~準備~
「それじゃあ俺はこの辺りの調査をしておく事にするからゆっくりしてこいよ」
「ありがとうな。明日の夕方には戻ってくるから無理はするなよ」
「————にしても不思議だよなあ。この亀裂の先がこことは違う世界で、宗はこの先で暮らしてるんだもんなあ」
「アレフなら心配ないと思うけど、もしもヤバい敵に会ったらちゃんと逃げるのよ」
「ああ。それじゃあまた明日の夕方にここでな」
亀裂に戻ってきた俺達は一旦アレフと別れることにした
俺達が人界に戻っている間にアレフは探索していない方向を調べてくれる
俺が人界でやらなきゃいけない事は二つ
1・バイトのスケジュール調整(8月は全て休みにするのが望ましい)
2・長期間分の飲食料の調達
果たして超激安セールが月のど真ん中にある我がバイト先を休めるのだろうか
もしかしたら店長は泣くかもしれない
だが魔界の探索を終わらせないと、いつまでもリーナが俺の中から出られない
それじゃリーナが可哀想だし、俺も完全なプライベートが無くなってしまうのも問題だ
だからこのシフト申告は、俺が折れてはいけない戦いとなる
「戻ってきたな。1日だけしか向こうに行ってなかったのに何か懐かしい感じがする」
「単純に向こうとは空気が違ったりするから分からなくもないわね。アンタにはやっぱり人界の方が合ってるのよ」
「生まれた場所が一番適しているって事か?」
「一概にそうとは言えないけど、それぞれちゃんと適した環境があるって事よ。それよりアンタはこっちでやる事があるんでしょ?早いとこ済ませて明日のバイトが終わったらアレフと合流しなきゃ」
「それもそうだな。じゃあまずは食料とかの確保からしていくか。バイト先に行って買い物しつつシフトの相談をしなくちゃな」
堤防沿いの道に自転車を放置していくわけにはいかないので、昨日は歩いてきた
当然帰りも歩きになるが、魔界で走った事を思い出す
「ちょっと走ってもいいか?」
「いいわよ。でも人界であのスピードは目立つから、ちゃんと速度は控えめにしなさいよ」
「わかってるって」
スーパーまで走って向かう事にした
自転車だとこの辺からなら10分くらいでスーパーまで掛かるけど、今の俺なら走ったらどうだろう
魔力を脚に少し流しながら走り出す
やはり普通に走るよりも、いや自転車で走るよりずっと速い
しかもなるべく抑えめで走っているから全然疲れる事もない
10分どころか5分掛かっているかそこらで到着した
これは自転車を本気で漕いだ時のタイムとさほど変わらないんじゃないだろうか
これってもう自転車いらないんじゃないか?
スーパーに入るなり俺は辺りを見渡した
平日の昼前だからお客さんは少なめ
青果コーナーを抜けると桜田さんがいた
「あら田鹿君?今日シフト入ってなかったよね?お買い物?」
「お疲れ様です。今日は買い物とシフトの事でちょっと店長に」
「そうなんだ。一人暮らしだからってちゃんと栄養あるご飯食べてる?」
「しっかり食べてますよ。そういえば今日店長って…」
「店長なら今は裏にいるんじゃないかな?」
「ありがとうございます。行ってみます」
「行ってらっしゃーい」
奥にあるドリンクコーナー横の従業員用の扉を開け、バックヤードに入る
少し歩くと休憩室と事務所がある
店長は多分事務所かな?
「失礼します」
ノックをして事務所に入ると店長が事務仕事をしていた
「ん?ああ田鹿君お疲れ様。今日はどうしたの?」
「店長、来月のシフトなんですけど、8月は全部休みにしてもらえませんか?」
「えぇ!?どうしたの!?まさか嫌になっちゃったとか!?」
店長はいきなり泣きそうな顔になりながら訪ねてきた
罪悪感あるなこれは…
「いやそうじゃないです。ちょっとの間帰れない用事ができちゃって…期間も定かではないので念の為8月を全部休みにした方がいいと思って」
「そうなのか…それは君にとって大事な用事なんだね?」
「ハイッ!」
「わかった!それじゃあ8月は全部お休みで今月の残りと9月からはまたよろしく頼むよ」
「ありがとうございます!それじゃあ失礼します!」
思ったよりすんなり休めたな
これで後は買い物と、あとお盆に帰れないって親にも連絡しておくか
やる事はまだたくさんあるが、事務所の扉から出ると中から声が聞こえた
「うわぁ…来月大変だな…俺過労死しちゃうんじゃないか…?」
店長本当にすいません、ごめんなさい
9月に何かしら埋め合わせします…
店長の尊い犠牲により俺の休みは確保された
気持ちを切り替えて買い物しよう
「リーナ、食料とかってどれくらい必要だと思う?」
「そうね、日持ちする物と水は多めのほうがいいと思うわよ。虎牙族の村でも聞いたと思うけど、近場で狩りができるかどうかもわからないから、最悪水分だけでもいっぱいないと厳しいんじゃない?」
「なるほどな。それじゃあ水を2ケースくらいと後は乾パンとか非常食系を買ってくか。あと大きめの袋も探さなきゃいけないな」
ある程度買い物の目星はついた
スーパーの次はホームセンターに行くことにし、まずは会計を済ませる
台車に載せていたから気付かなかったがこれどうやって持って帰ろう
2ケースだけで20キロ越えてるんだよな
それに食料も2袋モリモリに入ってる
「どうしたのよ急に立ち止まって」
「この水と食料をどうやって持って帰ろうかと思ってな」
「普通に持てばいいじゃない」
「いや普通に重たいだろ」
「魔力を腕に集めて力を上げれば重くないと思うけど?」
なるほど脚に魔力を集めたらあれだけ速くなるから筋力が上がってるって事か
じゃあ腕に集めたら必然的に…リーナに言われた通りやってみると水1ケースが全然重たく感じない
これは凄いな魔力って使いこなせたらとんでもなく便利な力だ
「魔力をもっと使いこなせるようになれば、遠隔で物を浮かせたりすることも出来るようになるわよ」
「マジか!?それって超能力じゃん!」
「だから最初に説明したでしょ?それが出来る人間もいるって」
聞いた覚えがあるな
超能力を使える人間は知らず知らず魔力を放出しているって
今それに近い事を俺はやっているのか
なんだか面白いな
しかし俺は大量の荷物を抱えながらではなく、スーパーから台車を借りてのんびりと寮へと戻った
さすがにあんなに抱えてたら目立ってしまうからだ
その後ホームセンターや他のお店も周りながら8月の準備に入った




