあんなよく分からない代物なのか?
「魔力は人間、天使、魔族、その他全ての生物が生まれた時から持っているの。正しくは生物の魂が秘めていると言った方がいいかしら。そして肉体を通じて体外に放出するのが魔法よ」
「ちょっと待ってくれ!生まれた時から持っているって魔法を使える人が世界中にいるってのか?それより魔族ってなんだよ!?何でいきなり漫画やアニメみたいなファンタジー世界の話になってるんだよ」
「黙って最後まで聞きなさいよ」
リーナと名乗る天使は若干キレ気味な声で言い放つ
「はい…」
「世界中の人間が使えるというのは正しくもあり、間違いでもあるわ。たまに超能力者とかテレビでやってるでしょ?全員そうとは限らないけど、一握りの人間は魔力を開放できているのよ」
そういう事か
超能力=魔法って概念でいいのか
てか何で天使がテレビとか超能力者とか知ってんだよ
「ただ解放できているとは言ってもほとんどの人間が1%も使えていないのよ。だから体に鉄がくっついたり、少しなら透視ができたりのビックリ人間程度で済んでいるの」
いやいやこの天使人間の事詳しすぎるでしょ
相当テレビ見てるでしょ
「これが魔力と魔法についての簡単な説明だけどわかった?」
「なんとなくはわかったよ」
「いいわ。それじゃあこの辺からちょっとゆっくり歩いて」
俺が燃えた場所から1~2分ほど歩いた所で天使はそう言い出した
見た感じでは特に変わりない普通の道に見えるけど
「ここから私があんたに魔力を少し分けてあげるからそれを目に集中させなさい。それで周りを観察するのよ」
「あ…ああ」
体の中に炎を消した時よりも強い魔力?の流れを感じてきた
これを目に集中させて周りを見てみる…
とにかく目に集中させる感じでいいんだろうか
そうして見てみると立ち並ぶ木々の間にうっすらと何か光っている
「とりあえずあそこに行くわよ」
天使の言う通り光の方へ歩いていく
「なあ、あの光はなんだ?」
「行ってみればわかるわよ。私の予想が正しければあそこにあんたが燃やした炎の元凶がいるはず」
炎の原因?もしかして俺は謎現象で燃えたんじゃなくて、何者かに燃やされたのか?そして俺は光の場所に着いた
「なんだこれは?」
「やっぱり…」
目にしたのは現実では考えられない光景だった
木々の間に亀裂というのだろうか、その亀裂には俺が知っている景色とは違う景色が広がっていた
「おい!なんだよこれ!?」
「…これは魔界へ続く道よ。魔力がこの辺りで途切れていたからもしかしたらと思ったけど」
「魔界?つまり異世界ってことか?」
「そうね魔界、別世界、異世界、別次元、色々な言い方はあれど、とにかくあんたのいる人界とは別の世界。恐らくこの先にあんたを燃やした元凶がいるわ」
「ど…どうするんだ…?」
「行くしかないでしょう」
「けどあんな炎を使うやつがいるって事だろ?危なくないか?それに帰って来れるのか?」
「この亀裂は私の魔力で固定しておくから大丈夫。消えたりしないから安心しなさい。それにあの程度の炎のやつに私が負けるわけないわ」
マジかよ…異世界って普通死んで目が覚めたらとかいきなり転移したりとかじゃないの?自分で乗り込んでいくパターンなんてある意味最悪じゃねーか…
「なあ今日はひとまず帰るってのは…」
「駄目よ。このままだとあんたと同じような目にあう人間が出るかも知れない。あんたは友達や知り合いが同じような目にあうかも知れないのに何もしないつもり?あんたの時のように私みたいな優しい天使が助けてくれるなんて可能性は0よ」
優しいってなんだろう…
「でも俺みたいな目にあうってどういう事だ?」
「この状況で隠す意味はないから言うけど、あの炎をあんたにぶつけたのは魔族よ」
「魔族…!?」
俺は言葉を失った本当にそんなのがいるのか…でも本物かどうかはわからないけど天使がいるし、俺自身で魔法も使っている
しかし天使が俺に言った言葉の意味…友達や知り合いが同じような目にあうかも知れない…
ふと頭の中の記憶がよみがえってくる
ぼんやり聞いていた朝のニュース…
悠人の言っていた事件…隣の市で起きた放火事件
放火?本当に放火なのか?あれがもし天使の言う魔族の仕業ならまた同じ事が起きる
いや俺が直接焼かれた以上、建物を燃やす程度で収まるのか?魔族が俺の知っている漫画やアニメ通りであれば次も間違いなく人が…
俺は決意した
「行ってみよう!それでもし魔族がいたら止めてやる!」
「いい覚悟ね。もしヤバくてもここに飛んでこれば大丈夫だから安心しなさい」
「飛んでくる…?」
「いいから亀裂に手を向けてみなさい」
言われた通りに亀裂に手を向けてみる
するとさっきと同じように魔力が流れてくるのを感じる
「手から撃ち出すイメージで放ってみて」
俺は言われた通り魔力を解き放った
亀裂に向かって光が飛び、亀裂全体を覆うように光が広がる
「これって?」
「さっき言ったけど固定したの。それに加えてマーキングと結界みたいにしたのよ。あらゆる攻撃からこの亀裂を守ってくれるし、亀裂に何かあったとしてもすぐにわかるし、ここまで飛んでこれる」
「天使って本当に何でもアリなんだな」
「褒めても何も出ないわよ」
「いや、素直に感心したっていうか、すげえって思ったんだよ」
「まあいいわ、じゃあ行くわよ。でもちょっとだけ待って」
天使はそう言うと少しの間黙りこみ、時折ボソボソと喋る声が聞こえる
「もう……魔力……つまり…は…————いいわ行きましょう」
頭の中でも小さい声で聞き取れなかったが天使は何かを呟いたようだった
気にはなったがひとまず置いておき、光に覆われた亀裂に向かって歩き出
す木々の間にある亀裂からは別世界の風景が見えるが、あの世界はまだ明るいな
向こうでは昼間、もしくは夕方くらいなのだろうか
考える事は沢山ありながら俺は亀裂の中に入った
「ここが魔界か思ってたより明るいし、綺麗な景色だな」
場所にもよるのだろうが、魔界は思ったよりも空気が澄んでいて、風が心地いいとまで感じる
大自然の恵みを感じるかのように心が安らぐ
それに緑が豊かな草原が辺り一面に広がっているから、解放感もたっぷりで、もうしばらくこうしていたい気分だ
「見とれてても始まらないから、さっさと炎を撃ったやつを探すわよ」
魔界に来て早速今回の元凶である魔族を探す事にした