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5話 これは私に対する神様の罰なのである。


「ふふっ⋯⋯ふっ⋯⋯」


 あれから1年、私は地元の中学の子が受けない、ここから少し離れた高校を受け無事合格。


 私がその高校を受けると姫香に言った時、彼女は『じゃあ私もそこ受けるね』と即答した。

 

 嬉しさ半分憎さ半分といった所だっただろうか。

 まぁとにかく複雑な感情だった。




 そして春休みも中盤に差し掛かった頃、その高校から名簿表が送られてきた。


 それを確認してからというものの、私はにやける顔を抑えれないでいた。


「木枯優斗⋯⋯うん! 何回確認しても間違ってない! きっとあの人だ!」


 そう、彼の名前が名簿表に載っていたのだ。



 最初に見た時はまず自分の目を何回もこすったりして確認作業をした。


 そしてタンスから彼の体操服を引っ張り出し、そこに書いてある名前と照らし合わせ再度確認。


 そんなような事を永遠ループしているうちに小一時間たった。



「これでやっと体操服、彼に返せる! ⋯⋯もう遅いかもだけど⋯⋯」


 彼の体操服、学校名も名前もクラスも載っているから返そうと思えばすぐ返せたんだけど⋯⋯


 彼にもう一度会うのが物凄く恥ずかしくって結局この1年間返しにいけなかった。


「ふふふ⋯⋯一緒のクラスにはなれなかったけど⋯⋯彼と体操服(これ)をきっかけに仲良くなれたいいな⋯⋯」


 妄想が膨らんでいく。

 私が思うに、恋する乙女の妄想ほどに膨らむものはこの世に無いと思う。


「沙希ーー!? 美容院の時間もうすぐよー! 早く降りてきてー!」


「あれ!? もうそんな時間!? ⋯⋯わ、わかった! 今行くー!」


 今日はお母さんと美容院へ行く日だ。


「えっと、カバン持って⋯⋯よしっ⋯⋯」


 姿見に映った自分を見る。


「私、可愛くなった⋯⋯よね?」


 私はいわゆる、高校デビューというやつを果たそうとしていた。






『これをもちまして第76回、滝海(たきみ)高校入学式を閉式とさせていただきます。生徒の皆様はその場に待機してください』


 長い長い入学式がようやく終わった。


 周りの反応は『うーーーん』と声を出しながら背伸びをする人や、すでに知り合いなのか楽しくお喋りをし始める人がいたりと、様々だった。



「ねぇねぇ! 沙希ちゃん? だっけ?」


「へ!? そ、そうだけど」


 不意に隣から声を掛けられ、素っ頓狂な声を上げてしまう私。恥ずかしいよ...


「あははっ、そんなに驚かなくてもいいじゃん! てか沙希ちゃんめっちゃ可愛くない!?」


「そ、そう...かな?」


「うんうん、めちゃくちゃ可愛いよ! 肌もめっちゃ綺麗! なんか特別なケアとかしてるの?」


「うーん...まぁしてる、かな?」


「やっぱり! じゃあさ、ライン交換しない?そこで帰ったら色々教えてよ!」


「う、うん! いいよ!」



 今までの私なら、こんなふうに向こうから声を掛けられる事なんてなかったと思う。


 私は今日のこの出来事で、可愛いって事がどれだけ有利な事かを知った。






 それから、私がクラスの中心になるのにそれほど時間はかからなかった。


 それに合わせて私の外見もさらに派手になっていき、金髪に染めたりなんかもした。


 口調とか、性格とかも周りに合わせて変えていった。



 もっと可愛く、もっと人気者にならなきゃいけない。


 そうすればあの人に振り向いてもらえるから、もう二度とあの時みたいな思いをしなくてすむから。


 私はそう信じて疑わなかった。




「あれ? 姫香? 今日遅れるって言ってたよね⋯⋯って、え? 姫香の隣にいるのって⋯⋯」



でも⋯⋯


 結局いくら外見を派手にしたり、外面を取り繕ったって根本的な所での私は何も変わってなかった。


 一緒の学校になり、そして2年になって一緒のクラスにもなって⋯⋯体操服を返す機会なんて両手じゃ到底数えられないほどあったはずなのに、それなのに私は今までと同じように、何もできなかった。


 だからこれはきっと、そんな臆病な私に対する神様の罰だったんだろう。



「なんで⋯⋯どうして? 姫香と木枯君が⋯⋯そんな⋯⋯」



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