~上陸~
霧の中へ入ってほんの少し経ったころ、リーナは今までと違う表情になっていた
何かに気を張り詰めている感じというか、とにかく今まで見た事がないくらい真剣な表情だ
アレフは特に変わらない様子で、俺は霧が見えない以上ただ淡々と歩を進めていた
「なあリーナどうしたんだよ」
いてもたってもいられなくなり、リーナに聞いてみる
一体どんな返事が返ってくるのやら
「明らかに空気が変わったのよ」
「空気?」
空気が変わったというのはアレだろうか、魔界の空気か、それとも周りの雰囲気とでもいうべきだろうか、そういうところが変わったのだろうか、分からないな
「気をつけなさい。私の予想が正しければもう陸は近いはず。常に気を張り詰めておきなさいよ」
いつもお気楽なリーナが真剣に言っているということは、陸が近いのは確かなのだろう
陸が近いだけでこんな風になるとは思えないから、陸についたら本当に危険だという事か
俺は自分の魔力を高めつつ少しだけ防御力を上げ歩を進めた
やがて10分ほど進んだ頃、陸地が見えてきた
「おっ、あれが新しい大陸か」
アレフも魔力は高めているが呑気なのは変わらないな
でもやっぱり新天地ってのはゲームでも現実でもワクワクするものだから、アレフほどではないが、俺もテンションが上がっている
もちろんリーナの忠告はしっかりと聞いた上でだ
「このまま上陸でいいのか?」
「いいわよ、ただし上陸したらその場で一旦待機するわよ」
待機か…まあ一応は未知の土地だから当然か
俺達3人は新天地へと足を踏み入れた
砂浜を歩き、ある程度のところまで行った所で止まる
「いやあ、やっと着いたな。この大陸のどこかに他の虎牙族がいるかも知れないのか。それからシーヴァって王も」
「大丈夫よアレフ…、間違いなくいるわ」
今までになくハッキリと言うな、もしかしてここに見覚えがあるんだろうか
でも俺でも分かるくらいに、この大陸は何か違う気がする
上手くは言えないが、嫌な感じで何かが…
「とりあえずは大丈夫ね。じゃあ2人共一旦纏っている魔力を最小限にしてみて」
??
よく分からないが俺とアレフは言われたとおりに、向こうでは自然だった状態に戻した
「————————なっ!!」
「————————これはっ!?」
俺もアレフも似たような反応
それもその筈で、さっきまで強めに纏っていた魔力を弱めると身体中であちこちに別の魔力を感じ取ったのだ
強いものから小さいものまで、ありとあらゆる魔力がこの大陸中に流れているかのように感じる
「分かったでしょ?これが本当の魔界よ。あっちの大陸は本当に王達のエリア外だったみたいね」
「マジかよ…ちょっと浮かれてたわ…これは冗談抜きでリーナの加護無しじゃ死ぬ…」
そう自分で直感させるほどに、今までの生活や人界、向こうの大陸が天国だったかのようにすら感じてしまうほどの圧倒的な魔力の数
この感じ取れる魔力が基本は全部敵なんだよな
俺達で勝てそうなのはいくつもあるが、俺達では勝てなさそうなのもいくつもある
だけどこれは…
「分かっているなら大分成長したわね。アンタが思っている通りでこれは全部残留魔力よ。この付近には敵はいないけど、ちょっと離れた所にはもういるからね」
人界の皆さん、魔界ってとんでもないところです
この感じ取った魔力がほぼ全て残留魔力だなんて…
「それでまた都合がいい事にね…アレフ、魔力を高めてこの辺りの残留魔力を感じてみて。何か感じるまで全力で高めるのよ」
「ん?ああわかった」
何の疑問も持たずにアレフはリーナの言う通りにしている
アレフって純粋なんだなぁ
ほんのり和やかな気分で見ていたがそれもすぐに緊張に変わる
アレフがその場で膝をついた
それだけではなく、とんでもない量の汗をかいている
あの僅かな時間で一体何が起こったんだ
「おい!どうしたんだアレフ!」
「ハア‥ハア…ヤバい…————こんなのが存在するのかよ…」
「さすがアレフ、上手く感じ取れたみたいね。それが王の1体、白虎シーヴァの残留魔力よ。でもかなり昔に残した魔力だからさすがに消えかけてるけど、質は最上級でしょ?」
アレフは膝をついたまま黙っている
俺もちょっとやってみようかな…
「宗は駄目よ。私の加護なしだと人間のアンタだと気絶するか、最悪そのままショックで死ぬかもしれないからやめときなさい」
「え?」
ショックで死ぬかもってどんだけヤバい魔力なんだよ
目の前にいるわけでもないし、ましてや古い残留魔力だぞ
でもリーナのいう事はこういう事に関してはいつも正しいし、アレフの様子を見る限りでは相当ヤバいって分かるから今はやめとこう
ひとまず俺達はその場でアレフの回復を待つ事にした




