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7話 初デートにこれはいかがなものか。


 4月も終わり、穏やかな春から暑い夏への転換期の5月。


 そんなとある日の日曜日、俺は駅前の広場でとある人を待っていた。


「てゆうか遅すぎだろ⋯⋯もう約束の時間30分ぐらいすぎてるんですけど」


 もしかしてドタキャンされた⋯⋯?

 いや、それならまだ優しい方だ。

 陰で『うわー、あいつほんとにきたよー笑』などと笑われていたりしたら⋯⋯


「いやダメだ⋯⋯そんな事考えるな優斗、落ち着け⋯⋯」


 そう言って俺は大きく深呼吸をした。



「ごめーん!ゆうくん待った?」


 まぁだけど、そんな心配は必要なかったみたいだ。


 彼女が駅の改札口の方から走ってきた、かなり息が上がっている。

 

「大丈夫ですよ姫香さん、僕も今来たところですし」


「え、ゆうくんも今来たの? ⋯⋯お互い遅れんぼさんだね!」


 ありきたりなテンプレ返事をとりあえず返したんだが⋯⋯誤解されてしまった。


 俺はちゃんと時間守ったからな!


「姫香さんはどうして遅れたんですか?」


「ちょっと服選びに時間かかっちゃって⋯⋯これ、可愛いかな?」


 そう言って彼女はくるりと一回転をした。


「うっ⋯⋯」


 正直、これがめちゃくちゃ可愛いから困る。


「か、可愛い⋯⋯です、かね」


「本当に!? どこらへんが可愛い?」


「えっ? どこらへん⋯⋯」


 なんて言ったらいいんだろうか、非常に迷う。


 上にかぶってるベレー帽みたいなやつもだし、腕を上げれば腋が見えるタイプのトップスもだし、赤いチュールスカートもだし。


 言ってしまえば全て可愛い訳で。


「全部、ですかね」


「なんか適当な感じだなー⋯⋯も、もしかして私の事興味無くなっちゃったとか⋯⋯!? ど、どうしよう⋯⋯! そんなの嫌、いやいやイヤイヤ」


 しまった、間違えたか。


「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて! 上にかぶってるベレー帽みたいなやつもだし、そのトップスもだし、赤いチュールスカートもだし⋯⋯あ、あといつもと違うその髪留めなんかも可愛いいですよ!」


「⋯⋯! そ、そんなに褒められると⋯⋯恥ずかしい、かな」


「なんでそこでそんなに顔赤くなるんですか⋯⋯」


 本当伊花さん、結婚するとか子供作るとかはさらっと言うくせにこう言うところで恥ずかしがる所があるんだよなぁ⋯⋯。


 いったい羞恥心の基準はどこにあるんだよ⋯⋯?


「だって⋯⋯それに⋯⋯髪留とかも、変わってたの気付いてくれたし」


「まぁ靴とかならいざ知らず、髪留めとかなら普通目に止まるんで気づけますよ」


「ううん、そんな事⋯⋯私、幸せだよ!」


「うっ⋯⋯」


 相変わらず俺は彼女の笑顔に弱い。


 俺も別に伊花さんと2人で遊びに行くのは嫌じゃない、というかむしろ少し楽しみにしていた。


 まぁでも、


「それじゃあ行きましょうか!」


「うん!」


「⋯⋯エロゲを買いに⋯⋯」


 目的がこんなんじゃなけりゃ、もっと純粋に楽しめたと思うが。






 誘ってきたのは彼女からだった。

 なんでも、こないだ壊したゲームを弁償したいという事だった。


 女の子と一緒にエロゲコーナー入って、なおかつ女の子にエロゲ買ってもらうとかそれなんて罰ゲームだよ、と思った俺は最初のうちは断っていた。


 だが、断れば断るほど彼女が俺のことを誘う手段が酷くなっていった。


 流石に夜の11時ぐらいに俺の家のインターホン越しで誘ってきたときは戦慄した。


 そして、結局心が折れた俺は、お金は自分で払うのを条件に誘いを受けた。

 

「はぁ⋯⋯」


「ふふふーん、ふふーん」


「⋯⋯ご機嫌ですね、いい事でもあったんですか?」


「えー? ⋯⋯たった今、いい事をしてる最中ですよー」


「そんなに歩くのが好きなんですか、変わってますね。競歩でもやったらどうですか?」


「そ、そういうんじゃないよ!?」


 えぇ、分かっていますとも。

 言わせませんからね、俺が恥ずかしくなっちゃうような事は。


 調子狂っちゃうしね。


「ほら、着きましたよ、エロ⋯⋯アダル⋯⋯大人向けゲームのコーナー」


「へー、こんな風になってるんだー」


「はいこんな風になっておりますー⋯⋯よし、じゃあさっさと買ってここから出ましょう!」


「え? そんなに急がなくても⋯⋯」


「いいから! 俺がそうしたいんです!」


「ゆうくんがそう言うなら⋯⋯」


 早くこの地獄から抜け出したいんだ。

 だからそんな寂しいそうな顔しないで⋯⋯


 ましてや林王さんの時みたいに、同じ学校のやつに見つかりでもしたら⋯⋯


「あれ? 貴方は⋯⋯? それに伊花殿⋯⋯」


「ちょっ――はやっ!」


 フラグ成立。


 後ろから声をかけられた。


「やっぱりではないか! あの時、ほら! 覚えておるでござるか?」


 ござる⋯⋯?


「⋯⋯ってあ! お前! あの時俺を見捨てたオタク3人衆の!」


「ふふっ⋯⋯そう、いかにでもござる」


「何ちょっとカッコ付けて言ってんだよ!? お前のせいでこちとら大変な目にあってんだからな!」


「⋯⋯ねぇ⋯⋯ゆうくん」


「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯はい? なんですか――ってはひっ⋯⋯!?」


「この人、誰?」


 負のオーラが漂い始めた。


 発生源は勿論、彼女から。


「えっ? いやまぁなんと言うか友達? みたいな?」


「拙者、貴方と友達などになったつもりは毛頭無いでござるよ!」


「うん、わかったからちょっと黙ってろこのクソオタクがぁ!」


「⋯⋯ゆうくんを困らせる奴は⋯⋯許さない⋯⋯!」


 すると彼女はカバンの中からカッターを取り出した。


「ござっ!?」「ひっ!」


「許さない⋯⋯!」


「お、おいオタク! 早く逃げろ!」


「ご、ござるぅぅぅぅぅ!」


 オタク(仮)は超絶スピードで走り去っていった。


「よし! これで害虫はいなくなったね! 褒めて褒めて!」


「⋯⋯わ、わーすごーい、良く頑張ったねー」


 一番俺を困らしてるのは貴女ですからね、伊花さん。






 その後、無事エロゲーを入手した俺は、伊花さんとのショッピングに付き合わされ、気がつけばすっかり日が落ちていた。


「今日は楽しかったね、ゆうくん! ⋯⋯あの害虫さえ出て来なければもっと楽しかったのに⋯⋯でもあの害虫に見覚えがあるんだよね⋯⋯」


「まぁ同じ学校ですしどっかで一度見たと事ぐらいあってもおかしくは無いんじゃ無いですか?」


「そうだよね⋯⋯」


今日についてだが⋯⋯


 結果を言うと、エロゲ購入以外は普通に楽しかった。


 彼女が試着した服を永遠見せられただけの時間だったが、可愛いかったので全て良しだ。


「っと、俺この路線なんで」


「あっそっか⋯⋯寂しいな⋯⋯」


「また明日学校で会えるじゃ無いですか。はい、後これ、買った服の荷物」


「あ、ありがと」


「それじゃ、また明日」


「⋯⋯うん! また明日ね!」




 駅の改札を過ぎたところで後ろを振り返ると、まだ彼女はを振っていた。


「そんなに俺のどこが良いんだろうか⋯⋯全く意味が分からない」


 ⋯⋯まぁでも、今はこの日常を楽しもうと思う。


 彼女を更生する、その日まで。








「あっ、エロゲ! エロゲもあん時一緒に渡しちまった! 姫香さん! ちょっと待ってー!」

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